シツ・イブラヒム氏は栽培したトマ トを、ナイジェリア北部最大の都市カノに近いカダワ渓谷を通るハイウ ェー沿いで販売することで、2人の妻と11人の子どもを養ってきた。買 い手を増やせないため、作物の3分の2は腐らせている。
イブラヒム氏ら同渓谷に住む約8000人の農民の収入を増やすため、 ナイジェリア中央銀行とアフリカ最大の富豪アリコ・ダンゴート氏が手 を組んで、約2500万ドル(約25億円)のトマトペースト工場を建設する ことになった。
「ご覧の通り、食べるだけで精いっぱいだ。ぜいたくをする余裕は ない」。6月6日、見渡す限りのトマト畑に囲まれた土塀の家の外で、 イブラヒム氏(56)は腰掛けに座ってさらにこう語った。「ダンゴート 氏の工場にトマトを持ち込めば、工場経由で全国の人が買ってくれるこ とになる。期待したい」。
ナイジェリア中銀が乗り出してきたのは、年間100億ドル超に上る 食料輸入を減らそうとする政府の振興策の一環。同中銀は委託調査を通 じて国産トマトを加工した方が中国からペーストを輸入するより安上が りだということを実証しようとしている。同中銀はまた、1960年代には 食料を自給していた農業を振興させ、貧困や失業がイスラム教徒の反政 府活動を助長している同国北部での雇用創出も目的としている。
同中銀のサヌシ総裁は取材に対して、6月25日付の電子メールでの 回答で、カダワをモデル地域にして、政府が進める振興策を利用すれば 農業用の資金を借りて生産性を向上させ、雇用創出と増収が可能になる ということを立証したいと語った。2011年の調査によると、アフリカ最 大の人口を抱えるナイジェリアは、3億6000万ドルを払って年間30万立 方トン超のトマトペーストを中国の保定市三源食品包装やシンガポール のオーラム・インタナショナルなどの企業から輸入している。
世界で32番目
アデシナ農業・天然資源相が首都アブジャで6月13日に説明したと ころでは、同国は国内で生産される年150万トンのトマトのうち約90万 トンを腐らせている。トマトは郷土料理向けなどに年間約90万トンが消 費される。
ペースト工場はダンゴートグループ子会社のダンサ・ホールディン グスが11月までに稼働させ、年間40万トン超のトマトペーストを生産す る計画。大半のトマトはカダワ渓谷の農家から調達する予定だ。同国中 銀によると農家は、トン当たり約700ドルでの納入が保証される。現在 の納入価格は平均350ドル弱。
ダンゴートグループは199億ドルの財産を持つアリコ・ダンゴート 氏の中核企業。ブルームバーグ・ビリオネア指数によると、ダンゴート 氏は6月27日現在、世界で32番目の富豪で、製粉所やフルーツ缶詰工 場、パーム油精製所などを保有している。
原題:Africa’s Richest Man Vies With China in Nigerian Tomato Market(抜粋)