特急とっきゅう並なみに速はやい新しん快速かいそく、「お得とく感かん」が関西かんさい人じん気質きしつにマッチ…誕生たんじょう５０年ねん

2020/09/28 15:32

「新快速を運転してきたことは誇りです」と話す古井さん。後ろは現在の主力車両「２２３系」（滋賀県草津市の草津駅で）＝土屋功撮影 — 「新しん快速かいそくを運転うんてんしてきたことは誇ほこりです」と話はなす古井ふるいさん。後うしろは現在げんざいの主力しゅりょく車両しゃりょう「２２３系けい」（滋賀しが県けん草津くさつ市しの草津くさつ駅えきで）＝土屋つちや功いさお撮影さつえい

　１９７０年ねんに運行うんこうが始はじまったＪＲ西日本じぇいあーるにしにほんの新しん快速かいそく電車でんしゃが、１０月がつ１日にちで５０年ねんの節目ふしめを迎むかえる。最長さいちょうで敦賀つるが（福井ふくい県けん敦賀つるが市し）―播州赤穂ばんしゅうあこう（兵庫ひょうご県けん赤穂あこう市し）間あいだの２７５・５キロを約やく４時じ間あいだで結むすび、その運行うんこう距離きょりは、特別とくべつ料金りょうきんが不要ふような在来ざいらい線せんとしては日本一にっぽんいち。半はん世紀せいきにわたる軌跡きせきは、京阪神けいはんしんを中心ちゅうしんとする地域ちいきの発展はってんの歴史れきしでもある。

◆ＪＲ西にしの誇ほこり

　「沿線えんせんの景色けしきはどんどん変かわりましたが、安全あんぜん第だい一いちだけは変かわりません」。９月くがつ中旬ちゅうじゅん、新しん快速かいそくに３０年ねん以上いじょう、乗務じょうむする運転うんてん士しの古井ふるい新治しんじさん（６１）は、草津くさつ駅えき（滋賀しが県けん草津くさつ市し）のホームに滑すべり込こんできた車両しゃりょうを誇ほこらしげに見みつめた。

　古井ふるいさんは１９８１年ねんに旧きゅう国鉄こくてつに入社にゅうしゃし、８９年ねんから新しん快速かいそくの運転うんてんを担当たんとうしている。営業えいぎょう距離きょり２７５・５キロは、ＪＲ東日本じぇいあーるひがしにほんが首都しゅと圏けんで運行うんこうする熱海あたみ（静岡しずおか県けん）―黒磯くろいそ（栃木とちぎ県けん）の２６７・９キロを結むすぶ普通ふつう電車でんしゃよりも長ながく、関西かんさいの他ほかの私鉄してつと比くらべても圧倒的あっとうてきだ。

　「新しん快速かいそくはＪＲ西にしの鉄道てつどうマンにとって誇ほこり」と語かたる古井ふるいさん。見習みならいだった当時とうじに先輩せんぱい運転うんてん士しに教おそわった「後うしろに大勢おおぜいの人ひとを乗のせていることを忘わすれるな」との助言じょげんを今いまも胸むねに刻きざんでいる。

◆万博ばんぱく後ごの車両しゃりょう活用かつよう

　新しん快速かいそくが誕生たんじょうしたのは国鉄こくてつ時代じだいの７０年ねん。大阪おおさか万博ばんぱくが開ひらかれた年としで、来場らいじょう者しゃの利便りべん性せいのためかと思おもわれがちだが、走はしり始はじめたのは万博ばんぱく閉幕へいまくの約やく２週間しゅうかん後ごと、事情じじょうは少すこし異ことなる。

　京都きょうと鉄道てつどう博物館はくぶつかんなどによると、万博ばんぱくの特別とくべつダイヤで京阪神けいはんしんに大量たいりょうに集あつまり、余剰よじょうとなった車両しゃりょう「万博ばんぱく号ごう」（１１３系けい）の再さい利用りようの意味合いみあいが強つよかったとされる。

　「大阪おおさか―京都きょうと間あいだ、ノンストップ３２分ふん」。スピードを売うりにし、当時とうじのポスターにはそんなうたい文句もんくが躍おどった。ただし利便りべん性せいは今いまひとつ。所要しょよう時間じかんの短縮たんしゅくを優先ゆうせんし、運行うんこう区間くかんの京都きょうと―西明石にしあかし間あいだ約やく９８・７キロで停車ていしゃするのは大阪おおさか、三ノ宮さんのみや、明石あかしのわずか３駅えき。しかも日にち中ちゅう６往復おうふくの運行うんこうだった。

　最高さいこう速度そくども時速じそく９５キロと当時とうじの快速かいそくとあまり変かわらず、鉄道てつどう作家さっかの寺本てらもと光照みつてるさん（７０）は「停車駅ていしゃえきが少すくなく、快速かいそくとの区別くべつもややこしい。当初とうしょはそう感かんじた人ひとが多おおかったようだ」と振ふり返かえる。

◆福知山ふくちやま線せん事故じこで変化へんか

　しかし「私鉄してつ王国おうこく」と言いわれた関西かんさいで、より遠とおくを短時間たんじかんで結むすぶ新しん快速かいそくは、その後ごの営業えいぎょう戦略せんりゃくの柱はしらとなる。

　７２年ねんまでに区間くかんを草津くさつ―姫路ひめじに延のばし、１５分ふん間隔かんかくの運行うんこうを実現じつげん。８０年ねんには赤字あかじの国鉄こくてつでは異例いれいとも言いえる専用せんよう車両しゃりょう「１１７系けい」を投入とうにゅうした。８７年ねんの民営みんえい化か以降いこうも、停車駅ていしゃえきを芦屋あしやや高槻たかつき、尼崎あまがさきなどに増ふやし、競合きょうごう他社たしゃから乗客じょうきゃくを奪うばった。

　象徴しょうちょうとされたのは阪急はんきゅう、阪神はんしんと競合きょうごうする大阪おおさか―三ノ宮さんのみや間あいだ。三ノ宮さんのみや駅えきには「大阪おおさかへ１９分ふん」という大だい看板かんばんが誇ほこらしげに掲かかげられた。

　ただ２００５年ねんに福知山ふくちやま線せんで快速かいそく電車でんしゃが脱線だっせん事故じこを起おこしたのを機きに、看板かんばんは撤去てっきょされ、ややゆとりのあるダイヤに変更へんこうされた。最高さいこう速度そくどの時速じそく１３０キロは変かわらないが、ネットが使つかえる有料ゆうりょう座席ざせき「Ａシート」（５００円えん）を導入どうにゅうするなど速度そくど以外いがいの魅力みりょくづくりも進すすめている。

　寺本てらもとさんは「特急とっきゅうじゃないのに特急とっきゅう並なみに速はやい。その『お得とく感かん』が、関西かんさい人じんの気質きしつにも合あったことも、ここまで発展はってんした理由りゆうじゃないでしょうか」と語かたる。

通勤つうきん圏けん広ひろがる…誘致ゆうち運動うんどうも

　通勤つうきん、通学つうがくでの利便りべん性せいが高たかい新しん快速かいそくは、沿線えんせんの街まちにも大おおきな影響えいきょうを与あたえてきた。

　２０１１年ねんに新しん快速かいそくが停車ていしゃするようになった南みなみ草津くさつは、それまで５６分ふんだった大阪おおさかまでの所要しょよう時間じかんが１０分ふん近ちかく短縮たんしゅくされ、当時とうじ約やく２・３万まん人にんだった一いち日にちの乗客じょうきゃく数すうが、約やく３万まん人にんと滋賀しが県内けんないのトップに。周囲しゅういでは高層こうそうマンションの開発かいはつが進すすんでいる。

　停車駅ていしゃえきの「誘致ゆうち運動うんどう」が起おこることもたびたびで、０６年ねんから敦賀つるがへの運行うんこうが始はじまる際さいに運動うんどうに携たずさわった地元じもとの呉服ごふく店主てんしゅ（６４）は「関西かんさい各地かくちで終点しゅうてん『敦賀つるが』の地名ちめいがアナウンスされる効果こうかは計はかり知しれない。心理しんり的てき距離きょりが縮ちぢまり京阪神けいはんしんからの観光かんこう客きゃくも増ふえ、『冬ふゆは雪ゆきに閉とざされている』というイメージが払拭ふっしょくできた」と語かたる。京都きょうと鉄道てつどう博物館はくぶつかんの岡本おかもと健一郎けんいちろう学芸がくげい員いん（４５）は「新しん快速かいそくの登場とうじょうで『関西かんさい圏けん』の枠組わくぐみが広ひろがった。鉄道てつどうという公共こうきょう交通こうつう機関きかんの力ちからを、分わかりやすい形かたちで発揮はっきした電車でんしゃではないか」と話はなした。