デジタル・デモクラシーは多元的たげんてきテクノロジーによって実現じつげんする── 経済けいざい学者がくしゃグレン・ワイル来日らいにちセッションから

きょうはたらけ可能かのう多様たようせい民主みんしゅ主義しゅぎのためのテクノロジーを実装じっそうする「Plurality」という世界せかいてきムーブメントが注目ちゅうもくされている。その中心ちゅうしんメンバーのひとりグレン・ワイルが来日らいにちし、Plurality Tokyo主催しゅさいのもとで貴重きちょうなセッションが実現じつげんした。
デジタル・デモクラシーは多元的テクノロジーによって実現する── 経済学者グレン・ワイル来日セッションから
Plurality Tokyo

2022ねんあき開催かいさいされたWIRED Conference 2022初日しょにちのキーノートにオンライン登壇とうだんした“天才てんさい経済けいざい学者がくしゃグレン・ワイルは、「民主みんしゅ主義しゅぎ資本しほん主義しゅぎさい構築こうちくするWeb3可能かのうせい」とだいしたそのセッションで、デジタル時代じだいにおける民主みんしゅ主義しゅぎあたらしい形態けいたいをラディカルに提案ていあんしながら、あの「政治せいじてきイデオロギーの3分類ぶんるい」を説明せつめいしてくれた。そのことがつよ印象いんしょうのこっているのは、いまだに自分じぶん自身じしんが、あるいは『WIRED』が、いや、社会しゃかいそのものが、この3つの世界せかいあいだいやおうなくうごいているからだ。

21世紀せいきにおいて、わたしたちの未来みらい方向ほうこうせいめるその3つの主要しゅようなイデオロギーとは、「コーポレート・リバタリアニズム」「シンセティック・テクノクラシー」、そして「デジタル・デモクラシー」だ。

「コーポレート・リバタリアニズム」を代表だいひょうするのは、『ネットワーク国家こっか』をいたバラジ・スリニヴァサンピーター・ティール、それにアンドリーセン・ホロウィッツ(a16z)など。個人こじん自由じゆう主権しゅけんさい優先ゆうせんし、デジタル技術でじたるぎじゅつ利用りようして政府せいふやほかの集団しゅうだんからの独立どくりつはか方向ほうこうせいだ。暗号あんごう(クリプト)技術ぎじゅつやブロックチェーンを重視じゅうしし、政治せいじよりも市場いちばつうじた解決かいけつこのむ。

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「シンセティック・テクノクラシー」を代表だいひょうするのはサム・アルトマンレイ・カーツワイルなど。人工じんこう知能ちのう(AI)やその先端せんたんテクノロジーがもたらす経済けいざいてきゆたかさと効率こうりつ極大きょくだい目指めざし、そのさきにはシンギュラリティや汎用はんよう人工じんこう知能ちのう(AGI)実現じつげん見据みすえている。このイデオロギーは、科学かがく技術ぎじゅつ社会しゃかい問題もんだい解決かいけつ手段しゅだんとしてもっと有効ゆうこうであるとかんがえ、技術ぎじゅつてき解決かいけつ重点じゅうてんいているのが特徴とくちょうだ。

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そして、「デジタル・デモクラシー」だ。グレン・ワイルやイーサリアムのヴィタリック・ブテリン台湾たいわんのデジタル担当たんとう政務せいむ委員いいんオードリー・タンなどが牽引けんいんするこのイデオロギーは、デジタル技術でじたるぎじゅつによって多様たよう分散ぶんさんされた社会しゃかいのコラボレーションと共存きょうぞんうながすことに重点じゅうてんく。ほかのふたつのイデオロギーがとなえるような「テクノロジーと民主みんしゅ主義しゅぎ対立たいりつ」を超克ちょうこくし、デジタルテクノロジーをつうじて直接的ちょくせつてき民主みんしゅてき参加さんか拡大かくだいすることで、多元的たげんてき政治せいじプロセスを可能かのうにするデジタル民主みんしゅ主義しゅぎ実現じつげん目指めざしている。

はたして、デジタル・デモクラシーを実際じっさいにはどのように実現じつげんするのか? いま、ワイルがタンらととも推進すいしんしているのが「Plurality」というグローバルな社会しゃかい運動うんどうだ。たとえば台湾たいわんのシビックテック運動うんどう参照さんしょうしつつ、テクノロジーと民主みんしゅ主義しゅぎ協力きょうりょくしあうことで公衆こうしゅう衛生えいせいから福祉ふくし政府せいふ透明とうめいせいまで、社会しゃかい全体ぜんたいにいかに恩恵おんけいもたらすかをしめしてきたこのプロジェクトでは、テクノロジーが個人こじんではなく社会しゃかい全体ぜんたい利益りえき貢献こうけんする可能かのうせいさぐり、多様たよう意見いけん技術ぎじゅつてき可能かのうせい結集けっしゅうさせることで、より公平こうへい持続じぞく可能かのう未来みらいきずくための基盤きばん形成けいせいしようとしている。

今年ことし1がつ来日らいにちしたワイルは、Plurality Tokyo主催しゅさいによって、日本にっぽんでははつとなる講演こうえんとディスカッションをおこなった正月しょうがつさんにち東京とうきょう恵比寿えびすにはたしてどれだけのひとあつまるのか、という心配しんぱい杞憂きゆうわり、「Plurality」のプロジェクトにかかわる、あるいは関心かんしんせる、とく若者わかものたちの姿すがた会場かいじょう熱気ねっきつつまれていたのが印象いんしょうてきだった。主催しゅさいした高木たかぎ俊輔しゅんすけのリードのもと、前半ぜんはんではワイルが「Plurality」プロジェクトについてキーノートをおこない、テクノロジーと民主みんしゅ主義しゅぎ融合ゆうごうによってことなる文化ぶんか背景はいけいをもつ人々ひとびとのコラボレーションが実現じつげんすることで、社会しゃかいうつくしさ、進歩しんぽ成長せいちょう促進そくしんされるのだと聴衆ちょうしゅう鼓舞こぶした。そして後半こうはんのトークセッション・パートでは、ワイルにくわえてNext Commons Labのはやし篤志あつし渋谷しぶや田坂たさか克郎かつろう、そしてモデレーターとして『WIRED』日本にっぽんばん編集へんしゅうちょう松島まつしま倫明みちあき登壇とうだんし、日本にっぽんでの都心としん地方ちほう都市とし文脈ぶんみゃくくわえながらさらに議論ぎろんふかめていった。以下いかでそのパートを紹介しょうかいしよう(対話たいわながさと明確めいかくさを考慮こうりょして編集へんしゅうされている)。

グレン・ワイルの来日らいにちセッションは2024ねん1がつ3にちにデジタルガレージが運営うんえいする恵比寿えびすのCrypto Cafe & Barで開催かいさいされた。

Plurality TOKYO

松島まつしま:Pluralityという言葉ことば日本語にほんごでは馴染なじみがありません。そして、「多元たげんせい」とやくされますが、しばしばdiversity(多様たようせい)とおなじようなニュアンスで理解りかいされます。そこで、pluralityとdiversityのちがいについてあらためてうかがいたいのですが、さきほどのキーノートをくと、pluralityとは多様たようせいすための一種いっしゅのツールのようなもの、と理解りかいするといいでしょうか?

ワイル:Pluralityは英語えいごでも一般いっぱんてき言葉ことばではありません。すこあたらしく、すこしテクノロジーで、すこ社会しゃかい哲学てつがくてきです。それがとらえようとしている精神せいしんは、多様たようせい機能きのうさせるテクノロジーがあるということです。みなさんが日本語にほんご漢字かんじでこの「plurality」をうまくとらえる言葉ことばつけもらえたらうれしいですね。

松島まつしま:このpluralityを日本にっぽん社会しゃかいにいかに実装じっそうするか、今日きょうここにいる日本にっぽんのリーディングプレイヤーたちとはなっていきたいとおもいます。まずすこ自己じこ紹介しょうかいをしてもらえますか?

田坂たさか:わたしは渋谷しぶや区役所くやくしょはたらいています。ちなみに、渋谷しぶやには「ちがいを ちからに えるまち」というスローガンがあります。つまり多様たようせい都市としをエンパワーする、ということです。

ワイル:まさにそうですね、準備じゅんびしているほんへんちゅう:『Plurality: きょうはたらけ可能かのう多様たようせい民主みんしゅ主義しゅぎのためのテクノロジー』(オードリー・タンとの共著きょうちょ)]の日本語にほんごばんのタイトルにピッタリです。

田坂たさか:ありがとうございます。渋谷しぶや文化ぶんか中心ちゅうしんとしてられています。しかし90ねんまえにはなにもありませんでした。ただの東京とうきょう郊外こうがい都市としのひとつだったんです。いまでは国外こくがいからのおおくの人々ひとびとあつまり、さまざまな年齢ねんれい人々ひとびとざりって多様たよう文化ぶんかし、それが渋谷しぶやというまち形成けいせいにつながりました。そのなかで、わたしはグローバル拠点きょてん都市とし推進すいしんしつ室長しつちょうとして、いわばイノベーション部門ぶもん担当たんとうしています。これまで4年間ねんかん、イノベーションのためのプラットフォームづくりにつとめてきました。たとえば、国外こくがい起業きぎょうむためのスタートアップビザをはじめました。ぜひグレンさんも利用りようしてください。

ワイルじつ台湾たいわん就業しゅうぎょうゴールドカードを取得しゅとくするんです。2週間しゅうかん台湾たいわんでその式典しきてんがあります。

田坂たさか:いわばデジタルノマドビザですね。わたしは以前いぜんだい企業きぎょう中央ちゅうおう政府せいふはたらいていたのですが、いまは渋谷しぶやというひとつのまちはたらいています。そこではダイレクトに政策せいさく実装じっそうすることになり、だからこそ、わたしたちがかかえる問題もんだい直接ちょくせつ実感じっかんできます。

ワイル渋谷しぶやにはどのくらいのひとんでいますか?

田坂たさか:20まんにんちょっとです。

ワイル完璧かんぺきです。今度こんどほん『Plurality: きょうはたらけ可能かのう多様たようせい民主みんしゅ主義しゅぎのためのテクノロジー』では、多元的たげんてきイノベーションにてきした都市としのスケールについて議論ぎろんしています。一方いっぽうで、そのためには内部ないぶ多様たようせい必要ひつようです。内部ないぶ多様たようせいがなければ、イノベーションを駆動くどうすることができません。イノベーションの多様たようせいるためには、それをえる多様たようせい必要ひつようになります。つまり最適さいてきなスケールとは、わたしたちが「平方根へいほうこんスケール」とぶものです。つまり、都市としなかにいる人数にんずうが、そのそと世界せかいにいる人々ひとびと平方根へいほうこんであるべき、ということです。世界せかいやく100おくにんいるとすると、その平方根へいほうこんは10まんです。だから、都市とし多元的たげんてきなイノベーションにとって非常ひじょうてきしたスケールといえます。渋谷しぶやはまさに、素晴すばらしくフィットしていますね。

ひだりから、松島まつしま倫明みちあき(『WIRED』日本にっぽんばん 編集へんしゅうちょう)、はやし篤志あつし(Next Commons Lab創設そうせつしゃ / paramita共同きょうどう代表だいひょう)、田坂たさか克郎かつろう渋谷しぶや区役所くやくしょグローバル拠点きょてん都市とし推進すいしんしつ室長しつちょう)、グレン・ワイル(経済けいざい学者がくしゃ、マイクロソフト プリンシパル・フェロー、RadicalxChange創設そうせつしゃ

Plurality Tokyo

松島まつしまつづけて、都心としんから地方ちほう都市としへときましょう。はやしさん、よろしくおねがいします。

はやし:わたしたちは現在げんざい地方自治体ちほうじちたいいちからはじめるLocal Coopプロジェクトにんでいます。ご存知ぞんじとおり、2040ねんまでに日本にっぽん地方自治体ちほうじちたい半分はんぶん消滅しょうめつするとわれています。人口じんこう減少げんしょうにより、高齢こうれい税収ぜいしゅう減少げんしょうしています。また、社会しゃかい保障ほしょう増加ぞうかつづけるでしょう。そのため、現状げんじょうのままでは地方自治体ちほうじちたい自身じしん公共こうきょうサービスとシステムを提供ていきょうつづけるのはむずかしいことがあきらかです。たしかに大都市だいとし場合ばあい渋谷しぶやのように、従来じゅうらいのアプローチが効果こうかてきだとおもいます。ただ、1,700以上いじょう地方自治体ちほうじちたい半数はんすう以上いじょう非常ひじょうちいさく、30,000にん以下いかで、おも高齢こうれいしゃで、いわゆる過疎かそ地域ちいきです。わたしの意見いけんでは、そこで既存きそん自治体じちたいそのものを改革かいかくしていく意味いみはあまりないでしょう。むしろ、あたらしい地方自治体ちほうじちたいいちからつくる、あるいはだい政府せいふのようなものをつくるほうがいいでしょう。

そこでわたしたちはブロックチェーンや暗号あんごう資産しさんといったテクノロジーを使つかい、いちから地方自治体ちほうじちたいをつくっています。奈良ならけん月ヶ瀬つきがせちいさなむら山奥やまおくにあり、最大さいだいのエリアでも1,200にんしかんでいません。もうひとつのプロジェクトエリアは三重みえけん尾鷲おわせうつくしい漁村ぎょそんで、わずか300にん、65さい以上いじょう高齢こうれいしゃ人口じんこうの60%をめ、100けん以上いじょうがあります。これが日本にっぽん地方ちほう地域ちいきこっていることです。

ワイル:それをいてジョン・デューイをおもしました。かれ著書ちょしょ公衆こうしゅうとそのしょ問題もんだい』はわたしのおりのいちさつです。デューイは『Plurality』のほんでも実質じっしつてき守護しゅご聖人せいじんのひとりなんです。かれは、台湾たいわんでなぜpluralityが成功せいこうしたのかをじょう非常ひじょう重要じゅうよう人物じんぶつです。じつは、デューイは革命かくめいちゅう中国ちゅうごくおとずれています。かれ学生がくせいのひとりであるえびすてきは、中央ちゅうおう研究けんきゅういん院長いんちょうつとめ、まごぶん重要じゅうよう知的ちてきアドバイザーのひとりでした。かれ国民党こくみんとう台湾たいわんたとき、台湾たいわん教育きょういくシステム全体ぜんたいをデューイの原則げんそくもと構築こうちくしたのです。デューイは米国べいこく偉大いだい教育きょういくしゃとして、また偉大いだい政治せいじ哲学てつがくしゃとしてもられています。

公衆こうしゅうとそのしょ問題もんだい』では、あたらしいテクノロジーによって人々ひとびとあたらしいかたちで相互そうご依存いぞんするようになるとべています。石炭せきたん炭鉱たんこう地帯ちたい工場こうじょうむすびつけ、ラジオはそれまではなさなかった人々ひとびと会話かいわさせます。すべてのあたらしいテクノロジーはあたらしい相互そうご依存いぞんします。そして、デューイは、民主みんしゅ主義しゅぎとはむかしからの選挙せんきょ制度せいどをもつ国家こっか意味いみするのではなく、なにかに影響えいきょうされる人々ひとびとが、そのなにかを自分じぶんでコントロールできることを意味いみするのだとべました。つまり自己じこ統治とうちという意味いみです。そしてかれは、テクノロジーのために民主みんしゅ主義しゅぎにかけているともっています。あたらしい相互そうご依存いぞんのかたちを、それによって影響えいきょうける人々ひとびとによって統治とうちするあたらしい方法ほうほうつけないかぎり、テクノロジーはつね民主みんしゅ主義しゅぎころします。それが、いまこっていることなんです。

はやし:そうですね。ここの人々ひとびと以前いぜん自己じこ統治とうちをしていましたが、やく120ねんまえ地方自治体ちほうじちたい一体化いったいかされてから、地方ちほう自治じち地方ちほう政府せいふにアウトソーシングしはじめました。そのために、住人じゅうにんたちは自分じぶんたちの土地とちをどのように管理かんりし、コミュニティを維持いじするかをわすれてしまったんです。これが日本にっぽんこっていることです。

ワイル:このデューイのかんがえは1927ねんのもので、とてもふる問題もんだいです。でも、今日きょうにおいても非常ひじょう関連かんれんせいがある、つまりだれもこの問題もんだい解決かいけつしていません。なぜなら、いまだに国家こっかというふる管轄かんかつ存在そんざいしていて、テクノロジーはそれよりもずっとはや進化しんかしているからです。人口じんこう動態どうたい変化へんか同様どうようです。地域ちいき管轄かんかつする主体しゅたいがこのペースにいつける方法ほうほうつける必要ひつようがあります。そうしないと、民主みんしゅ主義しゅぎわります。民主みんしゅ主義しゅぎまもられるべきものではなく、毎日まいにちあらたに創造そうぞうされるべきものです。そうでなければ、民主みんしゅ主義しゅぎ自然しぜんんでしまいます。つね更新こうしん必要ひつようなのです。

はやしくにをウェブサービスのようにえらべるなら、わたしは日本にっぽんえらばないでしょう。台湾たいわんほうがよさそうです。一方いっぽうで、ヨーロッパの協同きょうどう組合くみあい運動うんどう歴史れきしたとえばスペインのモンドラゴン協同きょうどう組合くみあいなどは魅力みりょくてきです。最近さいきん国会こっかいのメンバーとLocal Coopについてはなったとき、その人物じんぶつはこうったんです。「これを中央ちゅうおうでやればクーデターだが、地方ちほうであればそれはイノベーションになる。ぜひやってくれ」と。それで、状況じょうきょうはかなりわってきています。急激きゅうげき人口じんこう減少げんしょう高齢こうれいのなか、手探てさぐりの地方ちほう行政ぎょうせいシステムを利用りようして、日本にっぽん地方ちほうあたらしい種類しゅるい自治体じちたいをつくることができるおおきなチャンスがある、それがわたしのかんがえです。

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ワイル:それは完全かんぜんにそのとおりですね。オードリーはしばしば自分じぶん自身じしんを「保守ほしゅてき政府せいふ主義しゅぎしゃ」とんでいます。矛盾むじゅんしているようにこえますが、オードリーや、道教どうきょうの『道徳どうとくけい』の伝統でんとうからわたしが本当ほんとうまなんだことは、複雑ふくざつ世界せかいでは、しばしば矛盾むじゅんのなかに真実しんじつがあるということです。なにかを単純たんじゅん表現ひょうげんすることは、ほとんどの場合ばあい間違まちがっています。一方いっぽうで、複雑ふくざつ方法ほうほう表現ひょうげんすることは、ほとんどの場合ばあい理解りかい不能ふのうです。だから、矛盾むじゅんのなかにつね疑問ぎもんをもちつづけるしかありません。保守ほしゅてき政府せいふ主義しゅぎについて彼女かのじょただしかった矛盾むじゅんとは、わたしたちが人々ひとびとだけでなく社会しゃかい集団しゅうだん価値かちあるものとしてかんがえるならば、そして多元たげんせいしんじるならば、わたしたちは同時どうじにイノベーティブでなければなりません。地域ちいきゆたかな伝統でんとう本来ほんらい知恵ちえげ、官僚かんりょう主義しゅぎによっておおかくされないようにしなければなりません。イノベーションによってその方法ほうほうつける必要ひつようがあるのです。

松島まつしま地方ちほうのイノベーションということでいてみたいのですが、2ねんまえ『WIRED』への寄稿きこうで、「Web3における分散ぶんさん議論ぎろんはなぜすれちがうのか」という指摘してきをしています。これはいわゆるWeb3の技術ぎじゅつとpluralityがかならずしもおなじではない、という意味いみ比較ひかくしてろんじたものですが、地域ちいき自治じちという文脈ぶんみゃくでこのふたつはどのようにことなるのでしょうか?

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ワイルすこ技術ぎじゅつてきになるかもしれませんが、具体ぐたいてき説明せつめいしましょう。ブロックチェーンの概念がいねんは、だれもが利用りようできるグローバルな公開こうかい台帳だいちょうとしてかんがえられています。そして、個人こじんのプライバシーをまもるために、人々ひとびとはプライバシー技術ぎじゅつをこれにかさねています。つまり、公共こうきょう(パブリック)/わたし(プライベート)という概念がいねんです。しかし、これは情報じょうほう統治とうちについてかんがえるには間違まちがった方法ほうほうだとおもいます。

『アメリカのデモクラシー』をいたアレクシ・ド・トクヴィルは、人々ひとびとがおたがいをにくかぎり、暴君ぼうくん人々ひとびと利己りこてきであることをよろこぶとべています。大切たいせつなのは個人こじんのプライバシーではなく、多様たよう社会しゃかい集団しゅうだんです。公共こうきょうてきなものや私的してきなものではなく、おおくのことなる公共こうきょう必要ひつようなんです。それぞれの公共こうきょうは、他者たしゃによる干渉かんしょうから保護ほごされる必要ひつようがあります。そうでなければ、その完全かんぜんせいうしなうからです。わたしたちにはプライバシーも必要ひつようですが、それと同時どうじに、集団しゅうだんない共有きょうゆうされる理解りかい必要ひつようです。ブロックチェーンの問題もんだいは、多様たよう社会しゃかいコミュニティの創造そうぞうについてかんがえるべきなのに、それを公私こうしというバイナリーでかんがえてしまうことです。こうしたコミュニティは、みずからを保護ほごし、きょうはたらかして行動こうどうするために権限けんげんあたえられる必要ひつようがあります。民主みんしゅ主義しゅぎ本質ほんしつとは、個人こじんるのではなく、共通きょうつう目標もくひょう達成たっせいするために国家こっかそと集団しゅうだんてき行動こうどうできる権限けんげんをもつ人々ひとびとっているのです。

田坂たさか渋谷しぶや場合ばあいかんがえてみました。わたしたちの都市とし人口じんこう統計とうけいがくてき非常ひじょうにユニークです。日本にっぽんのほとんどの都市としちょう高齢こうれい社会しゃかいですが、渋谷しぶやは20だいから50だい最大さいだい人口じんこうそうです。これはおおくのアクティブな労働ろうどうしゃがいることを意味いみしていますが、そのこえはとてもちいさいのです。一般いっぱんてき日本にっぽんでは、高齢こうれいしゃはより強力きょうりょく保護ほごされたグループを形成けいせいしています。そうした人々ひとびとこえは、政治せいじとどきやすい。テクノロジーを使用しようすることで、この状況じょうきょうえることができるかもしれません。もしわたしたちが高齢こうれいしゃだけにみみかたむけていたら、将来しょうらい世代せだいなにのこすことはできないでしょう。これをどうやって回避かいひできるでしょうか? 決定けっていプロセスをえるべきですか、それともなんらかの方法ほうほう高齢こうれいしゃ利益りえきまもるべきでしょうか? あるいはグレンさんがうように、高齢こうれいしゃをより尊重そんちょうしながら、いまのギャップをめるような方法ほうほうがあるでしょうか?

ワイル昨日きのう、お台場だいば日本にっぽん科学かがく来館らいかん家族かぞくおとずれたんです。そこは多元たげんせいかんがえるための素晴すばらしい物理ぶつりてき空間くうかんでした。常設じょうせつ展示てんじのひとつに、人々ひとびと高齢こうれいしゃ身体しんたい感覚かんかくつい体験たいけんさせるという「いパーク」というものがあります。こうしたテクノロジーは、世代せだいグループあいだ分断ぶんだんをつくらない手助てだすけとなります。たとえば、よりおおくのちがった立場たちば人々ひとびとがあるなにかに貢献こうけんすれば、それだけ公的こうてき支援しえんられるような「クアドラティック・ファンディング」という仕組しくみがあります。もしかすると、高齢こうれいしゃ若者わかもの両方りょうほうにとってのいい解決かいけつさくつけるなら、それがただしい方法ほうほうになるかもしれません。それに、たとえば18さいになった若者わかものや、日本にっぽんたばかりの移民いみんが、月日つきひとも投票とうひょうけんをよりおお仕組しくみはどうでしょう? ことなる社会しゃかい集団しゅうだん考慮こうりょするクアドラティック・ボーティングのようなものがあったらどうでしょう? 投票とうひょうをスマートに設計せっけいすることで、高齢こうれいしゃ若者わかものたたかうのではなく、一緒いっしょ協力きょうりょくし、全員ぜんいんにとってうまく機能きのうするものをつくりすことができるはずです。

松島まつしま最後さいごに、いま言及げんきゅうしたようなツールを効果こうかてき使用しようして、日本にっぽん地方ちほうあたらしい種類しゅるいのガバナンスを創造そうぞうするという可能かのうせいについてどうおもいますか?

ワイルさきほどはあまり深入ふかいりしなかったのですが、実際じっさいにはさきほどったようにとても自然しぜんなやりかたがあります。ここでの問題もんだいは、若者わかものたい高齢こうれいしゃというだけではなく、ことなる地方自治体ちほうじちたいあいだでも断片だんぺんされているということです。だとしたら、クアドラティック・ファンディングによってあたらしいオーソリティをつくるのはどうでしょう? たとえばいくつかの地方ちほう政府せいふ一緒いっしょになって共通きょうつうのプロジェクトにおかねとうじ、国家こっか政府せいふがこれにマッチングファンドを提供ていきょうするのです。そうすることで、既存きそん権限けんげんからあたらしい権限けんげんが、国家こっかレベルのサポートをけてまれます。英国えいこくのウェストミッドランズ結合けつごう行政ぎょうせい機構きこうのようなものをいたことがあるかもしれません。でもこれをもっと中央ちゅうおう集権しゅうけんされた方法ほうほうで、かつ国家こっかレベルのサポートをけておこなうこともできるんです。

はやし:それはクールですね。だれか、くに行政ぎょうせいひとはここにいませんか?(笑)

SPECIAL THANKS TO SHUNSUKE TAKAGI, SHINYA MORI


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