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Bianca Scout - Pattern Damage | ビアンカ・スカウト | ele-king
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Bianca Scout

AmbientExperimentalPop

Bianca Scout

Pattern Damage

Sferic

デンシノオト May 24,2024 UP

 ロンドンの音楽家おんがくか、サウンド・アーティスト、ダンサー、振付ふりつけビアンカ・スカウトの最新さいしんアルバム『Pattern Damage』が、マンチェスターのエクスペリメンタル・ミュージック・レーベルの〈sferic〉からリリースされた。
 内容ないようはといえばうすかりの世界せかいひろげられるインダストリアル・アンビエントなトラックをバックしたシンガーによるエクスペリメンタル・ミュージックといったおもむき作品さくひんであった。とても不思議ふしぎ音楽おんがく世界せかいで、とてもうつくしい音響おんきょう世界せかいである。あえて単純たんじゅんしてえばこえ弦楽げんがく電子でんしおんによる「インダストリアル・アンビエント・オペラ」だろうか。

 ビアンカ・スカウトは、2016ねんごろから音源おんげん発表はっぴょうし、ストリートでのダンス・パフォーマンスをおこなうなど、多面ためんてき活動かつどう展開てんかいしてきた才人さいじんである。
 昨年さくねん2023ねんは、マーティン・レイド(Martyn Reid)とのエレクトロ・ポップ・ユニットMarina Zispin『Life And Death - The Five Chandeliers Of The Funereal』、教会きょうかいでレコーディングされたというソロ前作ぜんさく『The Heart Of The Anchoress』などをリリースしている。その妖艶ようえんなサウンドは、ほかのエクスペリメンタル・ミュージックにはない魅力みりょくはなっていて、とくに『The Heart Of The Anchoress』はエクスペリメンタル・ミュージック界隈かいわいで(ひそかに)話題わだいになっていたように記憶きおくしている。
 そして本年ほんねんリリースのほんさく『Pattern Damage』は、『The Heart Of The Anchoress』をえる、まさに集大成しゅうたいせい、そしてしん境地きょうちともいえるアルバムであった。ダークかつ夢幻むげんてき世界せかいかん基調きちょうにしつつ、ノイズ、モダン・クラシカル、歌曲かきょく、アンビエントが交錯こうさくし、まるで幻想げんそうてき舞台劇ぶたいげきる(く)ようなおと世界せかい展開てんかいされていたのだ。さまざまなおと要素ようそ交錯こうさくするエクレクティックな作風さくふうだが、たんなるカオスではなく、るぎない美意識びいしき意志いしによって統一とういつされているてん重要じゅうようだ。いわば明確めいかく審美しんびったアーティストによる「総合そうごう芸術げいじゅつ」としょうしたいほどの音楽おんがく作品さくひんなのである。
 昨今さっこんのアンビエント/エクスペリメンタル・ミュージック・シーンは、そのスタイルをめ、音響おんきょうみがげるように「音楽おんがく純化じゅんか」を希求ききゅうするものがおおいようにかんじられるのだが、ビアンカ・スカウトのおとにはジャンルや音楽おんがくかろやかに越境えっきょうしていくようなエクレクティックな魅力みりょくがある。ミカ・レヴィのシネマティックな音楽おんがく、OPNの音響おんきょう世界せかい、ローレル・ヘイローのアンビエント・サウンド、クラインのクラシカル/エクスペリメンタルなおと世界せかいなどにも共鳴きょうめいするようなアルバムであった。

 アルバムはぜん12きょくけい40ふん。それぞれのきょく電子でんし音楽おんがく、クラシカル、ポップ、アンビエントなどなどいくつもの音楽おんがく形式けいしきへと変化へんかしていく。そもそも1きょくなかにも複数ふくすう音楽おんがく要素ようそ存在そんざいしているのだ。
 1きょく“Intro”は文字通もじどおりアルバムのくちとなるトラックだが、グリッチ・ノイズのようなおとはじめ、次第しだいに、ピアノや電子でんしおん高速こうそく早送はやおくり(もしきはもどし)するようにながはじめる。うしなわれた記憶きおくにアクセスするかのように、アルバムは開幕かいまくする。
 ふたたびノイズへともどり、2きょく“Forest Spirit”がはじまる。このきょくではノイズとシルキーなアンビエンスの交錯こうさくによるエクスペリメンタル/アンビエントないのりのうたのような楽曲がっきょく展開てんかいする。3きょく“Midnight ”はクラシカルなピアノの旋律せんりつからはじまり、そこに歌唱かしょうがのる。ミニマルであり幽玄ゆうげんなトラックだ。つづく4きょく“Interlude”ではこえ旋律せんりつからハーモニーのように変化へんかしていく。かすかな低音ていおん不穏ふおんなアクセントを演出えんしゅつする。5きょく“Chances”ではなんそうものこえかさなりながらも、どこかアンビエントR&Bとでもいうようなムードをかもきょく。ドラムンベースてきなビートが断続だんぞくてきひびくのも面白おもしろい。
 6きょく“Desert”は、どこかMarina Zispinてきともいえるインダストリアル・ポップだが「feat. Marina Zispin」らしい。ここでくっきりとしたビートのきょく挿入そうにゅうしてくるのは、なかなか面白おもしろ演出えんしゅつである。あきらかにアルバム全体ぜんたいのムードからすると異質いしつなのだが、このきょくがアルバムのほぼなかかれることで、アンビエント/エクスペリメンタルだけにまらないひろ音楽おんがくせい表現ひょうげんしているようにおもえた。
 7きょく“Lead Us”以降いこうはアルバムの後半こうはんだ。“Lead Us”ではサンプリングされたとおもえるストリングスがループしつつも、そのうえに、さらにストルングスの旋律せんりつがレイヤーされ、モダン・クラシカルなアンビエントを展開てんかいする。アルバム後半こうはんはこの“Lead Us”のサウンドとムードが基調きちょうとなって展開てんかいする。
 8きょく“When My Heart Is Lonely (Monks Orchard) ”は、ぜんきょく弦楽げんがくおとからシームレスにつながるような曲調きょくちょうのボーカルきょくだ。9きょく“Passage”はまるで教会きょうかい音楽おんがくのような声楽せいがくきょくだが、サンプリングされたおとのずれや編集へんしゅうによって独自どくじ音響おんきょう空間くうかんまれている。
 10きょく“Almost Nothing”はアルバム前半ぜんはんのアンビエントR&Bのようなヴォーカルきょくとアルバム後半こうはんのモダン・クラシカル+声楽せいがくのムードが一体化いったいかしたようなきょくである。アルバムちゅう集大成しゅうたいせいのような楽曲がっきょくといえるかもしれない。11きょく“I Don't Sleep”はうすかりのひかりのようなアンビエンスと可憐かれんなボーカルが交錯こうさくするきょくだ。どこか子守こもりうたようなきょくにもかんじたが、曲名きょくめいは「I Don't Sleep」。アルバム最終さいしゅうきょくにして12きょく“Anon's Song”は、7きょく“Lead Us”をおもわせるストリングスのループによるアンビエントきょくである。まるでふか催眠さいみんへとさそうようなサウンドがうるわしい。
 
 あらためて全曲ぜんきょくわると、つくづく不思議ふしぎ世界せかいかんのアルバムだとかんってしまった。音楽おんがく形式けいしき意図いとてきでありながら、その形式けいしき内側うちがわからけていくような音楽おんがくとでもいうべきか。リズムにもこえにも明確めいかく身体しんたいせい宿やどっていながら、しかしこののものとはおもえない幻想げんそうせいはなってもいる。境界きょうかいせん融解ゆうかいとでもいうべきか。
 アートワークのモノクロームのダンサーのように過去かこでも未来みらいでもない廃墟はいきょ音響おんきょうげき、もしくはオペラのようであった。もしかするとこのアルバムの「世界せかい」はとお未来みらい出来事できごとで、冒頭ぼうとうの“Intro”での音楽おんがくのコラージュは過去かこ記憶きおくにアクセスしている様子ようすなのかもしれないとも。いやむろんこれは妄想もうそう空想くうそうぎない。だが想像そうぞうりょく刺激しげきされるアルバム=音楽おんがく作品さくひんであることにちがいはない。その「なぞ」の感覚かんかくるために、わたしなんなんかえしこの夢幻むげんてきな「インダストリアル・アンビエント・オペラ」(勝手かって名付なづけた)をくことになるだろう。そう、この不可思議ふかしぎなアルバムがはな音楽おんがく音響おんきょう魅力みりょくはどこまでもふかいのだから……。

デンシノオト