原文げんぶんは英語えいごで、これはその翻訳ほんやくです。

読よむ権利けんり

リチャード・ストールマン著しる

月面げつめん革命かくめいの先行せんこう者しゃに関かんする記事きじ集しゅう、ティコへの道みち、ルナシティ発行はっこう、2096年ねん、より。

ダン・ハルバートにとって、ティコへの道みちは大学だいがくから始はじまった。—リッサ・レンツが、彼かれのコンピュータを貸かして欲ほしいと言いってきたときに。自分じぶんのコンピュータが故障こしょうしてしまった彼女かのじょは、他たのコンピュータを借かりられない限かぎり学期がっきの中なか間あいだプロジェクトを終おわらせることができなかった。ダンを除のぞけば、他たに彼女かのじょが頼たのめる者ものはいなかった。

ダンはジレンマに陥おちいった。彼かれは彼女かのじょを助たすけなければならなかった。しかし、もし彼女かのじょにコンピュータを貸かすと、彼女かのじょは彼かれの本ほんを読よむかもしれなかった。他たの誰だれかに自分じぶんの本ほんを読よませると何なん年ねんも刑務所けいむしょに行いかなければならないことは別べつとして、当初とうしょは人ひとに本ほんを貸かすという考かんがえこそが彼かれには衝撃しょうげきだった。皆みなと同様どうよう、彼かれは小学校しょうがっこう以来いらい、本ほんを共有きょうゆうすることがけがらわしく間違まちがったこと、そう、海賊かいぞくだけが行おこなうようなことだと教おしえられてきたのである。

それに、SPA (ソフトウェア保護ほご庁ちょう)が彼かれを取とり逃にがす見込みこみはあまりなかった。ダンは受講じゅこうしているソフトウェアの講義こうぎで、それぞれの本ほんには著作ちょさく権けん監視かんし装置そうちが付ついていて、だれがいつどこでその本ほんを読よんだかを「中央ちゅうおうライセンス管理かんり局きょく」に報告ほうこくしていることを学まなんだ。(彼かれらはこの情報じょうほうを読書どくしょ海賊かいぞくを捕とらえるのに使つかっていたが、個々人ここじんの関心かんしんプロファイルを小売こうり業者ぎょうしゃに売うってもいた。) 次つぎに彼かれのコンピュータがネットワークに接続せつぞくされたとき、「中央ちゅうおうライセンス管理かんり局きょく」は何なにが起おこったか把握はあくするに違ちがいない。コンピュータ所有しょゆう者しゃである彼かれは、犯罪はんざいの発生はっせいをあえて阻止そししなかった、という咎とがめで最もっとも厳きびしい刑罰けいばつを受うけることとなる。

もちろん、リッサが彼かれの本ほんを読よむことを意図いとしているとは限かぎらない。彼女かのじょはコンピュータを中間ちゅうかんレポートを書かくためだけに使つかいたいのかも知しれない。しかしダンは、彼女かのじょが中流ちゅうりゅう階級かいきゅうの家庭かていの出だしで授業じゅぎょう料りょう支払しはらいの余裕よゆうはなく、読書どくしょ料りょうは言いうまでもないことを知しっていた。彼かれの本ほんを読よむのが、彼女かのじょが卒業そつぎょうできる唯一ゆいいつの道みちだろう。彼かれはこの状況じょうきょうを理解りかいしていた。彼かれ自身じしん、自分じぶんが読よむ研究けんきゅう論文ろんぶんの全すべてに対たいする読書どくしょ料りょうを払はらうために、金かねを借かりなければならなかったのだ。(こういった読書どくしょ料りょうの10%はその論文ろんぶんを書かいた研究けんきゅう者しゃたちに支払しはらわれた。ダンは学者がくしゃになるつもりだったので、将来しょうらい彼かれ自身じしんの研究けんきゅう論文ろんぶんが頻繁ひんぱんに参照さんしょうされれば、このローンを返済へんさいできると望のぞむことができたのだ。)

後のちにダンは、かつて誰だれでも図書館としょかんに行いけば、学術がくじゅつ雑誌ざっしの記事きじや、あるいは書籍しょせきさえも料金りょうきんを支払しはらうことなく読よむことができた時代じだいがあったことを知しった。当時とうじは、政府せいふの図書館としょかん利用りよう助成じょせい金きん無なしで何なん千せんページも読破どくはした在野ざいやの研究けんきゅう者しゃたちがいたのだ。しかし1990年代ねんだいに入はいり、営利えいりのみならず非ひ営利えいりの学術がくじゅつ出版しゅっぱん社しゃもまた、アクセスに料金りょうきんを課かすようになった。2047年ねんまでに、かつて図書館としょかんでは学術がくじゅつ文献ぶんけんに自由じゆうに誰だれでもアクセスできたことなど、おぼろげな記憶きおくの彼方かなたに消きえてしまったのである。

もちろん、SPAと「中央ちゅうおうライセンス管理かんり局きょく」を迂回うかいする手段しゅだんはあった。そういった手段しゅだんは、それ自身じしん、違法いほうだった。ダンが受講じゅこうしていたソフトウェアの講義こうぎのクラスメートでフランク・マートゥッチという男おとこがいたが、彼かれは禁制きんせいのデバッグツールを手てに入いれ、それを使つかって著作ちょさく権けん監視かんし装置そうちのコードを回避かいひして本ほんを読よんでいた。しかし彼かれはそのことをあまりにも多おおくの友人ゆうじんにしゃべってしまったので、ついにはその一人ひとりが、報奨ほうしょう目当めあてにフランクをSPAに届とどけでてしまった(巨額きょがくの負債ふさいを抱かかえた学生がくせいたちは簡単かんたんに裏切うらぎりへ誘惑ゆうわくされたのである)。2047年ねん、フランクは刑務所けいむしょの中なかにいた。しかし、彼かれが投獄とうごくされたのは海賊かいぞく読書どくしょのためではなく、デバッガの所持しょじのためだった。

ダンは後のちに、かつては誰だれでもデバッグツールを所有しょゆうすることができた時代じだいがあったことを知しった。当時とうじは、自由じゆうなデバッグツールさえもCDやネットからのダウンロードによって入手にゅうしゅできたのだ。しかし、普通ふつうのユーザが、そういったツールを使つかって著作ちょさく権けん監視かんし装置そうちを回避かいひするようになり、とうとうある判事はんじがこういった回避かいひ行為こういが実際じっさい上じょうデバッガの主要しゅような利用りよう方法ほうほうとなったという判決はんけつを下くだした。これによってデバッガは違法いほうとされ、デバッガの開発かいはつ者しゃたちは投獄とうごくされたのである。

プログラマは、もちろん、依然いぜんとしてデバッグツールを必要ひつようとしていたが、2047年ねん当時とうじ、デバッガのベンダーは、番号ばんごうが振ふられたコピーのみを、公式こうしきにライセンスを得えて保証ほしょうされたプログラマにのみ配布はいふしていた。ダンがソフトウェアの講義こうぎで使つかったデバッガは特別とくべつなファイアウォールの背後はいごに置おかれ、クラスの実習じっしゅうでのみ使つかえるようになっていたのである。

著作ちょさく権けん監視かんし装置そうちを、改変かいへんしたシステムカーネルをインストールすることで回避かいひすることも可能かのうだった。ダンは、自由じゆうなカーネルや、完全かんぜんに自由じゆうなオペレーティング・システムさえも前ぜん世紀せいき末まつには存在そんざいしていたことを知しった。しかし現在げんざいではそれらはデバッガ同様どうよう違法いほうであるだけでなく、もしそのようなシステムを持もっていたとしても、コンピュータのルート・パスワードを知しらないことにはインストールできないのだった。FBIもマイクロソフト・サポートもパスワードを教おしえてはくれない。

ダンは、単たんにリッサに彼かれのコンピュータを貸かすことはできないと結論けつろんづけた。しかし彼かれは彼女かのじょを助たすけることを拒否きょひできなかった。ダンは彼女かのじょのことを愛あいしていたからだ。彼女かのじょと話はなす時ときはいつも、ダンの心しんは喜よろこびに満みちあふれるのだった。そしてリッサは他たならぬ彼かれに助たすけを求もとめてきたのだから、彼女かのじょも彼かれを愛あいしているのかもしれなかった。

ダンはこのジレンマを、思おもいもよらないことをやって解決かいけつした。彼かれはリッサにコンピュータを貸かし、そして自分じぶんのパスワードを教おしえたのである。これによって、たとえリッサが彼かれの本ほんを読よんだとしても、「中央ちゅうおうライセンス管理かんり局きょく」は彼かれが読よんでいると思おもい込こむだろう。これは依然いぜんとして犯罪はんざいだが、SPAは自動的じどうてきには発見はっけんすることができない。リッサが彼かれを報告ほうこくした場合ばあいのみ、彼かれらは知しることになるのだ。

もちろん、ダンがリッサに彼かれ自身じしんのパスワードを与あたえたことを学校がっこうが発見はっけんしたならば、彼女かのじょが実際じっさいなにに使つかったかに関係かんけいなく、両者りょうしゃにとって学生がくせい生活せいかつが一いち巻かんの終おわりとなる。学校がっこうの方針ほうしんとして、学校がっこう側がわが生徒せいとのコンピュータ利用りようを監視かんしするための手段しゅだんを妨害ぼうがいすることは懲戒ちょうかいの対象たいしょうだった。何なにか害がいになることをしたかどうかは問題もんだいではなかった—違反いはんは学校がっこう側がわが生徒せいとをチェックするのを難むずかしくする。学校がっこう側がわとしては、それだけで生徒せいとが何なにか禁止きんしされていることをやっているとみなすのに十分じゅうぶんで、実際じっさいに何なにをやっているか知しる必要ひつようはないというわけだ。

通常つうじょう、生徒せいとたちはこれだけのために放校ほうこうされることはなかった—直接的ちょくせつてきには。代かわりに彼かれらは学校がっこうのコンピュータシステムの利用りようが禁止きんしされ、必然ひつぜん的てきにすべての単位たんいを落おとすということになってしまうのだ。

後のちに、ダンはこの種たねの大学だいがくの方針ほうしんは相当そうとう数すうの大学生だいがくせいがコンピュータを使つかい始はじめた1980年代ねんだいから始はじまったものに過すぎないことを知しった。それまでは、大学だいがくは学生がくせい規則きそくに関かんして異ことなった方針ほうしんを保持ほじしていた。当時とうじの彼かれらは、有害ゆうがいな活動かつどうを罰ばっしたのであって、疑うたがいを持もたれただけの者ものは罰ばっしなかったのである。

リッサはダンをSPAに報告ほうこくしなかった。彼かれの彼女かのじょを助たすけるという決意けついは、ついには彼女かのじょとの結婚けっこんに彼かれを導みちびいたが、さらに彼かれらは子供こどものときから海賊かいぞく行為こういとして教おしえられてきたことに疑問ぎもんを持もつようになった。ダンとリッサは著作ちょさく権けんの歴史れきしについて調しらべ始はじめ、ソビエト連邦れんぽうとそこでの複製ふくせいの制限せいげん、そして元々もともとの合衆国がっしゅうこく憲法けんぽうさえ読よんだ。彼かれらは月つきに移住いじゅうしたが、彼かれらの他ほかにも同様どうようにSPAの長ながい腕うでから逃のがれた人々ひとびとがいることを知しった。2062年ねんにティコ蜂起ほうきが始はじまったとき、万まん人にんにとっての読よむ権利けんりはまもなくその中心ちゅうしん的てきな目的もくてきの一ひとつとなったのである。

作者さくしゃの注釈ちゅうしゃく

  • この物語ものがたりは、誰だれかによって未来みらいに書かかれる歴史れきし的てきな記事きじと想定そうていされており、ダン・ハルバートの若わかき時代じだいを描えがいています。それは「海賊かいぞく」をプロパガンダとして使つかう不正ふせいな力ちからに制せいされた抑圧よくあつ的てきな社会しゃかいです。ですから、この物語ものがたりは、その社会しゃかいの用語ようごを用もちいています。より明あきらかに弾圧だんあつ的てきな感かんじがするように、わたしは、描えがくようにしました。こちらの、「海賊かいぞく行為こうい」もご覧らんください。

  • コンピュータにより強制きょうせいされた書籍しょせき(およびそのほかの公開こうかい作品さくひん)の貸与たいよや読書どくしょに対たいする制限せいげんはDRMとして知しられますが、これは「ディジタル制限せいげん管理かんり」の略りゃくです。DRMをなくすために、フリーソフトウェアファウンデーションはDefective by Design(設計せっけいから間違まちがっている)キャンペーンを設置せっちしました。皆みなさんのサポートをお願ねがいします。

    電子でんしフロンティアファウンデーションも、フリーソフトウェアファウンデーションとは関係かんけいない別べつの団体だんたいですが、DRMに反対はんたいする運動うんどうをしています。

この注釈ちゅうしゃくはストーリーの最初さいしょの発表はっぴょうから何なん回かいか更新こうしんされました。

  • 読よむ権利けんりのための戦たたかいは、すでに今日きょう闘たたかわれているのです。現在げんざいの生活せいかつ習慣しゅうかんが歴史れきしの彼方かなたに消きえ失うせるまでには50年ねんかかるかもしれませんが、本文ほんぶんで述のべられた特定とくていの抑圧よくあつ的てきな法律ほうりつや慣行かんこうのほとんどはすでに提案ていあんされており、そのいくつかはアメリカ合衆国あめりかがっしゅうこくや他たの国々くにぐにですでに立法りっぽうされてしまっています。アメリカでは、1998年ねんディジタル・ミレニアム著作ちょさく権けん法ほう(Digital Millennium Copyright Act)がDRMとして知しられるコンピュータにより強制きょうせいされた制限せいげんに政府せいふの明示めいじ的てきな後押あとおしを与あたえました。DRMを破やぶることができるプログラムの配布はいふを犯罪はんざいとすることによってです。ヨーロッパ連合れんごうも同様どうように強力きょうりょくではありませんが似にたような制限せいげんを2001年ねんの著作ちょさく権けん指令しれいで課かしています。

    合衆国がっしゅうこくはこのようなルールを「自由じゆう貿易ぼうえき」と呼よばれる条約じょうやくを通つうじて世界せかいに押おし付つけようと運動うんどうしています。ビジネス至上しじょう条約じょうやくのほうがより適てきした用語ようごでしょう。名なばかりの民主みんしゅ的てきな国々くにぐにに対たいする支配しはいをビジネスに与あたえるように設計せっけいされているのですから。DRMを破やぶるプログラムを罰ばっするDMCAのポリシーは、たくさんの不ふ公正こうせいなポリシーの一ひとつで、こういった条約じょうやくが広範囲こうはんいの分野ぶんやに渡わたって押おし付つけるものです。

    合衆国がっしゅうこくはDMCAの要求ようきゅうをオーストラリア、パナマ、コロンビア、韓国かんこくに対たいしては二に国こく間あいだの合意ごういを通つうじて、また、コスタリカのような国々くにぐにには別べつの条約じょうやくのCFATAで押おし付つけました。オバマはこの運動うんどうを新あらたな二ふたつの条約じょうやくTPPとTTIPでエスカレートさせました。TPPはほかの間違まちがいとともにDMCAを太平洋たいへいようの12の国々くにぐにに押おし付つけるでしょう。TTIPは同様どうようの構造こうぞうをヨーロッパに押おし付つけるでしょう。すべてのこういった条約じょうやくは破棄はきしなければなりません。

    WWWコンソーシアムでさえもが著作ちょさく権けん業界ぎょうかいの影かげの元もとに陥おちいってしまいました。今いま、DRMシステムをウェブの仕様しようの公式こうしき部分ぶぶんとする承認しょうにんのきわにあります。

  • 不自由ふじゆうなソフトウェアは多種たしゅの悪用あくよう機能きのうを有ゆうする傾向けいこうがあり、これは、不自由ふじゆうなプログラムは決けっして信頼しんらいできないという結論けつろんを導みちびきます。自由じゆう(リブレ)ソフトウェアだけを主張しゅちょうし、不自由ふじゆうなプログラムを拒否きょひしなくてはなりません。

    ウィンドウズVistaでマイクロソフトはバックドアを組くみ入いれたことを認みとめました: たとえユーザがそれはむしろダウングレードだと考かんがえたとしても、マイクロソフトは強制きょうせい的てきにソフトウェアの「アップグレード」をインストールできるのです。Vistaを稼働かどうしているすべてのマシンに対たいして、あるデバイスドライバの実行じっこうを拒絶きょぜつする指令しれいをすることもできます。Vistaのユーザの弾圧だんあつの主おもな目的もくてきは、ユーザが克服こくふくできないDRMの押おし付つけでした。もちろん、ウィンドウズは決けっしてよくはありません。

  • このストーリーの中なかの一ひとつのアイデアは2002年ねんまでは現実げんじつには提案ていあんされませんでした。これは、FBIとマイクロソフトがあなたのパーソナル・コンピュータのルートパスワードを保持ほじし、あなたには持もたせないというものです。

    この仕組しくみの提唱ていしょう者しゃは、初期しょきの版はんでは「トラステッド・コンピューティング」や「パラジウム」のような名なを与あたえましたが、最終さいしゅう的てきに使つかう段だんになって、それは「セキュア・ブート」と呼よばれます。

    マイクロソフトが保持ほじするのは伝統でんとう的てきな意味いみでのパスワードそのものではありません。だれもそれをターミナルに打うち込こむことはないのです。そうではなく、それは電子でんし署名しょめいと暗号あんごう鍵かぎで、あなたのコンピュータに格納かくのうされた第だい二にの鍵かぎに対応たいおうするものです。これによって、マイクロソフト、そして潜在せんざい的てきにはマイクロソフトに協力きょうりょくするすべてのウェブサイトが、ユーザ自身じしんのコンピュータでなにができるかについて究極きゅうきょくのコントロールを得えるのです。マイクロソフトは頼たのまれればFBIの代かわりにそのコントロールを使つかうでしょう: すでに悪用あくようできるウィンドウズのNSAセキュリティバグを見みせているのですから。

    セキュア・ブートはユーザが署名しょめい鍵かぎを指定していし、どのソフトウェアが署名しょめいするかを決きめることが可能かのうな方法ほうほうで実装じっそうすることができます。実際じっさい、ウィンドウズ10のために設計せっけいされたPCはマイクロソフトの鍵かぎだけを保持ほじし、そのマシンの所有しょゆう者しゃが(GNU/Linuxのような)ほかのシステムをインストールできるかどうかは、マイクロソフトのコントロール下かにあります。これをわたしたちは制限せいげんされたブートと呼よびます。

  • 1997年ねん、このストーリーが最初さいしょに発表はっぴょうされたとき、SPAは小規模しょうきぼなインターネットサービスプロバイダを脅おどして、彼かれらがSPAにすべてのユーザを監視かんしすることを許可きょかするよう要求ようきゅうしていました。ほとんどのISPは脅おどされて屈服くっぷくしましたが、それは彼かれらが法廷ほうていで反撃はんげきするだけの資金しきん的てき余裕よゆうがなかったからです。一ひとつのISP、カリフォルニア州しゅうオークランドのCommunity ConneXionは要求ようきゅうを拒否きょひし実際じっさいに訴うったえられました。SPAは後のちに訴訟そしょうを取とり下さげましたが、求もとめていた力ちからをDMCAが与あたえてくれたのです。

    SPAは、本当ほんとうは「ソフトウェア出版しゅっぱん業ぎょう協会きょうかい(Software Publisher'sAssociation)」の略りゃくですが、BSA(ビジネスソフトウェア同盟どうめい)に、その警察けいさつのような役割やくわりを置おき換かわられてしまいました。今日きょう、BSAは公式こうしきの警察けいさつ権力けんりょくとではありませんが、非公式ひこうしきには警察けいさつのようにふるまっています。かつてのソビエト連邦れんぽうを思おもい起おこさせるような手法しゅほうを用もちい、人々ひとびとがその同僚どうりょうや友人ゆうじんを密告みっこくするよう奨励しょうれいしているのです。2001年ねんアルゼンチンにおいて展開てんかいされたBSAの恐おそれるべきキャンペーンは、ソフトウェアを共有きょうゆうする人々ひとびとは監獄かんごくでレイプされるだろうというようなことを遠回とおまわしに述のべて脅おどすような内容ないようでした。

  • 本文ほんぶん中ちゅうにあるような大学だいがくのセキュリティポリシーは想像そうぞうの産物さんぶつではありません。たとえば、シカゴ地域ちいきにある某ぼう大学だいがくのコンピュータは、ログインする際さいに以下いかのようなメッセージを表示ひょうじします。

    このシステムは許可きょかされたユーザのみが利用りようできます。許可きょか無なく、あるいは許可きょかされた範囲はんいを超こえてこのコンピュータシステムを使つかう個人こじんは、このシステムにおける全ぜん活動かつどうがシステム職員しょくいんによって監かん視し・記録きろくされる対象たいしょうとなります。このシステムを不適切ふてきせつに利用りようした個人こじんを監視かんしする過程かてい、あるいはシステムメンテナンスの過程かていにおいて、許可きょかされたユーザの活動かつどうも監かん視しされる可能かのう性せいがあります。このシステムを利用りようする者ものはそのような監視かんしが行おこなわれることに明示めいじ的てきに同意どういしたとみなし、またそのような監視かんしによって違法いほうな活動かつどうや大学だいがく規則きそくに違反いはんする行為こういが行おこなわれたという証拠しょうこに成なりうる事実じじつが判明はんめいしたならば、システム職員しょくいんはそのような監視かんしで得えられた証拠しょうこを大学だいがくあるいは警察けいさつ当局とうきょくに引ひき渡わたすことがあり得えるということを理解りかいしているものとします。

    これは多おおくの人ひとに、彼かれらが修正しゅうせい第だい4条じょうの下したで保証ほしょうされた権利けんりをあらかじめ放棄ほうきすることに同意どういするよう圧力あつりょくをかけているという点てんで、憲法けんぽう修正しゅうせい第だい4条じょうへの興味深きょうみぶかいアプローチです。

悪わるいニュース

読よむ権利けんりの戦たたかいはこれまでわたしたちに不利ふりでした。敵てきは組織そしき化かされていますが、わたしたちはそうではありません。

今日きょうの商用しょうようの電子でんし書籍しょせきは読者どくしゃの伝統でんとう的てきな自由じゆうを捨すて去さります。Amazonの電子でんし書籍しょせきリーダの製品せいひんは、わたしが“Amazonインチキンドル”と呼よぶもの(書籍しょせきの読者どくしゃの伝統でんとう的てきな自由じゆうをだまし取とるように設計せっけいされているので)ですが、いくつかの典型てんけい的てきなオーウェルの機能きのうのソフトウェアによって実行じっこうされています。その機能きのうのどれもが、その製品せいひんを完全かんぜんに拒否きょひすることに値あたいするでしょう:

  • ユーザのすることすべてをスパイします: どの本ほんをユーザが読よんでいるか、どのページかを報告ほうこくし、ユーザがいつテクストをハイライトしたか、ユーザが入力にゅうりょくしたどんな注釈ちゅうしゃくも報告ほうこくします。

  • それはDRMを有ゆうし、ユーザがコピーを共有きょうゆうすることを阻止そしすることを意図いとしています。

  • それはAmazonが遠隔えんかく操作そうさでいかなる本ほんも削除さくじょできるバックドアを有ゆうします。2009年ねん、ジョージ・オーウェル著ちょの1984のコピーを何なん千せん部ぶも削除さくじょしました。

  • オーウェルの読者どくしゃにとってそれでも不十分ふじゅうぶんな場合ばあいには、万能ばんのうバックドアがあり、Amazonは遠隔えんかく操作そうさでソフトウェアを変更へんこうすることができ、ほかのあらゆる種類しゅるいの不快ふかいを導入どうにゅうできます。

Amazonの電子でんし書籍しょせきの配布はいふは抑圧よくあつ的てきでもあります。ユーザを同定どうていし、ユーザが入手にゅうしゅした書籍しょせきを記録きろくします。ユーザが反はん社会しゃかい的てきな契約けいやくに同意どういし、他人たにんとコピーを共有きょうゆうしないと要請ようせいもします。もしそのような契約けいやくに同意どういするのであれば、より邪悪じゃあくでないのは契約けいやくに反抗はんこうし、いずれにしろコピーを共有きょうゆうすることだと、わたしの良心りょうしんは言いいます。しかしながら、全部ぜんぶがいいのは、最初さいしょからわたしは同意どういしないべきです。ですから、わたしはそういった契約けいやくに同意どういすることを拒否きょひします。契約けいやくが、ソフトウェア、電子でんし書籍しょせき、音楽おんがくあるいはほかのもの、何なにであっても。

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参考さんこう文献ぶんけん

この小しょう論ろんは自由じゆうソフトウェア、自由じゆうな社会しゃかい: リチャード・M・ストールマン小しょう論ろん選集せんしゅうに収録しゅうろくされ、出版しゅっぱんされました。