“大だい打撃だげきを受うけた”ブライダル業界ぎょうかいで大おおきな明暗めいあんが。“既すんで視し感かんのある披露宴ひろうえん”は時代遅じだいおくれに

　中小ちゅうしょう企業きぎょうコンサルタントの不破ふわ聡さとしと申もうします。大だい企業きぎょうから中小ちゅうしょう企業きぎょうまで幅広はばひろく経営けいえい支援しえんを行おこなった経験けいけんを活いかし、「有名ゆうめい企業きぎょうの知しられざる一いち面めん」を掘ほり下さげてお伝つたえしていきます。
　ジューンブライドの季き節ぶしを迎むかえました。ヨーロッパでは6月がつに結婚けっこんした花嫁はなよめは幸しあわせになると信しんじられています。日本にっぽんのブライダル業界ぎょうかいは、爽さわやかな気候きこうの春はると秋あきに繁忙はんぼう期きを迎むかえます。

　コロナ禍かで数すう多おおくのブライダル企業きぎょうが大だい打撃だげきを受うけましたが、収益しゅうえき力りょくを高たかめるチャンスともなりました。業界ぎょうかいを取とり巻まく環境かんきょうが大おおきく変化へんかしたためです。

コロナ禍かで営業えいぎょう利益りえき率りつを高たかめた会社かいしゃは？

　大前提だいぜんていとして、ブライダル企業きぎょうの多おおくはコロナ前まえの売上うりあげ水準すいじゅんまで戻もどっていません。最大手さいおおてのテイクアンドギヴ・ニーズの2024年ねん3月がつ期きの売上うりあげ高だかは470億おく円えん。2020年ねん3月がつ期きは636億おく円えんでした。ツカダ・グローバルホールディングは2019年度ねんどと2023年度ねんどで5.9％、エスクリは15.3％のマイナスの売上うりあげ差さが生しょうじています。

　テイクアンドギヴ・ニーズの売上うりあげ高だかは3割わり近ちかく減少げんしょうしていますが、これはコロナ禍かに海外かいがいの婚礼こんれい事業じぎょうを売却ばいきゃくした影響えいきょうが大おおきく出でています。

　エスクリは不ふ採算さいさん店てんの切きり離はなしを進すすめました。ツカダ・グローバルホールディングは海外かいがい事業じぎょうが回復かいふくしていません。

　ブラスのように店舗てんぽ数すうが多おおくはない一部いちぶの会社かいしゃは、売上うりあげ高だかがコロナ前まえを上回うわまわっています。これは、コロナで延期えんきとなっていたカップルの結婚式けっこんしきを施行しこうしたことや、退すさ店みせよりも出店しゅってん余地よちが大おおきかったことが背景はいけいにあります。

　つまり、売上うりあげ成長せいちょう率りつやコロナ禍かからの回復かいふく力りょくで、ブライダル企業きぎょうを語かたることが難むずかしくなりました。

「営業えいぎょう利益りえき率りつ」が大おおきく変化へんかしている？

　興味深きょうみぶかい数字すうじが本業ほんぎょうで稼かせぐ力ちからを見みる営業えいぎょう利益りえき率りつ。コロナ禍かを迎むかえる前まえと後こうとで、大おおきく変化へんかしている会社かいしゃが多おおいのです。

　テイクアンドギヴ・ニーズは5.6％から9.0％、ブラスは5.4％から8.9％に飛躍ひやく的てきに高たかまりました。ツカダ・グローバルホールディング、アイ・ケイ・ケイは10％から9％程度ていどで大おおきな変化へんかはありません。

　苦戦くせんしているのがエスクリ。ブライダル事業じぎょうの営業えいぎょう利益りえき率りつは8.8％から6.4％に低下ていかしているのです。

ゲストの数かずは減少げんしょうするもののカップルの負担ふたんは重おもく…

　営業えいぎょう利益りえき率りつの変化へんかには原価げんか率りつが大おおきく関係かんけいしているのですが、その説明せつめいの前まえにコロナ後ごのブライダル業界ぎょうかいを取とり巻まく環境かんきょうを見みてみましょう。

　大おおきく変化へんかしたのが招待客しょうたいきゃくの人数にんずうです。「ゼクシィ結婚けっこんトレンド調査ちょうさ2023」によると、2023年ねんの平均へいきん招待客しょうたいきゃく人数にんずうは49.8人にん。2020年ねんは62.8人にんでした。若干じゃっかんの回復かいふく傾向けいこうにはあるものの、人数にんずうはコロナ前まえの8割わりの水準すいじゅんにも届とどいていません。

　ブライダル業界ぎょうかいにおいて、婚礼こんれい単価たんかを引ひき上あげるキーファクターになっていたのがゲストの数かず。人数にんずうの減少げんしょうは婚礼こんれい単価たんかを引ひき下さげることになります。2023年ねんの結婚式けっこんしきの費用ひようの平均へいきん額がくは356.3万まん円えん。2020年ねんは382.6万まん円えんでした。30万まん円えん近ちかく下さがっています。

　ここで注意ちゅういしたいのが減少げんしょう率りつ。人数にんずうは20％近ちかく減少げんしょうしましたが、婚礼こんれい単価たんかの平均へいきん額がくは6.9％の減少げんしょうに留とどまっているのです。ゲスト1人にん当あたりの単価たんかに換算かんさんすると、2023年ねんは1人ひとり当あたり7.2万まん円えんかかっているのに対たいし、2020年ねんは6.1万まん円えんしかかかっていませんでした。つまり、婚礼こんれい単価たんかは下さがっているものの、カップルのゲスト1人にん当あたりに対たいする負担ふたん額がくは増ふえているのです。
　

カップルの要望ようぼうに寄より添そう提案ていあんを行おこなうチャンス

　同どう調査ちょうさでは、結婚式けっこんしきの見積みつもりよりも実際じっさいの金額きんがくが上あがった理由りゆうを調査ちょうさしています。それによると、「衣裳いしょうを追加ついかまたはランクアップしたから」が68.9％でトップ。次ついで「料理りょうりを追加ついかまたはランクアップしたから」が68.4％と続つづきます（複数ふくすう回答かいとう）。

　リクルートは経済けいざい産業さんぎょう省しょうに「ブライダル産業さんぎょうの構造こうぞう転換てんかんに向むけた調査ちょうさ・分析ぶんせき」という報告ほうこく書しょを提出ていしゅつしています。その中なかで結婚式けっこんしきの多様たよう化かが進すすんだとし、定番ていばん型がた披露宴ひろうえんが下火したびになってカップルの要望ようぼうにカスタマイズしたパーティーが増加ぞうかすると予想よそうしました。

　コロナは本当ほんとうに価値かちがあると感かんじるものへの消費しょうひ傾向けいこうを高たかめました。飲のみ会かい文化ぶんかが消失しょうしつしたのは典型てんけい例れいです。結婚式けっこんしきにもその傾向けいこうが出で始はじめているのです。

　呼よぶ必要ひつようのないゲスト、テンプレ化かした幼少ようしょう期きからのビデオ映像えいぞう、イミテーションのウエディングケーキなど、カップルが必要ひつようないと感かんじればすっぱりと切きり詰つめます。その一方いっぽうで、ドレスや料理りょうりなどこだわる部分ぶぶんにはお金かねをかけます。商品しょうひん力りょくや提案ていあん力りょくを高たかめることで、単価たんか増ぞうを狙ねらえる余地よちが生うまれたのです。しかし、従来じゅうらい型がたの提案ていあんは通用つうようしなくなりました。

単価たんかが回復かいふくした2社しゃに共通きょうつうしているのは…

　テイクアンドギヴ・ニーズの2024年ねん3月がつ期き（4Q）の婚礼こんれい単価たんかは392.4万まん円えん。コロナ前まえの394.7万まん円えんとほぼ同おなじ水準すいじゅんまで回復かいふくしています。

　同社どうしゃは料理りょうり単価たんかやドレス単価たんかの向上こうじょうを要因よういんとして挙あげています。消費しょうひ者しゃ意識いしきを上手うまくつかんでいるのが分わかります。

　ブラスは2024年ねん7月がつ期き（3Q）の単価たんかが402.9万まん円えん。2020年ねん7月がつ期き（2Q）は392.3万まん円えんでした。

　2社しゃの原価げんか率りつを見みると、テイクアンドギヴ・ニーズはコロナ前まえの36.7％から33.4％に3.3ポイント、ブラスは37.6％から32.7％へと4.9ポイントそれぞれ下さがっています。

　2社しゃともにこれほどのインフレ下かで仕入しいれ価格かかくや水道すいどう光熱こうねつ費ひ、人件じんけん費ひなどの結婚式けっこんしき場じょう運営うんえい経費けいひを切きり詰つめたとは考かんがえづらく、販売はんばい単価たんかを上あげたことが主しゅ要因よういんでしょう。商品しょうひん力りょく、提案ていあん力りょくを高たかめて原価げんかを低減ていげん。営業えいぎょう利益りえき率りつを高たかめたのです。

原価げんか率りつが高たかければ顧客こきゃく満足まんぞく度どが上あがるわけではない

　エスクリの2024年ねん3月がつ期きの原価げんか率りつは43.6％で、コロナ前まえの42.9％から増加ぞうかしています。

　なお、エスクリは建築けんちく不動産ふどうさん関連かんれん事業じぎょうを手掛てがけていますが、売上うりあげ高だかは44億おく円えん程度ていど。全体ぜんたいの2割わりにも届とどいていません。この事業じぎょうの営業えいぎょう利益りえき率りつはブライダル事業じぎょうと変かわらないことから、原価げんか率りつには大おおきく影響えいきょうしていないと仮定かていをしています。

　エスクリはターミナル駅えきのビルの高層こうそう階かいに、結婚式けっこんしき場じょうを設もうけるビジネスモデルでした。アクセス性せいと景観けいかんが最大さいだいのセールスポイントなのです。

　この戦略せんりゃくを採用さいようした理由りゆうがあります。先さきほどのゼクシィの調査ちょうさで、結婚式けっこんしき場じょうを訪問ほうもんする重視じゅうし点てんを尋たずねると「交通こうつうの便びんがよいこと」が61.5％と、「料理りょうり」に次ついで高たかい要因よういんになっているのです。

　競合きょうごうとの明確めいかくな差別さべつ化かポイントがあったため、提案ていあん力りょくが磨みがかれなかった可能かのう性せいがあります。エスクリの代表だいひょう取締役とりしまりやく社長しゃちょうは渋谷しぶや守まもる浩ひろし氏し。エスクリが買収ばいしゅうした建設けんせつ会社かいしゃの社長しゃちょうで、婚礼こんれい業界ぎょうかいの出身しゅっしん者しゃではありません。

　オリコンは2023年ねん8月がつに結婚式けっこんしき場じょうの満足まんぞく度ど調査ちょうさを発表はっぴょうしています（「オリコン顧客こきゃく満足まんぞく度ど調査ちょうさ」）。それによると、ブラスは3位い、テイクアンドギヴ・ニーズは5位い、エスクリは11位いでした。原価げんか率りつが高たかいからといって、顧客こきゃくから支持しじされているわけではないのです。

　ブライダル業界ぎょうかいは商品しょうひん力りょくと提案ていあん力りょくで付加ふか価値かちをのせ、顧客こきゃく満足まんぞく度ども高たかめるという難易なんい度どの高たかいビジネスへと移行いこうしています。

＜TEXT／不破ふわ聡さとし＞

【不破ふわ聡さとし】
フリーライター。大だい企業きぎょうから中小ちゅうしょう企業きぎょうまで幅広はばひろく経営けいえい支援しえんを行おこなった経験けいけんを活いかし、経済けいざいや金融きんゆうに関連かんれんする記事きじを執筆しっぴつ中ちゅう。得意とくい領域りょういきは外食がいしょく、ホテル、映画えいが・ゲームなどエンターテインメント業界ぎょうかい