ボブ・ディランがノーベル文学ぶんがく賞しょうを受賞じゅしょうした。そのことで、さまざまな分野ぶんやに影響えいきょうや波紋はもんを引ひき起おこしているようだ。

筆者ひっしゃの場合ばあいは、この出来事できごとによって1960年代ねんだいのフォークシンガーたちがアイビールックを好このんで着きていたことを思おもい出だした。

もっともボブ・ディランの場合ばあいは、彼かれの書かいた歌詞かしのごとく、転ころがる石いしのようにスタイルを変化へんかさせてきた人物じんぶつ。まずはその変遷へんせんを簡単かんたんに振ふり返かえってみよう。

1961年ねんにボブ・ディランがニューヨークのグリニッジ・ヴィレッジにあるカフェのステージに登場とうじょうしたときは、ワークシャツにジーンズ、そして黒くろいコーデュロイの帽子ぼうしをかぶっていた。こうしたホーボー（放浪ほうろう者しゃ）的てきなスタイルは、彼かれが敬愛けいあいするウディ・ガスリーに影響えいきょうされたものだった。

デビュー当初とうしょはプロテスト・フォークの旗手きしゅとして活躍かつやくしたディランだが、次第しだいにフォーク・ロックの方向ほうこうへ進化しんかし、1965年ねんのニューポート・フォーク・フェスティバルでは、聴衆ちょうしゅうからブーイングを受うけている。しかし彼かれは、青年せいねん時代じだいに故郷こきょうのミネソタで黒人こくじん専用せんようのラジオ放送ほうそうを聞きいていたのである。そこから流ながれるバディ・ホリーは、初はじめてＲ＆Ｂとカントリーミュージックをミックスしたアーティストとして知しられ、ビートルズやローリング・ストーンズにも多大ただいな影響えいきょうを与あたえた。

当時とうじの音楽おんがくシーンは、黒人こくじんはブルース、白人はくじんはカントリー、そして中産ちゅうさん階級かいきゅうのインテリ層そうが60年代ねんだいのモダン・フォークを支ささえていた。ボブ・ディランは、こうした退屈たいくつな棲すみ分わけを最初さいしょにぶち壊こわしたフォーク系けい出身しゅっしんのアーティストだったのである。

ホーボーから水玉みずたまシャツ＆黒くろいサングラスヘ、というロックスターと見みまがうばかりのルックスヘ自みずからを変身へんしんさせたのは必然ひつぜん的てきだったのだろう。さらに70年代ねんだい初頭しょとうには、サム・ペキンパー監督かんとくの映画えいが『ビリー・ザ・キッド』に出演しゅつえんしたことが刺激しげきになって、メキシコ風ふうのスタイルをミックスさせ、ディランならではのカリスマ性せいはますます強つよく醸かもし出だされるようになっていくのである。

1970年代ねんだい後半こうはんから80年代ねんだいは、彼かれにとってツアーの時代じだいだった。ディランの服ふくは海外かいがいツアーや著名ちょめいアーティストとの共演きょうえんなどにインスパイアされ、さらに洗練せんれんされていくが、しかしそれは単たんに派手はでさをアピールする従来じゅうらいのステージ衣裳いしょうとはまったく異ことなる個性こせい的てきなものであった。

時代じだいの好このみ（ストリート性せいやネイティブ・アメリカン調ちょう）を巧たくみに先取さきどりしたディランのスタイルは、現在げんざいもなおその進化しんかを止とめていない。

フォークソングとは、アメリカで古ふるくから歌うたい継つがれてきた民謡みんようのようなものだ。その内容ないようは、民話みんわや伝説でんせつ、恋愛れんあい物語ものがたり、社会しゃかい的てき事件じけん（トピカル・ソング）など、さまざまなジャンルに及およんでいた。

1950年代ねんだいあたりから、そうした昔むかしのフォークソングを見直みなおす動うごきが大学だいがくのグリークラブ（男性だんせい合唱がっしょう団だん）を中心ちゅうしんに起おこってくる。そして1959年ねんにスタンフォード大学だいがくの学生がくせいを中心ちゅうしんとした３人組にんぐみ、キングストン・トリオが『トム・ドゥリー』をヒットチャートに送おくりこむ。続つづいて60年ねんには、ワシントン大学だいがくのグリークラブに在籍ざいせきしていた４人組にんぐみ、ブラザース・フォアが『グリーン・フィールズ』をスマッシュヒット。さらに63年ねんにはＰＰＭ（ピーター、ポール＆マリー）がボブ・ディランの『風ふうに吹ふかれて』をメジャーにするのである。

当時とうじの学生がくせいの日常にちじょう着ぎはアイビールックであったから、カレッジ出身しゅっしんのフォークグループのユニフォームも当然とうぜんアイビールックを少すこしお洒落しゃれにしたものになった。

キングストン・トリオは、トラックストライプと呼よばれた幅広はばひろのストライプが入はいったボタンダウンシャツにバックストラップ付つきのパイプドステムパンツが印象いんしょうに残のこっている。

一方いっぽうブラザース・フォアは、白しろい半袖はんそでのボタンダウンシャツにアスコットタイを首くびからのぞかせるのがトレードマーク。なかでもバンジョー担当たんとうのマイク・カークランドのクルーカット・ヘアーは、当時とうじの日本にっぽんのアイビーファンたちの憧あこがれの的てきだった。

またピート・シーガーの『花はなはどこへ行いった』がジョーン・バエズにより有名ゆうめいになって以降いこう、フォークコンサートは次第しだいに政治せいじ色しょくを強つよめ、プロテスト・ソング（政治せいじ的てきな抗議こうぎをこめた楽曲がっきょく）が好このんで歌うたわれるようになっていくのである。

こうしたアメリカのモダン・フォークやカレッジコンサートの模様もようをいち早はやく日本にっぽんに紹介しょうかいしたのが60年代ねんだいの雑誌ざっし『メンズクラブ』や深夜しんやラジオ放送ほうそうだった。メンズクラブは表紙ひょうしにマーチンのギターを登場とうじょうさせたり、深夜しんや放送ほうそうとともに米国べいこくのカレッジコンサートの情報じょうほうを発信はっしんした。当時とうじの若者わかものたちは、カレッジコンサートの後のちには討論とうろん会かいが催もよおされ、そこで公民こうみん権けん運動うんどうなどについて議論ぎろんされる、といったことを知しった。そのため日本にっぽんでは、コンサートでなくフォーク集会しゅうかいと呼よばれることが多おおかったのである。

日本にっぽんのカレッジ・フォーク・ブームは1965年ねんにマイク眞木まきが歌うたった『バラが咲さいた』のヒットから始はじまる。マイク眞木まきはソロシンガーと思おもわれているが、モダン・フォーク・カルテットというカレッジ・フォーク・グループの出身しゅっしんである。翌年よくねんには、映画えいが監督かんとく・黒澤くろさわ 明あきらの長男ちょうなん、黒澤くろさわ久雄ひさおが所属しょぞくする成城大学せいじょうだいがくのザ・ブロード・サイド・フォーが『若者わかものたち』や『星ほしに祈いのりを』をヒットさせる。1967年ねんには森山もりやま良子りょうこが『この広ひろい野原のはらいっぱい』でデビュー。同年どうねんザ・フォーク・クルセダーズの『帰かえってきたヨッパライ』が爆発ばくはつ的てきヒットを記録きろく。さらに俳優はいゆうになる前まえの寺尾てらお 聡さとしが所属しょぞくしたザ・サベージが『いつまでもいつまでも』をヒットさせるなどした。

日本にっぽんのカレッジ・フォークは、東京とうきょうの大学生だいがくせいを中心ちゅうしんにし、主おもにアメリカのモダン・フォークを忠実ちゅうじつにカバーしたものだった。しかし次第しだいに、オリジナルのフォークソングを前面ぜんめんに出だした関西かんさい系けいフォークグループに駆逐くちくされてしまったのである。

だからといって、東京とうきょうのカレッジ・フォークがおぼっちゃま的てきかというと決けっしてそんなことはなく、都会とかい的てきなハーモニーは音楽おんがく的てきにもレベルの高たかいものだった。またスタイル的てきに見みても、７・３分わけ（横よこ分わけした髪形かみがたのこと）でモミアゲを斜ななめにカットしたアイビーカットや８・２分わけのケネディカット（マイク眞木まき）で、ボタンダウンシャツやポロシャツの上うえにローボタンのモヘア混こんカーディガンという着きこなしは、清潔せいけつ感かんにあふれ好こう印象いんしょうを与あたえた。こうしたスタイルは、“ニューアコ”と呼よばれた渋谷しぶや系けいアーティストに通つうじるものがあると思おもう。

ボブ・ディランやピート・シーガーの師匠ししょう筋すじにあたるのが、伝説でんせつのフォークシンガーと呼よばれたウディ・ガスリーである。

1940年代ねんだい、ウディ・ガスリーは米国べいこく各地かくちを放浪ほうろうしながら、貧まずしい民衆みんしゅうの立場たちばでプロテスト・ソングやトピカル・ソングを作つくり、社会しゃかいの権力けんりょく側がわに立たつ者ものたちを啓発けいはつしていた。反骨はんこつ精神せいしんに満みちていながらも、自由じゆうな精神せいしんと平等びょうどう主義しゅぎに貫つらぬかれた彼かれの歌うたは、1960年代ねんだいのトラディショナル・フォークの見直みなおしのなかで再さい注目ちゅうもくされ、やがてピート・シーガーやディランといったフォロワーを生うみ出だしていく。

彼かれの生涯しょうがいは､『わが心しんのふるさと』という題名だいめいで最近さいきん映画えいが化かされている。デヴィッド・キャラダインが演えんじるガスリーのスタイルは、まさにデビュー当時とうじのディランの着きこなしそのまま。当時とうじのディランがいかにガスリーに心酔しんすいしていたかが理解りかいできよう。

また、くたびれたハンチング、ワークジャケット、バンドカラーシャツ、ジーンズというガスリーの着きこなしは、古着ふるぎを常用じょうようする現代げんだいのバンカラ・アイビー派はにも参考さんこうになるはずである。