今いまここを生いきる勇気ゆうき 老ろう・病やまい・死しと向むき合あうための哲学てつがく講義こうぎ

本書ほんしょは、ベストセラー『嫌きらわれる勇気ゆうき』の著者ちょしゃのNHK文化ぶんかセンター講座こうざ「よく生いきるための哲学てつがく」に“幻まぼろしの第だい6回かい講義こうぎ”を加くわえて再さい構成こうせいし、書籍しょせき化かするものです。孫まごをもつ年齢ねんれいに達たっした著者ちょしゃが、同どう世代せだいの読者どくしゃに向むけて、「老ろう・病やまい・死し」にまつわる自みずからの体験たいけんを軸じくに、人生じんせいの分岐ぶんき点てんをポジティブにとらえる思考しこう法ほうを解説かいせつします。
　類書るいしょとの大おおきな違ちがいは二ふたつ。一ひとつは、実際じっさいの講座こうざでの語かたり口くち調ちょうを生いかし、各かく講座こうざ後ごの受講じゅこう生せいの質疑しつぎ応答おうとうも付ふした、著者ちょしゃ初はつの講義こうぎ形式けいしきの本ほんであること。もう一ひとつは、ギリシア哲学てつがく・アドラー心理しんり学がくから家族かぞく論ろんまで、これまで著者ちょしゃが個別こべつに取とり上あげてきたテーマを章しょうごとにまとめることで、いわゆる“岸見きしみ哲学てつがく”のエッセンスを本書ほんしょ一いち冊さつで丸まるわかりできる点てんです。
　第だい1講こうでは専せん門もんのギリシア哲学てつがくを題材だいざいに、「哲学てつがくがなぜ必要ひつようなのか」「どんなときに役立やくだつのか」について問といます。そこで例れいに挙あげられるのが、25歳さいのときの母親ははおやの介護かいご体験たいけんです。母親ははおやの死しの絶望ぜつぼう感かんから救すくってくれたのが哲学てつがくだったこと、そしてその経験けいけんが「幸福こうふくとは何なにか」を考かんがえるきっかけになり、三木みき清きよしの哲学てつがくに触ふれることで「幸福こうふくとはオリジナルなもの」であることを知しり（第だい2講こう）、アドラー心理しんり学がくを学まなぶことで「他者たしゃは敵てきではなく仲間なかまであること（共同きょうどう体たい感覚かんかく）」（第だい3講こう）を理解りかいしたことが語かたられます。
　そうして年齢ねんれいを重かさねた著者ちょしゃは50歳さいのときに、今度こんどは自みずからが心筋梗塞しんきんこうそくで倒たおれ、死しの淵ふちをさまようことになります。そこからの蘇よみがえりの中なかで考かんがえたテーマが「老ろう・病やまい・死し」について（第だい4、5講こう）。老おいること、病気びょうきになること、死しぬことは絶対ぜったいに避さけられないし、変かえられない。では変かえられるものは何なにかと問とえば、それは自みずからの「意識いしき」以外いがいにはないことに思おもい至いたります。絶望ぜつぼうするのではなく、希望きぼうをもつこと。「どのような状況じょうきょうにあっても生いきられるという希望きぼうがあるからこそ、死しという現実げんじつを前まえにしても人ひとは生いきられる」と著者ちょしゃはいいます。
　結論けつろんは、今いまここに目めを向むけ、一瞬いっしゅん一瞬いっしゅんを真剣しんけんに、丁寧ていねいに生いきること。「生いきているだけで素晴すばらしい」――そう言いえる「勇気ゆうき」を本書ほんしょから学まなびます。

9784140886243