がん細胞さいぼうが周まわりの正常せいじょう細胞さいぼうや組織そしきを壊こわしながら移動いどうしていくことです。がん細胞さいぼうはコラーゲンなどの細胞さいぼう外がい基質きしつ成分せいぶんを分解ぶんかいする酵素こうそを分泌ぶんぴつして正常せいじょうな組織そしき構築こうちくを壊こわします。そして壊こわれたスペースに足場あしばをつくり、自みずからを牽引けんいんして移動いどうします。がん細胞さいぼうはバラバラになって動うごくこともあるようですし、また集団しゅうだんとなって動うごいていくこともあるようです。このようにして浸潤しんじゅんしていったがん細胞さいぼうがリンパ管りんぱかん内ないに入はいっていくとリンパ節ぶし転移てんいを引ひき起おこすことになりますし、血管けっかんの中なかに入はいって行いきますと様々さまざまな臓器ぞうきに「血行けっこう性せいの転移てんい」を起おこすことになります。また、胃いがん（通常つうじょう、胃袋いぶくろの一番いちばん内側うちがわにある細胞さいぼうががんになる）などが浸潤しんじゅんして胃いの最さい外層がいそうの膜まくをも破壊はかいすると、がん細胞さいぼうは腹腔ふくこうにこぼれ落おち、腹腔ふくこう内ないのあちこちに転移てんい巣すを作つくることもあります。つまり、浸潤しんじゅんは正常せいじょう組織そしきを壊こわすだけでなく転移てんいの原動力げんどうりょくにもなっているのです。

　がんは遺伝子いでんしの異常いじょうが積つみ重かさなってできますので、浸潤しんじゅん性せいの高たかいがん細胞さいぼうもその過程かていで誕生たんじょうしてくるものと考かんがえられます。しかし一方いっぽうで、浸潤しんじゅん性せいはがん細胞さいぼうを取とり巻まく環境かんきょうより影響えいきょうを受うけることもよく知しられています。がん組織そしきはがん細胞さいぼうの他ほかに線維せんい芽め細胞さいぼうや血管けっかん内皮ないひ細胞さいぼうなど様々さまざまな正常せいじょう細胞さいぼうによって成なり立たっています。これらの正常せいじょう細胞さいぼうが産さん生せいする増殖ぞうしょく因子いんしなどによってがん細胞さいぼうの浸潤しんじゅん性せいが強つよまることがあるのです。がん細胞さいぼうを取とり巻まく「微小びしょう環境かんきょう」を解明かいめいして、がんの浸潤しんじゅんを阻止そししようとする研究けんきゅうも盛さかんに行おこなわれています。　

北海道ほっかいどう医療いりょう大学だいがく看護かんご福祉ふくし学部がくぶ教授きょうじゅ　浜田はまだ　淳一じゅんいち

出典しゅってん　The Way Forward No.17, 2020年ねん