2018年末に著作権法が改正され、新たにパブリック・ドメインの現れない2回目の元旦を迎えました。
そのため、今回の更新は例年とは異なり、平常通りの更新として、本日1月1日が生誕日の富田常雄による「面」を公開しております。
普段から青空文庫の更新状況にご関心のある方はお気づきのことと思いますが、この数年、青空文庫では作品公開スケジュールに少し工夫を凝らしています。
具体的には、作家の誕生日・命日やゆかりの日に合わせて、意識的にその作品の公開日設定をしているのです。
現在、青空文庫では年間500~600作品の新規公開があり、年間1000万ほどの作品ページビューがあります。
公開される作品はパブリック・ドメインやクリエイティブ・コモンズなどそもそもがオープンなものですが、もちろんただ公開しておけばそれだけで広く公有が浸透してゆくわけではありません。
そこでまず、よりオープンに共有していくために、すぐにできる工夫として思いついたのが、そのときの公開待ち作品をできるだけ「特別な日」に合わせてお届けすることでした。
この試みは2015年後半から徐々に本格化し、今ではおよそ半数強の作品は、当該作家の誕生日・命日に合わせて公開されています。
しかし時として「文学忌」という言葉で呼ばれる作家の命日を特別視する習慣は、一般的には局地的かつ地味なものでした。
命日に作家を偲んで、たとえばゆかりの地や文学館などでイベントやお祭りがあったり、あるいはファンが自主的に作家の本を読んで想いを馳せたりします。
またこの日を本人の作品や雅号、特徴的な言葉で称することもあり、たとえば江戸川乱歩なら「石榴忌」、梶井基次郎なら「檸檬忌」、幸田露伴なら「蝸牛忌」と言い、それぞれ季語としても用いられています。
ですがこのSNS時代、こうした記念(祈念)日を軸にした文芸振興は、あらためて社会のなかで盛り上がりつつあります。
9月19日の獺祭忌・糸瓜忌(正岡子規)、9月26日の八雲忌(小泉八雲)でも、従来のファンのみならず近年の翻案作品から新しく作家に親しんでいる人たちも含め、リアルタイムの投稿数値推移を見る限り、普段の数倍の反応があったようです。
こうした動きは、同じくマンガ・アニメ・ゲームから日本の文豪たちを知った海外のみなさんにも不思議に思えるようで、先日の中也忌(10月22日)には、青空文庫の公開作を伝えるツイートに、ロシア語で「祝っているの?」というリアクションがありました。
そのときには、次のような説明をお返ししました。
"In Japanese tradition, the anniversary of an author’s death is to read their works and wish their fame alive forever; it is called ‘文学忌’ (Bungaku-Ki)."
たとえ本人がいなくても、その名前と作品が永遠に残っていってほしい、というのはファンの常なる想いでもあります。
普段は作家・作品の愛好者はそれぞれで楽しんでいますが、作家の誕生日や文学忌は、そうした人々がゆるやかにつながるきっかけにもなっています。
そして青空文庫で入力・校正することがファン活動の一環であるとするなら、その作品が最も喜ばれる・盛り上がる日に公開することは、文芸愛好家のゆるやかな共同体にとっても最も貢献できるのではないか、と考えました。
とりわけ作家の誕生日や文学忌の当日は、各種イベントのツイートや作品の感想などが、相乗効果もあっていつも以上に拡散されます。
そしてそれは、盛り上がるほどに目を惹くものとなり、新しい読者を招く呼び水にもなるでしょう。
青空文庫はこれからも、文芸を楽しむ共和体の継続と発展を目指して、作家の誕生日や文学忌という風習をこれまで以上に育てていきたいと思っています。
そして今、青空文庫は本の未来基金と協力しながら、社会の共有財産としての文芸文化を、さらに豊かにしていくためにはどうすればいいか、ゆっくりとではありますが、そのための計画を進めつつあります。
高速通信と小型閲覧端末の普及によって、青空文庫はかつてよりもかなり気軽に、どこでも読めるようになりました。
しかしそれでも、必要とされながら届きづらいところ、まだ届いていないところがあるはずです。さらに公共性を高めるためには、どこへ積極的に届けていくべきなのか。
かつての「青空文庫 寄贈計画」を再開するならば、あるいは海外に……
また今でも青空文庫を通して、パブリック・ドメインは広く活用されています。
もちろん商用利用も少なくありませんが、その多くは非営利利用です。気軽な朗読配信なども、とみに増えています。
そのなかで、著作者のわからない孤児作品(オーファン・ワークス)に対しては、社会における豊かな活用にいまだ扉が閉ざされたままでいます。
パブリック・ドメインにとってそうであったように、こうしたオーファン・ワークス活用の突破口にも、青空文庫はなれないだろうか?
著作権保護期間延長後2年目である本年は、青空文庫および本の未来基金にとっても新たな挑戦を始める1年になるでしょう。どうか応援して頂けると幸いです。(U)
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