男性 だんせい 遍歴 へんれき と波乱万丈 はらんばんじょう の生涯 しょうがい を送 おく り、最終 さいしゅう 的 てき には処刑 しょけい されてしまったスコットランド女王 じょおう 、メアリー・ステュアート(Mary Stuart, 1542年 ねん 12月8日 にち 〜1587年 ねん 2月 がつ 8日 にち )。一方 いっぽう 、未婚 みこん を貫 つらぬ き「国家 こっか と結婚 けっこん した」といわれたイングランド女王 じょおう 、エリザベス1世 せい 。実 じつ はこの二人 ふたり は生涯 しょうがい 、会 あ うことはなかった二人 ふたり である。
スコットランド女王 じょおう メアリ・スチュアートを演 えん じるは長谷川 はせがわ 京子 きょうこ 、イングランド女王 じょおう エリザベス一世 いっせい にシルビア・グラブ。この作品 さくひん は2人 ふたり 芝居 しばい が日本 にっぽん で多 おお く上演 じょうえん されているが、これはキャスト一覧 いちらん でもわかるように群像 ぐんぞう 劇 げき である。台本 だいほん はイギリスの詩人 しじん であるスティーブン・スペンダー、作 さく はフリードリヒ・シラー。
舞台 ぶたい 上 じょう には何 なに もない。舞台 ぶたい 中央 ちゅうおう には花道 かどう のような張 は り出 だ した部分 ぶぶん があり、階段 かいだん 。開演 かいえん 前 まえ はピアノの調 しら べ、そして厳 おごそ かな鐘 かね の音 おと 、階段 かいだん から男 おとこ が二 に 人 にん 、やってくる、舞台 ぶたい 上 じょう に箱 はこ が置 お かれており、中 なか にはドレスやらが・・・・・紙 し が入 はい っており、男 おとこ は言 い う「フランス語 ふらんすご で書 か いてある」「敵国 てきこく の言葉 ことば ・・・・」と。エリザベス1世 せい の時代 じだい 、イギリスの女王 じょおう ではあるが、厳密 げんみつ にいえばイングランドの女王 じょおう であり、正式 せいしき にはスコットランドとは統合 とうごう されておらず、人口 じんこう はおよそ300万 まん 、それに対 たい して敵国 てきこく であったフランスは1500万 まん 、スペインは800万 まん 、とりわけスペインは「太陽 たいよう の沈 しず まぬ国 くに 」と言 い われていた。そんなことからもわかるようにイングランドは、まだ小国 しょうこく だったのである。
そこへメアリーの乳母 うば であるハンナ・ケネディ(鷲尾 わしお 真知子 まちこ )がやってくる、「あなた方 かた は全 すべ てを奪 うば い取 と った」「たった一 ひと つの宝石 ほうせき まで奪 うば っていくのですか!」と。メアリー・スチュアート(長谷川 はせがわ 京子 きょうこ )は牢獄 ろうごく に閉 と じ込 こ められていた。そのメアリーが登場 とうじょう 、全身 ぜんしん 黒 くろ いドレス、首 くび には十字架 じゅうじか 、顔 かお は黒 くろ いベールで覆 おお われている。メアリーはスコットランド王 おう ジェームズ5世 せい とフランス貴族 きぞく ギーズ公家 くげ 出身 しゅっしん の王妃 おうひ メアリー・オブ・ギーズの長女 ちょうじょ 。ヘンリー・スチュワート ダーンリー(1545-1567)は、2度目 どめ の夫 おっと である。また、ステュアートの綴 つづ りを Stewart から Stuartに変 か えているが、これはメアリーのフランス好 す きがこうじたものだそうである。
メアリー・スチュアートとエルザベス1世 せい は生涯 しょうがい 会 あ うことはなかった。この戯曲 ぎきょく は、この二人 ふたり がもしも出会 であ ったなら、という『IF』の物語 ものがたり 。二人 ふたり 芝居 しばい の場合 ばあい はメアリー・スチュート役 やく とエリザベス1世 せい 役 やく しか登場 とうじょう しないが、この作品 さくひん は男性 だんせい 陣 じん も出演 しゅつえん 、これが物語 ものがたり を立体 りったい 化 か している。1558年 ねん の4月 がつ にメアリーはアンリ2世 せい の王 おう 太子 たいし フランソワと結婚式 けっこんしき を挙 あ げた。同年 どうねん 11月 がつ 17日 にち にジェームズ5世 せい の従妹 じゅうまい に当 あ たるエリザベス1世 せい がイングランド女王 じょおう に即位 そくい 。アンリ2世 せい は「庶子 しょし であるエリザベスの王位 おうい 継承 けいしょう 権 けん には疑義 ぎぎ があり、メアリーこそ正当 せいとう なイングランド王位 おうい 継承 けいしょう 権 けん 者 しゃ である」と抗議 こうぎ 。さらに、1559年 ねん 9月 がつ にはフランスとイングランドの講和 こうわ 条約 じょうやく 締結 ていけつ の後 のち に、駐 ちゅう 仏 ふつ イングランド大使 たいし を招 まね いた祝宴 しゅくえん の席 せき で、イングランド王位 おうい 継承 けいしょう 権 けん 者 しゃ であることを示 しめ す紋章 もんしょう を発表 はっぴょう した。エリザベスはこれに激怒 げきど 。また、アンリ2世 せい が亡 な くなると、王 おう 太子 たいし がフランソワ2世 せい として即位 そくい し、メアリーはフランス王妃 おうひ に。そのあと、スコットランドではプロテスタントの反乱 はんらん 、これにイングランドが介入 かいにゅう して、フランス海軍 かいぐん は大 だい 打撃 だげき を受 う け、その後 ご 、エディンバラ条約 じょうやく が結 むす ばれ、フランスのスコットランドへの軍事 ぐんじ 介入 かいにゅう の禁止 きんし と、先 さき の紋章 もんしょう の使用 しよう 禁止 きんし が謳 うた われたがメアリーはこの紋章 もんしょう を使用 しよう し続 つづ けた。また、イングランド国内 こくない でもエリザベスの王位 おうい 継承 けいしょう に異議 いぎ を唱 とな える貴族 きぞく もおり、そういうこともあってメアリーがエリザベスを庶子 しょし であると主張 しゅちょう し、自 みずか らの王位 おうい 継承 けいしょう 権 けん をい立 いた てることは政治 せいじ 的 てき に見 み ても政権 せいけん を揺 ゆ るがすものであった(セリフにも出 で てくるが、「アン=ブーリンの子 こ 」と言 い われる。アン=ブーリンは姦通 かんつう 罪 ざい で処刑 しょけい されている)。このようなベースになることを知 し っておくとストーリーは俄然 がぜん 面白 おもしろ く感 かん じる。
この2人 ふたり の存在 そんざい 、彼女 かのじょ の周囲 しゅうい にいる男 おとこ たち、貴族 きぞく であるが、彼 かれ らにはもちろん野心 やしん もあり、保身 ほしん もあり、行動 こうどう によっては自分 じぶん に不利 ふり になるから、じっくりとことのなりゆきを見極 みきわ めながら、狡猾 こうかつ に行動 こうどう しようとするのは無理 むり からぬことだ。そんな彼 かれ らとエリザベス、メアリー、二人 ふたり の存在 そんざい 、そして男 おとこ と女 おんな 、レスター伯 はく ロバート・ダドリー(吉田 よしだ 栄作 えいさく )はこの2人 ふたり から愛 あい されるが、彼 かれ 自身 じしん は自分 じぶん のポジションを見極 みきわ めながら、そして2人 ふたり の間 あいだ で揺 ゆ れ動 うご く。レスター伯 はく ロバート・ダドリーは史実 しじつ では、エリザベス王女 おうじょ がエリザベス1世 せい として即位 そくい すると、ただちに主 しゅ 馬頭 めず (英語 えいご 版 ばん )に任 にん じられ、翌 よく 1559年 ねん には枢密 すうみつ 顧問 こもん 官 かん にも任 にん じられ、さらにガーター勲章 くんしょう を与 あた えられた。主 しゅ 馬頭 めず は宮廷 きゅうてい 内 ない に住居 じゅうきょ を与 あた えられて常 つね に女王 じょおう の側 がわ 近 ちか くに仕 つか える役職 やくしょく で高 こう 収入 しゅうにゅう であった。エリザベスはダドリーを伴 ともな って毎日 まいにち のように乗馬 じょうば に興 きょう じ、2人 ふたり はやがて愛人 あいじん 関係 かんけい となったと言 い われ、女王 じょおう が外国 がいこく の王族 おうぞく と結婚 けっこん する可能 かのう 性 せい がもっとも高 たか かった1560年 ねん 前後 ぜんこう に女王 じょおう がこれらの縁談 えんだん に見向 みむ きしなかったのは、ダドリーの存在 そんざい があったからだと言 い われているくらいだ。
彼女 かのじょ の寵臣 ちょうしん の座 ざ をめぐりレスター伯 はく に対抗 たいこう する大蔵 おおくら 卿 きょう ・バーリー(山崎 やまざき 一 はじめ )(エリザベス1世 せい が即位 そくい すると再 ふたた び国王 こくおう 秘書 ひしょ 長官 ちょうかん に任 にん じられている)、そしてケント伯 はく (池下 いけした 重大 じゅうだい )ら、権力 けんりょく を握 にぎ りたい廷臣 ていしん たち、重鎮 じゅうちん ともいえる国璽尚書 こくじしょうしょ シュローズベリー伯 はく タルボット(藤木 ふじき 孝 たかし )、メアリーとエリザベスを軸 じく とし、それを取 と り巻 ま く男 おとこ たち、そして背景 はいけい にはイングランドの実情 じつじょう 、宗教 しゅうきょう 、フランスやスペインなどの強国 きょうこく 、そして愛 あい と憎 にく しみが渦 うず を巻 ま く。ちょっと踏 ふ み外 はず せば、地位 ちい が危 あや ういと感 かん じる男 おとこ たち、サスペンス的 てき な要素 ようそ もあり、そして愛憎 あいぞう 、出世 しゅっせ 欲 よく 、また、イングランドの周囲 しゅうい の国 くに 、フランス大使 たいし ・オーベスピーヌ伯 はく (星 ほし 智也 ともや )、アンジュー公 こう (女王 じょおう エリザベス1世 せい との結婚 けっこん の交渉 こうしょう が進 すす められていた)の特使 とくし ・ベリエーヴル(青山 あおやま 伊 い 津 つ 美 び )、そんな人々 ひとびと が登場 とうじょう し、物語 ものがたり を多重 たじゅう に見 み せる。
2幕 まく ではエリザベスとメアリーが出会 であ う(史実 しじつ では出会 であ っていない)。「あの方 ほう はどなた?」とエリザベス、さらに「悲 かな しみに打 う ちひしがれた女 おんな はどこ?」という。メアリーは暗殺 あんさつ を企 くわだ てたことになっている。「今 いま の姿 すがた はあなたにお似合 にあ いよ」とエリザベス、上 うえ から目線 めせん 。それに対 たい してメアリーはエリザベスの母 はは はアン=ブーリンとい放 いはな ちエリザベスに向 む かって「私生児 しせいじ !」と叫 さけ び、「王座 おうざ にあるべきはこの私 わたし なのです!」と堂々 どうどう と言 い ってのける。この女性 じょせい 2人 にん の”対決 たいけつ ”、そしてストーリーは怒涛 どとう のように疾走 しっそう する。
歴史 れきし の『IF』、史実 しじつ に基 もと づきながらもフィクション、そもそもこの時代 じだい を実際 じっさい に見 み たものはいない。文献 ぶんけん があるのみで、それだけでも想像 そうぞう 力 りょく を掻 か き立 た てられるもの、そこに『IF』を加味 かみ することによって生 う まれるドラマ、人間 にんげん の業 ごう 、昔 むかし 々の他国 たこく のお話 はなし かもしれないが、現代 げんだい にも通 つう じる感情 かんじょう と思 おも い。孤独 こどく な女 おんな 二 に 人 にん 、まっすぐに生 い きようとするメアリーと意志 いし が強 つよ く、その生涯 しょうがい を国 くに に捧 ささ げたエリザベス。どちらがどう、ということではなく、彼女 かのじょ たちの生 い き様 ざま 、歴史 れきし の波 なみ に翻弄 ほんろう されながらも意志 いし を持 も つ。そして翻弄 ほんろう される周囲 しゅうい の男 おとこ たち、ほぼ何 なに もない空間 くうかん で、膨大 ぼうだい なセリフで、演技 えんぎ で魅 み せていく。映像 えいぞう やプロジェクション・マッピングなどの現代 げんだい テクノロジーの出 で る幕 まく はない、天井 てんじょう に吊 つ るされたシャンデリア(場面 ばめん ごとでシャンデリアが微妙 びみょう に変 か わる)、木 き 、箱 はこ 、椅子 いす など、そのくらいの道具 どうぐ しか出 で てこない。権力 けんりょく 者 しゃ の持 も つ孤独 こどく と葛藤 かっとう 、地位 ちい を保全 ほぜん したい素直 すなお な気持 きも ち、歴史 れきし を政治 せいじ を、こういったちょっと上 うえ の方 ほう から覗 のぞ いて見 み ると様々 さまざま な景色 けしき が見 み える。硬派 こうは な舞台 ぶたい 、楽 たの しく娯楽 ごらく 性 せい の高 たか いエンタメ作品 さくひん も良 よ いが、時 とき にはキリキリとした歴史 れきし 劇 げき も。
<物語 ものがたり >
16世紀 せいき 末 まつ 、政変 せいへん により国 くに を追 お われ、遠縁 とおえん (父 ちち の従妹 じゅうまい )にあたるイングランド女王 じょおう エリザベスのもとに身 み を寄 よ せたスコットランド女王 じょおう メアリだったが、エリザベスはイングランドの正当 せいとう な王位 おうい 継承 けいしょう 権 けん を持 も つメアリの存在 そんざい を恐 おそ れ、彼女 かのじょ を19年 ねん の長 なが きにわたり幽閉 ゆうへい し続 つづ けていた。その間 あいだ 、二人 ふたり の女王 じょおう は決 けっ して顔 かお を合 あ わせることはなかった。そして時 とき は今 いま 、エリザベスの暗殺 あんさつ 計画 けいかく にかかわったのではないかという嫌疑 けんぎ がメアリにかけられ、裁判 さいばん の結果 けっか 、彼女 かのじょ には死刑 しけい 判決 はんけつ が下 くだ されたのである。
スコットランド女王 じょおう メアリと、イングランド女王 じょおう エリザベス一世 いっせい の対立 たいりつ を縦 たて 軸 じく に、二人 ふたり の間 あいだ を奔走 ほんそう する、 メアリに恋心 こいごころ を抱 いだ く 青年 せいねん モーティマーや 、二人 ふたり の女王 じょおう から寵愛 ちょうあい を受 う ける 策略 さくりゃく 家 か のレスターをはじめとした数多 すうた の男 おとこ たちの駆 か け引 ひ きを横 よこ 軸 じく に、 刻一刻 こくいっこく と迫 せま る処刑 しょけい の前 まえ で裁判 さいばん を不当 ふとう なものとして己 おのれ の正 せい 当 とう 性 せい を訴 うった えるメアリと、 その処刑 しょけい を決行 けっこう するか否 ひ かと心 しん 乱 みだ れるエリザベスの苦悩 くのう が描 えが かれていく。
その姿 すがた を一目 いちもく 見 み 、その声 こえ を一度 いちど 聴 き けば、誰 だれ もが心 しん を許 ゆる したくなるといわれる女王 じょおう メアリ。メアリを救 すく いたいと願 ねが う男 おとこ たちは、メアリをエリザベスに一目 いちもく 逢 あ わせれば、エリザベスの頑 かたく なな思 おも いも氷解 ひょうかい するのではないかとその機会 きかい をさぐる。 果 は たして二人 ふたり の女王 じょおう は初 はじ めての対面 たいめん を果 は たすことができるのだろうか?
<出演 しゅつえん >
長谷川 はせがわ 京子 きょうこ シルビア・グラブ 三浦 みうら 涼介 りょうすけ 吉田 よしだ 栄作 えいさく /
山本 やまもと 亨 とおる 青山 あおやま 達三 たつぞう 青山 あおやま 伊 い 津 つ 美 び 黒田 くろだ 大輔 だいすけ 星 ほし 智也 ともや
池下 いけした 重大 じゅうだい 冨永 とみなが 竜 りゅう 玲 れい 央 ひさし バルトナー 鈴木 すずき 崇 たかし 乃 金松 かねまつ 彩夏 あやか /
鷲尾 わしお 真知子 まちこ 山崎 やまざき 一 はじめ 藤木 ふじき 孝 たかし
【公演 こうえん 概要 がいよう 】
『メアリ・スチュアート』
日程 にってい ・場所 ばしょ :2020年 ねん 1月 がつ 27日 にち 〜2月 がつ 16日 にち 世田谷 せたがや パブリックシアター
作 さく :フリードリヒ・シラー
上演 じょうえん 台本 だいほん :スティーブン・スペンダー
翻訳 ほんやく :安西 あんざい 徹雄 てつお
演出 えんしゅつ :森 もり 新太郎 しんたろう
お問合 といあわ せ:世田谷 せたがや パブリックシアターチケットセンター:03-5432-1515
公式 こうしき HP:https://setagaya-pt.jp/
撮影 さつえい :細野 ほその 晋 すすむ 司 し
文 ぶん :Hiromi Koh