災害さいがい救助きゅうじょ犬けんの出動しゅつどう「これが最後さいごであってほしい」と願ねがう　眼前がんぜんの光景こうけいに気持きもちが揺ゆらいだ

　ジャーナリストで災害さいがい救助きゅうじょ犬けんのハンドラーとしても活動かつどうする河かわ畠ばたけ大だい四しさんが、愛犬あいけんであり信頼しんらいを寄よせる災害さいがい救助きゅうじょ犬けんの「ココ」（ボーダーコリー／メス11歳さい）との生活せいかつに込こめられた、喜よろこびや挑戦ちょうせんを伝つたえていきます。

（末尾まつびに写真しゃしん特集とくしゅうがあります）

これが最後さいごの出動しゅつどうであってほしいと願ねがう

　NPO法人ほうじん日本にっぽん救助きゅうじょ犬けん協会きょうかいの能登半島のとはんとう出動しゅつどうチーム６人にんは１月がつ３日にちの13時じ過すぎ、北陸ほくりく自動車じどうしゃ道どうの金沢かなざわ森本もりもとインターチェンジで高速こうそく道路どうろを降おりて、能登半島のとはんとうの北部ほくぶ、輪島わじまへと向むかっていた。

　高速こうそく道路どうろを降おりる前まえにSAでガソリンを満まんタンにした。地震じしん直後ちょくごの輪島わじま市内しないではガソリンスタンドは開ひらいていない。仲間なかまが携行けいこう缶かんにガソリンを積つんで来きたとはいえ、唯一ゆいいつの交通こうつう手段しゅだんである自動車じどうしゃがガス欠かけを起おこしては身動みうごきがとれなくなる。私わたしの車くるまは満まんタンにすれば800キロは走はしれる計算けいさんで、これでひと安心あんしんだ。

　ココはおそらく最後さいごの休憩きゅうけいとなるため、ケージから出だしておしっこをさせた。「もう少すこしの辛抱しんぼうだからな」と頭あたまをなでる。

　千葉ちばをたっておよそ12時じ間あいだ、目的もくてき地ちの輪島わじま消防署しょうぼうしょ門前もんぜん分署ぶんしょまであと100キロほどだ。途中とちゅうで３回かいほど休憩きゅうけいをとり、ココには１度ど、朝食ちょうしょくにドッグフードをあげた。

　白髪はくはつが増ふえた目めの周まわりを見みながら、これがココの最後さいごの出動しゅつどうであってほしいと願ねがう。月つきに２回かいから３回かい、捜索そうさく訓練くんれんに励はげむのだが、その一方いっぽうで災害さいがい救助きゅうじょ犬けんが活動かつどうするような震災しんさいが起おきてほしくないと切せつに望のぞんでいる。

最新さいしん情報じょうほうを得えながら走はしっていたが…

　元日がんじつの地震じしんで金沢かなざわ市しは震度しんど５強きょうだったが、運転うんてん席せきから見みえる市内しないの建物たてものや道路どうろには特とくに変かわった様子ようすは見みられない。ガソリンスタンドもさまざまなお店みせも開ひらいている。もっとも建物たてものの中なかは物ものが落おちたりしているのかもしれない。

　車くるまは日本海にほんかいに出でて、金沢かなざわと能登半島のとはんとうを結むすぶ海沿うみぞいの自動車じどうしゃ専用せんよう道路どうろ、のと里山さとやま海道かいどうを北上ほくじょうした。

　金沢かなざわから40キロほど北きたの羽咋はくい市し（はくいし）に入はいったあたりだろうか、のと里山さとやま海道かいどうは通行止つうこうどめとなり、一般いっぱん道どうに降おろされた。ここからの道みちはひび割われ、陥没かんぼつ、隆起りゅうきなどで走行そうこうがかなり厳きびしくなるのだろう。そう覚悟かくごを決きめ、スピードを落おとし、路面ろめんに注意ちゅういを払はらった。後続こうぞく２台だいの“道みち先さき案内あんない”を任まかされているというプレッシャーものしかかる。できるだけ短みじかいルートで安全あんぜんな走行そうこうを心こころがけながら、現地げんちに一刻いっこくも早はやく到着とうちゃくしたいというはやる気持きもちが交錯こうさくする。

　一般いっぱん道どうははじめスムーズに進すすめた。「震災しんさいの被害ひがいは意外いがいと広ひろがってないのかもしれない」と思おもいかけた途端とたん、前方ぜんぽうに赤あかい三角さんかくコーンが見みえた。近ちかづくと道みちは大おおきくひび割われ、端はしが陥没かんぼつしていた。車くるまを止とめ、破損はそん状態じょうたいを確認かくにんしながら、ゆっくりと迂回うかい（うかい）した。後続こうぞくの２台だいは心配しんぱいそうにこちらの走行そうこうを見守みまもりながら、間隔かんかくをあけてついてきた。

　元日がんじつの地震じしんで震度しんど７を記録きろくした志賀しか町まちは輪島わじま市しの南みなみに隣接りんせつする。この町まちに入はいるあたりで、前まえから来きた車くるまが私わたしたちの進すすむ道みちをふさぐように止とまった。「どうしたんだろう」と思おもう間あいだもなく、運転うんてん席せきから人ひとが降おりてきて「この先さきは土砂崩どしゃくずれで通とおれません。迂回うかいしてください」とまくし立たてた。インターネットの道路どうろ情報じょうほうではまだこの先さきは通行止つうこうどめになっていない。

　運転うんてん手しゅの慌あわてぶりや道みちを封鎖ふうさする三角さんかくコーンなどがまだ設置せっちされていないところを見みると、直前ちょくぜんまで通行つうこうできていたのだろう。おそらく元日がんじつの地震じしんで緩ゆるんだ地盤じばんが、今日きょう３日にちの午前ごぜん中ちゅうの地震じしんで崩くずれてきたのかもしれない。余震よしん、恐おそれるべしだ。

　最新さいしんの情報じょうほうを得えながら走はしっていたいので、まさか土砂崩どしゃくずれによって行いく道みちを阻はばまれるとは思おもわなかった。私わたしたちの車くるまが、その場所ばしょを走はしっていた時ときに土砂崩どしゃくずれが起おきたらと思おもうとゾッとした。もちろん、そんな確かく率りつは極端きょくたんに低ひくいだろうが、ないとは言いえない。やむなく来きた道みちを引ひき返かえして別べつのルートを探さがす。

　やはり震度しんど７の地震じしんとその余震よしんの影響えいきょうは計はかり知しれない。志賀しか町まちを走はしっていると自宅じたくの壁かべが崩くずれ落おちたり、屋根やねの瓦かわらが落おちていたりする家いえがあちこちに現あらわれ始はじめた。そんな海沿うみぞいの集落しゅうらくをいくつか抜ぬけながら、北きたに進すすめば進すすむほど地震じしんの爪痕つめあとが激はげしくなっていくのがわかった。家いえが傾かたむいていたり、電柱でんちゅうが斜ななめにかしいでいたりする光景こうけいが増ふえ始はじめた。

見みたこともない光景こうけいに気持きもちが揺ゆらぐ

　それにしてもケージに入はいった救助きゅうじょ犬けんは2頭とうとも静しずかだ。特とくにココはほえもしなければクンクンと鳴なきもしない。普段ふだんから要求ようきゅうぼえはまずしない。体位たいいを変かえるためにたまに立たち上あがって動うごくくらいだ。犬いぬに煩わずらわされなくて済すむのはありがたい。

　すると突然とつぜん、道みちの真まん中なかに1メートルほど何なにかが飛とび出だしているのが見みえた。「うわっ！」と思おもわず声こえを出だした。スピードを落おとして反対はんたい車線しゃせんに入はいり、突起とっき物ぶつを回避かいひする。助手じょしゅ席せきに座すわる仲間なかまに「何なにこれ？」と問といかけた。

　帰かえってきた答こたえは、「マンホールですよ」。

　耳みみをうたぐった。地震じしんの揺ゆれによってマンホールの土管どかんだけが道みちから浮うき上あがっていた。生うまれて初はじめて見みるその姿すがたに、ついつい目めを奪うばわれてしまう。「ちゃんと前まえを向むいて運転うんてんしてください！」と助手じょしゅ席せきの仲間なかまに怒おこられた。

　予想よそうはしていたが、次々つぎつぎに現あらわれてくる惨状さんじょうに気持きもちが揺ゆれた。

（次回じかいは5月1日にちに公開こうかい予定よていです）

【前まえの回かい】人ひとより軽かるくて動うごきが機敏きびんな救助きゅうじょ犬けんが必要ひつよう　能登のとに向むけて災害さいがい救助きゅうじょ犬けんのココが出動しゅつどう