AIシフトが一層いっそう進すすむ2024年ねん　その中なかで静しずかに進すすむデータの“空間くうかん化か”：本田ほんだ雅一まさいちのクロスオーバーデジタル（1/2 ページ）

[本田ほんだ雅一まさいち，ITmedia]

　2024年ねんは、「令れい和わ6年ねん能登半島のとはんとう地震じしん」と東京とうきょう国際こくさい空港くうこう（羽田空港はねだくうこう）における航空機こうくうき事故じこと、現実げんじつとは思おもえない、まるで空想くうそうの世界せかいのようなニュースから始はじまった。もちろん“現実げんじつ”であるのだが、新年しんねんの始はじまりが痛いたましい日ひだっただけに、残のこりの日々ひびは穏おだやかであると信しんじたい。

　さて、この連載れんさいの中心ちゅうしんはテクノロジー業界ぎょうかいにおける話題わだいである。2023年ねんを振ふり返かえると、x86アーキテクチャのCPUにも、スマートフォン向むけSoC（System on a Chip）のトレンドが押おし寄よせてきたことが大おおきなトピックだったと思おもう。

　もちろん、半導体はんどうたい設計せっけいから実際じっさいの製品せいひん化かまでには一定いっていの時間じかんがかかる。2023年ねんのトレンドも、実じつはその4〜5年ねん前まえからの動うごき始はじめていた“流ながれ”が顕在けんざい化かしたに過すぎない。2024年ねんはその流ながれが、より明確めいかくに見みえる形かたちで現あらわれるだろうが、実際じっさいに業界ぎょうかい全体ぜんたいを動うごかすムーブメントは、もっと静しずかに進すすんでいくだろう。

　2024年ねんから2025年ねんにかけては、次つぎの大おおきな地殻ちかく変動へんどうに向むけての準備じゅんびのようなものかもしれない。

Intelが唱となえる「AI PC」の持もつ意味いみとは？

　2023年ねん末まつ、Intelが「AI PC」なるコンセプトを発表はっぴょうしたが、「何なにを今いまさら？」と思おもっている人ひとも少すくなくないだろう。推論すいろんアルゴリズムを効率こうりつよく実行じっこうする「NPU（推論すいろんエンジン）」は、Appleが自社じしゃ開発かいはつのSoCに統合とうごうした「Neural Engine」が広ひろく知しられているが、QualcommのSnapdragonシリーズはもちろん、AMDのモバイル向むけRyzen 7040／7080シリーズの「Ryzen AI」など、思おもった以上いじょうに搭載とうさいが進すすんでいるからだ。

　Intelも、2023年ねん12月に発表はっぴょうしたCore Ultraプロセッサに「Intel AI Boost」というNPUを搭載とうさいした。しかし、QualcommがPC向むけに開発かいはつしている「Snapdragon X Elite」に搭載とうさいされるNPUと比くらべて、大幅おおはばに高性能こうせいのうかというとそうでもないようだ。

　AI PCは、IntelがCore Ultraプロセッサを搭載とうさいするPCの“コンセプト”として訴求そきゅうされている。ただし、それはどちらかといえば、PCがもたらす新あたらしい価値かちや将来しょうらいビジョンを提案ていあんするものだと考かんがえた方ほうがいい。

　もっとも、この方向ほうこう性せいでの進化しんかについては、Neural Engineを擁ようするAppleは既すでに実践じっせんしている。iPhone／iPad向むけから始はじまり、Macはもちろんのこと、Apple WatchやApple TVなど、さまざまな種類しゅるいのデバイスで応用おうようが進すすんでいる。自社じしゃ開発かいはつのOSに機能きのうとして組くみ込こむことはもちろん、サードパーティー製せいアプリについてもAPIを通とおして、いくつかのレイヤーを通とおしてNeural Engineを利用りよう可能かのうだ。

　この流ながれはAndroid OSベースのデバイスにも広ひろがり、これからWindows PCでも展開てんかいされる準備じゅんびが整ととのった――そういう局面きょくめんに来きたからこそ、PCデバイスのCPU（SoC）で圧倒的あっとうてきなシェアを占しめるIntelは、プラットフォームとしてのAI PCを強つよくアピールし始はじめたともいえる。

　同時どうじに、今後こんごはPCの評価ひょうかにおいて、CPUやGPUの“直線ちょくせん的てきな”処理しょり性能せいのうを評価ひょうかする意味いみが薄うすれる可能かのう性せいもあるということだ。むしろ、CPU／GPU／NPUが実際じっさいの製品せいひんにどのように実装じっそうされ、各種かくしゅ機能きのうがどのような品質ひんしつで動うごいてくれるのかという評価ひょうか軸じく、あるいは商品しょうひんのチューニングの仕方しかたが変かわっていくだろう。

　NPUの性能せいのうは一般いっぱん的てきに演算えんざんスループット（実効じっこう演算えんざん回数かいすう）で表現ひょうげんされるが、2023年ねんの振ふり返かえりでも触ふれた通とおり、この数値すうちはユーザー体験たいけん（UX）と比例ひれいするわけではない。端はし的てきにいえば、NPUのスループットが2倍ばいになれば、体験たいけん価値かちも2倍ばいとなるとは限かぎらないのだ。

　ただし、NPUの性能せいのうが上あがると、より的確てきかくな推論すいろん結果けっかを導みちびきやすくなる（＝結果けっかの質しつが高たかくなる）ので、それを製品せいひん価値かちの向上こうじょうにつなげることはできる。分わかりやすい所ところでは、「使つかっているPC上じょうで動作どうさする画像がぞうやオーディオの生成せいせいAIがあっという間まに結果けっかを出だす」という事例じれいも出でてくるだろう。

　ただし、本質ほんしつ的てきにUX向上こうじょうにつながるかどうかは日常にちじょうにおけるAI機能きのうの“使つかいこなし”による違ちがいが出でてくる。写真しゃしんの中なかから文字もじをより的確てきかくに抽出ちゅうしゅつしたり、特定とくていの人物じんぶつや物ものを写真しゃしんから選えらび出だしたり、あるいは毎日まいにちのPC操作そうさで利用りよう者しゃが気付きづかない“癖くせ”を見極みきわめて提案ていあんを行おこなったり――そんな、ユーザー自身じしんが使つかいでのある機能きのうをAIで実装じっそうすれば、ありがたみを感かんじやすくなる。「被写体ひしゃたいをタップしてホールドするだけで自動的じどうてきに切きり抜ぬいてくれる機能きのう」なんかも、もっと高こう品位ひんいに切きり抜ぬけるようになるかもしれない。

　技術ぎじゅつ的てきには新あたらしい方向ほうこうではないが、プラットフォームに“組くみ込こまれた”ことで開発かいはつの方向ほうこうが集約しゅうやくされていく意味いみは大おおきい。