宇宙見物は、じつはたんなる現実逃避でもない。そこは知恵の宝庫で、人類は夜空の星々からじつにいろんなことを導き出してきた。中国で天文学が進んだのも天(宇宙)を知る者こそが「天下」を支配できると信じられていたからだし、周知のように西欧では、紀元前より、さまざまな起源物語、神話、詩学を引き出してきている。ときには彗星や日食に特別な意味を読み取り、もちろんその他方では、宇宙見物によって時間と空間の理解における科学的思考を進展させている。また、キャネルが言うように、人は宇宙からは「Harmonia Mundi (ハルモニア・ムンディ=調和の音楽)」を観てきている。ルーラ・ヨークによる循環する音楽は新世界の「開拓」ではなく、現代版コズミッシェであり、癒やしと修復(さもなければ瞑想)に向かっている。
もっともヨークによれば『Volta』は「ローリー・シュピーゲルとオウテカの出会い」だそうで、シンセサイザー奏者という点ではカテリーナ・バルビエリにも近い。ほかにもヨークは、ケイトリン・オーレリア・スミスやスザンヌ・チアーニら女性エレクロニック・ミュージシャンに共感を抱いているようだ。つい先頃、新たにリリースされたアルバム『speak, thou vast and venerable head』で、彼女は『Volta』の作風をさらに発展させた、多彩な曲調を展開している。短いフィールド・レコーディングからはじまり、コズミッシェやドローンがあり、詩的かつサイケデリックで、没入観のある曲を配列させている。なかには、一般相対性理論の時空の歪みに思いを馳せたであろう“matter tells spacetime how to curve”なんていう曲もある。クローサー・トラックの“lie dreaming, dreaming still”の夢幻的なドローンはみごとで、この美しさには彼女がもともとはパンク/レイヴから来ているアーティストであることも大いに関係しているのだろう。ぜひみなさんの耳で、この叙情性がたんなる反動なのかどうか、あるいは、宇宙開発競争と絶滅だけが未来ではないと言っているかどうかをおたしかめください。なんにせよ、宇宙はときに壮大な映画館で、ときに自己意識の反映で、ときに居場所であり、そしていまもなお、ご覧のように何かを学べるところなのだ。