(Translated by https://www.hiragana.jp/)
研究者のゲーム事情:第1回は社会学者の橋迫瑞穂さん。ポリフォニーとしてのホラーゲーム実況と,その魅力に迫る
オススメ機能きのう
Twitter
記事きじ履歴りれき
ランキング
パッケージ
犬鳴いぬなきトンネル公式サイトへ
  • Chilla's Art
  • Chilla's Art
  • 発売はつばい:2019/11/19
  • 価格かかく:350えん税込ぜいこみ
レビューを書く
準備中
りタイトル/ワード

タイトル/ワードめい記事きじすう

最近さいきん記事きじんだタイトル/ワード

タイトル/ワードめい記事きじすう

週刊しゅうかん連載れんさい
LINEで4Gamerアカウントを登録とうろく
研究者のゲーム事情:第1回は社会学者の橋迫瑞穂さん。ポリフォニーとしてのホラーゲーム実況と,その魅力に迫る
特集とくしゅう記事きじ一覧いちらん
注目ちゅうもくのレビュー
注目ちゅうもくのムービー

メディアパートナー

印刷2024/04/05 08:00

連載れんさい

研究けんきゅうしゃのゲーム事情じじょうだい1かい社会しゃかい学者がくしゃはしさこ瑞穂みずほさん。ポリフォニーとしてのホラーゲーム実況じっきょうと,その魅力みりょくせま

画像集 No.001のサムネイル画像 / 研究者のゲーム事情:第1回は社会学者の橋迫瑞穂さん。ポリフォニーとしてのホラーゲーム実況と,その魅力に迫る

普段ふだん論文ろんぶん講義こうぎ活躍かつやくしている研究けんきゅうしゃたちは,プライベートではどんなゲームに,どのようにれているのだろうか? ほん連載れんさい研究けんきゅうしゃのゲーム事情じじょうは,研究けんきゅうしゃ個人こじんてきあそんでいるゲームについて,専門せんもんてき知見ちけんまじえて自由じゆうかたってもらう企画きかくである。

初回しょかいはスピリチュアリティ研究けんきゅうられる社会しゃかい学者がくしゃはしさこ瑞穂みずほさん登場とうじょう人気にんきホラーゲーム犬鳴いぬなきトンネル」実況じっきょう題材だいざいに,ホラーゲーム実況じっきょう魅力みりょく比較ひかく検討けんとうしてもらった。
※カッコない名前なまえ年度ねんどは,参考さんこう文献ぶんけんひょう対応たいおうしている。

実況じっきょうによるホラーゲームのひろがり

 現代げんだい社会しゃかいでは怪談かいだんやホラーについてかたるのに,ホラーゲームは見過みすごせないジャンルとなりつつある。家庭かていようビデオゲームが普及ふきゅうして以来いらい名作めいさくばれるほどのホラーゲームが次々つぎつぎとリリースされるようになり,近年きんねんでは海外かいがいのメーカーやインディーのメーカーも参入さんにゅうして裾野すそのひろがっている。

 こうしたホラーゲームの人気にんき後押あとおししているのが,ビデオゲームをプレイしながら感想かんそう分析ぶんせき開陳かいちんする映像えいぞうをYouTubeなどの動画どうがサイトにアップする,ゲーム実況じっきょうしゃ以下いか実況じっきょうしゃ」)の存在そんざいだろう。近年きんねんではウォーキングシミュレータに代表だいひょうされる,一人称いちにんしょう視点してんのホラーゲームが数多かずおおくリリースされて人気にんきあつめている。実況じっきょうしゃ一人称いちにんしょう視点してん恐怖きょうふ世界せかいはいりながら状況じょうきょう感情かんじょうを「かたる」ことで,ゲームの魅力みりょくしている。今回こんかい一人称いちにんしょう視点してんのホラーゲームが台頭たいとうするなかで,実況じっきょうしゃの「かたり」がたす役割やくわり注目ちゅうもくしたい。そのさいに,一人称いちにんしょうのホラーゲームの魅力みりょくにも注目ちゅうもくする(※1)。

 近年きんねん,ビデオゲームをめぐって議論ぎろん活発かっぱつしているが,その背景はいけいには「ゲーム実況じっきょう」がデジタルイベントとして視聴しちょうしゃ注目ちゅうもくあつめて一大いちだい産業さんぎょうとなったという事情じじょうがある(加藤かとう2017;金田かなだ2009)。そのなかで,メディアをろんじる根岸ねぎしたか哉氏はゲーム実況じっきょう魅力みりょくとして,実況じっきょうしゃ視聴しちょうしゃ交流こうりゅうちながら実況じっきょうおこなうインタラクティブせいと,実況じっきょうしゃがゲームない様々さまざま成長せいちょう」をげていく様子ようす視聴しちょうしゃ応援おうえんするたのしみをげている。この場合ばあいの「成長せいちょう」とは,ゲームないでのランクアップやゲーマーとしてのスキルアップだけでなく,実況じっきょうしゃがタレントとして実績じっせきんでいく過程かていのことだ(根岸ねぎし2023)。

 他方たほう,ホラーゲームにかぎってえば,ゲームないでのテクニックがそれほど重要じゅうようではないものもおおい。そうしたゲームでは実況じっきょうしゃはテクニックよりも「かたり」によって視聴しちょうしゃ魅了みりょうすることで,ゲーム体験たいけんんでいるとえるだろう。そのことが,実況じっきょうしゃのタレントせいにもつながっているのだ。

 では,かれらの「かたり」はどのように視聴しちょうしゃんでいるのだろうか。このてんかんがえる手掛てがかりとして,デベロッパChilla's Art作品さくひんなかから犬鳴いぬなきトンネル」と,その作品さくひん再生さいせいすうおお実況じっきょう動画どうがげてみよう。ただし今回こんかい紙幅しふく都合つごうもあり厳密げんみつ分析ぶんせき手法しゅほうもちいておらず,あくまで実況じっきょう動画どうが実際じっさい見聞みききした感想かんそうまることをっておきたい。

犬鳴いぬなきトンネル」実況じっきょう多様たようせい

 ホラーゲーム「犬鳴いぬなきトンネル」は,2019ねん11月19にちにSteamにて配信はいしん開始かいしされた。プレイヤーは一人称いちにんしょう視点してん男性だんせい主人公しゅじんこう操作そうさしてトンネルをけてから,はいむらとなった「犬鳴いぬなきむら」に侵入しんにゅうし,ひととおり動画どうが撮影さつえいしてから出口でぐち目指めざ筋立すじだてとなっている。

 「犬鳴いぬなきむら」とは,「きゅう犬鳴いぬなきトンネル」のちかくにあった法治ほうちおよばないとされるむら(このようなむら実在じつざいしたわけではない)の名前なまえで,都市とし伝説でんせつとして流布るふしている。途中とちゅうにある電話でんわボックスやおはかてら仕掛しかけられたなぞきつつちているメモをひろうと,むらなにこったのかがおぼろげにわかる仕組しくみだ。時代じだい現在げんざいよりすこまえ設定せっていとなっていて,プレイヤーは霊力れいりょく感知かんちするVHSのビデオカメラをとおして必要ひつようなアイテムをあつめることをもとめられる。設定せっていされた条件じょうけんをどのようにクリアするのかで結末けつまつことなる,マルチエンディングが採用さいようされている。

 Chilla's Artのゲームは,実際じっさい映像えいぞうれながらあえてあら画像がぞうとしてしめすことで,不気味ぶきみ不穏ふおん雰囲気ふんいき演出えんしゅつすることに特徴とくちょうがあるが,それは「犬鳴いぬなきトンネル」も同様どうようだ。また一人称いちにんしょう視点してんのため,プレイヤーは主人公しゅじんこう外見がいけんはもちろん,主人公しゅじんこう性格せいかく犬鳴いぬなきむらとのかかわりさえることがむずかしい。推理すいり小説しょうせつなどでもちいられる手法しゅほうひとつ,信用しんようできないかた」の立場たちばにある登場とうじょう人物じんぶつを,プレイヤーが操作そうさしながら実況じっきょうすることが,ホラーとしての側面そくめんをよりげる要素ようそとなっているのだ。

 YouTubeの登録とうろくしゃすうが189まんにんえている実況じっきょうしゃガッチマンは,このChilla's Artの作品さくひんをいちはや紹介しょうかいして人気にんき後押あとおしした。「犬鳴いぬなきトンネル」の実況じっきょう動画どうがもリリース直後ちょくごの2019ねん11月22にちにアップロードして,現在げんざい再生さいせいすう154まんかいえている(2024ねん2がつ16にち現在げんざい)。

 オープニングのトンネルの場面ばめんでは,ガッチマンはゲームの概要がいよう説明せつめいしつつトンネルの周辺しゅうへんさぐってみせている。時折ときおり冗談じょうだんはさむなど,視聴しちょうしゃはなしかけるようないいまわしがおおく,終始しゅうしかたりは冷静れいせいだ。そのため,ゲームない不気味ぶきみ現象げんしょう出会であっても,状況じょうきょう確認かくにんするだけにまる。だが,むらないはいってなぞ段階だんかいになると,そのむずかしさから沈黙ちんもくしたりボヤいたりすることがおおくなるのである。終盤しゅうばんにはバッドエンドにかっていることをさっして分析ぶんせき反省はんせいべつつ,最後さいご主人公しゅじんこう怪異かいいおそわれてたおれたことを確認かくにんしている。そのさいには,主人公しゅじんこうを「わたし」とぶ。

画像集 No.003のサムネイル画像 / 研究者のゲーム事情:第1回は社会学者の橋迫瑞穂さん。ポリフォニーとしてのホラーゲーム実況と,その魅力に迫る
ガッチマン実況じっきょう動画どうが ※スクリーンショット掲載けいさい許可きょかみ,以下いかどう


 おなじく「犬鳴いぬなきトンネル」を実況じっきょうしているレトルトは,これまでもホラーゲームだけでなくさまざまなジャンルのゲームをげており,登録とうろくしゃすうは250まんにん以上いじょうだ。また,ホラーゲームのなかでもテキストを中心ちゅうしん物語ものがたりすすんでいくノベルゲームの実況じっきょうおおく,とき画面がめん必要ひつようのない朗読ろうどく動画どうがとしても受容じゅようできるところに特徴とくちょうがある。「犬鳴いぬなきトンネル」の再生さいせいすうは,108まんかいえている(2024ねん2がつ16にち現在げんざい)。


 ゲームの冒頭ぼうとうでレトルトは「犬鳴いぬなきトンネル」の概要がいようやゲームのすすかただけでなく,実際じっさいにあった事件じけんについて自分じぶん調しらべたことを紹介しょうかいしている。レトルト実況じっきょう特徴とくちょうてきてんとして主人公しゅじんこうについて分析ぶんせきし,わざわざ犬鳴いぬなきむらかける理由りゆうにいわゆる「つっこみ」をれて,他者たしゃとしてあつか傾向けいこうつよいことが指摘してきできるだろう。さらに,たものやこったことを逐一ちくいち言葉ことばにし,ちているメモを朗読ろうどくするため,視聴しちょうしゃ画面がめんなくてもなにこっているか把握はあくできるてん特徴とくちょうてきだ。終盤しゅうばんではバッドエンドにかっていることにづくと,ゲーム内容ないようかえりつつクリア条件じょうけんについて検討けんとうはじめる。終盤しゅうばんいたっても主人公しゅじんこうを「おまえ」とんで他者たしゃとしてあつかいながら,怪異かいいおそわれる様子ようす主人公しゅじんこう背景はいけいについて冗談じょうだんまじえて,その様子ようすかたつづけている。

 そのほか,特徴とくちょうてき実況じっきょうしゃとして,おついちげられる。おついちは3人組にんぐみ実況じっきょうしゃ集団しゅうだんTEAM-2BRO.のメンバーで,普段ふだん複数ふくすう実況じっきょうおこなっているが,「犬鳴いぬなきトンネル」は単独たんどくげている。この実況じっきょう編集へんしゅうずに画面がめんにそのままながす,いわゆるなま配信はいしん方式ほうしきおこなわれた。なま配信はいしんでは,YouTubeのチャットらん視聴しちょうしゃからの感想かんそうやコメントが反映はんえいされる仕組しくみとなっている。再生さいせいすう47まんかいだ(2024ねん2がつ16にち現在げんざい)。

画像集 No.005のサムネイル画像 / 研究者のゲーム事情:第1回は社会学者の橋迫瑞穂さん。ポリフォニーとしてのホラーゲーム実況と,その魅力に迫る
おついち実況じっきょう動画どうが


 おついちによる実況じっきょうでは,自身じしんがゲームだけでなくホラー全般ぜんぱんこのんでいることが随所ずいしょからうかがえる。そのため冒頭ぼうとうでは,ゲームをすすめるうえでルールだけでなく,都市とし伝説でんせつとしての「犬鳴いぬなきむら」についてこまかな解説かいせつおこなわれるのが特徴とくちょうてきだ。犬鳴いぬなきむらはいるとなぞくためのひとりごとや,沈黙ちんもく時間じかんえていく。だが,それに反応はんのうするチャットがおおながれるため,画面がめんじょうでは相互そうごせい発生はっせいしている。

 終盤しゅうばんではなぞきが十分じゅうぶんでなかったためにバッドエンドにかっていることにづき,エンディングを見届みとどけるとすぐさま最初さいしょからゲームをやりなおして,1しゅうのゲームをかえりつつグッドエンドを回収かいしゅうしている。2しゅうではある程度ていど展開てんかいかっているためか,ホラーについての知識ちしきおもかんする雑談ざつだんえている。そしておついち実況じっきょう特徴とくちょうとして,主人公しゅじんこうを「おれ」とびつつも,かれ何者なにものでどのような性格せいかくなのか,なぜ犬鳴いぬなきむらかっているかなど,こまかい分析ぶんせき披露ひろうしているてんげられるだろう。

実況じっきょう」はなに照射しょうしゃしているか

 以上いじょうさんしゃさんよう実況じっきょうについての概要がいよう説明せつめいした。ここからは,それぞれの実況じっきょうについての特徴とくちょうをとらえつつ,さんしゃ比較ひかくしたい。

 ガッチマンはゲームないたものを客観きゃっかんてきつたえることと,なぞきの思考しこう過程かてい披露ひろうする,いわばひとりごとちかかたりを交互こうごおこなうことで視聴しちょうしゃをゲームにんでいる。他方たほうで,恐怖きょうふ演出えんしゅつたいしておどろきをしめすこともなく,時折ときおり冗談じょうだんぜることで,視聴しちょうしゃ恐怖きょうふ緩和かんわする役割やくわりになう。だがそれだけでなく,ときかたりをれないことで,視聴しちょうしゃ注意ちゅうい画面がめんそのものにけさせることにも成功せいこうしている。したがって,ゲームの画面がめんたいして補完ほかんてきかたりを展開てんかいさせているえるだろう。この特徴とくちょうはバッドエンドをむかえる場面ばめんにおいて,主人公しゅじんこうとプレイヤーとの距離きょり強調きょうちょうするかたりを展開てんかいすることと相関そうかんしている。

画像集 No.004のサムネイル画像 / 研究者のゲーム事情:第1回は社会学者の橋迫瑞穂さん。ポリフォニーとしてのホラーゲーム実況と,その魅力に迫る

 レトルトたものを逐一ちくいちかたるとともに,ゲームでの感想かんそう感情かんじょう素直すなおかたってみせていてそうじて多弁たべんだ。そのため,視聴しちょうしゃ画像がぞうていなくても物語ものがたり展開てんかいがおおよそわかるようになっている。一人称いちにんしょう視点してんつにもかかわらず,主人公しゅじんこうはなしてかたってみせているのも,そうしたかたりの特徴とくちょう延長えんちょうえるだろう。レトルトにとって主人公しゅじんこう自分じぶん自身じしんかさなる存在そんざいではなく,あくまでゲームの物語ものがたりすすめる登場とうじょう人物じんぶつだからだ。こうして,レトルトかたりはゲームを「物語ものがたりとしてえる」役割やくわりになっているえる。

 他方たほうでおついちは,ゲームないでの出来事できごとにはほとんど言及げんきゅうせず,みずからの趣味しゅみであるホラーについての知識ちしきやひとりごと展開てんかいするかたりがおおい。しかし,「犬鳴いぬなきトンネル」ではなま配信はいしん形式けいしきをとっているため,視聴しちょうしゃとの相互そうごせい画面がめんあらわれている。そのためかたりがなくても,おついちといっしょにゲームをたのしんでいる感覚かんかく視聴しちょうしゃあじわうことができるのだ。主人公しゅじんこうもあくまでゲームの登場とうじょう人物じんぶつでしかなく,徹底的てっていてき客観きゃっかんてき分析ぶんせきしてみせるのがおついち特徴とくちょうといえよう。

画像集 No.006のサムネイル画像 / 研究者のゲーム事情:第1回は社会学者の橋迫瑞穂さん。ポリフォニーとしてのホラーゲーム実況と,その魅力に迫る

 こうしてみると,ホラーゲームの実況じっきょうしゃは「かたり」によって視聴しちょうしゃをゲーム体験たいけんむのは共通きょうつうしているが,それぞれのかたにはことなった特色とくしょくがあることがあらためてかる。これは,ホラーゲームの実況じっきょうしゃ人気にんきたかまったてん一人称いちにんしょうのホラーゲームが注目ちゅうもくされるようになったてんが,ほぼどう時期じきこったことと関係かんけいしているかもしれない。実況じっきょうしゃそれぞれ画面がめん展開てんかいされる眼前がんぜん状況じょうきょう一人称いちにんしょう視点してんでとらえた「かたり」と,ゲームないにいる不可視ふかし主人公しゅじんこうとのあいだ距離きょりいた「かたり」使つかけながらゲーム実況じっきょう展開てんかいしていて,そのかたり」の使つかけが個性こせい発揮はっきするはたらきをしているってよいだろう。

 したがって,ホラーゲーム実況じっきょうしゃ目的もくてきはあくまで「ホラーゲームについてかたる」ことにある。実況じっきょうしゃは,ゲームないこる怪異かいいについて自身じしんかんじた恐怖きょうふ感情かんじょう視聴しちょうしゃつたえたり,怪異かいいについての解釈かいしゃく視聴しちょうしゃけることに重点じゅうてんいていない。そして視聴しちょうしゃはそれぞれの実況じっきょうしゃの「かたり」をとおしたホラーゲームのたのしさに,魅力みりょくかんじているのである。それが視聴しちょうしゃ実況じっきょうしゃたいする信頼しんらい愛着あいちゃくうながして,かれらがタレントせいをより発揮はっきする方向ほうこうにつながっているのではないだろうか。このてんにおける実況じっきょうしゃ視聴しちょうしゃ関係かんけい意味いみについて,さらにげてみよう。

ポリフォニーとしてのゲーム実況じっきょう

 怪談かいだん研究けんきゅう吉田よしだゆう軌氏は,「体験たいけんだん取材しゅざいさい構成こうせい発表はっぴょうという怪談かいだん行為こういによってかたがれていく運動うんどう」を実話じつわ怪談かいだんとしたうえで,実話じつわ怪談かいだん伝達でんたつ問題もんだいによって別人べつじんはいみ,細部さいぶについての精度せいどけることがあったとしても問題もんだいはなく,むしろ伝達でんたつ過程かていに「別人べつじん怪談かいだん行為こういはいることで,そのはなし洗練せんれんされ力強ちからづよくなる」という,いわば「しゃべり」のかさなりに魅力みりょくがあるべている。そのうえ実話じつわ怪談かいだんそのものも,解釈かいしゃくしたことについて話芸わげいのなかでも発話はつわ形式けいしきめられていない「しゃべり」によって構成こうせいされる。

 吉田よしだ実話じつわ怪談かいだんのこうした特性とくせい指摘してきしたうえで,実話じつわ怪談かいだん魅力みりょく様々さまざま人間にんげんこえによるポリフォニー」であることべている(吉田よしだ2023)。この吉田よしだ主張しゅちょうをいいかえると,実話じつわ怪談かいだんとは,形式けいしきい「しゃべり」という発話はつわかさなりにおいて,怪談かいだん研究けんきゅうあらためて拡散かくさんされたナラティブを取材しゅざいによって回収かいしゅうし,かつさい構成こうせいすることでっている。そして見方みかたえると,実話じつわ怪談かいだん取材しゅざいする怪談かいだん研究けんきゅうもまた,「しゃべり」によって「ポリフォニー」に参加さんかしているのだ。

 吉田よしだによる実話じつわ怪談かいだん仕組しくみから検討けんとうすると,ホラーゲームの実況じっきょうはゲームないこった怪異かいいを「しゃべり」によって構成こうせいするてんにおいて,「実話じつわ怪談かいだん」とかさなる部分ぶぶんがあるとえる。実況じっきょうにおいて,「しゃべり」の対象たいしょうはあくまでゲームないこる怪異かいいかぎられるが,今回こんかいげた「犬鳴いぬなきトンネル」のように,事実じじつであることを証明しょうめいしにくい怪異かいいをクリエイターがさい構成こうせいしたものとしてホラーゲームをとらえることは可能かのうだろう。だとしたら,ホラーゲームの実況じっきょう実話じつわ怪談かいだん同質どうしつ性格せいかくびていても不思議ふしぎはない。

 もっとえば,「犬鳴いぬなきむら」のように実際じっさい流布るふしている都市とし伝説でんせつがゲームの素材そざいとなるのも,またそれが実況じっきょうというかたち人気にんきるのも,吉田よしだべるような「様々さまざま人間にんげんのポリフォニー」を発生はっせいさせる素地そじつものだからだ。そして実況じっきょう場合ばあい,そのうえ視聴しちょうしゃこえとき上乗うわのせされる。ホラーゲーム実況じっきょう実話じつわ怪談かいだん両者りょうしゃ近年きんねん,イベントの題材だいざいとして存在そんざいかんしているのは,この「ポリフォニー」の魅力みりょくにほかならない。

 ただし,ホラーゲームの実況じっきょう実話じつわ怪談かいだんことなり,ゲームないこったことに「しゃべり」をせていく形式けいしきをとっている。つまり,こったことと「しゃべり」にタイムラグが発生はっせいせず,しかも視聴しちょうしゃこった出来事できごと実況じっきょうしゃとともにている。だから,実況じっきょうしゃ出来事できごとたいして物語ものがたりとしてのさい構成こうせいはか必要ひつようがそれほどなく,むしろ出来事できごとそのものにどのように「しゃべり」をあてがうかに注意ちゅういはらわれるのだ。その「しゃべり」はホラーゲームないこっている怪異かいい沿ったものである必要ひつようはなく,ゲームをあそぶことのたのしさを視聴しちょうしゃにまでとどける「しゃべり」であることに価値かちがある。

 実話じつわ怪談かいだん話者わしゃことなり,ホラーゲームの実況じっきょうにおいて実況じっきょうしゃ自身じしん個性こせい重要じゅうようなのは,かれらの「しゃべり」そのものに個性こせい必要ひつようだからではないだろうか。そしてその個性こせいが,登録とうろくしゃすうやファンのかず直結ちょっけつしている 。したがって実話じつわ怪談かいだん決定的けっていてきことなるてんとして,実況じっきょうしゃは「ポリフォニー」の調和ちょうわをかきみだして,突出とっしゅつした個性こせい発揮はっきする必要ひつようがあることがげられる。

 今日きょうでは,ホラーゲーム実況じっきょうがゲーム実況じっきょうのなかでもおおきな人気にんきあつめている。それが実話じつわ怪談かいだん特徴とくちょうかさなりあう部分ぶぶんがあることに注目ちゅうもくするなら,ホラーゲーム実況じっきょう魅力みりょく怪談かいだんかた行為こういそのものが魅力みりょく素地そじうえつものであることにもける必要ひつようがある。したがって,ゲーム実況じっきょうがなぜ人々ひとびと魅了みりょうするのかをあきらかにするには,ゲームのジャンルにもくばりつつ,領域りょういきにおける「かたり」の魅力みりょくにもける必要ひつようがあるのではないだろうか。

※1……この論考ろんこうは2023ねん12月9にち武蔵大学むさしだいがくおこなわれた「話芸わげい・パフォーマンスアートとしての実話じつわ怪談かいだん」でのパネル発表はっぴょう「アートパフォーマンスとしてのホラゲー実況じっきょう」をもとにしている。

参考さんこう文献ぶんけん
金田かねだ淳子じゅんこ2009「ゲーム実況じっきょう,そして刺身さしみ――ゲーム実況じっきょうプレイ動画どうがおぼき」『ユリイカそう特集とくしゅうRPGの現在げんざい』41(4),pp.184-190,青土おうづちしゃ
加藤かとう裕康ひろやす2017「ゲーム実況じっきょうイベント――ゲームセンターにおける実況じっきょう成立せいりつがかりに」『現代げんだいメディアイベント――パブリックビューイングからゲーム実況じっきょうまで』pp109-151,勁草書房しょぼう
根岸ねぎしたか哉2023「ゲーム,実況じっきょうしゃ視聴しちょうしゃ関係かんけいせいからみる実況じっきょう生放送なまほうそう構造こうぞう」『たていのちかんゲーム研究けんきゅうセンター紀要きよう』(5),pp91-98,たていのちかんゲーム研究けんきゅうセンター.
吉田よしだゆう軌2023「だれだれはなしだれかたっているのか?――複数ふくすうこえつむぐ『実話じつわ怪談かいだん』という運動うんどう」『ユリイカ そう特集とくしゅう生活せいかつ/エスノグラフィー――多様たような<生を記録することの思想』51 (11)pp.84-97,青土社.

犬鳴いぬなきトンネル」公式こうしきサイト



  • 関連かんれんタイトル:

    犬鳴いぬなきトンネル

  • この記事きじのURL:
4Gamer.net最新さいしん情報じょうほう
プラットフォームべつ新着しんちゃく記事きじ
総合そうごう新着しんちゃく記事きじ
企画きかく記事きじ
スペシャルコンテンツ
注目ちゅうもく記事きじランキング
集計しゅうけい:09がつ24にち〜09がつ25にち