安倍元首相の暗殺 どのように起きたのか
安倍晋三元首相(67)が8日午前11時半ごろ、奈良市の駅前で撃たれた。搬送先の奈良県立医科大学付属病院は、午後5時3分に死亡が確認されたと発表した。
10日に投開票される参院選のため、応援演説をしている最中のことだった。容疑者は背後から近寄り、手製の銃を発砲したとされる。
事件の発生から、安倍氏の遺体が東京の自宅に戻るまで、流れを振り返る。
奈良市の近鉄・大和西大寺(やまとさいだいじ)駅の北口から約50メートルの交差点内に、ガードレールで囲まれた一角があり、安倍元首相はそこで自民党の現職参議院議員、佐藤啓氏の応援演説をしていた。
上の写真は、自民党関係者の拍手を受けながら、演説台に上がる安倍氏を写したもの。背後にいる男性には気づいていない様子だ。若く見える男性は、カジュアルな服装で、黒いバッグを斜めがけにしている。
安倍氏の演説が始まって数分後、この男性が前に移動し始めるのが現地映像で見える。午前11時半ごろ、破裂音が2回響き渡り、安倍氏は地面に倒れる。出血しているのが、現場写真などからも分かる。
その場にいた人たちが混乱し、身を伏せる中、少し離れた場所でスーツ姿のSPらが男を取り押さえた。男は逃げようとしていなかったという。警察が男を警察車両に乗せて、連行した。
周囲の医療機関から駆け付けた医師や、救急隊が応急処置をした後、救急車が安倍氏を搬送。さらに、ドクターヘリで奈良県立医科大学付属病院へ運ばれた。
病院到着時には、心肺停止状態だった。医師団は輸血を繰り返し、止血手術をして蘇生を試みるが、午後5時3分に死亡を確認した。
担当医によると、首の2カ所に銃弾による傷があった。傷は心臓まで達し、心臓に大きな穴が開いていたという。止血手術をしたが、大量の出血があり、死因は失血死だったという。手術中には体内に銃弾は見つからなかったという。
報道によると、奈良県警は9日午前、安倍氏の司法解剖結果を発表した。左上腕から入った銃弾1発が、左右の鎖骨下にある動脈を傷つけたことが致命傷だったという。
「手製」の武器
事件を目撃した人たちによると、取り押さえられた男は、大きい銃のようなものを持ち、安倍氏の背後から2回発砲したという。
警察は現場でこの手製銃を押収した。日本では銃刀法によって銃の購入は厳しく制限されている。
奈良県警は、容疑者の名前を奈良市在住の山上徹也容疑者(41)と発表した。
容疑者は元海上自衛隊員で、2020年10月から今年5月まで、派遣社員として京都府内の工場で働いていた。
動機は
複数の報道によると、容疑者は奈良県警の調べに、「安倍元首相の政治信条に対する恨みではない」とした上で、特定の宗教団体の名前を挙げて「恨む気持ちがあった。団体のトップを狙うつもりだった」と供述し、母親がその宗教団体に入信し、多額の寄付をしたため家が破産したとも話しているという。団体への恨みを機に、団体に近いと思った安倍氏を襲撃の対象にした可能性があるという。
奈良県警は同日夕方、奈良市内にある容疑者の自宅マンションを家宅捜索。機動隊や爆発物処理車が出動した。午後9時半過ぎには容疑者宅から爆発物が見つかったとして、警察官が住人らに避難を呼びかけた。容疑者宅から、複数の手製銃や爆発物が見つかったという。
安倍氏が応援演説のため現地入りすることを、容疑者がどうやって知ったのかは、はっきりしていない。自民党奈良県連によると、安倍氏の応援演説は前日の7日夕方に決まり、一般への周知はしていなかったという。報道によると、容疑者は「ホームページで安倍氏の演説を知った」と供述しているという。
「警備に問題」と県警本部長
奈良県警の鬼塚友章本部長は9日夕、県警本部で記者会見し、「警護・警備に関する問題があったことは否定できないと考えている」と謝罪。「早急に問題点を把握し、適切な対策を講じていきたい」とも述べた。本部長は時に、涙ぐみそうになる様子を見せた。
安倍氏の遺体を乗せた車は9日午後1時半すぎ、都内にある自宅に到着した。妻の昭恵さんが奈良の病院から同乗した車を、自宅前で複数の自民党関係者が出迎えた。
安倍氏の地元・山口県下関市の事務所は、安倍氏の通夜が11日に、葬儀が12日に執り行われると明らかにした。