ソニーのオンラインプラットフォーム「ソニースクエア」にて、去る9月23日から26日まで4日間にわたり視聴者参加型のオンラインイベント「UNLOCK with Sony」が開催された。「UNLOCK with Sony」は、さまざまなジャンルのクリエイターたちとともに、ソニーのテクノロジーを駆使した未来のエンタテインメントを見つめるというイベントだ。
コミックナタリーでは、イベント内で行われる体験型オンラインイベント「ソードアート・オンライン -エクスクロニクル- Online Edition」に関連したトークセッションに先がけて、9月24日にトークプログラムを配信。「ソードアート・オンライン」好きで知られるYouTubeクリエイターグループ・東海オンエアの虫眼鏡、「ソードアート・オンライン -エクスクロニクル- Online Edition」の企画プロデューサーである松平恒幸、MCとしてアニメ・ゲーム好きのアナウンサー松澤千晶が出演した(参照:「UNLOCKwithSony」×「ソードアート・オンライン –エクスクロニクル– Online Edition」イベント直前トークプログラム | コミックナタリー (@comic_natalie) | Twitter)。
本特集では、「ソードアート・オンライン -エクスクロニクル- Online Edition」のイベント内仮想空間も一部が初公開され、「ソードアート・オンライン」ファンの注目も集めた「UNLOCK with Sony」でのトークセッションの模様をレポート。メディアアーティストの落合陽一、ゲームAI開発者の三宅陽一郎、面白法人カヤックのクリエイティブディレクター天野清之、アニメ「ソードアート・オンライン」シリーズのプロデューサー丹羽将己、「ソードアート・オンライン」シリーズのゲーム総合プロデューサー二見鷹介が、仮想空間が拡げるクリエイティビティの可能性をソニーの若手エンジニアと語らった。
取材・文 / 粕谷太智
仮想空間が拡げるクリエイティビティの可能性 『ソードアート・オンライン -エクスクロニクル- Online Edition』
本レポートで紹介するトークセッションの様子はアーカイブも公開中。そのほか、「UNLOCK with Sony」のコンテンツは「ソニースクエア」でも展開されている。
2022年《ソードアート・オンライン》のサービス開始、現実はどこまで?
視聴者参加型のオンラインイベント「UNLOCK with Sony」が、去る9月23日から4日間にわたって開催された。同イベントでは、tofubeats、上田慎一郎、“歌ってみた”“踊ってみた”といったジャンルで活躍する動画配信者など、ジャンルを超えたクリエイターたちが各日に登場。AIによる楽曲制作アシスト、新しいライブ体験を提供する「360 Reality Audio」、後処理なくCGと実写を組み合わせた映像制作を実現するバーチャルプロダクションなど、最新テクノロジーの可能性について、トークセッションを通し未来を見つめた。
9月24日に配信されたトークセッションのテーマは、「仮想空間が拡げるクリエイティビティの可能性」。11月20日から開催される体験型オンラインイベント「ソードアート・オンライン -エクスクロニクル- Online Edition」を例に、「ソードアート・オンライン」という1つのコンテンツのもとに集った5人のトップクリエイターと、ソニーの若手エンジニアが熱く意見を交わした。
イベントの冒頭では、2012年に放送されたTVアニメ「ソードアート・オンライン」第1話より、主人公・キリトがVRMMO(仮想現実大規模多人数オンライン)ゲームである《ソードアート・オンライン》の世界へとログインするシーンを上映。作中の設定では2022年11月に《ソードアート・オンライン》のサービスが開始されているということに触れられた。アニメ「ソードアート・オンライン」シリーズのプロデューサーである丹羽将己は、アニメを制作し始めた2012年時点で2022年が実際どんな世界になっているか想像しきれていなかったと語り、「実際に来てしまったなと(笑)。現実で(「ソードアート・オンライン」の世界に)技術的に近づいているものもあれば、絶対に無理だなというものもあるのか、ぜひ今日聞いてみたい」と、専門家も集まったこの日のイベントへ期待を寄せる。
「ソードアート・オンライン」好きだというメディアアーティストの落合陽一も「(今では)民生用のVR機器はずいぶん安くなってきましたよね」と話す。続けてOculus Quest、HTC Vive、PlayStation VRと具体的な名前を挙げながら、それらの普及の裏には、スマートフォンの部品の流用によって安価に生産が可能になったことがあると説明。落合は「スマホと同じような生態系をVRが作るのに、10年くらいで行けるかと思ったら、そうはならなかった」と、VRがまだまだスマートフォンのように生活の一部とはなっていない現状を伝えながら、「キラーコンテンツが出てくると、この先の10年の進歩は違うかもしれない。神経伝達まで期待したい」と希望を語った。
「エクスクロニクル Online Edition」にて仮想空間の設計を任されるクリエイティブディレクターの天野清之は、VRに携わる者として、「『こういうふうになったらいいな』って妄想していることは、技術が追いついていなくてできないことが多い。落合さんのおっしゃっていたようにハードウェアが一般的になっていないこともあり、ビジネスが成りたないので、お金が集まらず、開発が進められないことも起きている」と現状を明かす。一方で「次の時代に、バーチャルの世界の中で何かを起こせるんじゃないかという手応えは、開発している側としてはある」と、まだまだ発展の可能性を秘めた分野であることを視聴者へ伝えた。
ゲームの世界に没入するために必要な3つの技術
イベントでは視聴者にもわかりやすく、アニメを例に「ソードアート・オンライン」のようにゲームの世界に没入するにはどんな技術が必要か、3つのポイントが示される。その3つとは「大勢で同時に楽しめるリアルなVR空間」「感覚までその場にいるようなVRデバイス」「人間と区別がつかないようなAI(NPC)」。最新の通信システム5Gが「7Gくらいまで進歩する必要がある」と天野が話すように、多数の人間が同期して《ソードアート・オンライン》レベルのゲームを楽しむには、まだまだデバイスが追いついていないというのが現状だ。そんな中、技術的にできないことを、コンテンツ側の演出、見せ方でどうやって「ソードアート・オンライン」の世界に近づけていくかが重要になってくる。
「ソードアート・オンライン」シリーズのゲーム総合プロデューサーである二見鷹介は、2013年に発売されたPlayStation Portable向けのゲーム「ソードアート・オンライン -インフィニティ・モーメント-」制作時について「VRで遊ぶという原作とのギャップ感は100%お客さんに『これ違うよ』って言われるだろうと覚悟してやらせていただいていた」と振り返る。さらにこの10年でハードウェアが進化してきたことに触れ、「自分の視界に映る情報量をどれだけリアリティを持って提供できるのか、日々ゲームチームは研究しながら、1年間で1層作って、100層なら100年かかるじゃないかという話もしている(笑)。もっといい技術があって、情報量を増やした空間を作れるようになって、『ソードアート・オンライン』の世界をゲームでもっと身近に感じてほしいと思いながら研究は常に行っている」と「ソードアート・オンライン」の世界に近づくためのアプローチを二見の視点で述べた。
原作者の川原礫にもAIの解説をしたというゲームAI開発者の三宅陽一郎は、作中に登場するAIを例にトークを展開する。ユイ、ユナとシリーズの中でもはじめに登場した2人のAIは概念、言葉によってAIを作るトップダウン型、後期に登場したアリスはディープラーニングなどを使ったボトムアップ型と、タイプが異なることを解説。現実世界のAIと同じ推移を辿る作品設定に「『ソードアート・オンライン』は時代に同期したコンテンツになっている」と感心する。この現実ともリンクするような「ソードアート・オンライン」の設定について、落合は「フィクションってどこで嘘をついて、嘘じゃないところをどれだけリアルにするかが重要な考え方。制作しているうちに嘘が本当になってしまったら面白くなくなってしまう。現実が追いついてくる速度とマッチしていてすごく面白い作品ですよね」と「ソードアート・オンライン」の魅力を独自の目線で語る。
VRが広げるイベントの可能性
この日のイベントでは「ソードアート・オンライン -エクスクロニクル- Online Edition」の開催に先がけて、その一部も公開に。毎年数多くのVRを体験する機会があるという落合は、VRの展示イベントとしての可能性について、予算やスペースについて言及し「オンラインなら無限にディスプレイが置けるし、施工業者も必要ない。置けば済んだものを全部作るのは、逆に大変ではあるんですけど。スケール感や空間の広さはすごいんだろうなと思います」と、浮遊城“アインクラッド”、“オーシャン・タートル”など作品世界で展示を楽しめるこのイベントへ期待を膨らませる。実際にイベントに携わる天野も、予算やスペースから来る制約の少なさを説明し、さらに「多人数で参加できるようにしていますし、音声通信も入れています。ソニーさんと連携して、今できる技術で面白いものを作っている」と、自信を見せていた。
「ソードアート・オンライン」に魅せられた3人の若手エンジニア
若手エンジニアとのトークパートには、「ソードアート・オンライン」に魅せられて、大学で研究に取り組み今はソニーグループで働くという3人がリモートで参加。それぞれが用意してきた質問に、出演者が答えていく。最初の質問者は、エンジニア気質も持ちあわせるキリトが好きだという、岸田氏。XRシステムの研究・開発業務に携わっているという岸田氏は、XR技術の成長で新たなクリエイティビティが発掘されると展望を語り、それについての予想を問いかける。落合は「部屋の中にデジタル彫刻を置くのが楽しい。犬が走り回っていたり、金魚が浮いていたり、フィジカルにできなかったものを空中に置けるので、非常にクリエイティブ。パブリックアートの話が変わりそうだなと思う」と自身の体験を交え回答。天野はまた別の角度から「実際にできないような理科の実験もVRならやることができる」と学びへ活かすことができると提言。これまで、限られた人にだけ開かれていたような教育を、誰もが受けられるような未来が来ることによって、思いもしなかったようなものが生み出されるのでは、と希望を語った。
続いての質問者は「劇場版 ソードアート・オンライン -オーディナル・スケール-」でユウキの意思とともに戦うアスナが好きだという横山氏。「ソードアート・オンライン」の影響で、アバターや仮想空間を用いた講義システムの構築などを行っていたという横山氏は、《キャリバー》編を引き合いに出し、クエストやコンテンツの自動生成や、それを支えるゲームAIの発展の展望について三宅に考えを尋ねる。三宅はデジタルデームの歴史が、「人間が手で作ってきたものをAIへ渡していく過程」だと表現し、最初はダンジョンから始まり、近年では森、雲、都市といったものや、ストーリーまで自動生成されていると話す。さらにゲーム全体を制御するAIの研究も進んでいると明かし、「ユーザーの好みに合ったストーリーや、スキルに合ったモンスターの配置などを自動生成するように、ゲームはダイナミックかつユーザーに適したものに、変化していく力まで持ちつつある」と、「ソードアート・オンライン」の世界に近づきつつある現状を伝えた。
横山氏からはもう1つ質問が。天野へ投げかけられたのは、現実以上に総クリエイター社会になりつつあるVRソーシャルの中で、ファッションやアートといった活動はどのように発展していくか、というもの。「管理が難しくなる」と、まず考えを述べた天野は「ビジネス上では、きっちり誰が作ったものか管理してマーケットに乗せていくのは大切なこと。絶望的になることがあるとすれば、管理しすぎることで創作の幅が狭まるかもしれないということ」と話し始める。続けて、いろんな国をまたぐネットの世界で、どこまでを著作権とするかなどルール作りができるかどうかが、VR空間での創作が今後発展していくかの鍵になると見解を示した。二見も同意し、今後そういったものがマーケットでやり取りされる環境は5年以内にはできあがるのでは、と具体的な数字を出して意見を述べた。落合は「手の技を修練しなくてもモデル化したものが出てくる」と、いわゆる職人技のような訓練で得るような技術が必要でない点を、デジタルファブリケーションの長所としてあげる。さらに大人・子供関係なく、これまでものづくりが苦手だった人も機能から服までさまざまなものを作れるようになると、未来を想像し、それらがビジネスへとつながり生活が成り立つ人が出てくることを願った。
最後の質問者となったのは、アニメ1期最終話にてキリトとアスナが現実で対面を果たすシーンが好きだという柴田氏。大学でVRを研究していたところ「ソードアート・オンライン」と出会い、研究テーマと近かったことからハマっていったという柴田氏の質問内容は、AIアシスタント、AIエージェントの理想像について。自分の行動特性を理解し、励ましたり、悩みを相談できたりするユイのような存在がAIアシスタントであれば、日々の生活がもっと楽しくなるだけではなく、社会問題にもなっている孤独に立ち向かう手段にもなるのではというのが柴田氏の意見。これを受けた三宅は、日本の対話エージェントの特性として身体や表情を持ったエージェントを作る傾向が強いと説明する。「状況とか場、身体に依存した無意識的なメッセージが取れるようになる。さらにユーザーの身体の機微、バイオ的な状況を取ってより深く人間を理解する技術が進んでいる」と現在の進化を伝え、感情とは行かないまでもメンタルを把握したうえでのサポートは実現する可能性はあると答えた。
コロナ禍を越えた未来のエンターテインメント
ここまでのトークを振り返った落合は、コロナ禍でテレビ会議が増えた昨今の影響を踏まえ「最近はオンラインの側に自分の身体が寄って行っているなと、すごく感じていて。このミーティングなんでフィジカルでやってたんだっけってよく思うことがあるんですよ」と、感じていることを話す。さらに、リアルだけでなくオンラインも選択肢として当たり前になった現状について「それを視聴者とか、研究者とか、エンジニアとか、エンターテイメントを作る人が、否が応でもコロナによって感じることになってきたのは、実は業界にとっては福音なんだろうなと思っています」と、コロナ禍を越えたエンターテインメントの未来に思いを馳せた。