ワンセグ放送ほうそう――携帯けいたいキャリアのメリットは小ちいさくない（1/2 ページ）

[西にし正ただし，ITmedia]

携帯けいたいキャリア側がわの事情じじょう

　NHKと民放みんぽう各社かくしゃは、携帯けいたい電話でんわ端末たんまつ向むけワンセグ放送ほうそうの開始かいし日びを2006年ねん3月がつ27日にちと定さだめた。しかし、NTTドコモやKDDIは放送ほうそう開始かいし当初とうしょ、ワンセグ放送ほうそうの受信じゅしん機能きのうを持もつ端末たんまつを数すう機種きしゅ程度ていどしか発売はつばいしないようだ。

　放送ほうそう事業じぎょう者しゃ側がわは、携帯けいたい電話でんわの買かい替かえサイクルが20カ月かげつと短みじかいことから、開始かいし数すう年ねんで数すう千せん万まん台だいの対応たいおう機きが普及ふきゅうすると期待きたいしていた。だが、携帯けいたいキャリアのスタンスは放送ほうそう事業じぎょう者しゃの予想よそう以上いじょうに厳きびしいことがこれで明あきらかになった。

　なぜ携帯けいたいキャリア側がわは積極せっきょく的てきな対応たいおうをためらってしまうのだろうか。最大さいだいの理由りゆうは、テレビチューナーを搭載とうさいすることで、1台だい当あたり1000円えん〜2000円えんのコスト増ぞうになってしまうからだ。このコストを端末たんまつの販売はんばい価格かかくに反映はんえいさせないためには、携帯けいたいキャリアが販売はんばい店てんに対たいし、販売はんばい奨励しょうれい金きんを余分よぶんに支払しはらわなければならない。

　そのコストを回収かいしゅうするうえで、携帯けいたい電話でんわ端末たんまつの買かい替かえサイクルが短みじかいことが逆ぎゃくの意味いみで効きいてきてしまう。1カ月かげつで50円えん〜100円えんの増収ぞうしゅうが見込みこめなければ、テレビチューナーを搭載とうさいすることはマイナスにしかならなくなってしまうのである。

　地上波ちじょうは各局かくきょくからすれば、放送ほうそうのデジタル化かの中なかで、唯一ゆいいつ新あらたな収入しゅうにゅう源げんを確保かくほでき、市場いちばが大おおきく膨ふくらんでいくだろうと期待きたいしていたのが、ワンセグ放送ほうそうだった。もし1カ月かげつ50円えん〜100円えんの増収ぞうしゅうにさえつながらないと携帯けいたいキャリア側がわに思おもわれているのだとしたら、それは地上波ちじょうは局きょく側がわのアピールが弱よわ過すぎることを意味いみしている。

　パケット通信つうしん料りょうの定額ていがく化かは一般いっぱん的てきになってきている。そのせいもあって、携帯けいたい電話でんわでテレビ放送ほうそうを見みてバッテリーを消費しょうひしてしまうことへの抵抗ていこう感かんも和やわらいできていると筆者ひっしゃは見みている。テレビ放送ほうそうが携帯けいたいサービス上じょうで強力きょうりょくなポータルになり、それが各種かくしゅ携帯けいたいサイトの利用りようを促進そくしん、コンテンツ販売はんばいに伴ともなう料金りょうきん回収かいしゅう代行だいこう手数料てすうりょうが大おおきく膨ふくらむことを期待きたいできるようであれば、携帯けいたいキャリア各社かくしゃもワンセグ放送ほうそうにより積極せっきょく的てきになるだろう。

　しかし、携帯けいたいキャリア側がわは現時点げんじてんでそうは考かんがえていない。1カ月かげつ当あたり50円えん〜100円えんの増収ぞうしゅうを図はかれるとは見みていないのである。それには理由りゆうがある。

　FMチューナーを搭載とうさいした携帯けいたい端末たんまつを投入とうにゅうしたKDDIは、FM放送ほうそうで流ながれている楽曲がっきょくを音楽おんがくデータとしてダウンロードできる「着ちゃくうた」というサービスを成功せいこうさせている。FM放送ほうそう対応たいおうの携帯けいたい電話でんわ端末たんまつを持もつユーザーは、その他たのユーザーよりも多おおくの「着ちゃくうた」を購入こうにゅうしているが、その差額さがくは直近ちょっきんの数字すうじで1カ月かげつ20円えんに満みたないという。KDDIが受うけ取とるのは約やく1割わりの代行だいこう手数料てすうりょうに過すぎない。こうした経験けいけんから見みて、1カ月かげつで50円えん〜100円えんの増収ぞうしゅうを図はかることは難むずかしいと見みているのだろう。

　一方いっぽう、テレビ局てれびきょく側がわは自社じしゃが発信はっしんする映像えいぞう情報じょうほうに、ネットにありがちな“流言飛語りゅうげんひご”をセットされては困こまるという理由りゆうで、テレビとネットの混在こんざい表示ひょうじを拒否きょひした。テレビ画面がめんが映うつっている時とき、同時どうじに表示ひょうじできるのは自じ局きょくの携帯けいたい電話でんわサイトに限かぎられるのである。これでは、とてもではないが携帯けいたいコンテンツの利用りようが進すすむとは思おもえない――そう考かんがえる携帯けいたいキャリアの気持きもちはよく分わかる。

テレビがポータルとなって変かわること

　ただその一方いっぽうで、携帯けいたいキャリアはいまだにテレビ放送ほうそうがポータルとなることによる“強力きょうりょくな集客しゅうきゃく力りょく”に気付きづいていないようにも思おもわれる。テレビ局てれびきょくのホームページは、さすがに数すう多おおくの人気にんき番組ばんぐみを持もっているだけのことはあって、豪華ごうか絢爛けんらん（けんらん）だ。にもかかわらず、テレビ局てれびきょくの携帯けいたいサイトとなると、一気いっきに地味じみなものになっている。これを見みる限かぎりでは、携帯けいたいキャリアが不安ふあんを感かんじるのも当然とうぜんだろう。

　しかし、テレビ局てれびきょくの携帯けいたいサイトが地味じみな理由りゆうは、それだけテレビと携帯けいたい電話でんわの親和しんわ性せいが図はかられてこなかったからに過すぎない。テレビ局てれびきょく側がわからすれば、これまでネット上じょうでの連携れんけいを行おこなうのはあくまでPCと考かんがえてきたからであり、ワンセグ放送ほうそうが本格ほんかく的てきにスタートすれば、テレビ局てれびきょくの携帯けいたいサイトは一気いっきに変かわるだろう。