日本ファンタジーノベル大賞優秀賞受賞の斉藤直子が贈る、奇想天外なバカSF。
SF界屈指の翻訳者/書評家・大森望の責任編集でお届けするオリジナル日本SFアンソロジー『NOVA1』(全11編)の分冊版。「ゴルコンダ」(解説:大森望)に併せて、「序」(大森望)収録。
【作品冒頭】
先輩が家を建てたというので僕はヤカンを持っておいに行くことにした。なぜヤカンかというと、「家を焼かん」のごろあわせで普請の縁起物やと奈良のおばあちゃんに聞いたから。「焼かない」の意味の「焼かん」より、「焼けない」意味の「焼けん」のほうが防火力が高そうな気がするが、「焼けん」のごろあわせは「野犬」しか思いつかないのが難だ。がるるる言ってる野犬なんて、贈るほうも貰うほうも扱いにくいに違いない。
そんなことを考えているうち先輩の新居に着いたが、これが野犬を連れてきても問題ないような大豪邸で驚いた。風呂あがりには机に置いたメガネまで曇る僕の狭小ワンルームとは大違い。インターホンを押すと、「ハーイ」とかわいい声がした。奥さんの梓さんだ。先輩の前のマンションで何度か会ったが、めちゃめちゃ美人さんである。