三菱重工みつびしじゅうこう、スペースジェット開発かいはつ中止ちゅうしを正式せいしき発表はっぴょう　泉澤いずみさわ社長しゃちょう「機体きたい納入のうにゅうできず申もうし訳わけない」

　三菱重工業みつびしじゅうこうぎょう（7011）は2月がつ7日にち、国産こくさん初はつのジェット旅客機りょかくき「三菱みつびしスペースジェット（旧きゅうMRJ）」の開発かいはつ中止ちゅうしを正式せいしき発表はっぴょうした。本紙ほんし既報きほうのとおり、事業じぎょうの採算さいさん性せいが見込みこめないことから開発かいはつを断念だんねんした。

スペースジェットの開発かいはつ中止ちゅうしを発表はっぴょうする三菱重工みつびしじゅうこうの泉澤いずみさわ清次せいじ社長しゃちょう（右みぎ）＝23年ねん2月がつ7日にち PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

　反省はんせい点てんとして、高度こうど化かした民間みんかん航空機こうくうきの型式けいしき認証にんしょうプロセスへの理解りかい不足ふそく、長期ちょうきにわたる開発かいはつを継続けいぞくして実施じっしするリソースの不足ふそくを挙あげた。

—記事きじの概要がいよう—
・「特定とくていの何なにかに起因きいんするものではない」
・「当あたり前まえのことが欠かけていた」

「特定とくていの何なにかに起因きいんするものではない」

　三菱重工みつびしじゅうこうは「一旦いったん立たち止どまる」との表現ひょうげんで、スペースジェットの開発かいはつを2020年ねん10月がつ30日にちに事実じじつ上じょう凍結とうけつ。7日にちに都内とないで会見かいけんした三菱重工みつびしじゅうこうの泉澤いずみさわ清次せいじ社長しゃちょうは「多おおくの皆様みなさまからご期待きたい、ご支援しえんをいただいたが、開発かいはつ中止ちゅうしの判断はんだんに至いたったことは大変たいへん残念ざんねん。開発かいはつを再開さいかいするに至いたる事業じぎょう性せいを見みいだせなかった」と開発かいはつ中止ちゅうしの判断はんだんを下くだした経緯けいいを説明せつめいした。

三菱重工みつびしじゅうこうはスペースジェットの開発かいはつ中止ちゅうしを正式せいしき発表はっぴょう。写真しゃしんはモーゼスレイクで滑走かっそう試験しけんを実施じっしする三菱みつびしスペースジェットの飛行ひこう試験しけん3号機ごうきで解体かいたい済ずみ＝19年ねん12月10日にち PHOTO: Kiyoshi OTA/Aviation Wire

スペースジェットの開発かいはつ中止ちゅうしを発表はっぴょうする三菱重工みつびしじゅうこうの泉澤いずみさわ清次せいじ社長しゃちょう＝23年ねん2月がつ7日にち PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

　泉澤いずみさわ社長しゃちょうは「機体きたいとしては一定いってい水準すいじゅんのものを開発かいはつできたが時間じかんが経過けいかしており、最新さいしん技術ぎじゅつと比くらべて競争きょうそう力りょくが低下ていかしている。数かず十じゅう年ねんにわたる運航うんこうを考かんがえると、これから投入とうにゅうする機体きたいにはSAF（持続じぞく可能かのうな航空こうくう燃料ねんりょう＝代替だいたい航空こうくう燃料ねんりょう）への対応たいおう、電動でんどう化かなど脱だつ炭素たんその選択肢せんたくしを考慮こうりょする必要ひつようがあるが、設計せっけいの見直みなおしが必要ひつよう」とした。

　また、主おもな市場いちばとなる米国べいこくではリージョナル機きに対たいする「スコープ・クローズ」と呼よばれる座席ざせき数すうや最大さいだい離陸りりく重量じゅうりょうを制限せいげんする労使ろうし協定きょうていの緩和かんわが進すすまず、メーカー標準ひょうじゅんの座席ざせき数すうが88席せきの標準ひょうじゅん型がた「SpaceJet M90」（旧きゅうMRJ90）では市場いちば投入とうにゅうが難むずかしいことも影響えいきょうした。

　2008年ねんの事業じぎょう化かから15年ねんが経過けいかし、開発かいはつ費ひは総額そうがく1兆ちょう円えんとも言いわれるが、泉澤いずみさわ社長しゃちょうは「この場ばでは控ひかえる」と開発かいはつ費ひの明言めいげんを避さけた。また、補助ほじょ金きんなどの公的こうてき資金しきんがこれまでに少すくなくとも約やく500億おく円えん投とうじられた。泉澤いずみさわ社長しゃちょうは「機体きたいの事業じぎょう化かには至いたらなかったが、培つちかった技術ぎじゅつは生いかしていきたい」と述のべた。

　今後こんご型式けいしき証明しょうめいを取得しゅとくする作業さぎょうを続つづけた場合ばあいは「精査せいさしたわけではないが、年間ねんかん1000億おく円えんで数すう年ねん」（泉澤いずみさわ社長しゃちょう）かかるとし、数すう千せん億おく円えん規模きぼの巨額きょがく負担ふたんの割わりに事業じぎょうとしての採算さいさん性せいは厳きびしいと判断はんだんした。スペースジェットの開発かいはつで得えた知見ちけんは、日本にっぽんと英国えいこく、イタリアの3カ国かこくで共同きょうどう開発かいはつする次期じき戦闘せんとう機きなどに生いかす。

県営けんえい名古屋なごや空港くうこうを離陸りりくするMRJの飛行ひこう試験しけん初号しょごう機き＝15年ねん11月11日にち PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

　開発かいはつ子会社こがいしゃの三菱みつびし航空機こうくうきは、三菱重工みつびしじゅうこうに資産しさんを移管いかんするなどの準備じゅんびを経へて清算せいさんも視野しやに、ほかの株主かぶぬしとともに今後こんごのあり方かたを検討けんとうする。かつては約やく1600人にんの従業じゅうぎょう員いんが働はたらいていたが、三菱重工みつびしじゅうこうによると現在げんざいの人数にんずうは非ひ公表こうひょうなものの、次期じき戦闘せんとう機き部門ぶもんなどへ再さい配置はいちが可能かのうなレベルの人数にんずうだという。

　一方いっぽうで、歴代れきだい社長しゃちょうを含ふくむ経営けいえい陣じんの責任せきにんについては、「誰だれか特定とくていの個人こじん、時期じきに問題もんだいがあるのではなく、進捗しんちょくに従したがって適正てきせいに判断はんだんしながらやってきた。特定とくていの何なにかに起因きいんするものではないと思おもう」と述のべるに留とめた。

「当あたり前まえのことが欠かけていた」

　泉澤いずみさわ社長しゃちょうの冒頭ぼうとうあいさつでは、航空こうくう会社かいしゃなどの顧客こきゃくに対たいして、機体きたいが完成かんせいせず、1機きも納入のうにゅうできないことに対たいする謝罪しゃざいの言葉ことばはなかった。泉澤いずみさわ社長しゃちょうにその点てんを尋たずねると、「スペースジェットに期待きたいを持もって購入こうにゅうの意思いし表示ひょうじをいただき、ローンチカスタマーのANA様さまには大変たいへんご協力きょうりょくいただいた。機体きたいを納入のうにゅうできなかったことは大変たいへん申もうし訳わけなかった」と陳謝ちんしゃした。

パリ航空こうくうショーの会場かいじょうとなるル・ブルジェ空港くうこうに初はじめて展示てんじされたANA塗装とそうが施ほどこされたMRJの飛行ひこう試験しけん3号機ごうき＝17年ねん6月がつ17日にち PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

MRJ導入どうにゅうに基本きほん合意ごういし握手あくしゅを交かわすJALの植木うえき社長しゃちょう（中央ちゅうおう左ひだり）と三菱みつびし航空機こうくうきの江川えがわ会長かいちょう（いずれも肩書かたがきは当時とうじ）＝14年ねん8月がつ28日にち PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

　スペースジェットは、2008年ねん3月がつ27日にちに持株もちかぶ会社かいしゃ化か前まえの全日本ぜんにほん空輸くうゆ（ANA/NH）から確定かくてい15機きとオプション（仮かり発注はっちゅう）10機きの最大さいだい25機きを受注じゅちゅうして事業じぎょう化か。2014年ねん8月がつ28日にちには、日本航空にほんこうくう（JAL/JL、9201）から32機きすべてを確定かくていで受注じゅちゅうした。7日にち時点じてんの総そう受注じゅちゅうは267機きで、このうち確定かくてい受注じゅちゅうは153機き、オプションと購入こうにゅう権けんは114機きだった。

　当初とうしょの納期のうきは2013年ねんだったが、その後ご2014年ねん4-6月がつ期き、2015年度ねんどの半なかば以降いこう、2017年ねん4-6月がつ期き、2018年ねん中ちゅうごろ、2020年ねん半なかばと延期えんきを重かさね、2020年ねん2月がつ6日にちには6度目どめの延期えんきが発表はっぴょうされて2021年度ねんど以降いこうとしていたが、ついに未完みかんの航空機こうくうきとなった。

　ANAホールディングス（ANAHD、9202）の芝田しばた浩二こうじ社長しゃちょうは「残念ざんねんだが、苦渋くじゅうの判断はんだんをされたものであり、開発かいはつに携たずさわってきた皆様みなさまに深ふかく敬意けいいを表ひょうする」とコメントした。

　JALは「国産こくさん初はつの先進せんしん的てきなジェット旅客機りょかくきとなるよう、当社とうしゃも技術ぎじゅつ者しゃ、駐在ちゅうざい員いんを派遣はけんし、開発かいはつに協力きょうりょくしてきたので、非常ひじょうに残念ざんねんに思おもっている。これまでの開発かいはつの中なかで得えられた知見ちけんやノウハウが、我わが国くにの航空機こうくうき産業さんぎょうの発展はってんに役立やくだてられることを強つよく望のぞんでいる」とコメントした。

県営けんえい名古屋なごや空港くうこうを離陸りりくし初はつ飛行ひこうする三菱みつびしスペースジェットの飛行ひこう試験しけん10号機ごうきJA26MJ＝20年ねん3月がつ18日にち PHOTO: Tatsuyuki TAYAMA/Aviation Wire

　泉澤いずみさわ社長しゃちょうは「一旦いったん立たち止どまる」から開発かいはつ中止ちゅうしを決定けっていするまでに約やく2年ねんを要ようしたことについて、「立たち止どまって、はい、止とめます、というプロジェクトではなかった。何なにか手てはないか、どこかに突破口とっぱこうがないかを模索もさくしていた。それくらい三菱重工みつびしじゅうこうにとっても、みなさんの期待きたいも含ふくめて大おおきなプロジェクトで、簡単かんたんに結論けつろんを出だせるものではなかった」と語かたった。

　「初期しょきの段階だんかいで開発かいはつ規模きぼの見積みつもりが少すこし甘うまかったのではないか。入はいるべきマーケット、参入さんにゅうしようとしている事業じぎょうをもっと勉強べんきょうした上うえで入はいっていく、という当あたり前まえのことが欠かけていた」と総括そうかつした。

関連かんれんリンク
三菱重工業みつびしじゅうこうぎょう
三菱みつびし航空機こうくうき

米国べいこくに残のこる試験しけん機き
・スペースジェット試験しけん機き、3機きは米国べいこくで保管ほかん　解体かいたいか保存ほぞんか（23年ねん2月がつ7日にち）

当とう紙かみスクープ
・【独自どくじ】スペースジェット、開発かいはつ中止ちゅうし決定けってい　次期じき戦闘せんとう機きに知見ちけん生いかす（23年ねん2月がつ6日にち）

スペースジェット
・三菱重工みつびしじゅうこう、泉澤いずみさわ社長しゃちょうがスペースジェット開発かいはつ中止ちゅうし説明せつめいへ　2/7決算けっさん会見かいけんに出席しゅっせき（23年ねん2月がつ7日にち）
・「一旦いったん立たち止どまる」から2年ねん　特集とくしゅう・スペースジェットの現在地げんざいち（22年ねん11月3日にち）
・【スクープ】MRJ、ANA塗装とそうでパリ航空こうくうショー出展しゅってんへ　3号機ごうき塗ぬり替かえ（17年ねん4月がつ9日にち）
・MRJが初はつ飛行ひこう　YS-11以来いらい53年ねんぶり、”11″並ならびの日ひ（15年ねん11月11日にち）
・MRJ、初号しょごう機きがロールアウト　夢ゆめから現実げんじつへ（14年ねん10月がつ18日にち）
・JAL、MRJを32機き導入どうにゅう　植木うえき社長しゃちょう「航空こうくう産業さんぎょう拡大かくだいに貢献こうけんしたい」（14年ねん8月がつ28日にち）