孫まごを皇太子こうたいしにした道長みちながを恨うらむ"意外いがいすぎる人物じんぶつ" 一条天皇いちじょうてんのうは定子さだこの子供こどもも､後継こうけい者しゃで揺ゆれる宮中きゅうちゅう

だが、そのときすでに定子さだこは身みごもっており、娘むすめの脩おさむ子こが生うまれると、一条天皇いちじょうてんのうの「定子さだこに会あいたい」という思おもいは止とめられなくなったようだ。

やがて、生後せいご7カ月かげつの赤子あかごとともに、定子さだこを「職しょく曹司ぞうし（しきのぞうし）」という中宮ちゅうぐう職しょくの庁舎ちょうしゃに呼よび寄よせている。内裏だいりの東側ひがしがわに隣接りんせつする職しょく曹司ぞうしであれば、定子さだこのもとに人目ひとめを忍しのんで通かよいやすいと考かんがえたのだろう。

そのときですら、藤原ふじわら実みのる資しは「天下てんか、甘心かんしんせず（天下てんかは感心かんしんしなかった）」「太ふとし（はなは）だ稀有けうなことなり（とても珍めずらしいことである）」と不穏ふおんなムードを日記にっきに書かきしている。

それでも一条天皇いちじょうてんのうは、世間せけんの評判ひょうばんを無視むしして、定子さだこを寵愛ちょうあいし続つづけた。その結果けっか、第だい2子しまで誕生たんじょうすることになった。それも男おとこの子ことなれば、周囲しゅういのざわめきもより大おおきくなる。「横川よこがわの皮かわ仙せん」といった定子さだこを揶揄やゆする声こえは、日増ひましに高たかまったに違ちがいない。

政務せいむにおいては、さしたる存在そんざい感かんを示しめさなかった一条天皇いちじょうてんのう。それが、ひとたび定子さだこのことになれば、恐おそるべき行動こうどう力りょくを発揮はっきする。

「愛あいの暴走ぼうそう列車れっしゃ」と化かした一条天皇いちじょうてんのうを、左大臣さだいじんとして政権せいけんを掌握しょうあくしていた道長みちながは、どう考かんがえていたのか。世間せけんが一条天皇いちじょうてんのうと定子さだこに呆あきれはてる様子ようすを見みながら、自身じしんの権力けんりょくをさらに盤石ばんじゃくにするための一手いってを打うつ。

11歳さいの娘むすめを一条天皇いちじょうてんのうの女御にょうごとした道長みちなが

長保ながほ元はじめ（999）年ねん11月1日にち、道長みちながはわずか11歳さいの娘むすめ、彰子あきこを一条天皇いちじょうてんのうに入内じゅだいさせている。このとき、11人にんも公卿くぎょうが行列ぎょうれつに付つき従したがったばかりか、40人にんもの女房にょうぼうが選えらばれた。 

それも『栄花物語えいがものがたり』によると「ものきよらかに、成なり出でよき」とあるように、気品きひんがあって育そだちのよいものばかりが選出せんしゅつされたという。道長みちながが彰子あきこの教育きょういくに力ちからを入いれていたことがわかる。その後ご、紫式部むらさきしきぶもこの女房にょうぼうの一員いちいんとして加くわわることになる。

京都きょうと市し 第だい66代だい一條天皇圓融寺北陵 第だい73代だい堀河ほりかわ天皇てんのう後ご圓教寺えんきょうじ陵りょう（写真しゃしん： クロチャン / PIXTA）

そして入内にゅうないから6日にち後ごの11月7日にち、彰子あきこに女御にょうご宣旨せんじが下くだされた。その日ひ、道長みちながは次つぎのように公卿くぎょうたちに伝つたえている。

「今日きょう、女御にょうごとするという一条天皇いちじょうてんのうの命令めいれいが下くだる。藤原ふじわら氏しの公卿くぎょうたちは、一緒いっしょにお礼れいを申もうしあげるため、参まいるように」（「今日きょう、女御にょうご宣旨せんじ、下くだる。氏しの上達部かんだちめ、相あい共ともに慶賀けいがを奏そうすべく、参入さんにゅうすべし」）

公卿くぎょうたちが午うまの刻こく、つまり、午前ごぜん11時じから午後ごご1時じにかけて、内裏だいりに参まいった。さらにこう知しらされている。

「一条天皇いちじょうてんのうは今日きょう、初はじめて女御にょうごの宿所しゅくしょに来きたられた」（「主上しゅじょう、今日きょう、初はじめて女御にょうごの直ちょく廬いおりに渡わたり給きゅうふ」）