建築家のジョヴァンニ・ベッティとカタリーナ・フレックはこの布の現物を、美術展で展示することを思いついた。『Invisible Mountain(消えゆく山)』を間接的に観客に伝えることで、遠い場所で起きている気候変動を、眼の前で議論できるものにしたのだ。その意図について、24年の札幌国際芸術祭で展示を行なったジョヴァンニ・ベッティとカタリーナ・フレックに、インタビューを行なった。
──あなたたちは建築家ですよね? そのキャリアがどのようにして今回の作品に結びついたのでしょうか?
ジョヴァンニ・ベッティ(以下ジョバンニ) わたしたちは2人とも建築家であり、Foster + Partners(ロンドンに拠点を置く、グローバルな建築設計組織)で仕事をしていました。例えばわたしがかかわったもののひとつには、ロンドンにあるブルームバーグのヨーロッパ本社があります。カタリーナは世界最大の空港である、クウェート国際空港に携わった経験をもっています。
これらの建造物はすべて持続可能性を念頭に置いて設計され、持続可能な野心的目標を達成しようとしています。しかし統計によれば、これらの建造物は現在、世界のエネルギーに関係するCO2排出量の39%を占めています。28%は暖房、冷房、電力供給による排出で、残りの11%は材料と建設によるものです。
この時代(人新世)を生きる建築家としてはとても複雑な気持ちなのです。願わくば、気候変動に加担しない建築を実現したい。わたしは現在、学術的なアプローチから、新しい材料や方法、エネルギー源を模索し、気候変動や生物多様性に関連した問題の解決に貢献できるような建築を目指しています。このアート作品は、そうした自分たちの複雑な気持ちを、人々と分かち合うためにつくったものなのです。
──どのようにして建築と、氷河を覆う布とが結びついたのでしょうか?
カタリーナ・フレック(以下カタリーナ) 新型コロナウイルスのパンデミックで、わたしたちは家にいて、この“布”をインターネット上で見つけました。そこでさまざまなディスカッションをしたことが、この作品に結びついています。
ジョバンニ この布が、建築の置かれている状況とよく似ていると思ったんです。さらにわたしたちが生きている人新世における人間活動を象徴するオブジェクトだとも感じました。いいことをしようとしても、常に環境に影響を与え、傷つけてしまう。そんなジレンマを、この布は象徴していると感じたのです。
──どのようにして布にたどり着いたのでしょう? 実際にアルプス山脈に行って、この布と出合ったんですよね。
ジョバンニ はい、わたしたちはイタリアのアルプス山脈に行き、実際にこの布で作業をしている人たちに会いに行ったのです。話を聞くと、地球環境保護ではなく、より商業的な作業として行なわれていました。つまり地元の目線では、スキーシーズンのために雪を保存するための目的なのです。北イタリアでは1970年頃に、年中スキーができるリゾートが生まれました。しかし90年から2000年頃になり、気候変動の影響が顕著になると、かつては年間を通してあった雪が、夏になると消えてしまうようになったのです。そこで、冬にプラスチック製の布で氷河を覆うようにしたのです。まったく矛盾に満ちているわけです。