新型コロナウイルスの感染拡大を受け、政府は26日の対策本部で、スポーツ・文化イベントなどの開催を今後2週間自粛するよう要請すると決めた。これに従って公演中止を発表したミュージシャンのある投稿が、ツイッター上で注目されている。
ツイッターを書いたのは、3人組ロックバンド「Non Stop Rabbit」(通称ノンラビ)でギターとコーラスを担当する田口達也さん。ノンラビの所属事務所の社長も務めている。
ノンラビは26日、3月1日に東京・豊洲PITで行う予定だったライブの中止を決定。公式サイトで「政府からのイベント中止要請を受け、開催を取りやめることに致しました。感染の拡大を収束するべく、このような判断とさせて頂きました」と発表した。
その後、ツイッターに「コロナウイルスに感染していなくとも、生活が困難になる事実を政府に届けたい」として、いまの思いをつづった。
「今回のコロナウイルスによるライブの中止で保険はおりません。豊洲PIT公演にかかる会場費・制作費・人件費・グッズ代は1000万円を超えています。通常通り開催できていればチケットの売り上げは1200万円を超えている為(ため)、赤字になることはありませんでした。ファンを守れるのであれば、今回の赤字を背負うことに抵抗は全くありません」とした上で、「感情論を抜きにした現実的な話です」と前置きし、「僕らの様(よう)なアーティストはこの規模のライブの中止で会社すら潰れかねない損失を受けます。音楽という仕事すら続けられなくなる可能性が中止の決断一つで出てしまうのです」と続ける。
立ち見で約3千人を収容できる豊洲PITのようなライブハウスで公演するためには、1年以上前から予約をしておく必要がある。このため、田口さんは「今の状況では振替公演の場所を確保することもできていません」と打ち明けた。
そして、「俺はウイルスに感染していない。でも自分の会社、アーティストの人生が終わる可能性が出る状態まで追い込まれた。そうなったからこそ言える。本当に国を挙げて対応して欲しい。1人でも救われて欲しい。アーティストは本気でファンを守る決断をします。その決断でアーティストに矛先が向くことがあると分かっていても。だから政府も本気で対応してください。感染を止めてください。そして感染せずとも何かを失った人がいるという事(こと)を分かって下さい。現在、闘病されている方々の一日も早い回復を心より祈っております」と結んでいる。
なぜ投稿したのか。自身の投稿が反響を呼んでいることをいま、どう感じているのか。朝日新聞の取材にこたえ、田口さんはメールで思いを寄せた。
「一バンドマンとして、一経営者として、ライブを中止せざるを得ない状況にある中で、同じような気持ちを持つ方々が多くいるのではないか、と考えたため」
「中止という決断に全く悔いはありません。感染を防ぐ一策だとするならば、僕らアーティストは皆そう思っているんじゃないかと思います」
◇
他のミュージシャンも少しずつ、手探りで自分たちの思いを語り始めている。
西川貴教さんは「一般の方は『やるも、やらぬ本人判断だろ』とお思いですが、会場は早くて2年前から手配がはじまり、お客様を入れずとも多くのスタッフを危険に晒(さら)します。一律に後ろにスライド出来るなら延期も即判断出来ますが、自己責任とされているので足並みは揃(そろ)いません。保険もリスクを取って加入は難しいです」とツイートした。
3人組ロックバンド「打首(うちくび)獄門同好会」も公式ツイッターで、「ライブの中止の話って、演者とお客さんの話に終始しがちだけど 俺、本当に大変なのはその場所で日々働いている人達(たち)だと思うんです。明日からの仕事が突然なくなった。いつまで続くかわからない。生活があるのに。家庭があるのに。終息したら、音楽業界で働く皆を応援していただけると嬉(うれ)しいです。」と投稿した。
この投稿に対し、音響照明会社に勤めているという人からは「向こう2カ月ぐらいはぜんぜん仕事がなくなってしまい、スタッフみんな困ってます」、ライブハウス経営者と名乗る人からは「2週間(最大で14本)キャンセルになったら、耐えきれず潰れるハコは多いでしょう」など、さまざまな返信が寄せられている。(坂本真子)