史記しき三さん家いえ註/卷まき110

〈【正義まさよし】此卷或ある有本ありもと次じ平津ひらつ侯こう後ご，第だい五ご十じゅう二に。今こん第だい五ご十じゅう者しゃ，先生せんせい舊きゅう本ほん如此，劉りゅう伯はく庄しょう音おん亦また然しか。若わか先さき諸しょ傳つて而次四よん夷えびす，則のり司馬しば、汲鄭不ふ合ごう在ざい後ご也。〉

匈奴きょうど，其先祖せんぞ夏なつ后きさき氏し之の苗裔びょうえい也，曰淳維。〈【集しゅう解かい】漢書かんしょ音義おんぎ曰：「匈奴きょうど始祖しそ名めい。」【索さく隱かくれ】張ちょう晏曰「淳あつし維以殷いん時じ奔北邊べ」。又また樂らく彥括地ち譜ふ雲くも「夏なつ桀無道どう，湯ゆ放ひ之これ鳴な條じょう，三さん年ねん而死。其子獯粥妻つま桀之眾妾，避居北野きたの，隨ずい畜移徙わたまし，中國ちゅうごく謂いい之の匈奴きょうど。」其言夏なつ後ご苗裔びょうえい，或ある當然とうぜん也。故こ應おう劭風俗ふうぞく通どおり云うん「殷いん時じ曰獯粥かゆ，改あらため曰匈奴やつ。」又また服ふく虔けん云うん「堯時曰葷粥かゆ，周しゅう曰獫狁，秦はた曰匈奴やつ。」韋昭云うん「漢かん曰匈奴やつ，葷粥其別名めい。」則のり淳じゅん維是其始祖しそ，蓋ぶた與あずか獯粥是ぜ一也かずや。〉唐から虞おそれ以上いじょう有山ありやま戎えびす、〈【正義まさよし】左ひだり傳でん庄三しょうぞう十じゅう年ねん「齊ひとし人じん伐き山やま戎えびす」，杜もり預あずか云うん「山やま戎えびす、北きた戎えびす、無む終おわり三さん名めい也。」括くく地誌ちし云うん「幽かそけ州しゅう漁いざり陽ひ縣けん，本ほん北きた戎えびす無む終おわり子こ國こく。」〉獫狁、葷粥，〈【集しゅう解かい】晉すすむ灼云：「堯時曰葷粥かゆ，周しゅう曰獫狁，秦はた曰匈奴やつ。」〉居きょ於北蠻，隨ずい畜牧而轉移てんい。其畜之これ所しょ多た則のり馬ば、牛うし、羊ひつじ，其奇畜則橐駞、〈【索さく隱かくれ】韋昭曰：「背せ肉にく似に橐，故こ云うん橐也。」包つつみ愷：「音おと託たく佗。」〉〈【正義まさよし】畜，許もと又また反はん。〉驢うさぎうま、驘、〈【索さく隱かくれ】案あん：古今ここん注ちゅう云うん「驢うさぎうま牡馬ぼば牝めす，生なま驘。」〉〈【正義まさよし】驘音力りょく戈ほこ反はん。〉駃騠、〈【集しゅう解かい】徐じょ廣ひろ曰：「北狄ほくてき駿馬しゅんめ。」【索さく隱かくれ】說せつ文ぶん云うん「駃騠，馬うま父ちち驘子也。」廣こう異い志こころざし音おん決けつ蹄也。發はつ蒙こうむ記き「刳く其母腹はら而生。」列れつ女おんな傳でん云うん「生なま七なな日にち超ちょう其母。」〉騊駼、〈【集しゅう解かい】徐じょ廣ひろ曰：「似に馬ば而青。」【索さく隱かくれ】按：郭かく璞注爾しか雅みやび云うん「騊駼馬ば，青色あおいろ，音おと淘よなげ塗ぬり」。又また字じ林りん云うん野の馬ば。山海さんかい經けい云うん「北海ほっかい有ゆう獸じゅう，其狀如馬，其名騊駼」也。〉驒騱。〈【集しゅう解かい】徐じょ廣ひろ曰：「音おと顛。巨きょ虛きょ之の屬ぞく。」【索さく隱かくれ】驒奚。韋昭驒音顛。說せつ文ぶん「野の馬ば屬ぞく」。徐じょ廣ひろ云うん「巨きょ虛むなし之これ類るい」。一云青驪白鱗，文ぶん如鼉魚ぎょ。鄒誕生たんじょう本ほん「奚」字じ作さく「騱」。〉逐水草くさ遷徙，毋城郭かく常つね處ところ耕田こうだ之これ業ぎょう，然しか亦また各かく有ゆう分地ぶんち。〈【索さく隱かくれ】上じょう音おと扶糞反はん。〉毋文書ぶんしょ，以言語ご為ため約束やくそく。兒こ能のう騎き羊ひつじ，引弓射しゃ鳥とり鼠ねずみ；少しょう長ちょう〈【索さく隱かくれ】上じょう音おと式しき紹反，下した音おと陟のぼる兩りょう反はん。少しょう長ちょう謂いい年ねん稍やや長ちょう。〉則のり射しゃ狐きつね兔うさぎ用よう為ため食しょく。士し力りょく能のう毌弓，〈【索さく隱かくれ】上じょう音おと彎，如字亦また通つう也。〉盡つき為ため甲かぶと騎き。其俗，寬ひろし則のり隨ずい畜，因よし射しゃ獵りょう禽獸きんじゅう為ため生業せいぎょう，急きゅう則のり人じん習戰攻おさむ以侵伐き，其天性せい也。其長兵へい則そく弓矢ゆみや，短たん兵へい則のり刀がたな鋋。〈【集しゅう解かい】韋昭曰：「鋋形似に矛ほこ，鐵てつ柄がら。音おと時じ年ねん反はん。」【索さく隱かくれ】音おと蟬。埤蒼云うん「鋋，小しょう矛ほこ鐵てつ矜。」古今ここん字じ詁云「𥎊，通つう作さく『矜』。」〉利則としのり進すすむ，不利ふり則そく退すさ，不ふ羞遁走とんそう。苟利所在しょざい，不知ふち禮れい義ぎ。自じ君王くんのう以下いか，鹹食畜肉，衣ころも其皮革ひかく，被ひ旃裘。壯者そうしゃ食しょく肥こえ美び，老ろう者しゃ食しょく其餘。貴き壯健そうけん，賤老弱じゃく。父ちち死し，妻つま其後母はは；兄弟きょうだい死し，皆みな取と其妻妻つま之の。其俗有名ゆうめい不ふ諱いみな，而無姓せい字じ。〈【集しゅう解かい】漢書かんしょ曰：「單たん于姓攣鞮氏し。」〉〈【索さく隱かくれ】攣音六ろく緣えん反はん。鞮音丁ひのと啼反。〉

夏なつ道みち衰おとろえ，而公劉りゅう失しつ其稷官かん，〈【集しゅう解かい】徐じょ廣ひろ曰：「后きさき稷きび之の曾孫そうそん。」【正義まさよし】周しゅう本紀ほんぎ云うん「不ふ窋失其官」。此云公こう劉りゅう，未み詳しょう也。〉變へん於西戎せいじゅう，邑於豳。其後三さん百ひゃく有餘ゆうよ歲とし，戎えびす狄攻大王だいおう亶父，〈【集しゅう解かい】徐じょ廣ひろ曰：「公おおやけ劉りゅう九きゅう世せい孫まご。」〉亶父亡ほろび走はし岐下，而豳人じん悉從亶父而邑焉，作さく周しゅう。〈【索さく隱かくれ】按：謂いい始はじめ作さく周しゅう國こく也。〉其後百ひゃく有餘ゆうよ歲とし，周しゅう西伯さいはく昌あきら伐き畎夷氏し。〈【索さく隱かくれ】韋昭云うん：「春秋しゅんじゅう以為犬けん戎えびす。」按：畎音犬けん。大だい顏かお云うん「即そく昆こん夷えびす也」。山海さんかい經けい云うん「黃き帝みかど生せい苗なえ龍りゅう，苗なえ龍りゅう生せい融とおる吾われ，融とおる吾われ生せい弄ろう明あかり，弄ろう明生めいせい白しろ犬けん。白しろ犬いぬ有ゆう二に牡おす，是ぜ為ため犬けん戎えびす」。說せつ文ぶん云うん「赤あか狄本犬いぬ種しゅ，字じ從したがえ犬いぬ」。又また山海さんかい經けい云うん「有人ゆうじん面めん獸身じゅうしん，名めい曰犬夷えびす」。賈逵云うん「犬いぬ夷えびす，戎之えびすの別種べっしゅ也」。〉後こう十じゅう有餘ゆうよ年ねん，武たけ王おう伐き紂而營雒邑，復ふく居きょ於酆鄗，放逐ほうちく戎えびす夷えびす涇、洛らく之の北きた，〈【索さく隱かくれ】晉すすむ灼曰：「洛らく水すい在ざい馮翊懷ふところ德とく縣けん，東南とうなん入にゅう渭。」又また案あん：水みず經けい云うん出上いでかみ郡ぐん雕陰泰たい昌あきら山さん，過か華はな陰かげ入にゅう渭，即そく漆うるし沮水也。〉以時入貢にゅうこう，命いのち曰「荒あら服ふく」。其後二に百ひゃく有餘ゆうよ年ねん，周しゅう道どう衰おとろえ，〈【索さく隱かくれ】案あん：周しゅう紀おさむ云うん「懿王時じ，王室おうしつ衰おとろえ。詩人しじん作さく怨刺之の詩し」，不能ふのう復ふく雅也まさや。〉而穆王おう伐き犬いぬ戎えびす，得とく四白狼四白鹿以歸。自じ是ぜ之これ後ご，荒あら服ふく不ふ至いたり。於是周しゅう遂とげ作さく甫はじめ刑けい之の辟。穆きよし王おう之これ後ご二に百ひゃく有餘ゆうよ年ねん，周しゅう幽かそけ王おう用よう寵姬ちょうき襃姒之の故こ，與あずか申さる侯ほう有ゆう卻。〈【正義まさよし】故こ申さる城じょう在ざい鄧州南陽なんよう縣けん北きた三さん十じゅう里り，周しゅう宣せん王おう舅しゅうと所しょ封ふう。申さる侯こう怒いか而與犬けん戎えびす共ども攻おさむ殺ころせ周しゅう幽かそけ王おう於驪山やま之の下した，【集しゅう解かい】韋昭曰：「戎えびす後ご來居くりい此山，故ゆえ號ごう曰驪戎えびす。」〉遂とげ取ど周しゅう之の焦こげ穫か，〈【正義まさよし】括くく地誌ちし云うん：「焦こげ穫か亦また名めい刳く口くち，亦また曰刳中ちゅう，在ざい雍州涇陽縣けん城北しろきた十じゅう數すう里さと。周しゅう有ゆう焦こげ穫か也。」〉而居於涇渭之間あいだ，侵おかせ暴中國こく。秦はた襄じょう公おおやけ救すくい周しゅう，於是周平しゅうへい王おう去さ酆鄗而東徙雒邑。當とう是ぜ之の時とき，秦はた襄じょう公おおやけ伐き戎えびす至いたる岐，始はじめ列れつ為ため諸侯しょこう。〈【正義まさよし】今こん岐州。高こう誘さそえ云うん「秦はた襄じょう公おおやけ救すくい周しゅう有功ゆうこう，受周故こ地ち酆鄗，列れつ為ため諸侯しょこう」也。〉是ぜ後ご六ろく十じゅう有ゆう五ご年ねん，而山戎えびす〈【索さく隱かくれ】服ふく虔けん云うん：「山やま戎えびす蓋ぶた今こん鮮卑。」按：胡えびす廣こう云うん「鮮卑，東ひがし胡えびす別種べっしゅ」。又また應おう奉たてまつ云うん「秦はた築ちく長城ちょうじょう，徒と役やく之の士し亡ほろび出で塞外さいがい，依よ鮮卑山さん，因いん以為號ごう」。〉越えつ燕つばめ而伐齊ひとし，齊ひとし釐公與あずか戰せん於齊おさい郊。〈【索さく隱かくれ】釐音僖，名めい諸しょ兒こ也。〉其後四よん十じゅう四よん年ねん，而山戎えびす伐き燕つばめ。燕つばめ告つげ急きゅう於齊おさい，齊ひとし桓公かんこう北きた伐き山やま戎えびす，山やま戎えびす走はし。其後二に十じゅう有餘ゆうよ年ねん，而戎狄至洛らく邑，伐き周しゅう襄じょう王おう，襄じょう王おう奔於鄭てい之の氾邑。〈【索さく隱かくれ】蘇そ林りん氾音凡。今こん潁川襄じょう城じょう是ぜ。按：春秋しゅんじゅう地名ちめい云うん「氾邑，襄じょう王おう所しょ居い，故こ云うん襄じょう城じょう」也。〉初はつ，周しゅう襄じょう王おう欲ほし伐き鄭てい，故こ娶めと戎えびす狄女為ため后きさき，與あずか戎えびす狄兵共ども伐き鄭てい。已やめ而黜狄后，狄后怨，而襄王おう後ご母はは曰惠后きさき，有子ゆうこ子こ帶たい，欲よく立りつ之の，於是惠めぐみ後ご與あずか狄后、子こ帶たい為ため內應，開ひらき戎えびす狄，戎えびす狄以故こ得とく入いれ，破やぶ逐周襄じょう王おう，而立じりつ子こ帶たい為ため天子てんし。於是戎えびす狄或居きょ於陸渾，〈【集しゅう解かい】徐じょ廣ひろ曰：「一いち為ため『陸りく邑』。」【索さく隱かくれ】春秋しゅんじゅう左ひだり氏し「秦はた晉すすむ遷陸渾之戎えびす於伊川がわ」。杜もり預あずか以為「允まこと姓せい之の戎えびす居きょ陸りく渾，在ざい秦はた晉すすむ之の間あいだ，二國誘而徙之伊川，遂とげ從したがえ戎えびす號ごう，今こん陸りく渾縣」是也これや。〉東あずま至いたる於衛，侵おかせ盜ぬすめ暴虐ぼうぎゃく中國ちゅうごく。中國ちゅうごく疾やまし之これ，故こ詩人しじん歌か之の曰「戎えびす狄是應おう」，「薄うす伐き獫狁，至いたり於大おだい原ばら」，〈【集しゅう解かい】毛もう詩し傳でん曰：「言げん逐出之の而已。」〉「出で輿こし彭彭，城しろ彼かれ朔ついたち方かた」。〈【集しゅう解かい】毛もう詩し傳でん曰：「彭彭，四よん馬うま貌。朔ついたち方かた，北方ほっぽう。」【正義まさよし】獫狁既すんで去さ，北方ほっぽう安靜あんせい，乃築城ついき守之もりゆき。〉周しゅう襄じょう王おう既すんで居きょ外がい四よん年ねん，乃使使し告つげ急きゅう於晉。晉すすむ文ぶん公こう初はつ立だて，欲よく修おさむ霸業，乃興師し伐き逐戎翟，誅子帶たい，迎むかい內周襄じょう王おう，居きょ於雒邑。

當とう是ぜ之の時とき，秦はた晉すすむ為ため彊つよし國こく。晉すすむ文ぶん公こう攘戎翟，居きょ於河西にし圁、洛らく之の間あいだ，〈【集しゅう解かい】徐じょ廣ひろ曰：「圁在西河にしがわ，音おと銀ぎん。洛らく在ざい上郡かみごおり、馮翊間あいだ。」【索さく隱かくれ】西河にしかわ圁、洛らく。晉すすむ灼音嚚。三さん蒼あお作さく「圜」。地理ちり志こころざし云うん圜水出上いでかみ郡ぐん白土しらち縣けん西にし，東ひがし流入りゅうにゅう河かわ。韋昭云うん「圜當為とうい『圁』。」續ぞく郡ぐん國こく志こころざし及太康やすし地理ちり志こころざし並なみ作さく「圁」字じ也。【正義まさよし】括くく地誌ちし云うん：「白土しらつち故こ城しろ在ざい鹽しお州しゅう白池しらいけ東北とうほく三さん百ひゃく九きゅう十じゅう里さと。」又また云うん：「近延ちかのぶ州しゅう、綏州、銀しろがね州しゅう，本ほん春秋しゅんじゅう時じ白しろ狄所居い，七なな國こく屬ぞく魏ぎ，後こう入いれ秦しん，秦はた置おけ三さん十じゅう六ろく郡ぐん。」洛らく，漆うるし沮也。〉號ごう曰赤翟、〈【索さく隱かくれ】案あん：左ひだり氏し傳でん云うん「晉すすむ師し滅めつ赤あか狄潞氏し」。杜氏とうじ以「潞，赤あか狄之別種べっしゅ也，今上きんじょう黨とう潞縣」。又また春秋しゅんじゅう地名ちめい云うん「今こん曰赤涉わたる胡えびす」。〉白しろ翟。〈【索さく隱かくれ】左ひだり氏し「晉すすむ師し敗はい狄於箕み，郤缺獲え白しろ狄子」。杜氏とうじ以為「白しろ狄之別種べっしゅ，故こ西河にしがわ郡ぐん有ゆう白しろ部ぶ胡えびす」。又また國語こくご雲くも「桓公かんこう西にし征せい，攘白狄之地ち，遂とげ至いたり於西河かわ」也。【正義まさよし】括くく地誌ちし云うん：「潞州本ほん赤あか狄地。延のべ、銀ぎん、綏三さん州しゅう白しろ翟地。」按：文言もんごん「皋落、潞之間あいだ號ごう赤あか狄」，未み詳しょう。〉秦はた穆きよし公おおやけ得とく由よし余あまり，西戎せいじゅう八はち國こく服ふく於秦，故こ自じ隴以西いせい有ゆう綿めん諸しょ、〈【索さく隱かくれ】地理ちり志こころざし天水てんすい有ゆう綿めん諸道しょどう。【正義まさよし】括くく地誌ちし云うん：「綿めん諸しょ城しろ，秦しん州しゅう秦しん嶺みね縣けん北きた五ご十じゅう六ろく里さと。漢かん綿めん諸道しょどう，屬ぞく天水てんすい郡ぐん。」〉緄戎、〈【正義まさよし】上じょう音おと昆こん。字じ當とう作さく「混こん」。顏かお師し古こ云うん：「混こん夷えびす也。」韋昭云うん：「春秋しゅんじゅう以為犬けん戎えびす。」〉翟、䝠之戎えびす，〈【集しゅう解かい】徐じょ廣ひろ曰：「在天ざいてん水すい。䝠音丸まる。」【索さく隱かくれ】地理ちり志こころざし天水てんすい有ゆう綿めん諸道しょどう、狄道。應おう劭以「䝠戎邑。音おと桓」。【正義まさよし】括くく地誌ちし云うん：「䝠道故こ城しろ在ざい渭州襄じょう武たけ縣けん東南とうなん三さん十じゅう七なな里さと。古いにしえ之の䝠戎邑。漢かん䝠道，屬ぞく天水てんすい郡ぐん。」〉岐、梁やな山さん、涇、漆うるし之の北きた有ゆう義ぎ渠みぞ、〈【索さく隱かくれ】韋昭云うん：「義よし渠みぞ本ほん西戎せいじゅう國こく，有ゆう王おう，秦はた滅めつ之の。今こん在ざい北地きたじ郡ぐん。」【正義まさよし】括くく地誌ちし云うん：「寧やすし州しゅう、慶州けいしゅう，西戎せいじゅう，即そく劉りゅう拘かかわ邑城，時じ為ため義ぎ渠みぞ戎えびす國こく，秦はた為ため北地きたじ郡ぐん也。」〉大だい荔、〈集しゅう解かい徐じょ廣ひろ曰：「後ご更さら名めい臨晉，在ざい馮翊。」【索さく隱かくれ】按：秦はた本紀ほんぎ厲共公こう伐き大だい荔，取と其王城じょう，後ご更さら名めい臨晉。故こ地理ちり志こころざし云うん臨晉故こ大だい荔國也。【正義まさよし】括くく地誌ちし云うん：「同どう州しゅう馮翊縣けん及朝邑縣，本ほん漢かん臨晉縣けん地ち，古こ大だい荔戎國こく。今朝けさ邑縣東ひがし三さん十じゅう步ほ故こ王城おうじょう，即そく大だい荔王城じょう。」荔，力ちから計けい反はん。〉烏がらす氏し、〈【集しゅう解かい】徐じょ廣ひろ曰：「在ざい安定あんてい。」【正義まさよし】氏し音おん支ささえ。括くく地誌ちし云うん：「烏がらす氏し故こ城しろ在ざい涇州安定あんてい縣けん東ひがし三さん十じゅう里さと。周しゅう之の故こ地ち，後ご入にゅう戎えびす，秦はた惠めぐみ王おう取と之これ，置おけ烏がらす氏し縣けん也。」〉朐衍之の戎えびす。〈【集しゅう解かい】徐じょ廣ひろ曰：「在ざい北地きたじ。朐音詡。」【索さく隱かくれ】案あん：地理ちり志こころざし朐衍，縣けん名めい，在ざい北地きたじ。徐じょ廣ひろ音おと詡。鄭てい氏し音おん吁。【正義まさよし】括くく地誌ちし云うん：「鹽しお州しゅう，古こ戎えびす狄居之の，即そく朐衍戎之えびすの地ち，秦はた北地きたじ郡ぐん也。」〉而晉北きた有ゆう林りん胡えびす、〈【索さく隱かくれ】如淳云うん：「林はやし胡えびす即そく儋林，為ため李り牧まき所しょ滅めつ也。」【正義まさよし】括くく地誌ちし云うん：「朔ついたち州しゅう，春秋しゅんじゅう時じ北地きたじ也。如淳云うん即そく澹林也，為ため李り牧まき滅めつ。」〉樓ろう煩はん之の戎えびす，〈【索さく隱かくれ】地理ちり志こころざし樓ろう煩はん，縣けん名めい，屬ぞく雁かり門もん。應おう劭云「故ゆえ樓ろう煩はん胡地こち」。【正義まさよし】括くく地誌ちし云うん：「嵐あらし州しゅう，樓ろう煩はん胡地こち也。風俗ふうぞく通どおり云うん故ゆえ樓ろう煩はん胡地こち也。」〉燕つばめ北きた有東うとう胡えびす、山やま戎えびす。〈【集しゅう解かい】漢書かんしょ音義おんぎ曰：「烏丸からすま，或ある云うん鮮卑。」【索さく隱かくれ】服ふく虔けん云うん：「東ひがし胡えびす，烏丸からすま之これ先さき，後ご為ため鮮卑。在ざい匈奴きょうど東ひがし，故こ曰東胡えびす。」案あん：續ぞく漢書かんしょ曰「漢かん初はつ，匈奴きょうど冒おかせ頓ひたぶる滅めつ其國，餘類よるい保ほ烏がらす桓山，以為號ごう。俗ぞく隨ずい水草みずくさ，居きょ無常むじょう處しょ。以父之の名字みょうじ為ため姓せい。父子ふし男女だんじょ悉髡頭あたま為ため輕便けいべん也」。〉各かく分散ぶんさん居きょ谿谷けいこく，自じ有ゆう君くん長ちょう，往往おうおう而聚者しゃ百ひゃく有餘ゆうよ戎えびす，然しか莫能相しょう一いち。

自じ是ぜ之の後のち百ひゃく有餘ゆうよ年ねん，晉すすむ悼公使こうし魏ぎ絳和戎えびす翟，戎えびす翟朝晉すすむ。後こう百ひゃく有餘ゆうよ年ねん，趙ちょう襄じょう子こ逾句注ちゅう〈【集しゅう解かい】音おと鉤かぎ，山名やまな，在ざい雁かり門もん。【索さく隱かくれ】服ふく虔けん云うん：「句く音おん拘かかわ。」韋昭云うん：「山名やまな，在ざい陰かげ館かん。」〉而破並なみ代だい以臨胡えびす貉むじな。〈【索さく隱かくれ】案あん：貉むじな即そく濊也。音おと亡ほろび格かく反はん。〉其後既すんで與あずか韓かん魏たかし共きょう滅めつ智さとし伯はく，分ふん晉すすむ地ち而有之の，則のり趙ちょう有ゆう代だい、句く注ちゅう之の北きた，魏ぎ有河あるが西にし、上郡かみごおり，以與戎えびす界かい邊あたり。其後義ぎ渠みぞ之の戎えびす築ちく城郭じょうかく以自守もり，而秦稍やや蠶食さんしょく，至いたり於惠王おう，遂とげ拔義渠みぞ二に十じゅう五ご城しろ。惠めぐみ王おう擊げき魏ぎ，魏たかし盡つき入にゅう西河にしがわ及上郡ぐん於秦。秦はた昭あきら王おう時じ，義よし渠みぞ戎えびす王おう與あずか宣せん太ふと后きさき〈【集しゅう解かい】昭あきら王おう母はは也。【索さく隱かくれ】服ふく虔けん云うん「昭あきら王おう之の母はは」也。〉亂みだれ，有ゆう二に子し。宣せん太ふと后きさき詐いつわり而殺義ぎ渠みぞ戎えびす王おう於甘泉いずみ，遂とげ起おこり兵へい伐き殘ざん義ぎ渠みぞ。於是秦はた有ゆう隴西、北地きたじ、上郡かみごおり，築ちく長城ちょうじょう以拒胡えびす。而趙武たけ靈れい王おう亦また變へん俗ぞく胡えびす服ふく，習騎射きしゃ，北きた破やぶ林はやし胡えびす、樓ろう煩はん。築ちく長城ちょうじょう，〈【正義まさよし】括くく地誌ちし云うん：「趙ちょう武たけし靈れい王おう長城ちょうじょう在ざい朔ついたち州しゅう善ぜん陽ひ縣けん北きた。案あん水すい經けい云うん白はく道長みちなが城北しろきた山上さんじょう有ゆう長ちょう垣かき，若わか穨毀焉，沿谿亙嶺みね，東西とうざい無む極きょく，蓋ぶた趙ちょう武たけし靈れい王おう所しょ築ちく也。」〉自じ代だい並なみ〈【集しゅう解かい】音おと傍はた，白浪しらなみ反はん。〉陰かげ山やま〈【索さく隱かくれ】徐じょ廣ひろ云うん：「五原西安陽縣北有陰山。陰かげ山やま在ざい河南かなん，陽ひ山北さんぽく。並なみ音おん傍はた，白浪しらなみ反はん。」【正義まさよし】括くく地誌ちし云うん：「陰かげ山やま在ざい朔ついたち州しゅう北きた塞外さいがい突厥界かい。」〉下した，至高しこう闕為塞ふさが。〈集しゅう解かい徐じょ廣ひろ曰：「在ざい朔ついたち方かた。」【正義まさよし】地理ちり志こころざし云うん朔ついたち方かた臨戎縣けん北きた有ゆう連山れんざん，險けん於長城じょう，其山中斷ちゅうだん，兩りょう峰みね俱峻，土俗どぞく名めい為ため高だか闕也。〉而置雲くも中ちゅう、雁かり門もん、代だい郡ぐん。其後燕つばめ有ゆう賢けん將はた秦はた開ひらく，為ため質しつ於胡，胡えびす甚信之の。歸かえり而襲破やぶ走はし東ひがし胡えびす，東ひがし胡えびす卻千餘あまり里さと。與あずか荊軻刺とげ秦しん王おう秦はた舞まい陽ひ者しゃ，開ひらき之の孫まご也。燕つばめ亦また築ちく長城ちょうじょう，自じ造みやつこ陽ひ〈【集しゅう解かい】韋昭曰：「地名ちめい，在ざい上谷うえたに。」【正義まさよし】按：上谷うえだに郡ぐん今いま媯州。〉至いたり襄じょう平たいら。〈【索さく隱かくれ】韋昭云うん：「今こん遼東りゃおとん所しょ理り也。」〉置おけ上谷うえたに、漁りょう陽ひ、右みぎ北平きたひら、遼りょう西にし、遼東りゃおとん郡ぐん以拒胡えびす。當とう是ぜ之の時とき，冠かん帶たい戰國せんごく七なな，而三國こく邊あたり於匈奴やつ。〈【索さく隱かくれ】案あん：三さん國こく，燕つばめ、趙ちょう、秦はた也。〉其後趙ちょう將すすむ李り牧まき時じ，匈奴きょうど不ふ敢入趙ちょう邊あたり。後こう秦しん滅めつ六ろく國こく，而始皇帝こうてい使し蒙こうむ恬將十じゅう萬まん之これ眾北擊げき胡えびす，悉收河南かなん地ち。因よし河かわ為ため塞ふさが，〈【索さく隱かくれ】案あん：太ふとし康やすし地ち記き「秦はた塞ふさが自じ五ご原げん北きた九きゅう百ひゃく里り，謂いい之の造みやつこ陽ひ。東ひがし行ぎょう終おわり利り賁山南みなみ，漢かん陽西ようさい也」。漢かん，一作いっさく「漁りょう」。〉築ちく四よん十じゅう四よん縣けん城じょう臨河，徙適〈【集しゅう解かい】音おと丁ちょう革かわ反はん。【索さく隱かくれ】丁ちょう革かわ反はん。〉戍以充たかし之これ。而通直道なおみち，〈【索さく隱かくれ】蘇そ林りん云うん：「去さ長安ながやす八はち千里せんり，正せい南北なんぼく相しょう直ちょく道也みちや。」〉自じ九きゅう原はら至いたる雲くも陽ひ，〈【索さく隱かくれ】韋昭云うん：「九きゅう原はら，縣けん名めい，屬ぞく五ご原げん也。」【正義まさよし】括くく地誌ちし云うん：「勝かつ州しゅう連谷れんだに縣けん，本ほん秦はた九きゅう原はら郡ぐん，漢かん武たけ帝みかど更さら名めい五ご原ばら。雲くも陽ひ雍縣，秦はた之の林はやし光ひかり宮みや，即そく漢かん之の甘あま泉宮いずみみや在ざい焉。」又また云うん：「秦はた故こ道みち在ざい慶州けいしゅう華はな池ち縣西けんせい四よん十じゅう五ご里子さとご午うま山上さんじょう。自じ九きゅう原はら至いたる雲くも陽ひ，千せん八はち百ひゃく里さと。」〉因いん邊べ山やま險けん巉谿谷けいこく可か繕つくろえ者しゃ治之はるゆき，起おこり臨洮至いたり遼東りゃおとん萬まん餘あまり里さと。〈索さく隱かくれ韋昭云うん：「臨洮，隴西縣けん。」【正義まさよし】括くく地誌ちし云うん：「秦はた隴西郡ぐん臨洮縣けん，即今そっこん岷州城じょう。本ほん秦しん長城ちょうじょう首しゅ，起おこり岷州西にし十じゅう二に里り，延のべ袤萬餘里より，東ひがし入にゅう遼りょう水すい。」〉又また度ど河かわ據よりどころ陽ひ山北さんぽく假かり中ちゅう。〈【集しゅう解かい】北きた假かり，北方ほっぽう田た官かん。主しゅ以田假かり與あずか貧ひん人じん，故こ云うん北きた假かり。【索さく隱かくれ】應おう劭云：「北きた假かり在ざい北地きたじ陽ひ山北さんぽく。」韋昭云うん：「北きた假かり，地名ちめい。」又また按：漢書かんしょ元紀もとのり云うん「北きた假かり，田た官かん」。蘇そ林りん以為北方ほっぽう田た官かん也。主しゅ以田假かり與あずか貧ひん人じん，故こ曰北假かり也。正義せいぎ括くく地誌ちし云うん：「漢かん五原郡河目縣故城在北假中。北きた假かり，地名ちめい也，在ざい河北かほく，今こん屬ぞく勝かち州しゅう銀ぎん城ぐすく縣けん。漢書かんしょ王おう莽傳云うん『五ご原げん北きた假かり，膏あぶら壤殖穀こく』也。」〉

當とう是ぜ之の時とき，東ひがし胡えびす彊つよし而月氏し盛もり。〈【正義まさよし】氏し音おん支ささえ。括くく地誌ちし云うん：「涼りょう、甘あま、肅、延のべ、沙すな等とう州しゅう地ち，本ほん月がつ氏し國こく。」〉匈奴きょうど單たん于〈【集しゅう解かい】漢書かんしょ音義おんぎ曰：「單たん于者，廣大こうだい之の貌，言げん其象天てん單たん于然。」【索さく隱かくれ】案あん：漢書かんしょ「單たん于姓攣鞮氏し，其國稱しょう之の曰『蠋黎孤こ塗ぬり單たん于』。而匈奴やつ謂いい天為てんい『蠋黎』，謂いい子こ為ため『孤こ塗ぬり』，單たん于者，廣大こうだい之の貌也。言げん其象天てん，故こ曰蠋黎はじむ孤こ塗ぬり單たん于」。又また玄げん晏春秋しゅんじゅう云うん「士し安やす讀漢書しょ，不ふ詳しょう此言，有ゆう胡えびす奴やつ在ざい側がわ，言げん之の曰：『此胡所謂いわゆる天子てんし。』與あずか古書こしょ所說しょせつ符ふ會かい也」。〉曰頭曼，〈【集しゅう解かい】韋昭曰：「音おと瞞。」【索さく隱かくれ】音おと莫官反はん。韋昭音おん瞞。〉頭あたま曼不勝かち秦しん，北きた徙。十餘年而蒙恬死，諸侯しょこう畔ほとり秦しん，中國ちゅうごく擾亂じょうらん，諸しょ秦しん所しょ徙適戍邊者しゃ皆みな復ふく去さ，於是匈奴きょうど得とく寬ひろし，復ふく稍やや度ど河南かなん與あずか中國ちゅうごく界かい於故塞ふさが。

單たん于有太子たいし名めい冒おかせ頓とみ。〈【索さく隱かくれ】冒おかせ音おん墨すみ，又また如字。〉後こう有ゆう所しょ愛あい閼氏，〈【索さく隱かくれ】舊きゅう音おと於連、於曷反はん二に音おと。匈奴きょうど皇后こうごう號ごう也。習鑿齒ぱ與あずか燕つばめ王おう書しょ曰：「山下やました有ゆう紅べに藍あい，足下あしもと先さき知ち不ふ？北方ほっぽう人じん探さがせ取ど其花染しみ緋ひ黃き，挼取其上英えい鮮者作さく煙けむり肢し，婦人ふじん將しょう用よう為ため顏色かおいろ。吾われ少時しょうじ再三さいさん過か見み煙けむり肢し，今日きょう始はじめ視し紅べに藍あい，後ご當為とうい足下あしもと致其種しゅ。匈奴きょうど名めい妻つま作さく『閼支』，言げん其可愛あい如煙肢し也。閼音煙けむり。想そう足下あしもと先さき亦また不作ふさく此讀漢書かんしょ也。」〉生なま少子しょうし，而單于欲廢はい冒おかせ頓ひたぶる而立じりつ少子しょうし，乃使冒おかせ頓ひたぶる質しつ於月氏し。冒おかせ頓ひたぶる既すんで質しつ於月氏し，而頭曼急擊げき月がつ氏し。月つき氏し欲よく殺ころせ冒おかせ頓ひたぶる，冒おかせ頓ひたぶる盜ぬすめ其善馬ば，騎き之の亡ほろび歸き。頭あたま曼以為ため壯たけし，令れい將しょう萬まん騎き。冒おかせ頓ひたぶる乃作為さくい鳴鏑なりかぶら，〈【集しゅう解かい】漢書かんしょ音義おんぎ曰：「鏑かぶら，箭や也，如今鳴な箭や也。」韋昭曰：「矢や鏑かぶら飛ひ則そく鳴な。」【索さく隱かくれ】應おう劭云「髐箭也。」韋昭云うん：「矢や鏑かぶら飛ひ則そく鳴な。」〉習勒其騎射きしゃ，令れい曰：「鳴鏑なりかぶら所しょ射しゃ而不悉射者しゃ，斬き之これ。」行ぎょう獵りょう鳥獸ちょうじゅう，有ゆう不ふ射い鳴鏑なりかぶら所しょ射しゃ者しゃ，輒斬之の。已やめ而冒頓ひたぶる以鳴鏑なりかぶら自じ射い其善馬ば，左右さゆう或ある不ふ敢射者しゃ，冒おかせ頓ひたぶる立りつ斬き不ふ射い善ぜん馬ば者しゃ。居きょ頃ごろ之の，復ふく以鳴鏑なりかぶら自じ射い其愛妻つま，左右さゆう或ある頗恐，不ふ敢射，冒おかせ頓ひたすら又また復ふく斬き之これ。居きょ頃ごろ之の，冒おかせ頓ひたぶる出獵しゅつりょう，以鳴鏑なりかぶら射い單たん于善馬ば，左右さゆう皆みな射しゃ之の。於是冒おかせ頓知とんち其左右さゆう皆みな可用かよう。從したがえ其父單たん于頭曼獵，以鳴鏑なりかぶら射しゃ頭あたま曼，其左右さゆう亦また皆みな隨ずい鳴鏑なりかぶら而射殺しゃさつ單たん于頭曼，遂とげ盡つき誅其後ご母はは與あずか弟おとうと及大臣だいじん不ふ聽從ちょうじゅう者しゃ。冒おかせ頓ひたぶる自立じりつ為ため單たん于。

冒おかせ頓ひたぶる既すんで立りつ，〈【集しゅう解かい】徐じょ廣ひろ曰：「秦はた二世元年壬辰歲立。」〉是ぜ時じ東ひがし胡えびす彊つよし盛もり，聞冒頓ひたすら殺ころせ父ちち自立じりつ，乃使使し謂いい冒おかせ頓ひたぶる，欲得よくとく頭あたま曼時有ゆう千せん里さと馬ば。冒おかせ頓ひたぶる問とい群臣ぐんしん，群臣ぐんしん皆みな曰：「千里せんり馬ば，匈奴きょうど寶馬ほうま也，勿與。」冒おかせ頓ひたぶる曰：「柰何與あずか人ひと鄰國而愛一いち馬うま乎？」遂とげ與あずか之これ千里せんり馬ば。居きょ頃ごろ之の，東ひがし胡えびす以為冒おかせ頓ひたぶる畏かしこ之これ，乃使使し謂いい冒おかせ頓ひたぶる，欲得よくとく單たん于一閼氏。冒おかせ頓ひたぶる復ふく問とい左右さゆう，左右さゆう皆みな怒いか曰：「東ひがし胡えびす無道むどう，乃求閼氏！請擊之の。」冒おかせ頓ひたぶる曰：「柰何與あずか人ひと鄰國愛あい一いち女子じょし乎？」遂とげ取ど所ところ愛あい閼氏予よ東ひがし胡えびす。東ひがし胡えびす王おう愈いよいよ益えき驕おご，西にし侵おかせ。與あずか匈奴きょうど間あいだ，中有ちゅうう棄地，莫居，千せん餘あまり里さと，各かく居きょ其邊為ため甌脫。〈【集しゅう解かい】韋昭曰：「界さかい上じょう屯たむろ守もり處しょ。」【索さく隱かくれ】服ふく虔けん云うん「作土さくど室しつ以伺漢人かんど」。又また纂文曰「甌脫，土穴つちあな也」。又また云うん是ぜ地名ちめい，故こ下した云うん「生得しょうとく甌脫王おう」。韋昭云うん「界さかい上じょう屯たむろ守もり處しょ也」。甌音一いち侯こう反はん。脫だつ音おと徒と活かつ反はん。【正義まさよし】按：境上さかいかみ斥候せっこう之これ室しつ為ため甌脫也。〉東ひがし胡えびす使し使し謂いい冒おかせ頓ひたぶる曰：「匈奴きょうど所與しょよ我が界かい甌脫外がい棄地，匈奴きょうど非ひ能のう至いたり也，吾われ欲よく有ゆう之これ。」冒おかせ頓ひたぶる問とい群臣ぐんしん，群臣ぐんしん或ある曰：「此棄地ち，予よ之の亦また可か，勿予亦また可か。」於是冒おかせ頓ひたぶる大だい怒いか曰：「地ち者しゃ，國之くにゆき本ほん也，柰何予よ之の！」諸しょ言げん予よ之これ者しゃ，皆みな斬き之これ。冒おかせ頓ひたすら上馬かみうま，令れい國こく中有ちゅうう後者こうしゃ斬き，遂とげ東ひがし襲擊しゅうげき東ひがし胡えびす。東ひがし胡えびす初はつ輕けい冒おかせ頓ひたぶる，不為ふため備。及冒頓ひたぶる以兵至いたり，擊げき，大だい破滅はめつ東ひがし胡えびす王おう，而虜其民人じん及畜產ちくさん。既すんで歸き，西にし擊げき走はし月つき氏し，南みなみ並なみ樓ろう煩はん、白しろ羊ひつじ河南かなん王おう。〈【索さく隱かくれ】如淳云うん：「白しろ羊ひつじ王おう居きょ河南かなん。」〉悉復收おさむ秦しん所しょ使し蒙こうむ恬所奪だつ匈奴きょうど地ち者しゃ，與あずか漢かん關せき故こ河南かなん塞ふさが，至いたり朝あさ那な、膚はだ施ほどこせ，〈【集しゅう解かい】徐じょ廣ひろ曰：「在ざい上郡かみごおり。」【正義まさよし】漢かん朝ちょう那な故こ城しろ在原ありはら州しゅう百ひゃく泉いずみ縣西けんせい七なな十じゅう里り，屬ぞく安定あんてい郡ぐん。膚はだ施ほどこせ，縣けん，秦はた不ふ改あらため，今こん延のぶ州しゅう膚はだ施ほどこせ縣けん是ぜ。〉遂とげ侵おかせ燕つばめ、代だい。是ぜ時じ漢かん兵へい與あずか項羽こうう相しょう距，中國ちゅうごく罷やめ於兵革へいかく，以故冒おかせ頓ひたぶる得とく自彊じきょう，控ひかえ弦つる之の士し三さん十じゅう餘あまり萬まん。

自じ淳じゅん維以至いたり頭あたま曼千有餘ゆうよ歲とし，時じ大時おおとき小しょう，別べつ散ち分離ぶんり，尚なお矣，其世傳でん不可ふか得とく而次云うん。然しか至いたり冒おかせ頓ひたぶる而匈奴やつ最さい彊つよし大だい，盡つき服從ふくじゅう北きた夷えびす，而南與あずか中國ちゅうごく為ため敵國てきこく，其世傳でん國こく官かん號ごう乃可得とく而記云うん。

置おけ左右さゆう賢けん王おう，左右さゆう谷だに蠡王，〈【集しゅう解かい】服ふく虔けん曰：「谷たに音おん鹿しか。蠡音離はなれ。」【索さく隱かくれ】服ふく虔けん音おと鹿しか離はなれ。蠡，又また音おと黎はじむ。〉左右さゆう大將たいしょう，左右さゆう大だい都と尉じょう，左右さゆう大だい當とう戶と，左右さゆう骨こつ都と侯こう。〈【集しゅう解かい】骨ほね都と，異姓いせい大臣だいじん。【索さく隱かくれ】按：後こう漢書かんしょ云うん「骨ほね都と侯こう，異姓いせい大臣だいじん」。〉匈奴きょうど謂いい賢けん曰「屠ほふ耆」，〈【集しゅう解かい】徐じょ廣ひろ曰：「屠ほふ，一作いっさく『諸もろ』。」〉故こ常つね以太子たいし為ため左ひだり屠ほふ耆王。自じ如左右さゆう賢けん王おう以下いか至當しとう戶ど，大だい者しゃ萬まん騎き，小者こもの數すう千せん，凡二に十じゅう四よん長ちょう，立だて號ごう曰「萬まん騎き」。諸しょ大臣だいじん皆みな世よ官かん。呼よび衍氏，蘭らん氏し，〈【正義まさよし】顏かお師し古こ云うん：「呼よび衍，即今そっこん鮮卑姓せい呼よび延のべ者しゃ也。蘭らん姓せい今いま亦また有ゆう之の。」〉其後有ゆう須卜氏し，〈【集しゅう解かい】呼よび衍氏、須卜氏し常つね與あずか單たん于婚姻こんいん。須卜氏し主ぬし獄ごく訟。【索さく隱かくれ】按：後こう漢書かんしょ云うん「呼よび衍氏、須卜氏し常つね與あずか單たん于婚姻こんいん。須卜氏し主ぬし獄ごく訟」也。【正義まさよし】後ご漢書かんしょ云うん：「呼よび衍氏、須卜氏し常つね與あずか單たん于婚姻こんいん。」〉此三姓其貴種也。諸しょ左ひだり方かた王將おうしょう居きょ東方とうほう，直上ちょくじょう谷だに〈【索さく隱かくれ】案あん：姚氏云うん「古こ字じ例れい以『直ただし』為ため『值』。值者，當とう也」。【正義まさよし】上谷うえだに郡ぐん，今こん媯州也。言げん匈奴きょうど東方とうほう南出みなみで，直ちょく當とう媯州也。〉以往いおう者しゃ，東ひがし接せっ穢けがれ貉むじな、朝鮮ちょうせん；右みぎ方かた王將おうしょう居きょ西方せいほう，直上ちょくじょう郡ぐん〈【正義まさよし】上郡かみごおり故こ城しろ在ざい涇州上縣かみあがた東南とうなん五ご十じゅう里さと。言げん匈奴きょうど西にし方南ほうなん直ただし當とう綏州也。〉以西いせい，接せっ月がつ氏し、氐、羌；〈【索さく隱かくれ】西にし接せっ氐、羌，案あん：風俗ふうぞく通どおり云うん「二に氐，本ほん西南せいなん夷えびす種しゅ。地理ちり志こころざし武たけ都と有ゆう白馬はくば氐」。又また魚さかな豢魏略りゃく云うん「漢かん置おけ武たけ都と郡ぐん，排はい其種人じん，分ふん竄山谷だに或ある號ごう青あお氐，或ある號ごう白しろ氐」。纂文云うん「氐亦羊ひつじ稱しょう」。說せつ文ぶん云うん「羌，西方せいほう牧羊ぼくよう人じん」。續ぞく漢書かんしょ云うん「羌，三苗姜姓之別，舜しゅん徙於三さん危，今こん河かわ關せき之の西南せいなん羌是也これや」。〉而單于之庭にわ直じき代だい、雲くも中ちゅう：〈【索さく隱かくれ】案あん：謂いい匈奴きょうど所しょ都と處しょ為ため「庭にわ」。樂らく產さん云うん「單たん于無城郭じょうかく，不知ふち何なん以國之の。穹廬前地まえじ若わか庭にわ，故こ云うん庭にわ」。【正義まさよし】代だい郡ぐん城じょう，北狄ほくてき代だい國こく，秦はた漢かん代だい縣けん城じょう也，在ざい蔚州羌胡縣けん北きた百ひゃく五ご十じゅう里さと。雲くも中ちゅう故こ城しろ，趙ちょう雲くも中城なかぐすく，秦はた雲くも中郡なかぐん，在ざい勝かち州しゅう榆林縣けん東北とうほく四よん十じゅう里さと。言げん匈奴きょうど之の南みなみ直ちょく當代とうだい、雲くも中也ちゅうや。〉各かく有ゆう分地ぶんち，逐水草くさ移徙わたまし。而左右さゆう賢けん王おう、左右さゆう谷だに蠡王最さい為ため大だい，左右さゆう骨こつ都と侯こう輔政。諸しょ二に十じゅう四長亦各自置千長、百ひゃく長ちょう、什長、〈【索さく隱かくれ】案あん：續ぞく漢かん書志しょし云うん「里さと有ゆう魁さきがけ，人にん有ゆう什伍。里さと魁さきがけ主ぬし一いち里さと百ひゃく家いえ，什主十じゅう家いえ，伍長ごちょう五ご家いえ，以相檢察けんさつ」。故こ賈誼過か秦しん論ろん以為「俯起什百之の中なか」是也これや。〉裨小王おう、相そう、封ふう〈【集しゅう解かい】徐じょ廣ひろ曰：「一作いつさく『將しょう』。」〉都と尉じょう、當とう戶と、且渠之の屬ぞく。〈【正義まさよし】且，子し餘よ反たん。顏かお師し古こ云うん：「今いま之の沮渠姓せい，蓋ぶた本ほん因いん此官。」〉

歲とし正月しょうがつ，諸しょ長ちょう小しょう會かい單たん于庭，祠ほこら。五月ごがつ，大會たいかい蘢城，〈【索さく隱かくれ】漢書かんしょ作さく「龍りゅう城じょう」，亦また作さく「蘢」字じ。崔ちぇ浩ひろし云うん「西方せいほう胡えびす皆みな事ごと龍神りゅうじん，故こ名めい大會たいかい處しょ為ため龍りゅう城じょう」。後こう漢書かんしょ云うん「匈奴きょうど俗ぞく，歲さい有ゆう三さん龍りゅう祠ほこら，祭まつり天神てんじん」。〉祭まつり其先、天地てんち、鬼神きじん。秋あき，馬肥うまごやし，大會たいかい蹛林，〈【集しゅう解かい】漢書かんしょ音義おんぎ曰：「匈奴きょうど秋あき社しゃ八はち月がつ中ちゅう皆みな會かい祭さい處しょ。蹛音帶たい。」【索さく隱かくれ】服ふく虔けん云うん：「音おと帶たい。匈奴きょうど秋あき社しゃ八はち月がつ中ちゅう皆みな會かい祭さい處しょ。」鄭てい氏し云うん：「地名ちめい也。」晉すすむ灼云「李り陵りょう與あずか蘇武そぶ書しょ云うん『相あい競きおい趨蹛林りん』」，則のり服ふく虔けん說せつ是也これや。又また韋昭音おん多た藍あい反はん。姚氏案あん：李り牧まき傳でん「大破たいは匈奴きょうど，滅めつ襜襤」，此字與あずか韋昭音おん頗同，然しか林はやし襤聲相近すけちか，或ある以「林はやし」為ため「襤」也。【正義まさよし】顏かお師し古こ云うん：「蹛者，繞にょう林りん木き而祭也。鮮卑之の俗ぞく，自じ古こ相傳そうでん，秋祭あきまつり無む林はやし木き者しゃ，尚なお豎柳枝えだ，眾騎馳はせ繞にょう三さん周しゅう乃止，此其遺法ほう也。」〉課か校こう人畜じんちく〈【正義まさよし】許もと又また反はん。〉計けい。其法，拔刃尺じゃく者しゃ死し，坐すわ盜ぬすめ者しゃ沒入ぼつにゅう其家；有罪ゆうざい小者こもの軋きし，〈【集しゅう解かい】漢書かんしょ音義おんぎ曰：「刃は刻こく其面。」【索さく隱かくれ】服ふく虔けん云うん：「刀かたな割わり面めん也，音おと烏がらす八反はったん。」鄧展云うん：「歷れき也。」如淳云うん：「撾，抶也。」三さん蒼あお云うん：「軋きし，輾也。」說せつ文ぶん云うん：「輾，轢也。」【正義まさよし】顏かお師し古こ云うん：「軋きし者しゃ謂いい輾轢其骨節ぶし，若わか今いま之の厭いや踝くるぶし者しゃ也。」〉大だい者しゃ死し。獄ごく久ひさ者しゃ不ふ過か十じゅう日にち，一國之囚不過數人。而單于朝出で營，拜はい日び之の始はじめ生せい，夕ゆう拜はい月がつ。其坐，長ちょう左ひだり而北鄉きょう。〈【正義まさよし】其座北向きたむき，長者ちょうじゃ在ざい左ひだり，以左為ため尊みこと也。〉日上ひかみ戊つちのえ己おのれ。其送死し，有ゆう棺かん槨金銀きんぎん衣ころも裘，而無封ふう樹じゅ喪服もふく；〈【集しゅう解かい】張ちょう華はな曰：「匈奴きょうど名めい冢曰逗落。」〉近きん幸こう臣しん妾わらわ從したがえ死者ししゃ，多た至いたり數すう千せん百ひゃく人にん。〈【正義まさよし】漢書かんしょ作さく「數すう十じゅう百ひゃく人にん」。顏かお師し古こ云うん：「或ある數すう十じゅう人にん，或ある百ひゃく人にん。」〉舉事而候星ぼし月がつ，月がつ盛もり壯たけし則そく攻おさむ戰せん，月がつ虧則退すさ兵へい。其攻戰せん，斬首ざんしゅ虜とりこ賜たまもの一いち卮酒，而所得しょとく鹵獲ろかく因いん以予之の，得とく人じん以為奴婢ぬひ。故こ其戰，人人ひとびと自じ為ため趣おもむき利り，善よ為ため誘さそえ兵へい以冒敵てき。故こ其見敵てき則そく逐利，如鳥之の集しゅう；其困敗はい，則のり瓦解がかい雲散うんさん矣。戰せん而扶輿こし死者ししゃ，盡つき得え死者ししゃ家財かざい。

後こう北きた服ふく渾庾、屈こごめ射い、〈【索さく隱かくれ】國名こくめい。射い音おん亦また，又また音おと石せき。〉丁ちょう零れい、〈【索さく隱かくれ】按：魏ぎ略りゃく云うん「丁ひのと零れい在ざい康やすし居きょ北きた，去さ匈奴きょうど庭にわ接せっ習水七なな千里せんり」。又また云うん「匈奴きょうど北きた有ゆう渾窳國こく」。〉鬲昆、薪たきぎ犁之國こく。〈【正義まさよし】已上いじょう五ご國こく在ざい匈奴きょうど北きた。〉於是匈奴きょうど貴人きじん大臣だいじん皆みな服ふく，以冒頓ひたすら單たん于為賢けん。

是これ時じ漢かん初はつ定てい中國ちゅうごく，徙韓王おう信しん於代，都と馬ば邑。匈奴きょうど大だい攻圍こうい馬ば邑，韓かん王おう信しんじ降ぶ匈奴きょうど。匈奴きょうど得とく信しんじ，因いん引兵南みなみ逾句注ちゅう，攻おさむ太ふとし原はら，至いたり晉すすむ陽ひ下か。高こう帝みかど自じ將兵しょうへい往擊之の。會かい冬ふゆ大寒だいかん雨う雪ゆき，卒そつ之の墮指者しゃ十じゅう二に三さん，於是冒おかせ頓ひたぶる詳しょう敗走はいそう，誘さそえ漢かん兵へい。漢かん兵へい逐擊冒おかせ頓ひたぶる，冒おかせ頓ひたぶる匿其精兵せいびょう，見み其羸弱じゃく，於是漢かん悉兵，多た步兵ほへい，三さん十じゅう二に萬まん，北きた逐之。高こう帝みかど先さき至いたり平城ひらじろ，〈集しゅう解かい徐じょ廣ひろ曰：「在ざい雁かり門もん。」〉步兵ほへい未み盡つき到いた，冒おかせ頓ひたぶる縱たて精兵せいびょう四十萬騎圍高帝於白登，〈【正義まさよし】白はく登のぼる台だい在ざい白しろ登山とざん上じょう，朔ついたち州しゅう定てい襄じょう縣けん東ひがし三さん十じゅう里さと。定てい襄じょう縣けん，漢かん平城ひらじょう縣けん也。〉七なな日にち，漢かん兵へい中外ちゅうがい不ふ得とく相しょう救すくい餉。匈奴きょうど騎き，其西方かた盡つき白馬はくば，東方とうほう盡つき青あお駹馬，〈【索さく隱かくれ】駹音武江たけえ反はん。案あん：青あお駹馬，色しょく青あお。【正義まさよし】鄭てい玄げん云うん：「駹，不純ふじゅん也。」說せつ文ぶん云うん：「駹，面めん顙皆白しろ。」爾なんじ雅みやび云うん黑くろ馬面うまづら白也はくや。北方ほっぽう盡つき烏がらす驪馬，【索さく隱かくれ】說せつ文ぶん云うん：「驪，黑色こくしょく。」〉南方なんぽう盡つき騂馬。〈【索さく隱かくれ】案あん：詩し傳でん云うん「赤あか黃き曰騂」。〉高こう帝みかど乃使使し間あいだ厚あつ遺のこ閼氏，閼氏乃謂冒おかせ頓ひたぶる曰：「兩りょう主おも不ふ相あい困こま。今こん得とく漢かん地ち，而單于終非ひ能のう居きょ之の也。且漢王おう亦また有ゆう神かみ，單たん于察之の。」冒おかせ頓ひたすら與あずか韓かん王おう信之のぶゆき將しょう王おう黃き、趙ちょう利とし期き，而黃、利り兵へい又また不ふ來き，疑うたぐ其與漢かん有ゆう謀はかりごと，亦また取と閼氏之の言げん，乃解圍かこえ之の一角いっかく。於是高だか帝みかど令れい士し皆みな持じ滿まん傅でん〈【索さく隱かくれ】音おと附ふ。〉矢や外がい鄉きょう，從したがえ解かい角かく直ちょく出で，竟與大軍たいぐん合あい，而冒頓ひたすら遂とげ引兵而去。漢かん亦また引兵而罷，使つかい劉りゅう敬たかし結ゆい和親わしん之の約やく。

是ぜ後ご韓かん王おう信しん為ため匈奴きょうど將はた，及趙利り、王おう黃き等とう數すう倍ばい約やく，侵おかせ盜ぬすめ代だい、雲くも中ちゅう。居きょ無む幾何きか，陳ちん豨反，又また與あずか韓かん信しん合ごう謀はかりごと擊げき代だい。漢かん使し樊噲往擊之の，復ふく拔代、雁かり門もん、雲くも中郡なかぐん縣けん，不出ふしゅつ塞ふさが。是ぜ時じ匈奴きょうど以漢將はた眾往降，故こ冒おかせ頓ひたすら常つね往來おうらい侵おかせ盜ぬすめ代地だいち。於是漢かん患之，高こう帝みかど乃使劉りゅう敬たかし奉たてまつ宗室そうしつ女おんな公主こうしゅ為ため單たん于閼氏し，歲さい奉たてまつ匈奴きょうど絮繒酒しゅ米まい食物しょくもつ各かく有數ゆうすう，約やく為ため昆こん弟おとうと以和親おや，冒おかせ頓ひたぶる乃少止どめ。後こう燕つばめ王おう盧の綰たがね反はん，率りつ其黨數すう千せん人にん降くだ匈奴きょうど，往來おうらい苦く上谷うえたに以東いとう。

高祖こうそ崩くずし，孝惠たかえ、呂りょ太ふとし后きさき時じ，漢かん初はつ定じょう，故こ匈奴きょうど以驕。冒おかせ頓ひたぶる乃為書しょ遺のこ高こう后きさき，妄言ぼうげん。高こう后きさき欲よく擊げき之の，〈【索さく隱かくれ】案あん：漢書かんしょ云うん「高こう后きさき時じ，冒おかせ頓ひたすら浸ひた驕おご，乃使使し遺のこ高こう后きさき書しょ曰：『孤こ僨之君くん，生なま於沮澤之さわの中ちゅう，長ちょう於平野牛やぎゅう馬ば之の域いき，數すう至いたり邊境へんきょう，原はら游ゆう中國ちゅうごく。陛下へいか獨立どくりつ，孤こ僨獨居どっきょ，兩りょう主おも不ふ樂らく，無む以自娛，原はら以所有しょゆう，易えき其所無む。』。高こう后きさき怒いか，欲よく擊げき之の」。〉諸しょ將しょう曰：「以高帝みかど賢けん武たけ，然しか尚なお困こま於平城じょう。」於是高だか后きさき乃止，〈【索さく隱かくれ】案あん漢書かんしょ，季き布ぬの諫，高こう后きさき乃止。〉復ふく與あずか匈奴きょうど和親わしん。

至孝しこう文ぶん帝みかど初はつ立だて，復ふく修おさむ和親わしん之の事こと。其三さん年ねん五ご月がつ，匈奴きょうど右みぎ賢けん王おう入居にゅうきょ河南かなん地ち，侵おかせ盜ぬすめ上郡かみごおり葆塞蠻夷ばんい，殺ころせ略りゃく人民じんみん。於是孝文たかふみ帝みかど詔みことのり丞相じょうしょう灌嬰發車はっしゃ騎き八はち萬まん五ご千せん，詣まい高こう奴やつ，〈正義まさよし延のぶ州しゅう城本しろもと漢かん高だか奴やつ縣けん舊都きゅうと。〉擊げき右みぎ賢けん王おう。右みぎ賢けん王おう走出はしりで塞ふさが。文ぶん帝みかど幸さいわい太ふとし原はら。是ぜ時じ濟すみ北きた王おう反はん，文ぶん帝みかど歸き，罷やめ丞相じょうしょう擊げき胡えびす之の兵へい。

其明年ねん，單たん于遺漢書かんしょ曰：「天てん所しょ立たて匈奴きょうど大だい單たん于敬問とい皇帝こうてい無む恙。前まえ時じ皇帝こうてい言げん和親わしん事ごと，稱しょう書しょ意い，合歡ごうかん。漢かん邊べ吏侵侮あなど右みぎ賢けん王おう，右みぎ賢けん王おう不ふ請，聽後義よし盧の侯こう難なん氏し〈【集しゅう解かい】徐じょ廣ひろ曰：「音おと支ささえ。」【索さく隱かくれ】匈奴きょうど將しょう名めい也。氏し音おん支ささえ。〉等とう計けい，與あずか漢かん吏相距，絕ぜっ二に主ぬし之の約やく，離はなれ兄弟きょうだい之の親おや。皇帝こうてい讓ゆずる書しょ再さい至いたり，發はつ使し以書報むくい，不ふ來き，漢かん使し不ふ至いたり，漢かん以其故こ不和ふわ，鄰國不ふ附ふ。今こん以小吏しょうり之の敗はい約やく故こ，罰ばっ右みぎ賢けん王おう，使つかい之の西にし求もとむ月がつ氏し擊げき之の。以天之の福ぶく，吏卒良りょう，馬うま彊つよし力りょく，以夷滅めつ月がつ氏し，盡つき斬殺ざんさつ降下こうか之の。定じょう樓ろう蘭らん、〈【集しゅう解かい】徐じょ廣ひろ曰：「一いち云うん『樓ろう湟』。」【正義まさよし】漢書かんしょ云うん鄯善國名こくめい樓ろう蘭らん，去さ長安ながやす一いち千せん六ろく百ひゃく里さと也。烏がらす孫まご、呼よび揭【集しゅう解かい】音おと桀。【索さく隱かくれ】音おと傑すぐる，又また音おと丘たかし列れつ反はん。【正義まさよし】揭音桀，又また其例反はん。二國皆在瓜州西北。烏がらす孫まご，戰國せんごく時じ居きょ瓜ふり州しゅう。〉及其旁つくり二に十じゅう六ろく國こく，皆みな以為匈奴きょうど。〈【索さく隱かくれ】案あん：謂いい皆みな入にゅう匈奴きょうど一いち國こく。〉諸しょ引弓之の民みん，併為一家いっか。北きた州しゅう已やめ定じょう，原げん寢ね兵へい休きゅう士卒しそつ養やしなえ馬ば，除じょ前ぜん事こと，復ふく故こ約やく，以安邊べ民みん，以應始はじめ古いにしえ，使つかい少しょう者しゃ得とく成なり其長，老ろう者しゃ安やす其處，世世せぜ平樂へいらく。未み得とく皇帝こうてい之の志こころざし也，故こ使つかい郎ろう中ちゅう系けい雩淺奉書ほうしょ〈【集しゅう解かい】雩音火ひ胡えびす反はん。【索さく隱かくれ】系けい，胡えびす計けい反はん。雩，火ひ胡えびす反はん。〉請，獻けんじ橐他一いち匹ひき，騎馬きば二に匹ひき，駕が二に駟し。〈【正義まさよし】顏かお師し古こ云うん：「駕が，可か駕が車しゃ也。二に駟し，八はち匹ひき馬ば也。」〉皇帝こうてい即そく不ふ欲よく匈奴きょうど近ちか塞ふさが，則のり且詔吏民遠とお舍しゃ。使者ししゃ至いたり，即そく遣や之これ。」以六月中來至薪望之地。〈【集しゅう解かい】漢書かんしょ音義おんぎ曰：「塞ふさが下しも地名ちめい。」【索さく隱かくれ】望もち薪たきぎ之の地ち。服ふく虔けん云うん：「漢かん界かい上じょう塞ふさが下しも地名ちめい，今こん匈奴きょうど使し至いたり於此也。」〉書しょ至いたり，漢かん議ぎ擊げき與あずか和親わしん孰便。公卿くぎょう皆みな曰：「單たん于新破やぶ月つき氏し，乘じょう勝かち，不可ふか擊げき。且得匈奴きょうど地ち，澤さわ鹵，〈【正義まさよし】上じょう音おと舄。〉非ひ可か居きょ也。和親わしん甚便。」漢かん許もと之の。

孝文たかふみ皇帝こうてい前まえ六ろく年ねん，漢かん遺のこ匈奴きょうど書しょ曰：「皇帝こうてい敬けい問とい匈奴きょうど大だい單たん于無恙。使つかい郎ろう中ちゅう系けい雩淺遺のこ朕ちん書しょ曰：『右みぎ賢けん王おう不ふ請，聽後義よし盧の侯こう難なん氏し等とう計けい，絕ぜっ二に主ぬし之の約やく，離はなれ兄弟きょうだい之の親おや，漢かん以故不和ふわ，鄰國不ふ附ふ。今こん以小吏敗約やく，故こ罰ばっ右みぎ賢けん王おう使し西にし擊げき月がつ氏し，盡つき定之さだゆき。原げん寢ね兵へい休きゅう士卒しそつ養やしなえ馬ば，除じょ前ぜん事こと，復ふく故こ約やく，以安邊べ民みん，使つかい少しょう者しゃ得とく成なり其長，老ろう者しゃ安やす其處，世世せぜ平樂へいらく。』朕ちん甚嘉之の，此古聖ひじり主ぬし之の意い也。漢かん與あずか匈奴きょうど約やく為ため兄弟きょうだい，所しょ以遺單たん于甚厚あつ。倍ばい約やく離はなれ兄弟きょうだい之の親おや者しゃ，常つね在ざい匈奴きょうど。然しか右みぎ賢けん王事おうじ已やめ在ざい赦前，單たん于勿深ふか誅。單たん于若稱しょう書しょ意い，明あきら告つげ諸しょ吏，使つかい無む負まけ約やく，有信ありのぶ，敬けい如單于書。使者ししゃ言げん單たん于自將はた伐き國有こくゆう功こう，甚苦兵事へいじ。服ふく綉袷綺あやぎぬ衣ころも、〈【索さく隱かくれ】案あん：小顏こがお云うん「服ふく者しゃ，天子てんし所しょ服ふく也。以綉為ため表ひょう，綺あやぎぬ為ため里さと」。以賜冒おかせ頓とみ。字じ林りん云うん「袷あわせ衣ころも無む絮也。音おと公こう洽ひろし反たん」。〉綉袷長ちょう襦、〈【集しゅう解かい】徐じょ廣ひろ曰：「一本いっぽん無な『袷あわせ』字じ。」〉錦にしき袷あわせ袍ほう各かく一いち，比ひ餘あまり一いち，〈【集しゅう解かい】徐じょ廣ひろ曰：「或ある作さく『疏比』也。」【索さく隱かくれ】案あん：漢書かんしょ作さく「比ひ疏一」。比ひ音おん鼻はな。小顏こがお云うん「辮髮べんぱつ之の飾かざり也，以金為之ためゆき」。廣こう雅みやび云うん「比ひ，櫛くし也」。蒼あお頡篇云うん「靡者為ため比ひ，麤者為ため梳くしけず」。按蘇林りん說せつ，今いま亦また謂いい之の「梳くしけず比ひ」，或ある亦また帶おび飾かざり者しゃ也。〉黃金おうごん飾かざり具ぐ帶たい一いち，〈【集しゅう解かい】漢書かんしょ音義おんぎ曰：「要よう中大ちゅうだい帶たい。」【索さく隱かくれ】按：謂いい要よう中大ちゅうだい帶たい。〉黃金おうごん胥紕一いち，〈【集しゅう解かい】徐じょ廣ひろ曰：「或ある作さく『犀さい毗』，而無『一いち』字じ。」【索さく隱かくれ】漢かん書見しょけん作さく「犀さい毗」，或ある無下むげ「一いち」字じ。此作「胥」者しゃ，犀さい聲ごえ相近すけちか，或ある誤あやま。張ちょう晏云「鮮卑郭かく落帶，瑞みず獸じゅう名めい也，東ひがし胡えびす好こう服ふく之の」。按：戰國せんごく策さく云うん「趙ちょう武たけし靈れい王おう賜たまもの周しゅう紹具帶たい黃金おうごん師し比ひ」。延のべ篤あつし云うん「胡えびす革帶かわおび鉤かぎ也」。則のり此帶鉤かぎ亦また名な「師し比ひ」，則のり「胥」「犀さい」與あずか「師し」並なみ相近すけちか，而說各かく異い耳みみ。班はん固かた與あずか竇憲箋云「賜たまもの犀さい比ひ金頭かながしら帶たい」是也これや。〉綉十じゅう匹ひき，錦にしき三さん十じゅう匹ひき，赤あか綈、〈【正義まさよし】音おと啼。【索さく隱かくれ】案あん：說せつ文ぶん云うん「綈，厚あつ繒也」。〉綠みどり繒各四よん十じゅう匹ひき，使つかい中ちゅう大夫たいふ意い、謁者令れい肩かた遺のこ單たん于。」

後こう頃ごろ之の，冒おかせ頓死とんし，子し稽粥立りつ，〈【索さく隱かくれ】稽音雞。粥かゆ音おと育いく。〉號ごう曰老上じょう單たん于。

老ろう上うえ稽粥單たん于初立りつ，〈【集しゅう解かい】徐じょ廣ひろ曰：「一いち云うん『稽粥第だい二に單たん于』，自じ後ご皆みな以弟別べつ之の。」〉孝文たかふみ皇帝こうてい復ふく遣や宗室そうしつ女おんな公主こうしゅ為ため單たん于閼氏し，使つかい宦者燕つばめ人中ひとなか行ぎょう說せつ〈【正義まさよし】行ぎょう音おん胡えびす郎ろう反はん。中なか行ぎょう，姓せい；說せつ，名めい也。〉傅でん公主こうしゅ。說せつ不ふ欲よく行ぎょう，漢かん彊つよし使し之の。說せつ曰：「必我行ぎょう也，為ため漢かん患者かんじゃ。」中ちゅう行ぎょう說せつ既すんで至いたり，因いん降くだ單たん于，單たん于甚親おや幸こう之の。

初はつ，匈奴きょうど好漢こうかん繒絮食物しょくもつ，中ちゅう行くだり說せつ曰：「匈奴きょうど人じん眾不能ふのう當とう漢かん之の一いち郡ぐん，然しか所以ゆえん彊つよし者しゃ，以衣食しょく異こと，無む仰おおせ於漢也。今こん單たん于變俗ぞく好漢こうかん物ぶつ，漢かん物ぶつ不ふ過か什二，則のり匈奴きょうど盡つき歸き於漢矣。〈【集しゅう解かい】韋昭曰：「言げん漢かん物ぶつ什中之の二入ふたいり匈奴きょうど，匈奴きょうど則そく動どう心しん歸き漢かん矣。」〉其得漢かん繒絮，以馳草くさ棘とげ中ちゅう，衣ころも袴はかま皆みな裂きれ敝，以示不ふ如旃裘之完かん善ぜん也。得とく漢かん食物しょくもつ皆みな去さ之これ，以示不ふ如湩酪〈【集しゅう解かい】湩，乳汁にゅうじゅう也。音おと都と奉たてまつ反はん。【索さく隱かくれ】重じゅう駱。音おと潼酪二に音おと。按：三さん蒼あお云うん「潼，乳汁にゅうじゅう也」。字じ林りん云うん「竹たけ用よう反たん」。穆きよし天子てんし傳でん云うん「牛馬ぎゅうば之の湩，臣しん菟うさぎ人じん所しょ具ぐ」。〉之これ便びん美也みや。」於是說教せっきょう單たん于左右さゆう疏記，以計課か其人眾畜物ぶつ。〈【正義まさよし】上じょう許もと又また反はん。〉

漢かん遺のこ單たん于書，牘以尺じゃく一いち寸すん，辭じ曰「皇帝こうてい敬けい問とい匈奴きょうど大だい單たん于無恙」，所しょ遺物いぶつ及言語ご云云うんぬん。中ちゅう行くだり說せつ令れい單たん于遺漢書かんしょ以尺二に寸すん牘，及印封ふう皆みな令れい廣大こうだい長ちょう，倨傲きょごう其辭曰「天地てんち所生しょせい日月じつげつ所しょ置おけ匈奴きょうど大だい單たん于敬問とい漢かん皇帝こうてい無む恙」，所以ゆえん遺物いぶつ言語げんご亦また云うん雲くも。

漢かん使し或ある言げん曰：「匈奴きょうど俗ぞく賤老。」中ちゅう行ぎょう說せつ窮きゅう漢かん使し曰：「而漢俗ぞく屯たむろ戍從軍ぐん當とう發はつ者しゃ，其老親おや豈あに有ゆう不ふ自じ脫だつ溫厚おんこう肥こえ美び以齎送飲食いんしょく行ぎょう戍乎？」漢かん使し曰：「然しか。」中ちゅう行ぎょう說せつ曰：「匈奴きょうど明あかり以戰攻おさむ為事しごと，其老弱じゃく不能ふのう鬥，故こ以其肥こえ美び飲食いんしょく壯健そうけん者しゃ，蓋ぶた以自為ため守衛しゅえい，如此父子ふし各かく得とく久ひさし相あい保たもて，何なに以言匈奴きょうど輕けい老ろう也？」漢かん使し曰：「匈奴きょうど父子ふし乃同穹廬而臥。〈【集しゅう解かい】漢書かんしょ音義おんぎ曰：「穹廬，旃帳。」〉父ちち死し，妻つま其後母はは；兄弟きょうだい死し，盡つき取ど其妻妻つま之の。無冠むかん帶たい之の飾かざり，闕庭之の禮れい。」中ちゅう行ぎょう說せつ曰：「匈奴きょうど之の俗ぞく，人にん食しょく畜肉，飲いん其汁，衣ころも其皮；畜食草くさ飲水のみみず，隨時ずいじ轉移てんい。故こ其急則そく人じん習騎射きしゃ，寬ひろし則のり人じん樂らく無事ぶじ，其約束やくそく輕けい，易えき行ぎょう也。君臣くんしん簡易かんい，一國之政猶一身也。父子ふし兄弟きょうだい死し，取と其妻妻つま之の，惡あく種姓すじょう之の失しつ也。故こ匈奴きょうど雖亂，必立宗むね種しゅ。今こん中國ちゅうごく雖詳〈【索さく隱かくれ】漢書かんしょ作さく「陽ひ」，此亦音おん羊ひつじ。〉不ふ取と其父兄けい之の妻つま，親おや屬ぞく益えき疏則相殺そうさい，至いたり乃易姓せい，皆みな從したがえ此類。且禮義之よしゆき敝，上下じょうげ交怨望もち，而室屋や之の極ごく，生なま力ちから必屈。〈【索さく隱かくれ】以言棟とう宇室屋や之の作さく，人にん盡つき極ごく以營其生，至いたり於氣力りょく屈こごめ竭也。屈こごめ音おん其勿反はん。〉夫おっと力りょく耕こう桑くわ以求衣食いしょく，築ちく城郭じょうかく以自備，故こ其民急きゅう則のり不ふ習戰功こう，緩なる則のり罷やめ於作業さぎょう。嗟土室しつ之これ人にん，顧無多た辭じ，令れい喋喋ちょうちょう〈【集しゅう解かい】音おと諜，利口りこう也。〉而佔佔，〈【集しゅう解かい】音おと昌あきら占うらない反はん，衣裳いしょう貌。〉冠かんむり固かた何なに當とう？」〈【集しゅう解かい】言げん雖復著ちょ冠かんむり，固かた何なに當所とうしょ益えき。【索さく隱かくれ】鄧展曰：「喋ちょう音おん牒。佔，囁ささやき耳語じご。」服ふく虔けん曰：「口舌こうぜつ喋喋ちょうちょう。」如淳曰：「言げん汝なんじ漢人かんど多た居室きょしつ中ちゅう，固かた自じ宜よろし著ちょ冠かんむり，且不足ふそく貴き也。」小顏こがお云うん：「喋喋ちょうちょう，利口りこう也。佔佔，衣裳いしょう貌。喋ちょう音おと昌あきら涉わたる反はん，佔音占うらない。言げん當とう思念しねん，無為むい喋喋ちょうちょう佔佔耳みみ。雖自謂いい著ちょ冠かんむり，何なに所しょ當とう益えき也。」〉

自じ是ぜ之これ後ご，漢かん使し欲よく辯論べんろん者しゃ，中ちゅう行くだり說せつ輒曰：「漢かん使し無む多言たげん，顧漢所しょ輸匈奴やつ繒絮米まい糵，令れい其量中ちゅう，必善美び而己矣，何なに以為言げん乎？且所給きゅう備善則そく已やめ；不備ふび，苦く惡あく，〈【集しゅう解かい】韋昭曰：「苦く，麄也。音おと若わか『靡盬』之の『盬』。」〉則のり候こう秋あき孰，以騎馳はせ蹂而稼穡耳みみ。」〈【集しゅう解かい】徐じょ廣ひろ曰：「蹂音而九きゅう反たん。」〉日夜にちや教きょう單たん于候利害りがい處しょ。

漢かん孝文たかふみ皇帝こうてい十じゅう四よん年ねん，匈奴きょうど單たん于十じゅう四よん萬まん騎き入朝にゅうちょう那な、蕭しょう關せき，殺ころせ北地きたじ都と尉じょう卬，〈集しゅう解かい徐じょ廣ひろ曰：「姓せい孫まご。其子單たん，封ふう為ため鉼侯。白丁はくちょう反はん。」【索さく隱かくれ】卬音五ご郎ろう反はん。徐じょ廣ひろ曰：「姓せい孫まご，其後子こ單たん封ふう為ため瓶びん侯こう。音おと白丁はくちょう反はん。」〉虜とりこ人民じんみん畜產ちくさん甚多，遂とげ至いたり彭陽。〈集しゅう解かい徐じょ廣ひろ曰：「在ざい安定あんてい。」【索さく隱かくれ】出だし彭陽。韋昭云うん：「安定あんてい縣けん。」【正義まさよし】「城しろ」字じ誤あやま也。括くく地誌ちし云うん：「彭城故こ城しろ在ざい涇州臨城縣けん東ひがし二に十じゅう里さと。」案あん：彭城在ざい媯州，與北よぎた地ち郡ぐん甚遠，明あきら非ひ彭城也。〉使つかい奇き兵へい入いれ燒しょう回かい中宮ちゅうぐう，〈【索さく隱かくれ】服ふく虔けん云うん「在ざい北地きたじ，武たけ帝みかど作さく宮みや」。始はじめ皇すめらぎ本紀ほんぎ二に十じゅう七なな年ねん，「登とう雞頭山さん，過か回かい中ちゅう」。武たけ帝みかど元もと封ふう四よん年ねん，通つう回かい中道ちゅうどう。正義せいぎ括くく地誌ちし云うん：「秦はた回かい中宮なかみや在ざい岐州雍縣西にし四よん十じゅう里り，即そく匈奴きょうど所しょ燒しょう者しゃ也。」〉候こう騎き〈索さく隱かくれ崔ちぇ浩ひろし云うん：「候こう，邏騎。」〉至いたり雍甘泉いずみ。〈【正義まさよし】括くく地誌ちし云うん：「雲くも陽ひ也。秦はた之の林はやし光ひかり宮みや，漢かん之の甘あま泉いずみ，在ざい雍州雲くも陽ひ西北せいほく八はち十じゅう里さと。秦はた始はじめ皇すめらぎ作さく甘あま泉宮いずみみや，去さ長安ながやす三さん百ひゃく里り，望見ぼうけん長安ながやす。秦はた皇帝こうてい以來いらい祭さい天てん圜丘處しょ。」〉於是文ぶん帝みかど以中尉ちゅうい周しゅう舍しゃ、郎ろう中ちゅう令れい張ちょう武たけし為ため將軍しょうぐん，發車はっしゃ千せん乘じょう，騎き十じゅう萬まん，軍ぐん長安ながやす旁つくり以備胡えびす寇。而拜昌あきら侯こう盧の卿きょう〈【索さく隱かくれ】案あん：表ひょう「盧の」作さく「玈」，古今ここん字じ耳みみ。〉為ため上郡かみごおり將軍しょうぐん，甯侯魏ぎ遬為北地きたじ將軍しょうぐん，隆たかし慮おもんばか侯ほう周あまね灶為隴西將軍しょうぐん，東陽とうよう侯こう張はり相しょう如為大將軍だいしょうぐん，成なり侯ほう董ただし赤あか〈【正義まさよし】音おと赫。〉為ため前ぜん將軍しょうぐん，大だい發車はっしゃ騎き往擊胡えびす。〈【集しゅう解かい】徐じょ廣ひろ曰：「內史欒布亦また為ため將軍しょうぐん。」〉單たん于留塞ふさが內月餘あまり乃去，漢かん逐出塞ふさが即そく還かえ，不能ふのう有ゆう所しょ殺ころせ。匈奴きょうど日び已やめ驕おご，歲入さいにゅう邊あたり，殺ころせ略りゃく人民じんみん畜產ちくさん甚多，雲くも中ちゅう、遼東りゃおとん最さい甚，至いたり代だい郡ぐん萬まん餘人よにん。漢かん患之，乃使使し遺のこ匈奴きょうど書しょ。單たん于亦使し當とう戶と報謝ほうしゃ，復ふく言ごと和親わしん事ごと。

孝文たかふみ帝みかど後ご二に年ねん，使つかい使し遺のこ匈奴きょうど書しょ曰：「皇帝こうてい敬けい問とい匈奴きょうど大だい單たん于無恙。使つかい當とう戶と且居〈【索さく隱かくれ】漢書かんしょ作さく「且渠」，匈奴きょうど官かん號ごう。〉雕渠難なん、〈【索さく隱かくれ】按：樂らく彥云「當とう戶と、且渠各自かくじ一いち官かん。雕渠難なん為ため此官也」。【正義まさよし】雕渠難なん者しゃ，其姓名めい也。且，子し余よ反たん。〉郎ろう中ちゅう韓かん遼りょう遺のこ朕ちん馬ば二に匹ひき，已やめ至いたり，敬けい受。先帝せんてい制せい：長城ちょうじょう以北いほく，引弓之ゆみの國こく，受命じゅめい單たん于；長城ちょうじょう以內，冠かん帶たい之これ室しつ，朕ちん亦また制せい之の。使つかい萬民耕織射獵衣食，父子ふし無む離はなれ，臣しん主ぬし相しょう安やす，俱無暴逆。今こん聞渫惡あく民みん貪むさぼ降ぶ其進取しんしゅ之の利り，倍ばい義絕ぎぜつ約やく，忘萬民ばんみん之の命めいじ，離はなれ兩りょう主あるじ之の驩，然しか其事已やめ在ざい前ぜん矣。書しょ曰：『二に國こく已やめ和親わしん，兩りょう主しゅ驩說，寢ね兵へい休きゅう卒そつ養やしなえ馬ば，世世せぜ昌あきら樂らく，闟然更始こうし。』〈【集しゅう解かい】徐じょ廣ひろ曰：「闟音㩉，安定あんてい意い也。」〉朕ちん甚嘉之の。聖人せいじん者しゃ日新にっしん，改作かいさく更始こうし，使つかい老ろう者しゃ得とく息いき，幼者ようしゃ得とく長ちょう，各かく保ほ其首領りょう而終其天年ねん。朕ちん與あずか單たん于俱由よし此道，順じゅん天てん恤民，世世せぜ相傳そうでん，施ほどこせ之の無窮むきゅう，天下てんか莫不咸便。漢かん與あずか匈奴きょうど鄰國之の敵てき，匈奴きょうど處ところ北地きたじ，寒かん，殺氣さっき早はや降くだ，故こ詔みことのり吏遺單たん于秫糵金帛絲絮佗物ぶつ歲とし有數ゆうすう。今こん天下てんか大安たいあん，萬民ばんみん熙熙，朕ちん與あずか單たん于為之の父母ちちはは。朕ちん追つい念ねん前ぜん事こと，薄物うすもの細ほそ故ゆえ，謀はかりごと臣しん計けい失しつ，皆みな不足ふそく以離兄弟きょうだい之の驩。朕ちん聞天不ふ頗覆，地ち不偏ふへん載の。朕ちん與あずか單たん于皆捐往細ほそ故ゆえ，俱蹈大道だいどう，墮壞だかい前ぜん惡あく，以圖長久ちょうきゅう，使つかい兩國りょうこく之の民みん若わか一家いっか子こ。元元もともと萬民ばんみん，下しも及魚鱉，上うえ及飛鳥とり，跂行喙息〈索さく隱かくれ案あん：跂音岐，又また音おと企くわだて。言げん蟲ちゅう豸之類るい，或ある企くわだて踵かかと而行，或ある以喙而息，皆みな得とく其安也。〉蠕動ぜんどう之の類るい，〈【索さく隱かくれ】案あん：三さん蒼あお云うん「蠕蠕，動どう貌，音おと軟」。淮南ワイナン子こ云うん「昆蟲こんちゅう蠕動ぜんどう」。〉莫不就安利り而辟危殆きたい。故こ來者らいしゃ不ふ止とめ，天てん之の道也みちや。俱去前ぜん事こと：朕ちん釋しゃく逃虜民みん，單たん于無言むごん章あきら尼あま等とう。〈【索さく隱かくれ】案あん：文ぶん帝みかど云うん我わが今日きょう並なみ釋放しゃくほう彼かれ國こく逃亡とうぼう虜とりこ，遣や之これ歸き本國ほんごく，汝なんじ單たん于無得どく更さら以言詞し訴於章あきら尼あま等とう，責せめ其逃也。〉朕ちん聞古之の帝王ていおう，約やく分明ふんみょう而無食言しょくげん。單たん于留志こころざし，天下てんか大安たいあん，和親わしん之これ後ご，漢かん過か不ふ先さき。單たん于其察之。」

單たん于既約やく和親わしん，於是制せい詔みことのり御ご史し曰：「匈奴きょうど大だい單たん于遺朕ちん書しょ，言げん和親わしん已やめ定じょう，亡ほろび人じん不足ふそく以益眾廣地ち，匈奴きょうど無む入いれ塞ふさが，漢かん無む出で塞ふさが，犯はん約やく者しゃ殺ころせ之これ，可か以久親おや，後ご無む咎とがめ，俱便。朕ちん已やめ許もと之の。其布告ふこく天下でんか，使つかい明知めいち之の。」

後こう四よん歲さい，老ろう上うえ稽粥單たん于死，子し軍ぐん臣しん立りつ為ため單たん于。既すんで立りつ，孝文たかふみ皇帝こうてい復ふく與あずか匈奴きょうど和親わしん。而中行ぎょう說せつ復ふく事ごと之の。〈【集しゅう解かい】徐じょ廣ひろ曰：「後ご元もと三さん年ねん立りつ。」〉

軍ぐん臣しん單たん于立四よん歲さい，〈【集しゅう解かい】徐じょ廣ひろ曰：「孝文たかふみ後ご元もと七なな年ねん崩くずれ，而二に年ねん答こたえ單たん于書，其間五ご年ねん。而此云うん『後ご四よん年ねん』，又また『立だて四よん歲さい』，數すう不ふ容よう爾なんじ也。孝文たかふみ後ご六ろく年ねん冬ふゆ，匈奴きょうど入にゅう上郡かみごおり、雲くも中也ちゅうや。」〉匈奴きょうど復ふく絕ぜっ和親わしん，大入おおいり上郡かみごおり、雲くも中ちゅう各かく三さん萬まん騎き，所しょ殺ころせ略りゃく甚眾而去。於是漢かん使し三さん將軍しょうぐん軍ぐん屯たむろ北地きたじ，代だい屯たむろ句く注ちゅう，趙ちょう屯たむろ飛ひ狐きつね口こう，緣邊えんぺん亦また各かく堅守けんしゅ以備胡えびす寇。又また置おけ三さん將軍しょうぐん，軍ぐん長ちょう安西あんざい細ほそ柳やなぎ、渭北棘とげ門もん、霸上以備胡えびす。胡えびす騎き入いれ代だい句く注ちゅう邊あたり，烽火ほうか通どおり於甘泉いずみ、長安ながやす。數すう月がつ，漢かん兵へい至いたり邊あたり，匈奴きょうど亦また去さ遠どお塞ふさが，漢かん兵へい亦また罷やめ。後こう歲とし餘あまり，孝文たかふみ帝みかど崩くずれ，孝こう景けい帝みかど立りつ，而趙王おう遂とげ乃陰使し人じん於匈奴やつ。吳ご楚すわえ反はん，欲ほし與あずか趙ちょう合ごう謀はかりごと入いれ邊べ。漢かん圍かこえ破やぶ趙ちょう，匈奴きょうど亦また止とめ。自じ是ぜ之これ後ご，孝こう景けい帝みかど復ふく與あずか匈奴きょうど和親わしん，通關つうかん市し，給きゅう遺のこ匈奴きょうど，遣や公主こうしゅ，如故約やく。終おわり孝こう景けい時じ，時じ小入おいれ盜とう邊あたり，無む大だい寇。

今こん帝みかど即位そくい，明和めいわ親おや約束やくそく，厚遇こうぐう，通關つうかん市し，饒にょう給きゅう之の。匈奴きょうど自じ單たん于以下か皆みな親おや漢かん，往來おうらい長ちょう城下じょうか。

漢かん使し馬ば邑下人じん聶翁壹いち〈【索さく隱かくれ】按：衛まもる青あお傳でん唯ただ稱たたえ「聶壹」。顧氏云うん「壹いち，名めい也。老ろう，故こ稱しょう翁おきな」，義ぎ或ある然しか也。〉奸蘭〈【集しゅう解かい】奸音干ひ。干ひ蘭らん，犯はん禁きん私わたし出物でもの也。〉出物でもの〈【索さく隱かくれ】上じょう音おと干ひ。干ひ蘭らん謂いい犯はん禁きん私わたし出物でもの也。〉與あずか匈奴きょうど交，〈【集しゅう解かい】漢書かんしょ音義おんぎ曰：「私わたし出で塞ふさが與あずか匈奴きょうど交市。」〉詳しょう為ため賣うり馬ば邑城以誘單たん于。單たん于信之の，而貪馬ば邑財物ぶつ，乃以十じゅう萬騎入武州塞。〈【索さく隱かくれ】蘇そ林りん云うん「在ざい雁かり門もん也。」〉漢かん伏兵ふくへい三さん十じゅう餘あまり萬まん馬うま邑旁，御ご史し大夫だいぶ韓かん安國やすくに為ため護まもる軍ぐん，護まもる四將軍以伏單于。單たん于既入いれ漢かん塞ふさが，未み至いたり馬ば邑百餘里より，見み畜布野ふの而無人じん牧者ぼくしゃ，怪かい之の，乃攻亭てい。是ぜ時じ雁かり門もん尉じょう史し〈【索さく隱かくれ】如淳云うん：「律りつ，近きん塞ふさが郡ぐん皆みな置おけ尉じょう，百ひゃく里り一人ひとり，士し史し、尉じょう史し各かく二に人にん也。」〉行くだり徼，見み寇，葆此亭てい，知ち漢かん兵へい謀はかりごと，單たん于得，欲よく殺ころせ之これ，〈【集しゅう解かい】徐じょ廣ひろ曰：「一いち云うん『乃下，具ぐ告つげ單たん于』。」〉尉じょう史し乃告單たん于漢兵へい所しょ居きょ。單たん于大驚おどろき曰：「吾われ固かた疑うたぐ之これ。」乃引兵へい還かえ。出で曰：「吾われ得とく尉じょう史し，天てん也，天使てんし若わか言げん。」以尉史し為ため「天王てんのう」。漢かん兵へい約やく單たん于入馬ば邑而縱たて，單たん于不至いたり，以故漢かん兵へい無む所得しょとく。漢かん將軍しょうぐん王おう恢部出で代だい擊げき胡えびす輜重しちょう，聞單于還，兵へい多た，不ふ敢出。漢かん以恢本ほん造兵ぞうへい謀はかりごと而不進すすむ，斬き恢。〈【集しゅう解かい】韓かん長ちょう孺傳曰：「恢自殺じさつ。」〉自じ是ぜ之これ後ご，匈奴きょうど絕ぜっ和親わしん，攻おさむ當路とうろ塞ふさが，〈【索さく隱かくれ】蘇そ林りん云うん：「直ちょく當とう道みち之の塞ふさが。」〉往往おうおう入にゅう盜ぬすめ於漢邊あたり，不可ふか勝かち數すう。然しか匈奴きょうど貪むさぼ，尚なお樂らく關せき市し，嗜漢財物ざいぶつ，漢かん亦また尚なお關せき市し不ふ絕ぜっ以中之の。〈【正義まさよし】如淳云うん：「得とく具ぐ以利中傷ちゅうしょう之の。」〉

自じ馬うま邑軍後ご五ご年ねん之の秋あき，漢かん使し四將軍各萬騎擊胡關市下。將軍しょうぐん衛まもる青あお出いずる上谷うえたに，至いたり蘢城，得とく胡えびす首くび虜とりこ七なな百ひゃく人にん。公孫こうそん賀が出雲いずも中ちゅう，無む所得しょとく。公孫こうそん敖出代だい郡ぐん，為ため胡えびす所しょ敗はい七なな千せん餘人よにん。李り廣ひろ出で雁かり門もん，為ため胡えびす所しょ敗はい，而匈奴やつ生得しょうとく廣ひろ，廣ひろ後のち得とく亡ほろび歸き。漢かん囚しゅう敖、廣こう，敖、廣こう贖為庶人。其冬，匈奴きょうど數すう入いれ盜とう邊あたり，漁りょう陽ひ尤ゆう甚。漢かん使し將軍しょうぐん韓かん安國やすくに屯たむろ漁りょう陽ひ備胡。其明年ねん秋あき，匈奴きょうど二に萬まん騎き入いれ漢かん，殺ころせ遼りょう西にし太守たいしゅ，略りゃく二に千せん餘人よにん。胡えびす又また入にゅう敗はい漁りょう陽ひ太守たいしゅ軍ぐん千せん餘人よにん，圍かこえ漢かん將軍しょうぐん安國やすくに，安國やすくに時じ千餘騎亦且盡，會かい燕つばめ救すくい至いたり，匈奴きょうど乃去。匈奴きょうど又また入にゅう雁かり門もん，殺ころせ略りゃく千せん餘人よにん。於是漢かん使し將軍しょうぐん衛まもる青あお將しょう三さん萬まん騎き出で雁かり門もん，李り息いき出で代だい郡ぐん，擊げき胡えびす。得とく首くび虜とりこ數すう千せん人にん。其明年ねん，衛まもる青あお復ふく出雲いずも中ちゅう以西いせい至いたり隴西，擊げき胡えびす之これ樓ろう煩はん、白しろ羊ひつじ王おう於河南みなみ，得とく胡えびす首くび虜とりこ數すう千せん，牛うし羊ひつじ百ひゃく餘あまり萬まん。於是漢かん遂とげ取ど河南かなん地ち，築ちく朔ついたち方かた，復ふく繕つくろえ故こ秦しん時じ蒙こうむ恬所為しょい塞ふさが，因いん河かわ為ため固かた。漢かん亦また棄上谷之やの什辟縣けん造づくり陽ひ地ち以予胡えびす。〈【集しゅう解かい】什音斗と。漢書かんしょ音義おんぎ曰：「言げん縣けん斗と辟，近きん胡えびす。」【索さく隱かくれ】按：孟はじめ康かん云うん「縣けん斗と辟，近きん胡えびす」也。什音斗と。辟音僻へき。造みやつこ陽ひ即そく斗と辟縣中地なかじ。【正義まさよし】按：曲きょく幽かそけ辟縣入にゅう匈奴きょうど界かい者しゃ造づくり陽ひ地ち棄與胡えびす也。〉是これ歲さい，漢かん之の元もと朔ついたち二に年ねん也。

其後冬ふゆ，匈奴きょうど軍ぐん臣しん單たん于死。軍ぐん臣しん單たん于弟左ひだり谷たに蠡王伊い稚やや斜はす〈【索さく隱かくれ】伊い稚やや斜はす。稚やや音おん持じ利り反はん。斜はす音おん士し嗟反，鄒誕生音なまおと直ちょく牙きば反はん。蓋ぶた稚やや斜はす，胡えびす人語じんご，近きん得とく其實。〉自立じりつ為ため單たん于，攻おさむ破やぶ軍ぐん臣しん單たん于太子たいし於單。〈【索さく隱かくれ】音おと丹まこと。〉於單亡ほろび降ぶ漢かん，漢かん封ふう於單為ため涉わたる安やす侯こう，數すう月がつ而死。

伊い稚やや斜はす單たん于既立りつ，其夏，匈奴きょうど數すう萬騎入殺代郡太守恭友，略りゃく千せん餘人よにん。其秋，匈奴きょうど又また入にゅう雁かり門もん，殺ころせ略りゃく千せん餘人よにん。其明年ねん，匈奴きょうど又また複ふく復ふく入いれ代だい郡ぐん、定てい襄じょう、〈【正義まさよし】括くく地誌ちし云うん：「定てい襄じょう故こ城しろ在ざい朔ついたち州しゅう善ぜん陽ひ縣けん北きた三さん百ひゃく八はち十じゅう里さと。地理ちり志こころざし定てい襄じょう郡ぐん，高こう帝みかど置おけ也。」〉上郡かみごおり，各かく三さん萬まん騎き，殺ころせ略りゃく數すう千せん人にん。匈奴きょうど右みぎ賢けん王おう怨漢奪だつ之これ河南かなん地ち而築朔ついたち方かた，數かず為ため寇，盜とう邊あたり，及入河南かなん，侵おかせ擾朔方かた，殺ころせ略りゃく吏民其眾。

其明年春としはる，漢かん以衛青あお為ため大將軍だいしょうぐん，將はた六ろく將軍しょうぐん，十じゅう餘あまり萬まん人にん，出で朔ついたち方かた、高こう闕擊胡えびす。右みぎ賢けん王おう以為漢かん兵へい不能ふのう至いたり，飲酒いんしゅ醉よい，漢かん兵へい出で塞ふさが六ろく七なな百ひゃく里り，夜よる圍かこえ右みぎ賢けん王おう。右みぎ賢けん王おう大だい驚おどろき，脫だつ身み逃走とうそう，諸しょ精せい騎き往往おうおう隨ずい後ご去さ。漢かん得とく右みぎ賢けん王おう眾男女だんじょ萬まん五ご千せん人にん，裨小王おう十じゅう餘人よにん。其秋，匈奴きょうど萬騎入殺代郡都尉硃英，略りゃく千せん餘人よにん。

其明年春としはる，漢かん復ふく遣や大將軍だいしょうぐん衛まもる青あお將しょう六ろく將軍しょうぐん，兵へい十じゅう餘あまり萬まん騎き，乃再出で定てい襄じょう數すう百ひゃく里さと擊げき匈奴きょうど，得とく首くび虜とりこ前後ぜんこう凡萬まん九きゅう千せん餘よ級きゅう，而漢亦また亡ほろび兩りょう將軍しょうぐん，軍ぐん三さん千せん餘よ騎き。〈【集しゅう解かい】徐じょ廣ひろ曰：「合ごう有ゆう三さん千せん耳みみ。」〉右みぎ將軍しょうぐん建けん得とく以身脫ぬげ，〈【正義まさよし】建たて，蘇武そぶ父ちち也。〉而前將軍しょうぐん翕侯趙ちょう信しん兵へい不利ふり，降くだ匈奴きょうど。趙ちょう信者しんじゃ，故こ胡えびす小しょう王おう，降くだ漢かん，漢かん封ふう為ため翕侯，以前いぜん將軍しょうぐん與あずか右みぎ將軍しょうぐん並なみ軍ぐん分ぶん行ぎょう，〈【正義まさよし】與あずか大軍たいぐん別べつ行ぎょう也。〉獨どく遇ぐう單たん于兵，故こ盡つき沒ぼつ。單たん于既得とく翕侯，以為自じ次つぎ王おう，〈【正義まさよし】自じ次つぎ者しゃ，尊重そんちょう次じ於單于。〉用よう其姊妻つま之の，與あずか謀はかりごと漢かん。信教しんきょう單たん于益北きた絕ぜっ幕まく，〈【集しゅう解かい】應おう劭曰：「幕まく，沙すな幕まく，匈奴きょうど之の南みなみ界かい。」瓚曰：「沙すな土ど曰幕，直ちょく度ど曰絕。」〉以誘罷やめ漢かん兵へい，徼極而取之の，〈【索さく隱かくれ】按：徼，要よう也。謂いい要よう其疲極ごく而取之の。【正義まさよし】徼音古こ堯反。徼，要よう也。要よう漢かん兵へい疲つかれ極きょく則そく取と之これ，無む近きん塞ふさが居きょ止どめ。〉無む近きん塞ふさが。單たん于從其計。其明年ねん，胡えびす騎き萬まん人にん入いれ上谷うえたに，殺ころせ數すう百ひゃく人にん。

其明年春としはる，漢かん使し驃騎將軍しょうぐん去さ病やまい將しょう萬まん騎き出で隴西，過か焉支山やま〈【正義まさよし】焉音煙けむり。括くく地誌ちし云うん：「焉支山やま一いち名めい刪丹山さん，在ざい甘あま州しゅう刪丹縣けん東南とうなん五ご十じゅう里さと。西河にしかわ故事こじ云うん『匈奴きょうど失しつ祁連、焉支二に山やま，乃歌曰：「亡ほろび我わが祁連山れんざん，使つかい我わが六畜不蕃息；失しつ我わが焉支山さん，使つかい我わが婦女ふじょ無む顏色かおいろ。」其愍惜乃如此』。」〉千せん餘あまり里さと，擊げき匈奴きょうど，得とく胡えびす首くび虜とりこ萬まん八はち千せん餘よ級きゅう，破やぶ得う休きゅう屠ほふ王おう祭さい天金てんきん人じん。〈【集しゅう解かい】漢書かんしょ音義おんぎ曰：「匈奴きょうど祭さい天てん處しょ本ほん在ざい雲くも陽ひ甘あま泉山いずみやま下か，秦はた奪だつ其地，後ご徙之休きゅう屠ほふ王おう右みぎ地ち，故こ休きゅう屠ほふ有ゆう祭さい天金てんきん人じん，象ぞう祭さい天人てんにん也。」【索さく隱かくれ】韋昭云うん：「作さく金きん人じん以為祭さい天主てんしゅ。」崔ちぇ浩ひろし云うん：「胡えびす祭さい以金人為じんい主ぬし，今こん浮圖ふと金きん人じん是也これや。」又また漢書かんしょ音義おんぎ稱しょう「金かね人じん祭さい天てん，本ほん在ざい雲くも陽ひ甘あま泉山いずみやま下か，秦はた奪だつ其地，徙之於休屠ほふ王おう右みぎ地ち，故こ休きゅう屠ほふ有ゆう祭さい天金てんきん人じん，象ぞう祭さい天人てんにん也」。事こと恐おそれ不ふ然しか。案あん：得とく休きゅう屠ほふ金かね人じん，後ご置おけ之の於甘泉いずみ也。【正義まさよし】括くく地誌ちし云うん：「徑路けいろ神祠しんし在ざい雍州、雲くも陽ひ縣けん西北せいほく九きゅう十じゅう里さと甘あま泉山いずみやま下か，本ほん匈奴きょうど祭さい天てん處しょ，秦はた奪だつ其地，後ご徙休屠ほふ右みぎ地ち。」按：金かね人じん即今そっこん佛像ぶつぞう，是ぜ其遺法ほう，立たて以為祭さい天主てんしゅ也。〉其夏，驃騎將軍しょうぐん復ふく與あずか合ごう騎き侯こう數すう萬まん騎き出で隴西、北地きたじ二に千里せんり，擊げき匈奴きょうど。過か居きょ延のべ，〈索さく隱かくれ韋昭曰：「張ちょう掖わき縣けん。」〉攻おさむ祁連山れんざん，〈【索さく隱かくれ】按：西河にしかわ舊きゅう事こと云うん「山やま在ざい張ちょう掖わき、酒さけ泉いずみ二に界かい上じょう，東西とうざい二に百ひゃく餘あまり里さと，南北なんぼく百ひゃく里り，有松ありまつ柏かしわ五木いつき，美よし水草みずくさ，冬ふゆ溫ぬる夏なつ涼すずか，宜むべ畜牧。匈奴きょうど失しつ二に山やま，乃歌云うん：『亡ほろび我わが祁連山れんざん，使つかい我わが六畜不蕃息；失しつ我わが燕つばめ支ささえ山やま，使つかい我わが嫁よめ婦ふ無む顏色かおいろ』」。祁連一いち名めい天山あまやま，亦また曰白山はくさん也。〉得とく胡えびす首くび虜とりこ三さん萬まん餘人よにん，裨小王おう以下いか七なな十じゅう餘人よにん。是ぜ時じ匈奴きょうど亦また來らい入いれ代だい郡ぐん、雁かり門もん，殺ころせ略りゃく數すう百ひゃく人にん。漢かん使し博はく望もち侯こう及李將軍しょうぐん廣こう出で右みぎ北平きたひら，擊げき匈奴きょうど左ひだり賢けん王おう。左ひだり賢けん王おう圍かこえ李り將軍しょうぐん，卒そつ可か四よん千せん人にん，且盡，殺ころせ虜とりこ亦また過當かとう。會かい博はく望もち侯こう軍ぐん救すくい至いたり，李り將軍しょうぐん得とく脫だっ。漢かん失しつ亡ほろび數すう千せん人にん，合ごう騎き侯こう後ご驃騎將軍しょうぐん期き，及與博はく望もち侯こう皆みな當とう死し，贖為庶人。

其秋，單たん于怒渾邪王おう、休きゅう屠ほふ王おう居きょ西方せいほう為ため漢かん所しょ殺ころせ虜とりこ數すう萬まん人にん，欲よく召誅之の。渾邪王おう與あずか休きゅう屠ほふ王おう恐おそれ，謀はかりごと降くだ漢かん，〈【集しゅう解かい】徐じょ廣ひろ曰：「元もと狩かり二に年ねん也。」〉漢かん使し驃騎將軍しょうぐん往迎之の。渾邪王おう殺ころせ休きゅう屠ほふ王おう，並なみ將はた其眾降漢かん。凡四萬まん餘人よにん，號ごう十じゅう萬まん。於是漢かん已やめ得え渾邪王おう，則のり隴西、北地きたじ、河西かさい益えき少しょう胡えびす寇，徙關東かんとう貧民ひんみん處しょ所しょ奪だつ匈奴きょうど河南かなん、新しん秦はた中なか〈【索さく隱かくれ】如淳云うん「在ざい長安ながやす以北いほく，朔さく方かた以南いなん」。漢書かんしょ食しょく貨志云うん「徙貧人じん充たかし朔さく方かた以南いなん新しん秦はた中あたる」是也これや。【正義まさよし】服ふく虔けん云うん：「地名ちめい，在ざい北地きたじ，廣こう六ろく七なな百ひゃく里り，長安ながやす北きた，朔さく方南ほうなん。史記しき以為秦はた始はじめ皇すめらぎ遣や蒙こうむ恬斥逐北胡えびす，得とく肥饒ひじょう之の地ち七なな百ひゃく里り，徙內郡ぐん人民じんみん皆みな往充實じゅうじつ之の，號ごう曰新秦はた中也ちゅうや。」〉以實之の，而減北地きたじ以西いせい戍卒半はん。其明年ねん，匈奴きょうど入にゅう右みぎ北平きたひら、定てい襄じょう各かく數すう萬まん騎き，殺ころせ略りゃく千せん餘人よにん而去。

其明年春としはる，漢かん謀はかりごと曰「翕侯信しん為ため單たん于計，居きょ幕まく北きた，以為漢かん兵へい不能ふのう至いたり」。乃粟馬ば發はつ十じゅう萬まん騎き，私わたし從したがえ〈【正義まさよし】謂いい負擔ふたん衣糧いりょう，私募しぼ從者じゅうしゃ，凡十じゅう四よん萬まん匹ひき。〉馬うま凡十じゅう四よん萬まん匹ひき，糧かて重おも不ふ與あずか焉。令れい大將軍だいしょうぐん青あお、驃騎將軍しょうぐん去さ病やまい中分なかぶん軍ぐん，大將軍だいしょうぐん出で定てい襄じょう，驃騎將軍しょうぐん出で代だい，咸約絕ぜっ幕まく擊げき匈奴きょうど。單たん于聞之の，遠とお其輜重しちょう，以精兵へい待まち於幕北きた。與あずか漢かん大將軍だいしょうぐん接戰せっせん一いち日にち，會かい暮くれ，大風おおかぜ起おこり，漢かん兵へい縱たて左右さゆう翼つばさ圍かこえ單たん于。單たん于自度ど戰せん不能ふのう如漢兵へい，單たん于遂獨身どくしん與あずか壯たけし騎き數すう百潰漢圍西北遁走。漢かん兵へい夜よる追つい不ふ得とく。行くだり斬き捕ど匈奴きょうど首くび虜とりこ萬まん九きゅう千せん級きゅう，北きた至いたる闐顏山やま趙ちょう信しん城じょう〈【集しゅう解かい】如淳曰：「信しん前まえ降くだ匈奴きょうど，匈奴きょうど築城ちくじょう居きょ之の。」〉而還。

單たん于之遁走とんそう，其兵往往おうおう與あずか漢かん兵へい相しょう亂らん而隨單たん于。單たん于久不ふ與あずか其大眾相得え，其右谷たに蠡王以為單たん于死，乃自立じりつ為ため單たん于。真ま單たん于復得とく其眾，而右谷たに蠡王乃去其單于號，復ふく為ため右みぎ谷たに蠡王。

漢かん驃騎將軍しょうぐん之の出で代だい二に千せん餘あまり里さと，與あずか左ひだり賢けん王おう接戰せっせん，漢かん兵へい得とく胡えびす首くび虜とりこ凡七なな萬まん餘よ級きゅう，左ひだり賢けん王將おうしょう皆みな遁走とんそう。驃騎封ふう於狼居きょ胥山，禪ぜん姑しゅうと衍，臨翰海うみ〈【集しゅう解かい】如淳曰：「翰海，北海ほっかい名めい。」【正義まさよし】按：翰海自かいじ一いち大海たいかい名めい，群ぐん鳥とり解かい羽わ伏ふく乳ちち於此，因いん名めい也。〉而還。

是ぜ後ご匈奴きょうど遠どお遁，而幕南無なむ王おう庭にわ。漢かん度ど河かわ自じ朔ついたち方かた以西いせい至いたり令れい居い，〈【集しゅう解かい】徐じょ廣ひろ曰：「在ざい金城きんじょう。」【索さく隱かくれ】徐じょ廣ひろ云うん在ざい金城きんじょう。地理ちり志こころざし云うん張ちょう掖わき令れい居い縣けん。姚氏令れい音おん連れん。小顏こがお云うん音おん零れい。〉往往おうおう通つう渠みぞ置田おきた，官吏かんり卒そつ五ご六ろく萬まん人にん，稍やや蠶食さんしょく，地ち接せっ匈奴きょうど以北いほく。〈【正義まさよし】匈奴きょうど舊きゅう以幕為ため王おう庭にわ。今いま遠とお徙幕北きた，更さら蠶食さんしょく之の，漢かん境さかい連接れんせつ匈奴きょうど舊きゅう地ち以北いほく也。〉

初はつ，漢かん兩りょう將軍しょうぐん大出おおいで圍かこえ單たん于，所しょ殺ころせ虜とりこ八はち九きゅう萬まん，而漢士卒しそつ物故ぶっこ〈【索さく隱かくれ】漢かん士し物故ぶっこ。案あん：釋しゃく名めい云うん「漢かん以來いらい謂いい死し為ため『物故ぶっこ』，物もの就朽故こ也」。又また魏ぎ台だい訪おとずれ議ぎ高堂こうどう崇たかし對たい曰「聞之先師せんし：物もの，無む也；故こ，事こと也。言げん無む復ふく所しょ能のう於事者しゃ也。」〉亦また數すう萬まん，漢かん馬ば死者ししゃ十じゅう餘あまり萬まん。匈奴きょうど雖病，遠とお去ざ，而漢亦また馬うま少しょう，無む以復往。匈奴きょうど用よう趙ちょう信之のぶゆき計けい，遣や使つかい於漢，好こう辭じ請和親おや。天子てんし下か其議，或ある言げん和親わしん，或ある言げん遂とげ臣しん之の。丞相じょうしょう長ちょう史し任にん敞たかし曰：「匈奴きょうど新しん破やぶ，困こま，宜むべ可か使つかい為ため外がい臣しん，朝あさ請於邊べ。」漢かん使し任にん敞たかし於單于。單たん于聞敞たかし計けい，大だい怒いか，留とめ之の不ふ遣や。先さき是ぜ漢かん亦また有ゆう所しょ降くだ匈奴きょうど使者ししゃ，單たん于亦輒留漢かん使し相當そうとう。漢方かんぽう復ふく收おさむ士し馬ば，會かい驃騎將軍しょうぐん去さ病死びょうし，於是漢かん久ひさし不ふ北きた擊げき胡えびす。

數すう歲さい，伊い稚やや斜はす單たん于立十じゅう三さん年ねん死し，子こ烏がらす維立為ため單たん于。是これ歲さい，漢かん元もと鼎かなえ三さん年ねん也。烏がらす維單于立，而漢天子てんし始はじめ出で巡じゅん郡ぐん縣けん。其後漢方かんぽう南みなみ誅兩越えつ，〈【正義まさよし】南越なんごし、東ひがし越こし。〉不ふ擊げき匈奴きょうど，匈奴きょうど亦また不ふ侵入しんにゅう邊べ。

烏がらす維單于立三さん年ねん，漢かん已やめ滅めつ南越なんごし，遣や故こ太ふとし僕ぼく賀が將しょう萬まん五千騎出九原二千餘里，至いたり浮苴井い〈【索さく隱かくれ】苴音子こ餘よ反たん。臣しん瓚云：「去さ九きゅう原げん二に千里せんり，見み漢かん輿地よち圖ず。」〉而還，不ふ見み匈奴きょうど一いち人にん。漢かん又また遣や故こ從したがえ驃侯趙ちょう破やぶ奴やつ萬餘騎出令居數千里，至いたり匈河水すい〈【索さく隱かくれ】臣しん瓚云：「水みず名めい，去さ令れい居きょ千里せんり。」〉而還，亦また不ふ見み匈奴きょうど一いち人にん。

是ぜ時じ天子てんし巡じゅん邊あたり，至いたり朔ついたち方かた，勒兵十じゅう八はち萬まん騎き以見武節ぶせつ，而使郭かく吉きち風ふう告つげ單たん于。郭かく吉よし既すんで至いたり匈奴きょうど，匈奴きょうど主客しゅかく〈【集しゅう解かい】韋昭曰：「主しゅ使つかい來客らいきゃく官かん也。」【正義まさよし】官かん名めい，若わか鴻おおとり臚卿。〉問とい所しょ使し，郭かく吉禮きれ卑言好このみ，曰：「吾われ見み單たん于而口こう言げん。」單たん于見吉きち，吉よし曰：「南越なんごし王おう頭あたま已やめ懸がか於漢北きた闕。今こん單たん于即前まえ與あずか漢かん戰せん，天子てんし自じ將兵しょうへい待まち邊べ；單たん于即不能ふのう，即そく南面なんめん而臣於漢。何なに徒と遠とお走はし，亡ほろび匿於幕まく北きた寒かん苦く無む水草みずくさ之の地ち，毋為也。」語ご卒そつ而單于大怒いか，立たて斬き主客しゅかく見み者しゃ，而留郭かく吉よし不歸ふき，遷之北きた海上かいじょう。〈【正義まさよし】北海ほっかい即そく上海しゃんはい也，蘇武そぶ亦また遷也。〉而單于終不ふ肯為寇於漢かん邊あたり，休養きゅうよう息いき士し馬ば，習射獵りょう，數すう使つかい使し於漢，好こう辭じ甘言かんげん求もとめ請和親おや。

漢かん使し王おう烏がらす等とう窺匈奴やつ。匈奴きょうど法ほう，漢かん使し非ひ去さ節ふし而以墨すみ黥其面めん者しゃ不ふ得とく入にゅう穹廬。王おう烏がらす，北地きたじ人じん，習胡俗ぞく，去さ其節，黥面，得とく入いれ穹廬。單たん于愛之の，詳しょう許もと甘言かんげん，為ため遣や其太子たいし入にゅう漢かん為ため質しつ，〈【正義まさよし】音おと致。〉以求和親わしん。

漢かん使し楊信於匈奴やつ。是ぜ時じ漢かん東ひがし拔穢貉むじな、朝鮮ちょうせん以為郡ぐん，〈【正義まさよし】即そく玄げん菟うさぎ、樂らく浪なみ二に郡ぐん。〉而西置おけ酒しゅ泉いずみ郡ぐん〈【正義まさよし】今こん肅州。〉以鬲絕ぜっ胡えびす與あずか羌通之の路みち。漢かん又また西にし通どおり月がつ氏し、大だい夏なつ，〈【正義まさよし】漢書かんしょ西域せいいき傳でん云うん：「大月おおつき氏し國こく去さ長安ながやす城じょう萬まん一いち千せん六ろく百ひゃく里り，本ほん居きょ燉煌、祁連間あいだ，冒おかせ頓ひたすら單たん于破月がつ氏し，而老上じょう單たん于殺月がつ氏し王おう，以頭為ため飲いん器き，月がつ氏し乃遠去さ，過大かだい宛あて西にし，擊げき大だい夏なつ而臣之の，都と媯水北きた，為ため王おう庭にわ也。」〉又また以公主ぬし妻つま烏がらす孫まご王おう，以分匈奴きょうど西方せいほう之の援國。又また北きた益えき廣田ひろた至いたる胘雷為ため塞ふさが，〈【集しゅう解かい】漢書かんしょ音義おんぎ曰：「胘雷，地名ちめい，在ざい烏がらす孫まご北きた。」〉而匈奴やつ終おわり不ふ敢以為ため言ごと。是これ歲さい，翕侯信しん死し，漢かん用事ようじ者しゃ以匈奴やつ為ため已やめ弱じゃく，可か臣從しんじゅう也。楊信為ため人じん剛直ごうちょく屈こごめ彊つよし，素もと非ひ貴き臣しん，單たん于不親おや。單たん于欲召入，不ふ肯去節ぶし，單たん于乃坐穹廬外見がいけん楊信。楊信既すんで見み單たん于，說せつ曰：「即そく欲よく和親かずちか，以單于太子たいし為ため質しつ於漢。」單たん于曰：「非ひ故こ約やく。故こ約やく，漢かん常つね遣や翁おきな主ぬし，給きゅう繒絮食物しょくもつ有ゆう品ひん，以和親おや，而匈奴やつ亦また不ふ擾邊。今こん乃欲反古ほご，令れい吾われ太子たいし為ため質しつ，無む幾いく矣。」〈【正義まさよし】幾いく音おと記き。言げん反古ほご無む所しょ冀望也。〉匈奴きょうど俗ぞく，見みる漢かん使し非ひ中ちゅう貴人きじん，其儒先さき，〈【集しゅう解かい】先さき，先生せんせい也。漢書かんしょ作さく「儒生じゅせい」也。〉以為欲ほっ說せつ，折おり其辯；其少年しょうねん，以為欲よく刺とげ，折おり其氣。每まい漢かん使し入にゅう匈奴きょうど，匈奴きょうど輒報償ほうしょう。漢かん留とめ匈奴きょうど使し，匈奴きょうど亦また留とめ漢かん使し，必得當とう乃肯止どめ。

楊信既すんで歸き，漢かん使し王おう烏がらす，而單于復讇以甘言かんげん，欲よく多た得とく漢かん財物ざいぶつ，紿謂王おう烏がらす曰：「吾われ欲よく入いれ漢かん見み天子てんし，面相めんそう約やく為ため兄弟きょうだい。」王おう烏がらす歸き報ほう漢かん，漢かん為ため單たん于築邸てい於長安やす。匈奴きょうど曰：「非ひ得とく漢かん貴人きじん使し，吾われ不ふ與あずか誠まこと語ご。」匈奴きょうど使し其貴人じん至いたり漢かん，病やめ，漢かん予よ藥やく，欲よく愈いよいよ之これ，不幸ふこう而死。而漢使し路ろ充たかし國こく佩二に千せん石せき印綬いんじゅ往使，因いん送おく其喪，厚あつ葬そう直ちょく數すう千金せんきん，曰「此漢貴人きじん也」。單たん于以為ため漢かん殺ころせ吾われ貴き使者ししゃ，乃留路ろ充たかし國こく不歸ふき。諸もろ所しょ言げん者しゃ，單たん于特空そら紿王烏がらす，殊こと無む意い入いれ漢かん及遣太子たいし來らい質しつ。於是匈奴きょうど數すう使つかい奇き兵へい侵犯しんぱん邊べ。漢かん乃拜郭かく昌あきら為ため拔胡將軍しょうぐん，及浞野の侯こう〈【集しゅう解かい】徐じょ廣ひろ曰趙破やぶ奴やつ。〉屯たむろ朔ついたち方かた以東いとう，備胡。路みち充たかし國留くにどめ匈奴きょうど三さん歲さい，單たん于死。

烏がらす維單于立十じゅう歲さい而死，子し烏がらす師し廬いおり立りつ為ため單たん于。〈【集しゅう解かい】徐じょ廣ひろ曰：「烏がらす，一いち作さく『詹』。」〉年少ねんしょう，號ごう為ため兒じ單たん于。是ぜ歲とし元もと封ふう六ろく年ねん也。自じ此之後ご，單たん于益西北せいほく，左ひだり方かた兵へい直ちょく雲くも中ちゅう，右みぎ方かた直ちょく酒さけ泉いずみ、燉煌郡ぐん。〈【正義まさよし】括くく地誌ちし云うん：「鐵てつ勒國，匈奴きょうど冒おかせ頓ひたすら之これ後ご，在ざい突厥國北くにほく。樂勝らくしょう州しゅう經けい秦しん長城ちょうじょう、太ふとし羹あつもの長路ながみち正せい北きた，經けい沙すな磧，十じゅう三さん日にち行ぎょう至いたり其國。」〉

兒こ單たん于立，漢かん使し兩りょう使者ししゃ，一いち弔ちょう單たん于，一いち弔ちょう右みぎ賢けん王おう，欲よく以乖其國。使者ししゃ入にゅう匈奴きょうど，匈奴きょうど悉將致單于。單たん于怒而盡留とめ漢かん使し。漢かん使し留とめ匈奴きょうど者しゃ前後ぜんこう十じゅう餘あまり輩やから，而匈奴やつ使し來らい，漢かん亦また輒留相當そうとう。

是これ歲さい，漢かん使し貳に師し將軍しょうぐん廣こう利り西にし伐き大だい宛あて，而令因いん杅〈【正義まさよし】音おと於。〉將軍しょうぐん敖築受降城じょう。其冬，匈奴きょうど大雨おおあめ雪ゆき，畜多飢寒きかん死し。兒こ單たん于年少ねんしょう，好こう殺伐さつばつ，國人くにびと多おお不安ふあん。左ひだり大だい都と尉じょう欲よく殺ころせ單たん于，使つかい人間にんげん告つげ漢かん曰：「我欲がよく殺ころせ單たん于降漢かん，漢かん遠とお，即そく兵へい來迎らいごう我わが，我わが即發そくはつ。」初はつ，漢かん聞此言ごと，故こ築ちく受降城じょう，猶なお以為遠とお。

其明年春としはる，漢かん使し浞野侯こう破やぶ奴やつ將しょう二に萬餘騎出朔方西北二千餘里，期き至いたり浚稽山やま〈索さく隱かくれ應おう劭云：「在ざい武威ぶい縣けん北きた。」〉而還。浞野侯こう既すんで至いたり期き而還，左ひだり大だい都と尉じょう欲ほっ發はつ而覺，單たん于誅之の，發はつ左ひだり方かた兵へい擊げき浞野。浞野侯こう行ぎょう捕と首くび虜とりこ得とく數すう千せん人にん。還かえ，未み至いたり受降城じょう四よん百ひゃく里り，匈奴きょうど兵へい八はち萬まん騎き圍かこえ之これ。浞野侯こう夜よる自じ出で求もとめ水すい，匈奴きょうど間あいだ捕と，生得しょうとく浞野侯こう，因いん急きゅう擊げき其軍。軍ぐん中ちゅう郭かく縱たて為ため護まもる，維王為ため渠みぞ，〈【正義まさよし】為ため渠みぞ帥そち也。〉相あい與あずか謀はかりごと曰：「及諸校こう尉じょう畏かしこ亡ほろび將軍しょうぐん而誅之の，莫相勸すすむ歸き。」軍ぐん遂とげ沒ぼつ於匈奴やつ。匈奴きょうど兒じ單たん于大喜き，遂とげ遣や奇き兵へい攻おさむ受降城じょう。不能ふのう下か，乃寇入いれ邊べ而去。其明年ねん，單たん于欲自じ攻おさむ受降城じょう，未み至いたり，病死びょうし。

兒こ單たん于立三さん歲さい而死。子こ年少ねんしょう，匈奴きょうど乃立其季父ちち烏がらす維單于弟右みぎ賢けん王おう呴〈【集しゅう解かい】音おと鉤かぎ，又また音おと吁。【索さく隱かくれ】音おと鉤かぎ，又また音おと吁。〉犁湖為ため單たん于。是ぜ歲とし太初たいしょ三さん年ねん也。

呴犁湖みずうみ單たん于立，漢かん使し光こう祿ろく徐じょ自じ為ため出で五ご原げん塞ふさが〈【正義まさよし】即そく五原郡榆林塞也。在ざい勝かち州しゅう榆林縣けん四よん十じゅう里さと也。〉數すう百ひゃく里り，遠とお者しゃ千せん餘あまり里さと，築城ちくじょう鄣列亭てい〈【正義まさよし】顧胤云うん：「鄣，山中さんちゅう小城おぎ。亭ちん，候こう望もち所しょ居きょ也。」〉至いたり廬いおり朐，〈【集しゅう解かい】音おと衢，匈奴きょうど地名ちめい，又また山名やまな。【索さく隱かくれ】服ふく虔けん云うん：「匈奴きょうど地名ちめい。」張ちょう晏云：「山名やまな。」【正義まさよし】地理ちり志こころざし云うん五原郡稒陽縣北出石門鄣，得とく光こう祿ろく城じょう，又また西北せいほく得とく支ささえ就城，又また西北せいほく得とく頭あたま曼城，又また西北せいほく得とく虖河城じょう，又また西北せいほく得とく宿やど虜とりこ城じょう。按：即そく築城ちくじょう鄣列亭てい至いたり廬いおり朐也。服ふく虔けん云うん：「廬いおり朐，匈奴きょうど地名ちめい也。」張ちょう晏云：「山名やまな也。」〉而使游ゆう擊げき將軍しょうぐん韓かん說せつ、長平ちょうへい侯ほう衛まもる伉屯其旁，使つかい彊つよし弩いしゆみ都と尉じょう路ろ博德ひろのり築ちく居きょ延澤のぶさわ上じょう。〈【正義まさよし】括くく地誌ちし云うん：「漢かん居きょ延のぶ縣けん故こ城しろ在ざい甘あま州しゅう張ちょう掖わき縣けん東北とうほく一いち千せん五ご百ひゃく三さん十じゅう里り，有漢うかん遮さえぎ虜とりこ鄣，彊つよし弩いしゆみ都と尉じょう路ろ博德ひろのり之これ所しょ築ちく。李り陵りょう敗はい，與あずか士し眾期至いたり遮さえぎ虜とりこ鄣，即そく此也。長老ちょうろう傳でん云うん鄣北百ひゃく八はち十じゅう里り，直ちょく居きょ延之のぶゆき西北せいほく，是ぜ李り陵りょう戰地せんち也。」〉

其秋，匈奴きょうど大だい入定にゅうじょう襄じょう、雲くも中ちゅう，殺ころせ略りゃく數すう千せん人にん，敗はい數すう二に千せん石せき而去，行ぎょう破壞はかい光こう祿ろく所しょ築城ちくじょう列れつ亭てい鄣。又また使つかい右みぎ賢けん王おう入いれ酒しゅ泉いずみ、張ちょう掖わき，略りゃく數すう千せん人にん。會かい任にん文ぶん〈【集しゅう解かい】漢書かんしょ音義おんぎ曰：「漢かん將しょう也。」〉擊げき救すくえ，盡つき復ふく失しつ所得しょとく而去。是ぜ歲とし，貳に師し將軍しょうぐん破やぶ大だい宛あて，斬き其王而還。匈奴きょうど欲ほし遮さえぎ之これ，不能ふのう至いたり。其冬，欲よく攻おさむ受降城じょう，會かい單たん于病死し。

呴犁湖みずうみ單たん于立一いち歲さい死し。匈奴きょうど乃立其弟左ひだり大だい都と尉じょう且鞮〈【索さく隱かくれ】上じょう音おと子こ餘よ反たん，下した音おん低てい。〉侯ほう為ため單たん于。

漢かん既すんで誅大宛あて，威い震ふるえ外國がいこく。天子てんし意欲いよく遂とげ困こま胡えびす，乃下詔みことのり曰：「高こう皇帝こうてい遺のこ朕ちん平城ひらじろ之の憂ゆう，高こう后きさき時じ單たん于書絕ぜっ悖もと逆ぎゃく。昔むかし齊ひとし襄じょう公おおやけ復ふく九きゅう世せい之の讎，春秋しゅんじゅう大だい之の。」〈【集しゅう解かい】公おおやけ羊ひつじ傳でん曰：「九世猶可以復讎乎？曰雖百ひゃく世せい可也かなり。」〉是これ歲さい太初たいしょ四よん年ねん也。

且鞮侯こう單たん于既立りつ，盡つき歸き漢かん使し之の不ふ降くだ者しゃ。路みち充たかし國こく等とう得とく歸き。單たん于初立りつ，恐おそれ漢かん襲かさね之の，乃自謂いい「我わが兒こ子こ，安やす敢望漢かん天子てんし！漢かん天子てんし，我わが丈人たけと行ぎょう〈【正義まさよし】胡えびす朗ろう反はん。〉也」。漢かん遣や中ちゅう郎ろう將はた蘇武そぶ厚あつし幣ぬさ賂まいない遺のこ單たん于。單たん于益驕おご，禮れい甚倨，非ひ漢かん所望しょもう也。其明年ねん，浞野侯こう破やぶ奴やつ得とく亡ほろび歸き漢かん。

其明年ねん，漢かん使し貳に師し將軍しょうぐん廣こう利り以三さん萬まん騎き出で酒しゅ泉いずみ，擊げき右みぎ賢けん王おう於天山さん，〈【正義まさよし】在ざい伊い州しゅう。〉得とく胡えびす首くび虜とりこ萬まん餘よ級きゅう而還。匈奴きょうど大だい圍かこえ貳に師し將軍しょうぐん，幾いく不ふ脫だっ。漢かん兵へい物故ぶっこ什六ろく七なな。漢かん復ふく使し因いん杅將軍ぐん敖出西河にしがわ，與あずか彊つよし弩いしゆみ都と尉じょう會かい涿塗山さん，〈【集しゅう解かい】徐じょ廣ひろ曰：「塗ぬり音おん邪よこしま。」【索さく隱かくれ】涿音卓たく。塗ぬり音おん以奢反はん。【正義まさよし】匈奴きょうど中山なかやま也。〉毋所得しょとく。又また使つかい騎き都と尉じょう李り陵りょう將はた步ふ騎き五ご千せん人にん，出で居きょ延のべ北きた千せん餘あまり里さと，與あずか單たん于會，合戰かっせん，陵りょう所しょ殺傷さっしょう萬まん餘人よにん，兵へい及食盡つき，欲よく解かい歸き，匈奴きょうど圍かこえ陵りょう，陵りょう降くだ匈奴きょうど，其兵遂とげ沒ぼつ，得とく還かえ者しゃ四よん百ひゃく人にん。單たん于乃貴き陵りょう，以其女おんな妻つま之の。

後こう二に歲さい，復ふく使し貳に師し將軍しょうぐん將しょう六ろく萬まん騎き，步兵ほへい十じゅう萬まん，出で朔ついたち方かた。彊つよし弩いしゆみ都と尉じょう路ろ博德ひろのり將しょう萬まん餘人よにん，與あずか貳に師し會かい。游ゆう擊げき將軍しょうぐん說せつ將はた步ふ騎き三さん萬まん人にん，出で五ご原ばら。因よし杅將軍ぐん敖將萬まん騎き步兵ほへい三さん萬まん人にん，出で雁かり門もん。匈奴きょうど聞，悉遠其累重じゅう於余吾われ水北すいほく，〈【集しゅう解かい】徐じょ廣ひろ曰；「余あまり，一いち作さく『斜はす』，音おと邪よこしま。」【索さく隱かくれ】徐じょ廣ひろ云うん：「一作いつさく『斜はす』，音おと邪よこしま。」山海さんかい經けい云うん：「北きた鮮之山さん，鮮水出で焉，北きた流りゅう注ちゅう余あまり吾われ。」【正義まさよし】累るい，力ちから為ため反はん。重じゅう，丈たけ用よう反はん。〉而單于以十じゅう萬まん騎き待まち水南すいなん，與あずか貳に師し將軍しょうぐん接戰せっせん。貳に師し乃解而引歸き，與あずか單たん于連戰れんせん十じゅう餘よ日にち。貳に師し聞其家か以巫蠱族滅ほろび，因いん並なみ眾降匈奴きょうど，〈【集しゅう解かい】徐じょ廣ひろ曰：「案あん史記しき將しょう相しょう年表ねんぴょう及漢書しょ，征せい和わ二に年ねん，巫みこ蠱始起おこり。三さん年ねん，廣こう利り與あずか商しょう丘おか成出なるで擊げき胡えびす軍ぐん，敗はい，乃降。」〉得とく來らい還かえ千せん人にん一いち兩人りょうにん耳みみ。游ゆう擊げき說せつ無む所得しょとく。因よし杅敖與左ひだり賢けん王おう戰せん，不利ふり，引歸。是ぜ歲とし〈【集しゅう解かい】徐じょ廣ひろ曰：「天漢てんかん四よん年ねん。」【正義まさよし】自じ此以下か，上うえ至いたり貳に師し聞其家か，非ひ天漢てんかん四よん年ねん事ごと，似に錯誤さくご，人にん所しょ知ち。〉漢かん兵へい之の出擊しゅつげき匈奴きょうど者しゃ不ふ得とく言げん功こう多少たしょう，功いさお不ふ得とく御ご。〈【正義まさよし】御ご音おと語ご。其功不ふ得とく相しょう御ご當とう也。〉有ゆう詔みことのり捕と太ふと醫い令れい隨ずい但ただし，言げん貳に師し將軍家しょうぐんけ室しつ族ぞく滅ほろび，使つかい廣こう利得りとく降くだ匈奴きょうど。〈【索さく隱かくれ】漢書かんしょ云うん：「明年みょうねん，且鞮死し，長子ちょうし狐きつね鹿しか姑しゅうと單たん于立」。張ちょう晏云：「自じ狐きつね鹿しか姑しゅうと單たん于已下か，皆みな劉りゅう向むかい、褚先生せんせい所しょ錄ろく，班はん彪ぴょう又また撰せん而次之の，所以ゆえん漢書かんしょ匈奴きょうど傳でん有ゆう上下じょうげ兩りょう卷まき。」〉

太ふとし史し公おおやけ曰：孔あな氏し著ちょ春秋しゅんじゅう，隱かくれ桓之間あいだ則そく章あきら，至いたり定てい哀あい之の際さい則のり微ほろ，〈【索さく隱かくれ】案あん：諱いみな國こく惡あく，禮れい也。仲なか尼に仕つかまつ於定哀あい，故こ其著春秋しゅんじゅう，不ふ切論せつろん當世とうせい而微其詞也。〉為ため其切當世とうせい之の文ぶん而罔襃，忌諱きき之の辭やめ也。〈【索さく隱かくれ】案あん：罔著，無む也。謂いい其無實むじつ而襃之の是也これや，忌諱きき當代とうだい故こ也。〉世俗せぞく之の言げん匈奴きょうど者しゃ，患其徼一いち時じ之これ權けん，〈【集しゅう解かい】徐じょ廣ひろ曰：「徼音皎こう。」【索さく隱かくれ】按：徐じょ音おと皎こう，劉りゅう伯はく庄しょう音おん叫さけべ，皆みな非ひ也。按其字じ宜むべ音おと僥。徼者，求もとめ也，言こと求もとめ一いち時じ權けん寵ちょう。〉而務讇納其說，〈【索さく隱かくれ】音おと稅みつぐ。〉以便偏へん指ゆび，不參ふさん〈【索さく隱かくれ】案あん：謂いい說せつ者しゃ謀はかりごと匈奴きょうど，皆みな患其直ちょく徼求一いち時じ權けん幸こう，但ただし務つとむ諂進其說，以自便びん其偏指ゆび，不參ふさん詳しょう終始しゅうし利害りがい也。〉彼かれ己おのれ；將しょう率りつ〈【集しゅう解かい】詩し云うん：「彼かれ己おのれ之の子こ。」【索さく隱かくれ】彼かれ己おのれ者しゃ，猶なお詩人しじん譏そし詞し云うん「彼かれ己おのれ之子ゆきこ」是也これや。將しょう率りつ則そく指ゆび樊噲、衛まもる、霍等也。〉席せき中國ちゅうごく廣大こうだい，氣き奮，人にん主因しゅいん以決策さく，是ぜ以建功こう不ふ深ふか。堯雖賢けん，興きょう事業じぎょう不ふ成なり，得とく禹而九州きゅうしゅう寧やすし。〈【正義まさよし】言げん堯雖賢けん聖きよし，不能ふのう獨どく理り，得とく禹而九州きゅうしゅう安寧あんねい。以刺武たけ帝みかど不能ふのう擇よ賢けん將しょう相しょう，而務諂納小人こども浮說ふせつ，多た伐き匈奴きょうど，故こ壞齊民みん。故こ太ふとし史し公おおやけ引禹聖ひじり成しげる其太平ひらめ，以攻當代とうだい之の罪つみ。〉且欲興きょう聖ひじり統みつる，唯ただ在ざい擇よ任にん將しょう相しょう哉！唯ただ在ざい擇よ任にん將しょう相しょう哉！

〈【索さく隱かくれ述じゅつ贊さん】獫狁、薰かおる粥かゆ，居きょ於北邊べ。既すんで稱しょう夏なつ裔，式しき憬周篇へん。頗隨畜牧，屢擾塵ちり煙けむり。爰自冒おかせ頓ひたぶる，尤ゆう聚控弦つる。雖空帑藏，未み盡つき中ちゅう權けん。〉

本ほん作品さくひん在ざい全ぜん世界せかい都と屬ぞく於公有こうゆう領域りょういき，因いん為ため作者さくしゃ逝世已やめ經けい超過ちょうか100年ねん，並なみ且於1926年ねん1月がつ1日にち之の前ぜん出版しゅっぱん。