3月30日、東京大学にてDXフォーラムが開催された。2023年10月7日に始まり7回にわたって開催した「建築・都市DX人材育成プログラム」を締めくくるもの。昨年度に続く第2回目で、今年度はさらに充実したプログラムとなった。10月から開催してきたプログラムは (1)技術セミナー(2)政策コロキアム(3)建築・都市分野のDXフォーラムの3部で構成する。
技術セミナーでは、測量・計測、情報通信、解析、ロボティクス、建築生産、仮想空間、施工管理の7分野で活躍する研究者・専門家が最新の技術を詳しく解説、政策コロキアムでは、デジタル行政、都市行政、住宅・建築行政、不動産・建設行政、各分野の実務担当者が最新の政策動向を講義した。
![会場](https://special.nikkeibp.co.jp/atclh/NXT/24/u_tokyo0527/img-kaijo-01.jpg)
総括となるDXフォーラムでは、主催者の代表として東京大学の和泉洋人特任教授が登壇、続いて元デジタル庁デジタル審議官の赤石浩一氏が「DXの潮流とサイバー空間建設」と題して基調講演を行った。さらに内閣府科学技術・イノベーション推進事務局長の松尾泰樹氏が「科技イノベーション・スタートアップ創出政策について」のテーマで講演。
次に7回にわたる技術セミナーと政策コロキアムで得た知見を参考にしながら、社会課題の解決に資する取り組みのプレゼンを行う「受講生ピッチ」が企画され、2名が登壇。講評者3名とのディスカッションが活発に行われた。白熱した当日の模様を紹介する。
基調講演
元デジタル庁デジタル審議官赤石 浩一 氏
データ基盤の連携整備に課題
欧米に遅れをとる日本
基調講演に立った元デジタル庁デジタル審議官の赤石浩一氏は、デジタル化の世界的な潮流と、日本におけるデジタル化の取り組みについてまとめた。
ヨーロッパや米国を中心に、デジタルトランスフォーメーション、グリーントランスフォーメーション、セキュリティトランスフォーメーションなどの動きが加速していると赤石氏は説明する。ヨーロッパではGAIA-Xなどのデータプラットフォームが構築され、産業分野ごとのデータ連携が進められている。
一方、米国ではソフトウェアのセキュリティ基準の策定や、サプライチェーンのデジタル化が進んでいる。また、カーボンフットプリントの管理や、自然災害への対応などでもデジタル化が重要視されていると現状を分析した。
日本でも、デジタル庁を中心に公共サービスのデジタル化が進められている。具体的には、公共サービスメッシュというプラットフォームの構築、健康医療・教育・防災分野でのデータ連携基盤の整備、スマートシティの推進などが行われている。だが、データ連携基盤の整備に課題が多く、ヨーロッパに比べて遅れているとみている。
![赤石浩一氏](https://special.nikkeibp.co.jp/atclh/NXT/24/u_tokyo0527/img-akaishi.jpg)
元デジタル庁 デジタル審議官 赤石浩一氏
![データ戦略のアーキテクチャー/包括的データ戦略/実現したい社会(Society 5.0)](https://special.nikkeibp.co.jp/atclh/NXT/24/u_tokyo0527/img-03.png)
世界的にデータプラットフォームの構築が進む中、日本企業もグローバル市場を視野に入れる必要があるというのが赤石氏の見方だ。自社のデータをどう活用し、連携させるかが競争力の鍵となる。また、国際的なデータガバナンスの議論が活発化しており、日本としても戦略を立てる必要がある。OECDなどの国際機関と連携し、データ連携のための枠組み作りが進められている。
「広い意味でのデジタルツインアーキテクチャをどう作っていくかを、皆さんと一緒に考えていくべきだと思っている」と話をまとめた。
基調講演
内閣府科学技術・イノベーション推進事務局長松尾 泰樹 氏
スタートアップ育成
2027年までに10兆円の投資規模
基調講演の2人目は内閣府科学技術・イノベーション推進事務局長の松尾泰樹氏。日本政府のスタートアップ支援策と教育改革の取り組みについて説明した。
初めにサイバーセキュリティとデータ保護の重要性を説いた。具体的にはサイバー攻撃の脅威が高まる中、国として情報データをどう守るかが重要な課題となっていると強調する。JAXAでのサイバー攻撃事例が紹介され、ウクライナ情勢の観点からも、国家のデータ保護が安全保障上の重要課題であるという。
次にスマートシティの取り組みについて触れた。省庁ごとにバラバラに取り組んでいたことを改善し、5省庁が連携してロードマップを作成することになったと経緯を説明した。自治体からのヒアリングを経て、ベンダーロックインの解消やOSの公開、設計の標準化などが検討されている。
スタートアップ育成5カ年計画では、創業数と投資額の拡大、2027年までに投資額を10兆円規模にすることを目標としている。人材ネットワーク構築、資金調達支援、オープンイノベーション推進が3本柱となっている。地域のスタートアップエコシステム構築、大学発ベンチャー支援、SBIRによる技術実証支援なども行われている。
![松尾泰樹事務局長](https://special.nikkeibp.co.jp/atclh/NXT/24/u_tokyo0527/img-matsuo.jpg)
内閣府 科学技術・イノベーション推進事務局長松尾 泰樹 氏
文部科学省における大学発スタートアップ創出・成長に向けた施策
![文部科学省における大学発スタートアップ創出・成長に向けた施策](https://special.nikkeibp.co.jp/atclh/NXT/24/u_tokyo0527/img-04.png)
最後に教育改革の取り組みについて、GIGAスクール構想に基づき、1人1台端末を活用した個別最適化教育の実現を目指していると説明。多様な特性を持つ児童生徒に対応するため、教育の多様化が重要視されている現状を語った。教師不足への対応として、実務家教員の活用など様々な見直しが検討されていているという。
スタートアップの重要性を強調する講演内容となったが、最後に松尾氏は「スタートアップだけが成長すればいいわけではなく、スタートアップと大企業のコラボが必要で、経団連でも取り組んでいる。様々なステークホルダーが一緒になって日本経済成長と雇用の拡大につながればいい」と展望をまとめた。