女子テニスの元世界ランキング1位で四大大会通算4勝の大坂なおみ(26)=フリー=が、12、13日に東京・有明コロシアムで行われた国別対抗戦、ビリー・ジーン・キング杯ファイナル予選のカザフスタン戦でチームの勝利に貢献した。日本代表としては2021年東京五輪以来のプレーで、日本国内での試合は22年9月以来1年7カ月ぶりだった。2日間にわたって団体戦の雰囲気を楽しんだ大坂は「素晴らしい経験ができた」と満足そうに話した。(時事通信運動部 浦俊介)
時速200キロに迫るサーブ
前回、日本で試合をしたのは東レ・パンパシフィック・オープン。1回戦は開始後間もなく相手が棄権し、2回戦は試合前に自身が棄権した。それだけに、近年あまりプレーを見られなかった国内のファンにとっては待ち望んだ大坂の試合だった。
12日の第2試合で当時世界ランキング50位のユリア・プチンツェワと対戦。第1試合で快勝した日比野菜緒(ブラス)に刺激を受け、「自分が(チームの)勢いを失わせるようなことはしたくなかった」。時速200キロに迫るサーブやパワフルなストロークで圧倒する場面が何度もあり、スタンドをどよめかせた。会場で至る所に掲げられた日の丸を見て、「特別な感情になって、よりモチベーションが高まった」と試合後に明かした。
試合中にのぞいた母の顔
23年7月に長女のシャイちゃんを出産し、今年元日の試合でツアーに帰ってきた。復帰から3カ月ほどで迎えたプチンツェワ戦では、競り合いにった第2セットも譲らず、プレーが高いレベルに戻ってきたことを印象付けた。
緊迫した第2セットの中盤には、大坂がサーブを打とうとした際に観客席で子どもの泣き声が聞こえる場面があった。「シャイのことが思い浮かんだ」。いったん動きを止め、子どもを抱いた観客が外に出るのをゆっくり待った。「子どものお母さんが慌てていてかわいそうだったので、彼女にゆっくり時間をとってほしかった」と思いやった。直後には190キロのサービスエースを鮮やかに決めてみせた。
最終日の13日は第2試合で大坂の試合が予定されていたが、第1試合の日比野が熱戦を制して日本の勝利が決定。規定により第2試合は実施されなかった。日比野はコート上のインタビューで「なおみちゃんの試合が見られなくて、残念に思っている方もいると思います」と話し、観衆からも少し落胆の声も。ただ、終了後のセレモニーで大坂は日本語を使いながら応援への感謝を述べて大きな拍手を浴び、その後はサインなどでファンサービス。会場へ足を運んだファンを喜ばせた。
周囲とのコミュニケーション
以前は試合前に自分の世界に閉じこもりがちだったが、現在は周囲とのコミュニケーションが増えたと誰もが感じている。日比野によると、大坂は今回の日本チームのメンバーに直筆の手紙とヘッドホンを贈ったという。「チームの雰囲気をつくってくれた。(ツアーでは)ライバルだけど、パワフルなプレーは魅力的。もう一つ、二つは四大大会を取れるんじゃないかと感じる」と日比野は言う。
ツアーを回り続ければ、まな娘と離れる時間が増えるが、大きな心配はない様子。日本の杉山愛監督は「なおみはプロフェッショナル。サポート体制も整っているので、うまく割り切りながら選手としてやってくれると思う」と期待を寄せる。
2度目の五輪へ意欲
今夏のパリ五輪出場への意欲も見せている。シングルスに出場できる64人のうち、56人は6月10日付の世界ランキングで決まる。4月22日時点で197位の大坂だが、出産でツアーを離れた期間があり、けがなどにより長期離脱した選手に適用される特別ランキングは46位と五輪出場圏内にいる。
「五輪は子どもの頃から夢見ていた大会。スポーツの祭典で、他のアスリートと会って楽しい時間も過ごせる」と心待ちにする。初出場だった21年の東京五輪は3回戦敗退。「メダルを取るためにいいプレーをしたい」と、出るからには結果にもこだわる姿勢だ。
パリ五輪までは、あまり得意ではないクレーコートと芝のコートのシーズンが続く。復帰直後はさすがにフットワークなどに切れがなかったものの、徐々に調子を上げ、スピードや力強さが戻ってきている。既に世界ランキング20位以内の選手にも勝っており、ビリー・ジーン・キング杯のプチンツェワ戦のストレート勝ちで、さらに期待が高まっている。四大大会優勝経験者のような一層高いレベルの選手たちを相手にした戦い方や、連戦への対応が今後の焦点になる。
ビリー・ジーン・キング杯後はフランスへ移動。「しばらく欧州にいることになる。いい成績を残して先につなげていきたい」。穏やかな雰囲気を増した大坂の「第2のテニス人生」はこれから本格化するだろう。
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