犬いぬの心臓しんぞう病びょう　僧そう帽ぼう弁べん閉鎖へいさ不全ふぜん症しょうを発症はっしょうしてから亡なくなるまで、飼かい主ぬしができることは

　いつかやってくる愛犬あいけん、愛あい猫ねことの別わかれに備そなえる連載れんさい『病気びょうき別べつ・犬いぬ猫ねこの最期さいご』。第だい４回かいは、チワワやトイ・プードルなどの小型こがた犬けんに多おおい「心臓しんぞう病びょう（僧そう帽ぼう弁べん閉鎖へいさ不全ふぜん症しょう）」です。田園調布でんえんちょうふ動物どうぶつ病院びょういん院長いんちょうの田向たむかい健一けんいち先生せんせいに、犬いぬの僧そう帽ぼう弁べん閉鎖へいさ不全ふぜん症しょうの初期しょきから末期まっきまでの治療ちりょうやケア、亡なくなり方かたまでうかがいました。

　心臓しんぞう病びょうの末期まっきには肺はい水腫すいしゅで呼吸こきゅうができなくなるので、穏おだやかな最期さいごを迎むかえられないかもしれません。まれにうっ血けつ性せい心不全しんふぜんによる突然とつぜん死しの可能かのう性せいもあります。看取かんしゅ（みと）る覚悟かくごが必要ひつような心臓しんぞう病びょうについて知しっておきましょう。

第だい１回かいはこちら
愛犬あいけん、愛あい猫ねこを穏おだやかな最期さいごへ導みちびくために飼かい主ぬしができること

犬いぬに多おおい心臓しんぞう病びょうは「僧そう帽ぼう弁べん閉鎖へいさ不全ふぜん症しょう」

　心臓しんぞうは全身ぜんしんに血液けつえきを送おくり出だす重要じゅうような臓器ぞうきです。犬いぬの心臓しんぞうは人間にんげんと同おなじく構造こうぞうで、右側みぎがわの右みぎ心房しんぼうと右みぎ心室しんしつが全身ぜんしんを巡めぐってきた血液けつえきを肺はいに送おくり、左側ひだりがわの左ひだり心房しんぼうと左ひだり心室しんしつが肺はいで酸素さんそを受うけ取とった血液けつえきを全身ぜんしんに送おくります。犬いぬに多おおい心臓しんぞう病びょうの「僧そう帽ぼう弁べん閉鎖へいさ不全ふぜん症しょう」は、左ひだり心房しんぼうと左ひだり心室しんしつの間あいだにある僧そう帽ぼう弁べんという扉とびらが変形へんけいし、血液けつえきの流ながれに異常いじょうが起おきてしまう病気びょうきです。

　僧そう帽ぼう弁べん閉鎖へいさ不全ふぜん症しょうが進行しんこうすると、血液けつえきをうまく送おくり出だせなくなって心臓しんぞうの中なかで渋滞じゅうたいが起おき、うっ血けつ性せい心不全しんふぜんになります。全身ぜんしんに血液けつえきが行いき届とどかなくなり、まれに突然とつぜん死しを招まねくこともあります。

　突然とつぜん死しを免まぬかれてもうっ血けつ性せい心不全しんふぜんの状態じょうたいが続つづき、水道すいどうのホースを途中とちゅうで止とめると内圧ないあつが高たかくなるように、血管けっかんの内圧ないあつも上昇じょうしょうして常つねに血圧けつあつが高たかい状態じょうたいになります。肺はいは細ほそい毛細血管もうさいけっかんがたくさんある臓器ぞうきなので、血圧けつあつが上あがると血管けっかんから血液けつえきの水分すいぶんが漏もれ出でてきます。最初さいしょは肺はいの内部ないぶが湿しめってむせるようなせきが出で始はじめ、やがて水みずがたまる肺はい水すい種しゅで呼吸こきゅうができなくなって亡なくなります。

発症はっしょうしやすいのは高齢こうれいの小型こがた犬けん

　僧そう帽ぼう弁べん閉鎖へいさ不全ふぜん症しょうを発症はっしょうしやすい犬いぬ種しゅは、チワワ、マルチーズ、ポメラニアン、ヨークシャー・テリア、ミニチュア・ダックスフンド、トイ・プードルなどの小型こがた犬けんで、キャバリア・キング・チャールズ・スパニエルは遺伝いでん的てきな影響えいきょうも指摘してきされています。純血じゅんけつ犬いぬ種しゅ以外いがいの雑種ざっしゅの小型こがた犬けんにも多おおいことから、体からだのサイズが関係かんけいしている可能かのう性せいがあります。

　早はやければ７、８歳さいで見みつかりますが、症状しょうじょうが出でていない段階だんかいですでにゆっくり進行しんこうしているのかもしれません。とはいえ10歳さいを超こえた小型こがた犬けんに増ふえ始はじめる心臓しんぞう病びょうです。

　僧そう帽ぼう弁べん閉鎖へいさ不全ふぜん症しょうは僧そう帽ぼう弁べんを釣つっている糸いとのようなものが伸のびたり切きれたりしたことが変形へんけいの原因げんいん。皮膚ひふが老化ろうかによってシワができたりたるんだりするように、体からだの内部ないぶにもハリがなくなってくるわけです。高齢こうれいになって発症はっしょうする病気びょうきの多おおくは老化ろうかの一種いっしゅでもあるので、悪わるくならないように投薬とうやくやケアでコントロールしながら付つき合あっていきましょう。初期しょきから治療ちりょうを始はじめれば平均へいきん余命よめいは６年ねん以上いじょうという報告ほうこくがあるので、早期そうき発見はっけんが重要じゅうようです。

　一部いちぶの動物どうぶつ病院びょういんでは僧そう帽ぼう弁べん閉鎖へいさ不全ふぜん症しょうの完治かんじを目指めざす外科げか手術しゅじゅつを行おこなっています。不調ふちょうに気きづいた時点じてんで早はやめに動物どうぶつ病院びょういんを受診じゅしんして、治療ちりょうの方法ほうほうなどを獣しし医師いしと相談そうだんしてくださいね。

初期しょき：症状しょうじょうがほぼなく、健康けんこう診断しんだんで偶然ぐうぜん発見はっけん

■症状しょうじょう

• 体調たいちょうの変化へんかはほとんどない
• 少すこしおとなしくなったと感かんじるかもしれない

　健康けんこう診断しんだんのときに聴診ちょうしん器きを当あてて心こころ雑音ざつおんが聞きこえたり、レントゲンや超ちょう音波おんぱ検査けんさで心臓しんぞうの内部ないぶに異変いへんが見みえたりして偶然ぐうぜん見みつかることが多おおいと感かんじます。

■治療ちりょう

• 血圧けつあつを下さげる薬くすりを飲のむ
• 心臓しんぞうの動うごきを助たすける薬くすりを飲のむ

　病気びょうきの症状しょうじょうがない場合ばあい、治療ちりょうを始はじめようとは思おもわないかもしれませんが、僧そう帽ぼう弁べん閉鎖へいさ不全ふぜん症しょうは初期しょきから投薬とうやくを始はじめたほうが長生ながいきできるというデータがあります。犬いぬのつらさを緩和かんわすることにもつながるので、獣しし医師いしと治療ちりょうを相談そうだんしましょう。心臓しんぞう病びょうは段階だんかいに応おうじて治療ちりょうを考かんがえることが重要じゅうようです。

■自宅じたくでのケア

• 激はげしい運動うんどうを控ひかえる
• 塩分えんぶんを減へらした低ていナトリウム食事しょくじ療法りょうほう食しょくに切きり替かえる
• 体調たいちょうや行動こうどうの変化へんかをよく観察かんさつする
• 薬くすりを飲のませる

　日常にちじょう生活せいかつを送おくれる段階だんかいですが、全力ぜんりょく疾走しっそうなどの過度かどな運動うんどうを控ひかえてください。ゆっくり歩あるく散歩さんぽは問題もんだいありません。できれば投薬とうやくの練習れんしゅうも始はじめましょう。

中期ちゅうき：呼吸こきゅうが荒あらくなり、せきが出始ではじめる

■症状しょうじょう

• 運動うんどうした後のちに口くちを開あけてハアハアと呼吸こきゅうをする
• 活発かっぱつだったのに運動うんどうをしなくなる
• のどに引ひっかかったものを出だそうとするようなカッカッというせきをする

　中期ちゅうきになると主おもに呼吸こきゅうにも異常いじょうが現あらわれるので、動物どうぶつ病院びょういんを受診じゅしんする方ほうが増ふえます。心臓しんぞうが悪わるくなると肺はいに水みずがたまってせきが出でるのが特徴とくちょう的てきです。

■治療ちりょう

• 不整脈ふせいみゃくを軽減けいげんする薬くすりを処方しょほうする

　左ひだり心室しんしつから左ひだり心房しんぼうへの血液けつえきの逆流ぎゃくりゅうが顕著けんちょになるため、不整脈ふせいみゃくを軽減けいげんする薬くすりで心臓しんぞうの動うごきを助たすけます。外科げか手術しゅじゅつを検討けんとうしたい場合ばあいは早はやめに獣しし医師いしと相談そうだんしてください。

■自宅じたくでのケア

• 初期しょきと同おなじケアを行おこなう
• 運動うんどうや興奮こうふんさせることを控ひかえる

　病気びょうきがわかった時点じてんで、「なんとかしてあげたい」と焦あせってしまう飼かい主ぬしさんも少すくなくありませんが、処方しょほうされた薬くすりを飲のませることが治療ちりょうでありケアになります。日常にちじょう生活せいかつでは穏おだやかに暮くらすことを心こころがけましょう。

末期まっき：入退院にゅうたいいんを繰くり返かえして死しに近ちかづく

■症状しょうじょう

• ぐったりしている
• 食欲しょくよくがなくなる
• 眠ねむくてもスフィンクスのような姿勢しせいで横よこにならない
• 呼吸こきゅうのたびに胸むねやおなかが大おおきくペコペコと動うごく
• 口くちを開あけてずっとハアハアと息いきをしている

　肺はいに水みずがたまる肺はい水腫すいしゅの状態じょうたいになり、呼吸こきゅうをするだけで精せいいっぱいの状態じょうたいです。少すこしでも楽らくに息いきができるようにスフィンクスの姿勢しせいで胸むねを広ひろげていることが多おおくなります。無理むりに寝ねかせないようにしてください。

■治療ちりょう

• 中期ちゅうきと同おなじ治療ちりょうを行おこなう
• 入院にゅういんさせて酸素さんそボックスに入いれ、利尿りにょう剤ざいや強心剤きょうしんざいを投与とうよする

　犬いぬの息苦いきぐるしさを少すこしでも緩和かんわするための治療ちりょうを行おこないます。動物どうぶつ病院びょういんに一時いちじ的てきに入院にゅういんしてもらい、利尿りにょう剤ざいを投与とうよして肺はいにたまった水みずを尿にょうとして排出はいしゅつさせて呼吸こきゅうを楽らくにします。多少たしょう回復かいふくした段階だんかいで退院たいいんになりますが、入退院にゅうたいいんを繰くり返かえして徐々じょじょに回復かいふくしなくなっていきます。

■自宅じたくでのケア

• 中期ちゅうきと同おなじケアを行おこなう
• 酸素さんそボックスを設置せっちする
• ゆっくり休やすませる

　何なにもしていなくても呼吸こきゅうが苦くるしい段階だんかいなので、簡易かんい的てきな酸素さんそボックスの設置せっちをおすすめしています。ビニールハウス状じょうのケージに犬いぬを入いれて酸素さんそを供給きょうきゅうすると、多少たしょうでも楽らくに息いきができるようになります。

呼吸こきゅうができなくなって亡なくなることが多おおい

　心臓しんぞう病びょうは息いきが苦くるしくなる残酷ざんこくな病気びょうきです。心臓しんぞうが悪わるくなると肺はいも悪わるくなるからです。僧そう帽ぼう弁べん閉鎖へいさ不全ふぜん症しょうの末期まっきは肺はい水腫すいしゅが進行しんこうして肺はいが水浸みずびたしになり、陸りくで溺おぼれているような苦くるしい状態じょうたいになります。自宅じたくでのケアでは対応たいおうできないので、一時いちじ的てきに入院にゅういんさせてもち直なおしたら退院たいいんさせることを繰くり返かえして、だんだん死しに近ちかづいていきます。

　愛犬あいけんが苦くるしんでいるとわかっていても、安楽あんらく死しを選択せんたくする飼かい主ぬしさんはほとんどいません。肺はい水腫すいしゅを乗のり越こえて犬いぬが数カ月すうかげつ生いきられることもあるため、獣しし医師いしも治療ちりょうを終おわらせるタイミングが読よめないのです。しかし飼かい主ぬしさんに「なんとかしてください」と言いわれたとしても、私わたしは獣しし医師いしの立場たちばから死しが近ちかいことを伝つたえたほうがよいと考かんがえています。愛犬あいけんの最期さいごが迫せまっていることを知しらなければ、「また元気げんきになる」と飼かい主ぬしさんがいつまでも期待きたいし続つづけてしまうからです。

　もちろん入院にゅういんさせるときには生いきると信しんじて治療ちりょうをしますが、飼かい主ぬしさんが病院びょういんでのみとりを望のぞんでいない場合ばあい、危篤きとくの状態じょうたいが続つづいたら退院たいいんを早はやめることも。実際じっさいに僧そう帽ぼう弁べん閉鎖へいさ不全ふぜん症しょうの犬いぬが退院たいいんの翌朝よくあさに亡なくなり、家族かぞくで見送みおくれたと感謝かんしゃされたこともありました。逆ぎゃくに入院にゅういんを希望きぼうする飼かい主ぬしさんには、「最期さいごを見届みとどける覚悟かくごで預あずかります」と伝つたえることもあります。

看取みとり方かた

　飼かい主ぬしさんは僧そう帽ぼう弁べん閉鎖へいさ不全ふぜん症しょうの最期さいごを知しったうえで、看取みとり方かたを考かんがえることが大切たいせつです。病状びょうじょうを判断はんだんするのは獣しし医師いしですが、共ともに暮くらした愛犬あいけんの最期さいごを決きめられるのは飼かい主ぬしさんだけではないでしょうか。とはいえ、愛犬あいけんの死しを考かんがえるのは飼かい主ぬしさんだけでは心細こころぼそいですよね。獣しし医師いしに「一緒いっしょに看取みとり方かたを考かんがえてください」と言いえるような信頼しんらい関係かんけいを築きずいておくのが理想りそうだと思おもいます。

　僧そう帽ぼう弁べん閉鎖へいさ不全ふぜん症しょうの末期まっきは酸素さんそボックスに入いれても十分じゅうぶんに呼吸こきゅうができないので、苦くしんで亡なくなることが多おおいと思おもいます。私わたしは２０年ねん以上いじょう動物どうぶつの医療いりょうに携たずさわってきましたが、いまだに肺はい水腫すいしゅによる動物どうぶつの死しには涙なみだが出でてきます。つらさを知しっているだけに「やっと楽らくになれたね」と思おもうからです。飼かい主ぬしさんも同おなじで、悲かなしむより安心あんしんする方ほうも少すくなくありません。

　僧そう帽ぼう弁べん閉鎖へいさ不全ふぜん症しょうは愛犬あいけんが少すこしずつ弱よわっていく姿すがたを見みて、看取みとる覚悟かくごができる病気びょうきです。穏おだやかな亡なくなり方かたができないかもしれませんが、飼かい主ぬしさんには愛犬あいけんの死しを受うけ止とめる強つよさをもってほしいと願ねがっています。

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