海や波、牧場や馬、自然そして人間……。Nick Turner(ニック・ターナー)さんが対象とするモチーフはさまざま。スケッチやドローイング、写真やコラージュなど手法も多岐にわたりますが、その洗練された作風はセンシティブ。ですが、そこに宿っている力強い生命力や美しさは、見る者の心を揺り動かします。現在、世界で注目を集めているニックさんですが、この夏ロンハーマンとコラボレーションして限定でアイテムをリリース。また、千駄ヶ谷店ではエキシビションを開催。“ニック・ターナー”とはどのようなアーティストなのでしょうか。
7月13日(土)から25日(木)まで、Nick Turner(ニック・ターナー)のエキシビションが千駄ヶ谷店で開催される。ニックさんの世界観が詰まった15点の作品が一堂に集まる
——お忙しいところ、お時間をいただきありがとうございます。今、ワイオミングに滞在しているそうですね。
僕は普段はポルトガルを拠点にしているけど、この夏はワイオミングのダイヤモンドクロス牧場で過ごしているんだ。10年以上前からなじみがある家族経営の牧場で、僕は馬の世話をしながら、牧場のカルチャーを描いたり、スケッチしたりしている。ポルトガルではスタジオを海岸沿いに構えていて、できるだけ海で過ごすようにしながら、残りの時間を制作活動に費やしている。サーフカルチャーや西部の牧場のライフスタイルとアート、これらをまとめてアートブックとして出版する予定なんだ。
絵画、写真、コラージュなどさまざまな手法を用いてクリエイションを行うニックさんだが、その主題は変わらない。
自身の経験や自然とのかかわりから生まれるインスピレーションを作品に落とし込む
——生い立ちについてお聞きしたいのですが、学校に通わずに母親からホームスクーリングを受けていたそうですね。
幼いときから、多くの時間を旅行に費やしていたよ。自由に学べるために、いろんな土地で勉強をすることができた。僕が最初に学んだ言葉はギリシャ語なんだ。幼いころに住んでいたからね。世界のさまざまな土地に触れることで、同世代の人々とは異なる視点で社会や自然を見つめられるようになった。また、自分の興味や情熱を追求するように強く勧められ、ただ単に選択肢があるからといってそれに従うことはなかった。これは母の世界観であり、彼女はアートや自然に対するロマンチックで理想主義的な見方を僕に宿したんだ。幼少期はロンドンで多くの時間を過ごし、あらゆるものにヒーローを見つけようとしたんだ。古典文学からはとても影響を受けた。総合馬術や柔道も。特に柔道には興味があって、日本で競技することを夢見て日本語も学んだよ(笑)。
ヤシの木という普遍的なヴィジュアルを、自分のセンスで解釈して抽象的なイメージとして昇華させる
——ユニークな幼少期を過ごしたんですね。アーティストになろうとしたきっかけは。
子どものころから自分の興味を追求するように勧められ、仕事を単なるお金を稼ぐ手段と考えないように育てられた。祖母は画家だったから、アートに囲まれて育った。母はハーバード大学で教育を受けた知識人で、文学とロマンスに強く影響を受けていた。そのような周りの環境がアートを追求する大きな要因となったのさ。大学では絵画を学び、ニューヨークにいたころ、母からもらったカメラで友人たちのポートレートをスタジオで撮り始めるようになったんだ。
乗馬やサーフィンはニックさんの人生にとって欠かすことはできない。「馬や海が身近にあると心が休まるんだ」
——ニックさんの作品のモチーフには、馬やサーフィンが多いですよね。
幼いころから乗馬をしいて、成総合馬術の競技に参加するようになった。馬と一緒にいると心が休まるんだ。馬は僕の人生の重要な部分であり、乗馬にはある種の存在感と注意力が必要だと感じている。そのつながりで、自分のアートに自然に馬を取り入れるようになったのだと思う。サーフィンは後から始めたけど、同じ理由で海に魅了され、作品のモチーフにするようになった。この二つは僕にとって個人的なテーマであり、長い間深くかかわってきたものだ。個人的な興味から深く探求し、そのテーマに基づいて何を創作したいのかを理解しようとしてきた。僕は馬やサーフィンの直接的な描写にはあまり興味がない。より抽象的なもの、人々が自然という広大な空間にどのようにフィットするかに興味がある。そして、少し子どものころのロマンティックでノスタルジックな感覚を作品に残そうともしているんだ。
エキシビションの作品の中から色彩も鮮やかな三つのモチーフをピックアップして、メンズのオープンカラーシャツに。ハリのあるタイプライター生地に麻をブレンドすることで軽やかに
——創作のインスピレーションはどこから得ていますか。
自然や観察。観察したことに対する感情を記憶し、それをスタジオに戻ってから作品にしようとしている。旅行や出先で撮影した写真からもインスピレーションをもらうこともある。だけど、それは最初だけの話。スケッチから始まって、頭の中で描いていくうちに、最終的には抽象的なイメージになる。僕は自分自身をとてもセンシティブだと思う。自分がいる世界や環境、例えば人や自然に大きく影響される。それをクリエイティビティにいかすようにしているんだ。幼少期から周りを観察することが多く、それが自分のアートに大きな役割を果たしていると思う。
同じ絵柄をアメリカ Libbey 社の「 BAR WARE、HEAVY VASE 」にプリント。 グラスボディと作品のバランスがマッチした今回だけの特別なタンブラー
——今回のロンハーマンでの個展のテーマは「自然と自分」です。この言葉に込めた思いは。
年を重ねるにつれて、より多くの平和な瞬間を求めて、どんなことをしていても自分自身のリズムを見つけることが重要になってきた。このタイトルはまさにそれを表しているんだ。このエキシビションで展示される作品は、ここ数年の自分のさまざまな興味を集結させたものであり、それらを一つにまとめることで、アートの世界での自分の場所とアーティストとしての自分の内面を表現している。
対象を極限までに抽象化することで、モチーフである馬の生命力と躍動感を際立たせている
——作品を拝見できるのが楽しみです。ニックさんの将来の夢や目標をお聞かせください。
牧場で暮らすアーティストについてのアートブックの続編を出版して、その作品も展示したい。自分にとって最も重要なのは、自分の創作が本物であり、それが世の中に出る際にも本物であること。若いころは多くの人々がアドバイスしてくれたけど、それに引っ張られてブレてしまった。アーティストが本物であることはとても重要であり、僕はようやく自分が本当に興味のあることに集中できるようになったと感じている。今の最大の目標は、アーティストとして正直であり続け、自分をよく知ることさ。僕にとってアートとはイメージをつくること。人間がつくったものでなくても、自然はいつも芸術を生み出している。
アートは飾って眺めるものだけでなく、暮らしとともにあることが大切だと考えるニックさん。日々の生活の一部として取り入れてみたい
——最後に、ロンハーマンのお客様へメッセージをお願いできますか。
今回、コラボレーションしたシャツは、着ることのできるアートとして見てほしい。エキシビションと今回つくったシャツやタンブラーとのつながりは重要だ。壁にかけるアートと日常生活の一部となるアートの橋渡しが、とても興味深いと思う。これらのアイテムをロンハーマンのお客様に提供できることが楽しみでならない。皆さんに喜んでもらえたらうれしいね。どうも、ありがとう。
——ニックさん、どうもありがとうございました。
ニックさんは、この夏をワイオミングのダイヤモンドクロス牧場で馬とともに過ごし、制作活動に専心している。常に本当に興味があることと向き合い、自分に正直であることを大切にしている
Profile
ニック・ターナー Nick Turner
1983年、アメリカ、ボストン生まれ。アーティスト・写真家。母親によるホームスクールで教育を受け、幼少期から世界各地に滞在し現地の文化を吸収しながら育つ。現在はポルトガルを拠点に制作活動を行う。また、数多くのハイブランドの広告制作やコラボレーションにも取り組む。ライフワークは、馬、サーフィン、ポートレート、アイスランド、そして、アメリカ西部の牧場のライフスタイルと多岐にわたる