おひとりさまに必要ひつような老後ろうご資金しきんとは? プロに聞きく老後ろうご準備じゅんびの進すすめ方かた

昨今さっこん、老後ろうごの一人暮ひとりぐらし世帯せたいが増ふえています。内閣ないかく府ふの「令れい和わ2年版ねんばん高齢こうれい社会しゃかい白書はくしょ」によると2015年ねんには、65歳さい以上いじょうの一人暮ひとりぐらし世帯せたいは男性だんせいで約やく13%、女性じょせいで約やく20%に。女性じょせいの老後ろうごは5人にんに1人ひとりが一人ひとり暮くらしをするという結果けっかになります。一人暮ひとりぐらしの老後ろうごを、安心あんしんして過すごすためにどれくらいの資金しきんがあればよいのでしょうか。ファイナンシャルプランナーの竹下たけしたさくらさんに伺うかがいました。

ーーー2019年ねん、金融きんゆう庁ちょうの金融きんゆう審議しんぎ会かいが「老後ろうご30年間ねんかんで約やく2000万まん円えんの資金しきんが不足ふそくする」といった試算しさんを出だし、「老後ろうご2000万まん円えん問題もんだい」が話題わだいになりました。実際じっさいにこれほど必要ひつようなのでしょうか。

(竹下たけしたさん)この「老後ろうご2000万まん円えん問題もんだい」は、ミスリードを生うんでしまったフレーズだと思おもいます。元々もともと、この数値すうちは、2017年ねんの高齢こうれい夫婦ふうふ無職むしょく世帯せたいの毎月まいつきの平均へいきん収入しゅうにゅうと平均へいきん支出ししゅつの差額さがくが約やく5.5万まん円えんだったことから、単純たんじゅんに30年ねん分ぶんを割わり出だしたものです。5.5万まん円えん×12ヶ月かげつ×30年ねんで約やく2,000万まん円えんになりますね。

ただ、これらの世帯せたいの平均へいきん貯蓄ちょちくを見みると約やく2,500万まん円えんあり、不足ふそくはしていなかったことが分わかります。つまり「老後ろうご2000万まん円えん問題もんだいは元々もともと存在そんざいしなかった」というのが正ただしい見方みかたになります。この数値すうちは2017年ねんのデータを元もとに算出さんしゅつしたものですが、最新さいしんの2020年ねんでは55万まん円えんという結果けっかになったのも押おさえておきたいポイントです。

また、人ひとの暮くらし方かたはさまざまで支出ししゅつ傾向けいこうは個々ここで異ことなります。マネープランを考かんがえる上うえで重要じゅうようなのは、平均へいきん値ちを見みるより、まずご自身じしんの支出ししゅつ傾向けいこうを把握はあくすることです。ご自身じしんがいくら必要ひつようなのか、いくら年金ねんきんがあるのかをまずは確認かくにんし、その上うえで不足ふそく額がくに備そなえていきましょう。

(竹下たけしたさん)上述じょうじゅつした通とおり、平均へいきん値ちではなくご自身じしんにとって必要ひつような老後ろうご資金しきんを把握はあくすることが大切たいせつです。

まずはフロー(日々ひびの流ながれ)とストック(蓄たくわえ)を分わけて出だしてみるのが分わかりやすいですよ。日々ひびのフローの不足ふそく分ぶんをストックとして、最低限さいていげん貯ためておくことを考かんがえましょう。

[老後ろうごの生活せいかつ費ひ(想定そうてい額がく)]―[自分じぶんがもらえる年金ねんきん額がく(見込みこみ額がく)]＝[フローの不足ふそく分ぶん]

となります。

ご自身じしんの年金ねんきん額がくを正まさしく知しるには、年としに一いち度ど、誕生たんじょう日び前後ぜんこうに送おくられてくる「ねんきん定期ていき便びん」を確認かくにんしましょう。50歳さい以上いじょうはこのままの収入しゅうにゅうで働はたらき続つづけた場合ばあいの試算しさん額がくが、50歳さい未満みまんはこれまで納おさめた保険ほけん料りょうだけで試算しさんした場合ばあいの額がくが記載きさいされています。

今後こんごの収入しゅうにゅうの見込みこみも反映はんえいされた、より正確せいかくな年金ねんきん額がくが知しりたい場合ばあいには、ねんきんネットで試算しさんすることができます。ねんきん定期ていき便びんの裏面りめんにあるアクセスキーを利用りようしてシステムにアクセスできます。アクセスキーには発行はっこうから3カ月かげつまでの有効ゆうこう期間きかんがあるので、切きれていたらねんきんネットで申請しんせいしましょう。

実じつは持もち家いえにお住すまいで老後ろうごに住宅じゅうたくの費用ひようが発生はっせいしない場合ばあい、フローの不足ふそくは生しょうじない方ほうが多おおいんです。不安ふあんをあおる情報じょうほうが溢あふれていますが、「自分じぶんの場合ばあいは何なにが必要ひつようなのか」を見極みきわめることが重要じゅうようですよ。

(竹下たけしたさん)高齢こうれいになると、賃貸ちんたいでは住すまいが確保かくほできないケースが散見さんけんされています。孤独こどく死しや徘徊はいかいのリスクを嫌いやがる大家たいかも多おおく、保証人ほしょうにんがいても貸かさないと言いわれる場合ばあいもあるからです。自分じぶんが若わかいうちに老後ろうごの住宅じゅうたくを購入こうにゅうしておくのも手てです。住すむ場所ばしょがあるという安心あんしん感かんは変かえ難がたいものですね。

住宅じゅうたくローンを借かりる場合ばあいは老後ろうごの年金ねんきん生活せいかつまで踏ふまえて、無理むりのない資金しきん計画けいかくになっているかを確認かくにんしましょう。できれば計画けいかく的てきに繰くり上あげ返済へんさいを行おこなって、退職たいしょくまでの完済かんさいを目指めざしたいところです。

「一生いっしょう賃貸ちんたい派は」の場合ばあいには、URや公社こうしゃ・公営こうえいの借家しゃくやに加くわえ、連帯れんたい保証人ほしょうにん不要ふようの木造もくぞうアパートなどが主おもな選択肢せんたくしになります。URの場合ばあいには収入しゅうにゅう要件ようけんも厳きびしいので、現役げんえき時代じだいから準備じゅんびしておく必要ひつようがあります。

(竹下たけしたさん)貯蓄ちょちくの習慣しゅうかんがない人ひとに適てきしているのは、収入しゅうにゅうから先さきに目標もくひょうの貯蓄ちょちく額がくを差さし引ひいて、残のこりの金額きんがくで生活せいかつする方法ほうほうです。強制きょうせい的てきに貯蓄ちょちくが進すすみますし、残のこった額がくは自分じぶんで自由じゆうに使つかうことができます。自動じどう積立つみたて定期ていき預金よきんや会社かいしゃの財形ざいけい貯蓄ちょちく制度せいどを利用りようすれば、自動的じどうてきに貯蓄ちょちくが増ふえていきます。

また長期ちょうきにわたって積つみ立たてていくお金かねなので、資産しさん運用うんように抵抗ていこうのない人ひとは積つみ立たてながら運用うんようするのがオススメです。つみたてNISA(少額しょうがく投資とうし非課税ひかぜい制度せいど)やiDeCo(個人こじん型がた確定かくてい拠出きょしゅつ年金ねんきん)を活用かつようすれば、節税せつぜい効果こうかも期待きたいでき、一石二鳥いっせきにちょうです。

つみたてNISAなら一定いってい期間きかん、運用うんよう益えきが非課税ひかぜいになりますし、iDeCoなら運用うんよう期間きかん中ちゅうの運用うんよう益えきが非課税ひかぜいになることに加くわえ、掛かけ金きんを所得しょとく控除こうじょすることができます。さらにiDeCoは受うけ取とり時じも、一時いちじ金きんなら退職たいしょく所得しょとく控除こうじょが、また年金ねんきんでは公的こうてき年金ねんきん等とう控除こうじょが適用てきようされてから雑ざつ所得しょとくとしての計算けいさんとなり、優遇ゆうぐうされています。

このため、何なにか一ひとつやってみるのであれば、節税せつぜい効果こうかが高たかいiDeCoがお得とくです。また運用うんよう資金しきんに余裕よゆうがあれば、これらの制度せいどを併用へいようすることも可能かのうです。

一いち生涯しょうがい受うけ取とれる年金ねんきんタイプの商品しょうひんを希望きぼうされる場合ばあいには、個人こじん年金ねんきん保険ほけんが有力ゆうりょくな選択肢せんたくしになります。近年きんねんは利率りりつが低ひくいので運用うんよう益えきは期待きたいできませんが、決きまったお金かねが定期ていき的てきに入はいってくる安心あんしん感かんがあると喜よろこぶ方ほうも多おおいです。

※NISAの対象たいしょう商品しょうひん全般ぜんぱん・iDeCoの対象たいしょう商品しょうひんの大半たいはんは元本がんぽんの保証ほしょうがありません。元本がんぽん割われのリスクや手数料てすうりょうなどのコストなど、ご注意ちゅういいただく点てんがあります。

(竹下たけしたさん)このままコツコツと貯金ちょきんしても目標もくひょうの貯金ちょきん額がくに満みたない･･･という場合ばあい、いくつか選択肢せんたくしがあります。一ひとつは定年ていねん後ごも働はたらくこと。70歳さいまでの就業しゅうぎょう機会きかいの確保かくほが企業きぎょうの努力どりょく義務ぎむになり、再さい雇用こようや定年ていねん延長えんちょう、業務ぎょうむ委託いたくなどさまざまな選択肢せんたくしが増ふえていく見込みこみです。かつて老後ろうご働はたらきたくても仕事しごとがないという声こえを耳みみにすることが多おおくありましたが、状況じょうきょうは変かわっています。

働はたらくことは生いきがいにもつながります。働はたらき続つづけられるように資格しかく取得しゅとくや体力たいりょくづくりに励はげんだりと、準備じゅんびしておくのもよいでしょう。

他ほかにも、家計かけいを見直みなおして貯金ちょきん額がくを増ふやす、資産しさん運用うんようで運用うんよう益えきを増ふやす、などの方法ほうほうがあります。また、年金ねんきんの繰くり上あげを利用りようすれば公的こうてき年金ねんきんが開始かいしする前まえから受給じゅきゅうして無む収入しゅうにゅう期間きかんの生活せいかつ費ひを補填ほてんできますし、年金ねんきんの繰下くりさげの制度せいどを利用りようすれば、受給じゅきゅう開始かいしを遅おくらせることで、受給じゅきゅう開始かいし後ごの年金ねんきん額がくを増ふやすことが可能かのうです。さまざまな選択肢せんたくしがあるので、自分じぶんにどの方法ほうほうが向むいているか確認かくにんし、準備じゅんびしておくのがよいでしょう。

(竹下たけしたさん)老後ろうご資金しきんが足たりない場合ばあい、家計かけいを見直みなおして削けずれるコストは削けずっていくべきですが、削けずってはいけないコストもあります。例たとえば、「年とし1回かいの旅行りょこう」「月つき1回かいの観劇かんげき」など、心しんのオアシスへの出費しゅっぴを過度かどに削けずるのは避さけたいところ。

また保険ほけんを見直みなおすのも大事だいじですが、残のこしておいた方ほうがよいものもあります。

例たとえば、個人こじん賠償ばいしょう責任せきにん補償ほしょうはもしもの高額こうがく賠償ばいしょうに備そなえて残のこしておきたい補償ほしょうです。自転車じてんしゃでの事故じこがよく報道ほうどうされますが、認知にんち症しょうの人ひとが徘徊はいかいして線路せんろに立たち入いって電車でんしゃを止とめてしまい、莫大ばくだいな損害そんがい賠償ばいしょうにつながってしまうケースも起おこっています。周まわりに迷惑めいわくをかけた場合ばあいの損害そんがい賠償金ばいしょうきんなどを補償ほしょうしてくれるのは心強こころづよいですね。

認知にんち症しょう保険ほけんも最近さいきん人気にんきがありますが、本人ほんにんに代かわって給付きゅうふ金きんを請求せいきゅうする受取うけとり人じんを指定していする必要ひつようがあるため、おひとりさまの場合ばあいは加入かにゅうできない可能かのう性せいが高たかいんです。

また、持もち家いえの場合ばあいは地震じしん保険ほけんは必須ひっすです。就業しゅうぎょう不能ふのう保険ほけんは、けがや病気びょうきなど予期よきせぬ事態じたいで長期ちょうきの就業しゅうぎょう不能ふのう状態じょうたいに備そなえることができる保険ほけんです。会社かいしゃ員いんには傷病しょうびょう手当てあて金きんがありますが、おひとりさまは自分じぶん一いち人にんの収入しゅうにゅうでやり繰くりしなければならないため、特とくに残のこしておきたい保障ほしょうです。

(竹下たけしたさん)おひとりさまで相談そうだんに来きたられ、将来しょうらいの介護かいごが不安ふあんという方ほうも多おおくいらっしゃいます。ただ、介護かいご施設しせつ探さがしは早はやく行おこなう必要ひつようはありません。良よい施設しせつだと思おもっても、実際じっさいに介護かいごが必要ひつようになった時ときに空あいているかは不明ふめいですし、若わかい人ひとが行おこなっても施設しせつからはあまり歓迎かんげいされないことがあります。

ただ介護かいごが必要ひつようになってからの見学けんがくでは、足腰あしこしが弱よわっていたり時間じかんがなかったりと多おおくの施設しせつを回まわれず、入所にゅうしょしてから後悔こうかいする人ひとも。できれば、60歳さい前まえくらいから情報じょうほう収集しゅうしゅうや見学けんがくを始はじめるとよいでしょう。

老後ろうごを心しん豊ゆたかに自分じぶんらしく生いきていきたいと思おもう方ほうにとって、現役げんえき時代じだいからの計画けいかく的てきな準備じゅんびは不可欠ふかけつだと言いえそうです。備そなえるところは備そなえつつ、介護かいご施設しせつの見学けんがくなど先送さきおくりできるものは一旦いったん手放てばなして、無理むりなく準備じゅんびを進すすめていけるとよいですね。