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人体の利用と商品化
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== 目次もくじ ==
はじめに
1.人体じんたい伝統でんとうてき利用りよう
(1)食糧しょくりょうとしての利用りよう
(2)道具どうぐ用具ようぐ)としての利用りよう
(3)アートの原材料げんざいりょうとしての利用りよう
(4)医療いりょう関連かんれん利用りよう
2.人体じんたい現代げんだいてき利用りよう商品しょうひん
(1)移植いしょくよう利用りよう商品しょうひん  
(2)治療ちりょうよう利用りよう商品しょうひん
(3)医薬品いやくひん製造せいぞうよう利用りよう商品しょうひん   
(4)薬物やくぶつ試験しけんよう利用りよう商品しょうひん
(5)医学いがく実験じっけん研究けんきゅう教育きょういくよう利用りよう商品しょうひん 
(6)人体じんたい部品ぶひん国際こくさい移動いどう
3.人体じんたい未来みらいてき利用りよう
(1)脳死のうし身体しんたい各種かくしゅ利用りよう
(2)未来みらい社会しゃかいにおけるひとにく加工かこう食品しょくひんとしての利用りよう―ネオ・カニバリズム―
4.人体じんたい利用りよう商品しょうひん位置いちづけ 
(1)ぶつとしての人体じんたい人体じんたい所有しょゆうけん
(2)資源しげんとしての人体じんたい
(3)公共こうきょう資源しげんとしての人体じんたい
5.人体じんたい利用りよう商品しょうひん原因げんいん
6.人体じんたい利用りよう商品しょうひんほう倫理りんり
(1)人体じんたい利用りよう商品しょうひんほう
(2)人体じんたい利用りよう商品しょうひん倫理りんり
おわりに



人体じんたい利用りよう商品しょうひん

徳山大学とくやまだいがく経済学部けいざいがくぶ教授きょうじゅ 粟屋あわや つよし


はじめに

 近時きんじ医療いりょうテクノロジーの進展しんてんによって人体じんたい徹底的てっていてき利用りようされ、商品しょうひんしはじめている。本稿ほんこうは、人体じんたい利用りよう商品しょうひん事実じじつべ、さらには、その意味いみかんがえようとするものである(これまで、人体じんたい利用りよう商品しょうひん事実じじつ網羅もうらてきあきらかにし、その意味いみ著作ちょさく見当みあたらなかった)。
 過去かこ人体じんたいは、その一部分いちぶぶんであれ全体ぜんたいであれ、さまざまに利用りようされていた。そしてそれらは、とき商品しょうひんとなっていた。現在げんざいも、人体じんたいは、医療いりょうよう代表だいひょうとして、さまざまな目的もくてき利用りようされている。そして、それらのおおくは商品しょうひんとなっている。
人体じんたい利用りようはさまざまに分類ぶんるいされる。まず、とき系列けいれつてきに、伝統でんとうてき利用りよう現代げんだいてき利用りよう未来みらいてき利用りようみっつに分類ぶんるいできる。また、利用りよう目的もくてき仕方しかた)によって、医療いりょう関連かんれん利用りよう食糧しょくりょうとしての利用りよう道具どうぐ用具ようぐ)としての利用りよう、アートの原材料げんざいりょうとしての利用りようなどに分類ぶんるいされる。また、これらのうち医療いりょう関連かんれん利用りようはさらに、移植いしょくよう利用りよう、その治療ちりょうよう利用りよう医薬品いやくひん製造せいぞうよう利用りよう薬物やくぶつ試験しけんよう利用りよう医学いがく実験じっけん研究けんきゅう教育きょういくよう利用りようなどに分類ぶんるいされる。なお、ほかに、利用りよう対象たいしょうによって、@生体せいたい利用りよう脳死体のうしたい利用りよう死体したい利用りよう、A身体しんたい全体ぜんたいレベルでの利用りよう臓器ぞうきレベルでの利用りよう組織そしきレベルでの利用りよう細胞さいぼうレベルでの利用りよう遺伝子いでんしレベルでの利用りよう、B通常つうじょう一般いっぱんひと利用りようのう利用りよう死刑しけいしゅう利用りようなど、に分類ぶんるいされる。なお、胎児たいじはい利用りよう人体じんたい利用りよう内部ないぶ位置いちづけるのではなく、外部がいぶ並列へいれつてき位置いちづけるほうがわかりやすいとおもわれる。
 以下いかではとき系列けいれつによる分類ぶんるい利用りよう目的もくてき仕方しかた)による分類ぶんるいわせてもちいて、それぞれを詳述しょうじゅつする。

1.人体じんたい伝統でんとうてき利用りよう

(1)食糧しょくりょうとしての利用りよう

 人体じんたい伝統でんとうてき利用りようについて、食糧しょくりょうとしての利用りよう道具どうぐ用具ようぐ)としての利用りよう、アートの原材料げんざいりょうとしての利用りよう医療いりょう関連かんれん利用りよう、のじゅんべる。
 人体じんたい伝統でんとうてきに、食糧しょくりょうとして利用りようされてきた。それはまさに、カニバリズム ―ひと肉食にくしょく ―である(伝統でんとうてきカニバリズム)。人間にんげんは、例外れいがいてきにか、恒常こうじょうてきにか、いずれにせよ、人間にんげんべていたようである。人類じんるいさるじん原人げんじん旧人きゅうじん新人しんじん進化しんかしてきたとかんがえられているが、すでにさるじん段階だんかいから人間にんげん人間にんげん貴重きちょう食糧しょくりょうであったようである。カニバリズムの歴史れきし人類じんるい歴史れきしとともにあるという(1)北京ぺきん原人げんじん、ネアンデルタールじん、クロマニヨンじん、みんなそうらしい(2)日本人にっぽんじん祖先そせん人間にんげんべていたことが報告ほうこくされている(3)。カニバリズムは究極きゅうきょく伝統でんとうてき人体じんたい利用りようといえるだろう。
 過去かこ、カニバリズムのれい数々かずかず報告ほうこくされている。カニバリズムにかんする文献ぶんけんはまさに汗牛充棟かんぎゅうじゅうとうである。そして、そのカニバリズムの分類ぶんるいについては、すでにおおくの文献ぶんけんでなされているが、どれも、おびみじかし、たすきにながしである。それで、わたしは、それらを参考さんこうにして、つぎのように、独断どくだん偏見へんけんてき分類ぶんるいこころみた。
 まず、おおきく、@食糧しょくりょう栄養えいよう補給ほきゅうとしてのカニバリズム、A宗教しゅうきょうてき祭礼さいれい儀式ぎしきとしての象徴しょうちょうてきカニバリズム、B憎悪ぞうおぎゃく愛情あいじょうもとづくところの感情かんじょうてきカニバリズム、C医療いりょう行為こういとしてのカニバリズム(これは、人体じんたい医薬品いやくひんそのものあるいはその原材料げんざいりょうとしての利用りようとオーバーラップしている)、D猟奇りょうき事件じけんとしてのカニバリズム、の5種類しゅるい分類ぶんるいされる。 
 かずとして圧倒的あっとうてきおおいのは、もちろん@食糧しょくりょう栄養えいよう補給ほきゅうとしてのカニバリズムである。これはさらに、危急ききゅう飢饉ききん戦争せんそう遭難そうなんなど)の食糧しょくりょう補給ほきゅうとしてのカニバリズム、日常にちじょうてき食糧しょくりょう補給ほきゅうとしてのカニバリズム、グルメとしてのカニバリズム、のみっつに分類ぶんるいされる。 まず、危急ききゅう飢饉ききん戦争せんそう遭難そうなんなど)の食糧しょくりょう補給ほきゅうとしてのカニバリズムについて。
 とくに、飢饉ききんさいにカニバリズムがおこなわれるのはきわめて自然しぜんきである。それは世界中せかいじゅう共通きょうつうしている。えるとひとひとう。ただし、わないひとえないひともいる。西暦せいれき450ねんのイタリアの飢饉ききん西暦せいれき695ねんからすうねんつづいたイングランドとアイルランドのだい飢饉ききん西暦せいれき845ねんからやはりすうねんつづいたブルガリアとドイツの飢饉ききん西暦せいれき963ねんからやはりすうねんつづいたスコットランドの飢饉ききん西暦せいれき1201ねんのエジプトのだい飢饉ききん (4)日本にっぽんにもある。江戸えど時代じだい天明てんめい飢饉ききん (1783ねん) のさい東北とうほく関東かんとう牛馬ぎゅうばけんねこはもちろん、くさかわ壁土かべつちわれ、最後さいごひとにく死人しにんにく)がわれたという(5)
 戦争せんそうちゅう食糧しょくりょう補給ほきゅうとしてのカニバリズムはよくられている。日本にっぽんでは、豊臣とよとみ羽柴はしば秀吉ひでよし鳥取とっとりじょう兵糧ひょうろうめしたさい城内じょうない死人しにんにくわれたというはなし有名ゆうめいである。また、太平洋戦争たいへいようせんそうちゅう日本にっぽんぐんの、フィリピン (とくにルソン島るそんとう)、ニューギニア、ソロモン群島ぐんとう (とくにガダルカナルとう) などにおけるカニバリズムがよくられている(6)
 遭難そうなん食糧しょくりょう補給ほきゅうとしてのカニバリズムも色々いろいろある。メデューズごう事件じけん(7)、ミニョネットごう事件じけん(8)、「アンデスの聖餐せいさん事件じけん(9)等々とうとう日本にっぽんれいとしては、1943ねん発生はっせいした知床しれとこしょくじん事件じけんがある(10)。これらのうち、「アンデスの聖餐せいさん事件じけん飛行機ひこうき墜落ついらく事例じれいだが、ふね難破なんぱ事例じれいである。なお、洋上ようじょう遭難そうなんし、食糧しょくりょうきたときのカニバリズムは 「洋上ようじょう習慣しゅうかん」 とばれているようである (11)
 つぎに、日常にちじょうてき食糧しょくりょう補給ほきゅうないしグルメとしてのカニバリズムについては、カニバリズムのチャンピオン、中国ちゅうごくれいれておこう。まず、桑原くわばら隲蔵博士はかせは、中国ちゅうごくにおけるひと肉食にくしょく一時いちじ偶発ぐうはつでなくむしろ伝統でんとうてき慣習かんしゅうであり(12)ひとにく公然こうぜん市場いちば売買ばいばいされることもあったとされている (13)。ここでは、ひとにくはまさに商品しょうひんである。キー・リー・チョンは中国ちゅうごくにおけるひとにく料理りょうり方法ほうほうくわしくしるしている(14)。ブライアン・マリナーも中国ちゅうごくでは19世紀せいきのはじめまでひとにくきょうするレストランはめずらしいものではなかったとべている (15)。ほかに、文雄ふみお中国ちゅうごくすうせんねんにわたるしょくじん文化ぶんか」 についていている(16)。とくに、グルメとしてのカニバリズムのきわめつけは中国ちゅうごくひとし桓公かんこう料理人りょうりにんえききばがその息子むすこきにして献上けんじょうした事例じれいであろう。日常にちじょうてき食糧しょくりょう補給ほきゅうないしグルメとしてのカニバリズムについては、一々いちいちあげればきりがないのでこれくらいにしておく(17)。また、食糧しょくりょう栄養えいよう補給ほきゅうとしてのカニバリズム以外いがいのカニバリズムは本稿ほんこう趣旨しゅしからはずれるので省略しょうりゃくする(18)。それにしても、過去かこ一体いったいどれくらいの人間にんげん人間にんげんったのであろうか。またどれくらいの人間にんげんわれたのであろうか。そのような統計とうけい見当みあたらない。
 ここで、いわゆる移植いしょくカニバリズムろんについてすこれておく。臓器ぞうき移植いしょく本質ほんしつがカニバリズム(ひと肉食にくしょく)であることは、フランスのジャック・アタリや日本にっぽんでは札幌大学さっぽろだいがく鷲田わしだ小彌太こやた教授きょうじゅによって指摘してきされている(19)。なお、臓器ぞうき移植いしょく本物ほんもののカニバリズムにつながることも、ジャック・アタリや鷲田わしだ教授きょうじゅによって指摘してきされている(20)着飾きかざった紳士しんし淑女しゅくじょ洒落しゃれたレストランでビフテキをべる。だれれもなに疑問ぎもんいだかない。しかし、うし直接ちょくせつかぶりつくならば、これは狂気きょうきといえよう。まして、人間にんげんが、ドラキュラのように人間にんげんみ、猛獣もうじゅうのように人間にんげん内臓ないぞうしょくするならば、それは狂気きょうきとおしている。だが、輸血ゆけつ臓器ぞうき移植いしょくかたち血液けつえき臓器ぞうき摂取せっしゅしても、だれなに非難ひなんはしないだろう。しかしながら、両者りょうしゃ本質ほんしつにおいてどこがちがうのか。すくなくとも、他者たしゃ身体しんたい一部いちぶ自己じこ身体しんたいむ、というてんではおなじである。人類じんるい文化ぶんかというかたち野蛮やばんさをかくしている。文化ぶんか本質ほんしつ隠蔽いんぺいする。すなわち、文化ぶんか本質ほんしつ隠蔽いんぺい装置そうちである。現代げんだいでは、文化ぶんかというの「野蛮やばん」の隠蔽いんぺいシステムができあがっている(21)わたしは、文化ぶんかというものは、文化ぶんかじんばれるひとたちとおなじほどにうさんくさいとおもっている。鷲田わしだ教授きょうじゅ指摘してきたっているといわざるをえない。
 なお、くちからひとにく (ないし内臓ないぞうその) をれるかかはカニバリズムのメルクマールであろうか。そもそもカニバリズムとはなにかという問題もんだいくが、これはろんじはじめるとながくなるのでやめておく。かりにそうであるとしよう。すでに、人体じんたい一部いちぶからできていて人間にんげんくちからはい医薬品いやくひん存在そんざいする。人間にんげん血液けつえき成分せいぶん (血漿けっしょう) からできている、局所きょくしょ止血しけつざい (ヒト由来ゆらいトロンビン製剤せいざい) や人間にんげん女性じょせい胎盤たいばんからできている、滋養じよう強壮きょうそうざい (ヒト胎盤たいばん製剤せいざい) などがそのれいである。これらはカニバリズムではないのか。

(2)道具どうぐ用具ようぐ)としての利用りよう

 つぎに、道具どうぐ用具ようぐ)としての利用りようについてべる。むかしから、人骨じんこつ使つかってふえなどの楽器がっきつくったれい世界せかい各地かくちにある(もちろんししこつ使つかわれたが)。たとえば、チベットのほねふえ(カンリン)や南米なんべいのケーナなどはそのれいである。ほねふえはヒトの大腿だいたいこつからできている。ほねふえはチベット仏教ぶっきょう行者ぎょうじゃもちいるもので、墓地ぼち水辺みずべ鬼神きじん食物しょくもつほどこくだりときや、とりそうわしときらす。現地げんちではきわめて神聖しんせいなものとされている。ぎんやトルコせきなどでうつくしくかざりつけられているほねふえもある(22)。なお、人骨じんこつからできたキセルもある。
 すこ特殊とくしゅなものとしては頭蓋骨ずがいこつでできたはい―どくろさかずき―がある。有名ゆうめいなどくろさかずきとして「カパーラ」がある。「カパーラ」はラマ教らまきょう一派いっぱ宗教しゅうきょう儀式ぎしきもちいるどくろさかずきである。ラマ教らまきょう高僧こうそう頭蓋骨ずがいこつによってつくられているという。なお、カパーラはカトマンズの露店ろてんでもっている。これらは当然とうぜん商品しょうひんである。それらのなかにはわざわざ観光かんこうきゃくようつくられたものもある。いわば、偽物にせものである。しかし、もちろんそれらは本物ほんもの頭蓋骨ずがいこつでできている。わたしひともとめたことがある(ディスカウントしてもらって3000えんだった)。
 ほかに、頭蓋骨ずがいこつでできたものとして、でんでん太鼓だいこ(ダマル)などもある。さらにくわえると、すう平方へいほうセンチメートルだいやく30人骨じんこつをあしらった宗教しゅうきょう儀式ぎしきようのエプロンなどもある。それらのほねのそれぞれには精巧せいこう細工ざいくほどこされている。まるで象牙ぞうげ細工ざいくのようである(23)。これはアートの原材料げんざいりょうとしての利用りようともいえるだろう。

(3)アートの原材料げんざいりょうとしての利用りよう

 だいさんに、アートの原材料げんざいりょうとしての利用りようについてべる。ローマにある有名ゆうめいな「骸骨がいこつ教会きょうかいにはやく4000にんぶんの、頭蓋骨ずがいこつふく人骨じんこつでできたアートがある。日本にっぽんにも大阪おおさかすうじゅうまんにんぶんやきこつ(それぞれのひとやきこつ一部いちぶ使用しよう)でできた仏像ぶつぞうざんこつほとけ)を安置あんちするてらがある。同様どうようのものはほかにも日本にっぽん各地かくちにいくつかある(24)

(4)医療いりょう関連かんれん利用りよう

 だいよんに、医療いりょう関連かんれん伝統でんとうてき利用りようとしては、医薬品いやくひん製造せいぞうよう利用りようとそののものがある。
 まず、医薬品いやくひん製造せいぞうよう利用りようについてべる。人体じんたいむかしから、医薬品いやくひんそのものとして、あるいはその原材料げんざいりょうとして利用りようされてきた。極端きょくたんれいとしては、ひとにく治療ちりょうのために医薬品いやくひんとしてしょくされたれいもある(人体じんたい食糧しょくりょうとしての利用りよう―カニバリズム ―については前述ぜんじゅつ)。
 中国ちゅうごくには、人体じんたいのあらゆる部分ぶぶん医薬品いやくひんとしてもちいることをべているほんがある。中国ちゅうごく代表だいひょうてき本草ほんぞう博物学はくぶつがく色彩しきさいをもつ薬物やくぶつ研究けんきゅうしょである『本草ほんぞう綱目こうもく』(ちんちょ、1596ねんごろかん)である(ひとだいじゅうかん)。このほんは、ほねつめはおろか、かみ陰毛いんもう精液せいえき、ふけ、みみあかくそ、大便だいべん尿にょうにいたるまで利用りようできることをべている。まさに人体じんたい徹底てってい利用りようである。このほんのち日本にっぽんにもはいってきて、翻訳ほんやくほんた。
 さらにいうならば、ヨーロッパでは15世紀せいきから17世紀せいきにかけてミイラを医薬品いやくひんとして利用りようすることがだい流行りゅうこうした(25)当時とうじ、ミイラは非常ひじょう貴重きちょうくすりであったようである。これも日本にっぽんつたわってきている。ほかに、ヨーロッパでは死体したいから採取さいしゅされた脂肪しぼうなども医薬品いやくひんとしてもちいられていたようである。
 なお、日本にっぽんでもむかしから、のう脳漿のうしょう)、肝臓かんぞうはい心臓しんぞう人骨じんこつひとにく胎児たいじなどを医薬品いやくひんとしてもちいたれいがある(26)。それらを薬餌やくじとして服用ふくようするのである。明治めいじ大正たいしょう時代じだいなど、はかあばいて人骨じんこつぬすんだり、火葬かそうちゅう死体したいから脳漿のうしょうぬすんだりする事件じけん発生はっせいしている(27)
 ところで、漢方かんぽうでは胎盤たいばんむかしからくすり滋養じよう強壮きょうそうやく)としてもちいられてきた。前述ぜんじゅつの『本草ほんぞう綱目こうもく』にも「ひと胞」(および「むらさきかわしゃ」)の胎盤たいばんかんする記述きじゅつがある。現在げんざいでも中国ちゅうごくでは、「むらさきかわしゃ」のられている。なお、日本にっぽんでも、地域ちいきによっては、胎盤たいばん料理りょうりぜてべる風習ふうしゅうがあった。現在げんざい日本にっぽんではヒト胎盤たいばん製剤せいざい滋養じよう強壮きょうそうざい錠剤じょうざい)として販売はんばいされている。胎盤たいばんドリンクもある。これらは当然とうぜん商品しょうひんである(28)
 頭髪とうはつむかしからカツラよう利用りようされてきた。カツラは、すでに古代こだいのエジプトやギリシャ、ローマなどでもちいられていたようである。また、中世ちゅうせい中世ちゅうせいから近世きんせいにかけて)ヨーロッパではカツラが流行りゅうこうしていたようである。ベートーベンやハイドンの写真しゃしんゆたかなかみがカツラであることはよくられている。頭髪とうはつ売買ばいばいは、「貧者ひんじゃいちとう」の故事こじ釈迦しゃか故事こじ)やヴィクトル・ユゴーの小説しょうせつ『ああ無情むじょう』、さらには、『今昔こんじゃく物語ものがたり』(および芥川あくたがわ龍之介りゅうのすけ小説しょうせつ羅生門らしょうもん』)や井原いはら西鶴さいかく小説しょうせつ浮世草子うきよぞうし)『好色こうしょくいちだいおとこ(29)などのれいからわかるように、よう東西とうざいわず、ふるくからおこなわれていた(許容きょようされていた)と推測すいそくされる。現代げんだいでは、たとえば、日本人にっぽんじんようひとカツラの原料げんりょうとなる頭髪とうはつは、中国ちゅうごくから輸入ゆにゅうされている。現代げんだいのカツラはもちろん商品しょうひんである。




(1)ブライアン・マリナー (平石ひらいし律子りつこやく)『カニバリズム 最後さいごのタブー』(1993ねんあおゆみしゃ)12ぺーじ
(2)ただし、北京ぺきん原人げんじんやネアンデルタールじんれいなど、根拠こんきょ不完全ふかんぜんであるという指摘してきもある。馬場ばばゆうおとこしょくじん風習ふうしゅう 針小棒大しんしょうぼうだいつたえられるが特異とくいケースのみ」飯田いいだたかしへん人間にんげんせい進化しんかく 人類じんるいがく最前線さいぜんせん』(1995ねん朝日新聞社あさひしんぶんしゃ)61ぺーじ以下いか参照さんしょう
(3)鈴木すずきしょうほね』(改訂かいてい新版しんぱん、1996ねん学生がくせいしゃ)62ぺーじ以下いか
(4)ブライアン・マリナー・前掲ぜんけいしょ註(1)15ぺーじ
(5)中島なかじま陽一郎よういちろう浅間山あさまやま噴火ふんか焦熱しょうねつ地獄じごくの“天明てんめい飢饉ききん”―しょう―」清原きよはら康正こうせいほかへん飢饉ききん地獄じごく史話しわ日本にっぽん歴史れきし20)』 (1991ねん作品社さくひんしゃ) 45ぺーじ以下いか。なお、どう飢饉ききん日本にっぽん』 (1976ねん雄山閣ゆうざんかく出版しゅっぱん) 66ぺーじ以下いか参照さんしょう
(6)千田せんだなつひかりにくへい告白こくはく』(1980ねんしおぶんしゃ)、朝日新聞あさひしんぶん1993ねん11がつ18にちとう参照さんしょう
(7)豊島としま與志雄よしお 「メデューズごういかだ中野なかの好夫よしおへん世界せかいノンフィクション全集ぜんしゅう44』(1963ねん)参照さんしょう
(8)ブライアン・マリナー・前掲ぜんけいしょ註(1)75ぺーじ以下いか参照さんしょう
(9)P・P・リード (永井ながいあつしやく)『生存せいぞんしゃ アンデス山中さんちゅうななにち』(1974ねん平凡社へいぼんしゃ)参照さんしょう
(10)合田あいだ一道いちどうけたみさき 「ひかりごけ」 事件じけん真相しんそう』(1994ねん恒友つねとも出版しゅっぱん)参照さんしょう
(11)ブライアン・マリナー・前掲ぜんけいしょ註(1)20ぺーじ
(12)桑原くわばら隲蔵 「ささえ人間にんげんけるしょくじんにく風習ふうしゅう」『東洋とうよう文明ぶんめい史論しろん』(1988ねん平凡社へいぼんしゃ) 107ぺーじ、113ぺーじ
(13)桑原くわばら隲蔵・前掲ぜんけい論文ろんぶん註(12)105ぺーじ、124ぺーじ、155ぺーじ
(14)K. R. Chong, Cannibalism in China, pp. 145‐157, 1990.
(15)ブライアン・マリナー・前掲ぜんけいしょ註(1)14ぺーじ
(16)文雄ふみお中国ちゅうごくしょくじん文化ぶんか101なぞ』(1993ねん前衛ぜんえい出版しゅっぱんしゃ)およびどう中国ちゅうごく残酷ざんこく物語ものがたり られざる中国ちゅうごくしょくじん』(1981ねん経営けいえい評論ひょうろんしゃ)。
(17)なお、開高かいこうけんは「しょく」の観点かんてんから、食糧しょくりょう補給ほきゅうとしてのカニバリズムについてさまざまにろんじている(『最後さいご晩餐ばんさん』(1982ねん文藝春秋ぶんげいしゅんじゅう)365ぺーじ以下いかほか)。
(18)だい宗教しゅうきょうてき祭礼さいれい儀式ぎしきとしての象徴しょうちょうてきカニバリズム、だいさん憎悪ぞうおぎゃく愛情あいじょうもとづくところの感情かんじょうてきカニバリズム、およびだいよん医療いりょうとしてのカニバリズム については、ジャック・アタリ(金塚かなつか貞文さだふみやく)『カニバリスムの秩序ちつじょ なまとはなにか / とはなにか』(1984ねん、みすず書房しょぼう)参照さんしょうだい猟奇りょうき事件じけんとしてのカニバリズムについてはブライアン・マリナー・前掲ぜんけいしょ註(1) 127ぺーじ以下いか、コリン・ウィルソンン (関口せきぐちあつしやく)『現代げんだい殺人さつじん百科ひゃっか』(1988ねん青土おうづちしゃ) 334ぺーじ以下いか、ミハイル・クリヴィッチ、オルゲルト・オルギン (小田おだすすむやく)『にんころしたおとこ』(1993ねん、イースト・プレス)、隆三りゅうぞう宮崎みやざきつとむ裁判さいばん うえ』(1991ねん朝日新聞社あさひしんぶんしゃ) とう参照さんしょう
(19)ジャック・アタリ・前掲ぜんけいしょ註(18)および鷲田わしだ小彌太こやた脳死のうしろん 人間にんげん人間にんげんあいだ』(1988ねんさんいち書房しょぼう)195ぺーじ以下いか。ただし、前者ぜんしゃ臓器ぞうき移植いしょく本質ほんしつがカニバリズムであることを直截ちょくせつべているわけではない。
(20)鷲田わしだ小彌太こやた前掲ぜんけいしょ註(19)195ぺーじ以下いか。このてんについては、さらに一般いっぱんしたかたちで、「ネオ・カニバリズムろん」として後述こうじゅつする。
(21)鷲田わしだ小彌太こやた前掲ぜんけいしょ註(19)199ぺーじは、「野蛮やばん」の無意識むいしきこそが「文化ぶんか」であるとしている。
(22)これらをわたしはエキスポまれたからかん山口やまぐちけん秋芳しゅうほうまち)でせていただいた。
(23)これらをわたし天理大学てんりだいがく附属ふぞく天理参考館てんりさんこうかんせていただいた。
(24)藤井ふじい正雄まさおほねのフォークロア』(1988ねん弘文こうぶんどう)187ぺーじ以下いか参照さんしょう
(25)ジョージス・マクハーグ(小宮こみやたくやく)『世界せかいのミイラ』(1975ねん大陸たいりく書房しょぼう)189ぺーじ以下いか、アンジュ=ピエール・ルカ(羽林はばやしたいやく)『ミイラ』(1978ねんたすくがくしゃ)197ぺーじ以下いかとう参照さんしょう
(26)つぶてかわぜんつぎ犯罪はんざい民俗みんぞくがく』(1993ねん批評社ひひょうしゃ)69ぺーじ以下いか参照さんしょう
(27)たとえば、大審院だいしんいん判決はんけつ明治めいじ26ねんがつ28にち長崎ながさき控訴こうそいん判決はんけつ明治めいじ42ねんがつ16にち大審院だいしんいん判決はんけつ大正たいしょう14ねん10がつ16にちとう参照さんしょう
(28)ト製薬とせいやく日本にっぽん生物せいぶつ製剤せいざいなどが製造せいぞう販売はんばいしている。ほかに、ビタエックス薬品やくひん工業こうぎょう製造せいぞうし、それを森田もりた製薬せいやく発売はつばいしている。わたしはいくつか試飲しいんしたことがある。なお、山口やまぐち研一郎けんいちろうさずかるからプログラムするへ」野田のだまさしあきらへん『あのとこの』(1996ねん小学館しょうがくかん)57ぺーじは、胎盤たいばん各種かくしゅ利用りようについてべている。
(29)『好色こうしょくいちだいおとこ』のなかにはつめ売買ばいばいてくる。




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