中島なかじま飛行機ひこうきの工場こうじょうがあった戦時せんじの武蔵野むさしのの記憶きおく 空襲くうしゅう警報けいほう発令はつれい､とにかく｢中島なかじまから逃にげろ｣

（イラスト：北沢きたざわ夕ゆう芸げい）

夏なつになると、テレビのニュースでは広島ひろしま・長崎ながさきにおける原爆げんばく投下とうかの映像えいぞうが流ながれる。

その時とき、首都しゅと・東京とうきょうも焦土しょうどと化かしていた。100回かい近ちかい空襲くうしゅうを受うけ、10万まん人にんを超こえる命いのちが失うしなわれた。

そんな戦中せんちゅう・戦後せんごの映像えいぞうも、よく流ながれる。子こどもの頃ころ、ニュースを見みていると、祖父そふが決きまってこう呟（つぶや）いた。

「戦争せんそう中ちゅう、おじいちゃんはゼロ戦せんを作つくっていたんだよ」

は？ ウソこけ。煎餅せんべい（せんべい）屋やだろが。

「道みちの反対はんたい側がわに、中島なかじま飛行機ひこうきの工場こうじょうがあってね」

その場所ばしょは歩あるいて5分ふんほどの距離きょりで、現在げんざい、NTTの研究けんきゅう開発かいはつセンタ（通称つうしょう「通つう研けん」）が聳そびえ（そび）えている。

「そう。あの建物たてものでゼロ戦せんのエンジンを作つくっていた。あの一帯いったいが中島なかじま飛行機ひこうきだった」

おいおい、話はなし、盛もってんじゃねえか。ゼロ戦せんって三菱重工みつびしじゅうこうだよね。プラモデルを作つくっていたから、それぐらいの知識ちしきはある。

祖父そふの話はなしは、記憶きおくが混濁こんだくした末すえの空言くうげん（そらごと）だと思おもっていた。

「で、この辺あたり（あた）りは空襲くうしゅうが激はげしくて、逃にげ回まわるのが大変たいへんだった。本当ほんとうにひどかった。だから信しんちゃん、平和へいわが一番いちばんなんだよ」

うーむ。東京とうきょうの空襲くうしゅうって、下町したまちだったんじゃないのか。三鷹みたかや吉祥寺きちじょうじに空爆くうばくって聞きいたことないぞ。