はい、わたしはずっとデジタルの死後の世界(Digital After Life)について考えてきました。
わたしたちの残響について、デジタルの世界を探してみると、実に多くのものがあります。通信、医療、公共事業など、わたしたちの生活はデジタルに依存しています。社会のデジタルシステムが機能不全に陥れば、わたしたちは人類として機能不全に陥ってしまうほどです。
例えば、FacebookやInstagramといったソーシャルメディアはすでにわたしたちの生活の一部です。それらは自分の外側にある、もうひとつの人生です。そして、その人生は実際には、AIが処理しているわけです。つまりあなたの意思には関係なく、あなたと関係のありそうな人のタイムラインにあなたの投稿は現れるし、その逆も起きるわけです。
現在のFacebookでは、アクティブユーザーよりもレガシーページの方が多くなる可能性があります。しばらく会っていない友達のページにアクセスすると、その友達が亡くなったことさえ気づかないかもしれません。そんな現実はもう眼の前にあります。デジタルの死後の世界は、現実の問題なのです。
──そこからあなたは踏み込み、量子を用いた残響を探求しました。
テクノロジーとさらにシームレスに統合された未来の視点に立ったとき、量子コンピューティングが見えてきます。
量子とは、粒子と波の性質をあわせもった、とても小さな物質やエネルギーの単位のことです。わたしたち人間を含む物質は原子によって形づくられていますが、その原子も量子なのでです。つまり量子コンピューターは、わたしたちを構成する原子と同じものをベースにしているのです。
量子コンピューターの世界では、わたしたちの身体がもつ波紋のようなものを残響として遺すことができるのではないか、と考えたのです。つまり、わたしたちの身体が環境とインタラクションすることによって生まれる残響です。作品では、バイオフィードバックと、映像と音のインタラクティブアートによるバイオ・デジタル・エコーとして、その波紋を表現しています。
例えば音は、ポーランド日本情報工科大学のセファ・サギールとのコラボレーションによるものです。目に見えないけれど、わたしたちの身体に浸透している音の性質を、デジタル信号と生体信号の相互作用によって表現しています。量子物理学に根ざした波形と、音響生物工学によって心臓の細胞を誘導するスタンフォード大学の研究を活用し、視覚的な体験を補完するだけでなく、物理的な世界と技術的な世界の融合という体験を提供する聴覚的環境をつくり出しています。
──そして展示で採取されたDNAは、月へと打ち上げられます。契約している「ライフシップ」は、人類を含む地球上の生命を、地球の外側へ拡張することをミッションとする米国のスタートアップです。
はい、この作品のDNA、テキスト、データは、「ライフシップ・ムーンアーカイブ」におけるふたつのプロジェクトで月へ運ばれることになっており、ひとつ目はスペースXのファルコン9ロケットに搭載される、ファイアフライ・エアロスペースの月着陸船ブルーゴーストで契約済みです。打ち上げ時期は2024年第4四半期を予定しています。もうひとつは、アストロラボ社の探査機と契約しており、スペースXのスターシップで打ち上げるミッションです。打ち上げ目標は2026年です。
未来の人類やほかの生命体が、月でこれらのDNAやメッセージを発見するかもしれません。そのとき、地球の人類はすでに絶滅しているかもしれません。そのようなシナリオを前提としたとき、何を遺すのか? わたしは現在、作品中で収集されたメッセージを展示・分析し続けながら考え続けています。