松島:Pluralityという言葉は日本語では馴染みがありません。そして、「多元性」と訳されますが、しばしばdiversity(多様性)と同じようなニュアンスで理解されます。そこで、pluralityとdiversityの違いについて改めてうかがいたいのですが、先ほどのキーノートを聞くと、pluralityとは多様性を生み出すための一種のツールのようなもの、と理解するといいでしょうか?
ワイル:Pluralityは英語でも一般的な言葉ではありません。少し新しく、少しテクノロジーで、少し社会哲学的です。それが捉えようとしている精神は、多様性を機能させるテクノロジーがあるということです。皆さんが日本語や漢字でこの「plurality」をうまく捉える言葉を見つけもらえたらうれしいですね。
松島:このpluralityを日本社会にいかに実装するか、今日ここにいる日本のリーディングプレイヤーたちと話し合っていきたいと思います。まず少し自己紹介をしてもらえますか?
田坂:わたしは渋谷区役所で働いています。ちなみに、渋谷区には「ちがいを ちからに 変える街」というスローガンがあります。つまり多様性が都市をエンパワーする、ということです。
ワイル:まさにそうですね、準備している本[編注:『Plurality: 協働可能な多様性と民主主義のためのテクノロジー』(オードリー・タンとの共著)]の日本語版のタイトルにピッタリです。
田坂:ありがとうございます。渋谷は文化の中心地として知られています。しかし90年前には何もありませんでした。ただの東京の郊外都市のひとつだったんです。いまでは国外からの多くの人々が集まり、さまざまな年齢の人々が混ざり合って多様な文化を生み出し、それが渋谷という街の形成につながりました。そのなかで、わたしはグローバル拠点都市推進室室長として、いわばイノベーション部門を担当しています。これまで4年間、イノベーションのためのプラットフォームづくりに努めてきました。例えば、国外の起業家を呼び込むためのスタートアップビザを始めました。ぜひグレンさんも利用してください。
ワイル:実は台湾で就業ゴールドカードを取得するんです。2週間後に台湾でその式典があります。
田坂:いわばデジタルノマドビザですね。わたしは以前は大企業や中央政府で働いていたのですが、いまは渋谷というひとつの街で働いています。そこではダイレクトに政策を実装することになり、だからこそ、わたしたちが抱える問題を直接実感できます。
ワイル:渋谷にはどのくらいの人が住んでいますか?
田坂:20万人ちょっとです。
ワイル:完璧です。今度の本『Plurality: 協働可能な多様性と民主主義のためのテクノロジー』では、多元的イノベーションに適した都市のスケールについて議論しています。一方で、そのためには内部の多様性が必要です。内部に多様性がなければ、イノベーションを駆動することができません。イノベーションの多様性を得るためには、それを超える多様性が必要になります。つまり最適なスケールとは、わたしたちが「平方根スケール」と呼ぶものです。つまり、都市の中にいる人数が、その外の世界にいる人々の平方根であるべき、ということです。世界に約100億人いるとすると、その平方根は10万です。だから、都市は多元的なイノベーションにとって非常に適したスケールといえます。渋谷はまさに、素晴らしくフィットしていますね。