動物どうぶつの法的ほうてき位置いちづけについて　日本にっぽんの法ほうで動物どうぶつの権利けんりを保障ほしょうすることはできるのか

　ペット関連かんれんの法律ほうりつに詳くわしい細川ほそかわ敦史あつし弁護士べんごしが、飼かい主ぬしの暮くらしにとって身近みぢかな話題わだいを法律ほうりつの視点してんから解説かいせつします。今回こんかいは、「動物どうぶつの法的ほうてきな位置いちづけ」についてです。

日本にっぽんにおいて、憲法けんぽうで動物どうぶつの権利けんりを保障ほしょうする未来みらいは遠とおい

　昨年さくねんは、動物どうぶつ愛護あいご管理かんり法ほうが制定せいていされた1973年ねんから50年ねんの節目ふしめの年としでした。そこで、動物どうぶつの法的ほうてきな位置いちづけについて、あらためて考かんがえてみたいと思おもいます。

　この動物どうぶつと法ほうに関かんする総論そうろん的てきなテーマについては、これまでも、2015年ねんの最初さいしょの記事きじ『動物どうぶつは法律ほうりつ上じょう「モノ」なの？』や、『動物どうぶつの法律ほうりつを知しってみませんか　社会しゃかいを動うごかすために大切たいせつなこととは』など、節目ふしめのタイミングで、その時々ときどきの私わたしなりの考かんがえを書かいていますので、あわせてこれらもご覧らんください。

　さて、日本国にっぽんこく憲法けんぽうでは、「人権じんけん」が保障ほしょうされています。これに対たいし、「動物どうぶつの権利けんり」は、少すくなくとも憲法けんぽうの条文じょうぶんには何なにも書かかれていません。

　一方いっぽう、憲法けんぽうにおいて、自然しぜん環境かんきょうとともに保護ほごされる対象たいしょうとして「動物どうぶつ」が明記めいきされている国くにはいくつかあります。具体ぐたい的てきには、スイス、ブラジル、スロヴェニア、ドイツ、オーストリア、エジプト、ロシア、イタリアなどです（『外国がいこくの立法りっぽう　2022年ねん9月がつNo.293』参照さんしょう）。動物どうぶつに優やさしいイメージの国くにもあれば、必かならずしもそうではない国くにもあるのではないでしょうか。

　こうした海外かいがいの憲法けんぽうを見習みならって、日本にっぽんも憲法けんぽうを改正かいせいして動物どうぶつの保護ほご規定きていを明記めいきすべき——と言いうのは簡単かんたんですが、実際じっさいにはそう簡単かんたんではありません。

　多おおくの関係かんけい者しゃの力ちからをあわせて、将来しょうらい的てきに憲法けんぽう改正かいせいを目指めざすことは有意義ゆういぎであるとしても、どのようなロードマップを経へて、いつそれが実現じつげんするのか、少すくなくとも私わたしにはまったく見通みとおしが立たちません。　

日本国にっぽんこく憲法けんぽうの「解釈かいしゃく」によって対応たいおうする

　では、どうしたらいいのでしょうか。いつの日ひか憲法けんぽうの条文じょうぶんに明記めいきされるそのときまで、解釈かいしゃくによって保障ほしょうされているといえないか、ということを考かんがえてみるのは、それなりに意義いぎがあることだと思おもいます。

　例たとえば、プライバシー権けん・利益りえきというものは、日本国にっぽんこく憲法けんぽうの条文じょうぶんに明記めいきはされていません。しかしながら、現代げんだい社会しゃかいにおいて他人たにんから知しられたくない権利けんり・利益りえきというものは、憲法けんぽう13条じょうの幸福こうふく追求ついきゅう権けんによって保障ほしょうされていると解釈かいしゃくすることが通説つうせつであり、最高裁さいこうさい判例はんれいでも認みとめられています。　

　このようなプライバシー権けんと同おなじように、「人ひとが動物どうぶつと暮くらす権利けんり・利益りえき」を解釈かいしゃく上じょう認みとめられるとよいのではと考かんがえています。

　この点てん、環境かんきょう問題もんだいに法的ほうてき視点してんから取とり組くむ日本にっぽん環境かんきょう法律ほうりつ家か連盟れんめい（JELF）の動物どうぶつ福祉ふくしPTに所属しょぞくする弁護士べんごしグループでも、「動物どうぶつ共生きょうせい権けん」といった概念がいねんを提唱ていしょうできないか検討けんとうを続つづけていますが、議論ぎろんはまだ始はじまったばかりです。憲法けんぽうをはじめとする法学ほうがく研究けんきゅう者しゃや、立法りっぽうに携たずさわる国会こっかい議員ぎいんなどのご協力きょうりょくもいただきながら、議論ぎろんを深ふかめていければと考かんがえています。

今いまある法律ほうりつを参考さんこうに新あたらしい法律ほうりつを作つくり、動物どうぶつを守まもる

　憲法けんぽうレベルで動物どうぶつの権利けんりや利益りえきを認みとめることはそう簡単かんたんではないとしたら、次つぎは、法律ほうりつによって、動物どうぶつの地位ちいを高たかめ、あるいは、動物どうぶつの立場たちばを少すこしでも守まもることができないものでしょうか。

　人ひとと同おなじような権利けんりを認みとめるわけではないとしても、せめて、動物どうぶつたちが、意味いみもなく不利益ふりえきな取とり扱あつかいを受うけない権利けんり（利益りえき）は認みとめられてもよいように思おもいますし、そのために知恵ちえを絞しぼる必要ひつようがあると思おもいます。

　既すでに存在そんざいする制度せいどが参考さんこうになるように思おもいましたので、以下いかに紹介しょうかいします。

　消費しょうひ者しゃ契約けいやく法ほうに基もとづき認定にんていされた「消費しょうひ者しゃ適格てきかく団体だんたい」という法人ほうじん（弁護士べんごし、司法しほう書士しょし、法学ほうがく者しゃ、消費しょうひ者しゃ団体だんたい関係かんけい者しゃなどが関与かんよ）があります。消費しょうひ者しゃ被害ひがいを未然みぜんに防止ぼうしするために、消費しょうひ者しゃ適格てきかく団体だんたいは独自どくじに、消費しょうひ者しゃ契約けいやく法ほうに違反いはんする不当ふとうな契約けいやく条項じょうこうの差止さしどめ請求せいきゅうなどを行おこなうことができます。個々ここの消費しょうひ者しゃが事業じぎょう者しゃを訴うったえなくても、専門せんもん家か団体だんたいがお節介せっかいをして消費しょうひ者しゃを助たすけてくれるイメージです。

　事業じぎょう者しゃにモノを言いいたくてもうまく言いえない消費しょうひ者しゃと、言葉ことばを話はなせないからモノを言いえない動物どうぶつは、人ひとと動物どうぶつという違ちがいはあるものの、社会しゃかい的てきにみれば似にているところがあると思おもいます。そこで、将来しょうらい的てきに、法律ほうりつをつくって、消費しょうひ者しゃ適格てきかく団体だんたいの動物どうぶつ版ばんというべき「動物どうぶつ適格てきかく団体だんたい」といった制度せいどができたら、おもしろいかもしれません。

　そして、私わたしの構想こうそうから多おおくの人ひとたちの協力きょうりょくを経へて2022年ねん9月がつに設立せつりつした「NPO法人ほうじんどうぶつ弁護べんご団だん」は、モノを言いえない動物どうぶつを虐待ぎゃくたいから護まもるために活動かつどうしています。どうぶつ弁護べんご団だんをはじめ、いろいろな機会きかいで、同おなじ志こころざしを持もつ弁護士べんごし、研究けんきゅう者しゃ、動物どうぶつ愛護あいご関係かんけい者しゃと一緒いっしょになって勉強べんきょうしていると、刺激しげき的てきであり、その中なかで将来しょうらいのアイデアが浮うかんだりします。

　もともと、動物どうぶつの権利けんりや地位ちいの向上こうじょうを意識いしきしていたわけではありませんが、この法人ほうじんをしっかりと運営うんえいしていくことによって、将来しょうらい的てきに、動物どうぶつの法的ほうてき地位ちいの向上こうじょうにあたり、役やくに立たつことがあるのではないかと思おもっています。

＜あとがき＞
　当とう連載れんさい「おしえて、ペットの弁護士べんごしさん」とは別べつに、今年ことし４月がつ24日にちから、どうぶつ弁護べんご団だんによる新しん連載れんさいがスタートする予定よていです。動物どうぶつの代弁だいべん者しゃとして、とても頼たよりになる弁護士べんごし・獣しし医師いしメンバーからのお便たよりをお届とどけしたいと思おもいます。

【前まえの回かい】法律ほうりつが強化きょうかされてもなくならない繁殖はんしょく業者ぎょうしゃの虐待ぎゃくたい事案じあん　改あらためてペットの流通りゅうつう問題もんだいを考かんがえる