「田中たなか真紀子まきこ」の迷走めいそう伝説でんせつを記しるした「外務省がいむしょう極秘ごくひ資料しりょう」を入手にゅうしゅ！

　トランプ現象げんしょうに高たかみの見物けんぶつを決きめ込こんだ日本人にっぽんじんは、さまざまな問題もんだいを抱かかえているとはいえ我わが国くにがいかに「マシ」であるかを噛かみしめた。しかし、やはりそれは他人事たにんごとではない。現代げんだい政治せいじに付つきまとうポピュリズムという病やまい。「外務省がいむしょう秘密ひみつ文書ぶんしょ」が20年ねん前まえの悲劇ひげきを明あかす。

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速報そくほう「5キロ2000円えん」を連呼れんこする小泉こいずみ進すすむ次郎じろう農水のうすい相しょうが言いわない“本当ほんとうのコメ事情じじょう”　「国民こくみんに新米しんまいの価格かかくも下さがるかのような誤解ごかいを」

速報そくほう小室こむろ眞子しんじさんの出産しゅっさん報道ほうどうを宮内庁くないちょうが“黙殺もくさつ”する理由りゆう　「公表こうひょうされないことで、皇室こうしつへの親したしみが」

　2001年ねん4月がつ26日にち深夜しんや、この日ひの最低さいてい気温きおん11度ど。幾分いくぶん肌寒はださむさを残のこした夜よる風ふうに吹ふかれながら、外務省がいむしょうのある幹部かんぶが新あたらしい「主人しゅじん」を迎むかえるべく省しょうの正面しょうめん玄関げんかんに立たっている。

　新しん世紀せいきが幕まくを開あけ、同時どうじにこれまでにないタイプの政治せいじ家か・小泉こいずみ純一郎じゅんいちろうが総理そうりの座ざに就ついた。政界せいかいにも新あたらしい風ふうが吹ふくに違ちがいない。世間せけんの期待きたいは高たかまっていた。

　幹部かんぶが待まっていたのは、新しん総理そうりの「生うみの母はは」とも言いえる人物じんぶつ。当代とうだいきっての人気にんき者しゃで、庶民しょみん感覚かんかくを持もち合あわせたとされる政治せいじ改革かいかくの切きり札ふだ。ワイドショーを中心ちゅうしんに、日本にっぽん中ちゅうで新あたらしい外務がいむ大臣だいじんを持もて囃（はや）す声こえが巻まき起おこっていた。

　だが、「世間せけん」とは逆ぎゃくに「霞かすみが関せき」はこの日ひの夜よる風ふうの如ごとく冷さめていた。

　世よの期待きたいを一身いっしんに集あつめた改革かいかくの旗手きしゅである新しん外相がいしょう。それはその人物じんぶつの本性ほんしょうを知しらない部外ぶがい者しゃの評価ひょうかに過すぎず、実像じつぞうを知しる霞かすみが関せきや永田町ながたちょうといった「インナー」の住人じゅうにんたちは、今回こんかいの人事じんじがいかに危険きけんであるかを知しっていた。

「これから本当ほんとうに大変たいへんですよ」

　新しん外相がいしょうを待まち受うける幹部かんぶの耳元みみもとで、インナーのひとりである記者きしゃが囁ささやいた。

　実際じっさい、この日ひから9カ月かげつ、外務省がいむしょう、そして日本にっぽん外交がいこうは空前絶後くうぜんぜつごの乱気流らんきりゅうに飲のみ込こまれることになる。稀代きたいの破壊はかい女王じょおう、田中たなか真紀子まきこによって――。

　手元てもとに〈官房かんぼう勤務きんむ雑感ざっかん〉と題だいされた21ページにわたる「外務省がいむしょう秘密ひみつ文書ぶんしょ」がある。

　今回こんかい、政府せいふ関係かんけい者しゃを通つうじて入手にゅうしゅしたこの文書ぶんしょの作成さくせい者しゃは、01年ねん当時とうじ、同省どうしょうの官房かんぼう長ちょうを務つとめていた飯村いいむら豊ゆたか。後のちにフランス大使たいしや日本にっぽん政府せいふ代表だいひょう（中東ちゅうとう地域ちいき及および欧州おうしゅう地域ちいき関連かんれん）などを歴任れきにん。インナーでは「真紀子まきこと戦たたかった官僚かんりょう」として知しられる。

「この文書ぶんしょは、『田中たなか真紀子まきこ問題もんだい』を忘わすれることなく、教訓きょうくんとして活いかすために、歴代れきだい外務がいむ次官じかんなどの間あいだで受うけ継つがれてきたと聞きいています」（外務省がいむしょう関係かんけい者しゃ）

　改あらためて飯村いいむらを直撃ちょくげきすると、

「外務省がいむしょうに記録きろくを残のこすように言いわれて文書ぶんしょを作成さくせいした記憶きおくはありますが、内容ないように関かんしては昔むかしのことなので、何なにを書かいたかはっきりとは覚おぼえていません」

　こう答こたえたが、そこには先さきのシーン、つまり飯村いいむらその人ひとと記者きしゃのやり取とりを含ふくめ、当時とうじ、田中たなかがいかに外務省がいむしょうを蹂躙じゅうりんしたかが生々なまなましく記録きろくされていた。

　今いまから20年ねん前まえ、「外相がいしょう・田中たなか真紀子まきこ」が誕生たんじょうした。ふた昔むかしも前まえのことであり、人々ひとびとの頭あたまから「あの時代じだい」の記憶きおくは消きえつつある。しかし、これは決けっして過去かこの物語ものがたりではない。現在げんざいにつながる極きわめて重要じゅうような日本にっぽん政治せいじの問題もんだい点てんを孕（はら）んでいるからだ。

　世論せろん受うけ、人気にんき取とり、すなわちポピュリズム。

　令れい和わの政界せいかいもこの呪縛じゅばくから逃のがれられずにもがいているが、その嚆矢こうし（こうし）とでも言いうべき存在そんざいが田中たなかだった。

「一事いちじ不ふ再さい理り」って何なに？

　冒頭ぼうとうで触ふれた01年ねん4月がつ26日にち、第だい87代だい総理そうり大臣だいじんに小泉こいずみ純一郎じゅんいちろうが就任しゅうにんする。永田町ながたちょうの数かずの論理ろんりに従したがえば、その時とき「党内とうない主流しゅりゅう派は」であった平成へいせい研究けんきゅう会かい（旧きゅう経世会けいせいかい）の橋本はしもと龍太郎りゅうたろうが大だい本命ほんめいであり、「変人へんじん総理そうり」は生うまれるべくもなかった。だが派閥はばつ政治せいじに倦（う）む世よの中なかは、「自民党じみんとうをぶっ壊こわす」とい放いはなつ小泉こいずみに熱狂ねっきょうする。そして、彼かれの人気にんきを支ささえたのが田中たなか真紀子まきこだった。

　ふたりが街頭がいとう演説えんぜつを行おこなうと、どこでも叢雲むらくも（むらくも）のような人ひとだかりができた。こうして「小泉こいずみ・田中たなかコンビ」は、玄人くろうと筋すじの予想よそうを裏切うらぎり、世論せろんの後押あとおしを受うけて自民党じみんとう総裁そうさい選せんで勝利しょうりする。

「新あたらしい政治せいじ」に歓喜かんきする大衆たいしゅう。しかし実じつは、それは「政治せいじの危機きき」の始はじまりだった。その綻ほころび（ほころ）びは組閣そかくの時点じてんで早はやくも明あきらかとなる。

　小泉こいずみを総理そうりの座ざに押おし上あげたのは他たならぬ自分じぶんである――そんな自負じふに取とり憑（つ）かれた田中たなかは、重要じゅうよう閣僚かくりょうのポストを要求ようきゅう。「官房かんぼう長官ちょうかんをやらせろと小泉こいずみ総理そうり側がわに求もとめた」（当時とうじの大手おおて紙し政治せいじ部ぶデスク）という。

　確たしかに「変人へんじん」の名付なづけ親おやである田中たなかのサポートなく、小泉こいずみが総理そうりの座ざを手てに入いれることは不可能ふかのうだった。田中たなかのゴリ押ごりおしに抗こうしきれない小泉こいずみ。だが、父親ちちおやである角栄かくえい曰いわく「じゃじゃ馬うま」の真紀子まきこに、各かく省庁しょうちょうの調整ちょうせい役やくである官房かんぼう長官ちょうかんが務つとまるはずがない。そこで小泉こいずみは“妥協だきょう策さく”として田中たなかに外相がいしょうの座ざをあてがう。

　その7年ねん前まえの1994年ねん、田中たなかは科学技術庁かがくぎじゅつちょう長官ちょうかんとして初はつ入閣にゅうかくしている。その年としのクリスマスのこと。科技庁かぎちょうでは、各国かっこくの科学かがく技術ぎじゅつ担当たんとう者しゃたちに長官ちょうかん名めい等とうでクリスマスカードを送おくるのが毎年まいとしの慣例かんれいとなっていた。だが、自分じぶんの名前なまえを使つかったクリスマスカードが発送はっそうされたことに田中たなかは激怒げきど。既すでに郵便ゆうびん局きょくに渡わたっていたカードの回収かいしゅうを職員しょくいんに命めいじる。

　癇癪かんしゃくを起おこしたら何なにをしでかすか分わからない危険きけん人物じんぶつ。この時ときから「変人へんじん」は小泉こいずみではなく田中たなかのほうであることが、インナーでは広ひろく知しられるようになる。だが、世間せけんは違ちがった。

「外務省がいむしょうは伏魔殿ふくまでん！」

　歯はに衣ころも着きせずこうい切いきる田中たなかを、主婦しゅふ層そうをはじめ世論せろんは圧倒的あっとうてきに支持しじする。ワイドショーがそれを煽あおりに煽あおる。

　運うん悪わるく、田中たなかが外相がいしょうに就任しゅうにんする直前ちょくぜん、外務省がいむしょうは「松尾まつお事件じけん」に揺ゆれていた。要人ようじん外国がいこく訪問ほうもん支援しえん室長しつちょうの松尾まつお克俊かつとしが官房かんぼう機密きみつ費ひを億おく単位たんいで流用りゅうようし、競走きょうそう馬ば購入こうにゅうや女性じょせいへの「お手当てあて」に充たかし（あ）てていたことが発覚はっかく。ワイン片手かたてに外務がいむ官僚かんりょうが甘あまい汁しるを吸すっている。世論せろんが沸騰ふっとうするなか、その「伏魔殿ふくまでん」にじゃじゃ馬うまが斬きり込こむ形かたちとなる。そこにワイドショーが便乗びんじょうし、一大いちだい「真紀子まきこブーム」が起おきたのである。

　無論むろん、公金こうきん流用りゅうようという大罪だいざいを見逃みのがしていた外務省がいむしょうの責任せきにんは免まぬかれるものではなかった。だが、外務省がいむしょうの仕事しごとは綱紀こうき粛正しゅくせいだけではない。日本にっぽん外交がいこうの舵取かじとりの重責じゅうせきを担になう。田中たなかは前者ぜんしゃに関心かんしんを持もち、後者こうしゃに無む関心かんしんだった。いや、前者ぜんしゃにしか興味きょうみがなく、後者こうしゃに関かんしてはズブのド素人しろうとだった。

　外務省がいむしょうに乗のり込こんだ田中たなかは人事じんじに手てをつける。その様子ようすが、先さきの秘密ひみつ文書ぶんしょにはこう記しるされている。

〈5月がつ初はじめの連休れんきゅうの谷間たにまの月曜日げつようび、私わたし（飯村いいむら）は大臣だいじん（田中たなか）に面談めんだんを求もとめて2点てん申もうし上あげました。ひとつは幹部かんぶ人事じんじは官邸かんていの了承りょうしょうを得える必要ひつようがあること。ふたつ目めは一事いちじ不ふ再さい理りの原則げんそくに基もとづいて松尾まつお事件じけんの再さい処分しょぶんは考かんがえられないこと、あるとすれば人事じんじ刷新さっしんであるとの点てんを申もうし上あげました〉

　すでに松尾まつお事件じけんに関かんしては、外務省がいむしょうの幹部かんぶたちが減給げんきゅう処分しょぶんなどを受うけていた。しかし、「外務省がいむしょう憎にくし」の鬼おにと化かし、頭あたまに血ちがのぼった田中たなかは「自分じぶんの手て」で再さい処分しょぶんすることに固執こしつした。

　文書ぶんしょから続つづける。

〈（田中たなかから）「一事いちじ不ふ再さい理りについてはどういう意味いみか」との質問しつもんがあり、私わたしの方ほうから字じに書かいて説明せつめいを致いたしましたが、十分じゅうぶんな理解りかいをしていない様子ようすでした。更さらに同席どうせきしていた上村うえむら（司つかさ）秘書官ひしょかんに辞書じしょを持もってこさせて読よんでましたが、余あまりピンとこない様子ようすでありました〉

「一事いちじ不ふ再さい理り」の意味いみを解ほぐさない組織そしきのトップ……。この後のち、田中たなかは我がを失うしない、迷走めいそうを極きわめていく。

〈上村うえむら秘書官ひしょかんに「ブラックリストを持もってらっしゃい」と言いって、松尾まつお事件じけんの処分しょぶん者しゃリストを手元てもとに取とり寄よせ、ペンを取とって「この人ひとたち、解任かいにんよ」と述のべつつ、その旨むね歴代れきだい次官じかん、官房かんぼう長ちょうの名前なまえの横よこに書かき込こみを始はじめました。「退職たいしょく金きんなし」との発言はつげんもありました〉

　ペン捌（さば）きひとつで次々つぎつぎと官僚かんりょうたちの「抹殺まっさつ」を図はかる田中たなか。迷走めいそうは暴走ぼうそうに変かわった。

〈歴代れきだい次官じかんの名前なまえの横よこに「解任かいにん、解任かいにん」と書かき込こんでいるところを見みましたので、私わたしよりは「大臣だいじん、法律ほうりつに則のり（のっと）っておやりになる必要ひつようがあります」と申もうし上あげると、「うるさいわね」との反応はんのうがありました〉

　続つづけて、「出でて行いけ」と大声おおごえで叫さけばれた飯村いいむらは、官房かんぼう長ちょうという省内しょうないのまとめ役やくであり、役所やくしょと大臣だいじんとのパイプ役ぱいぷやくでもありながら、以後いご、前代未聞ぜんだいみもんの大臣だいじん室しつ出入でいり禁止きんしとなる。企業きぎょうで言いえば、社長しゃちょうが総務そうむ担当たんとう役員やくいんの社長しゃちょう室しつへの出入でいりを禁きんじたに等ひとしい暴挙ぼうきょだった。

　組織そしき論ろんを専門せんもんとする同志社大学どうししゃだいがく教授きょうじゅの太田おおた肇はじめはこう解説かいせつする。

「組織そしきの改革かいかくは急きゅうにできるものではありません。真紀子まきこさんの強引ごういんなやり方かたは空回からまわりし、結果けっか的てきに職員しょくいんとの信頼しんらい関係かんけいを壊こわすだけになってしまったと思おもいます。組織そしきのトップに立たつ人ひとが、組織そしきの内部ないぶの人ひとを敵てきとみなして上手うまくいくわけがない。トップの人間にんげんは最終さいしゅう的てきに組織そしき全体ぜんたいの責任せきにんを取とる立場たちばにあります。それなのに、信頼しんらいしてもいない、ましてや敵視てきししている職員しょくいんの責任せきにんを取とることなどできません」

　だが、人事じんじの囚しゅう（とら）われ人じんとなった田中たなかは法律ほうりつやルールを無視むしして「外務省がいむしょう破壊はかい」へとひた走はしる。その間あいだ、肝腎かんじんの外交がいこうは機能きのう不全ふぜんに陥おちいる。

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