「僕ぼくはこうしてゴミ屋敷やしきの住人じゅうにんになった」作家さっか・五木いつき寛之ひろゆきはナゼ役やくにたないものを捨すてないのか？

大竹おおたけ「今いまや断だん捨離ブームですけど、五木いつきさんは捨すてない？」

五木いつき「日本にっぽんだけじゃなく国際こくさい的てきにも断だん捨離ブームで、北欧ほくおう風ふうのシンプルライフがみんなの憧あこがれの的てきなんですよ。ただね、春先はるさきにTてぃーシャツを買かって、夏なつ中ちゅう使つかって、秋あきには捨すてるみたいなことをしていたら大変たいへんで、6割わりぐらいがシーズンすぎると燃もやされたり地面じめんに埋うめられたりして、日本にっぽんだけでもものすごい数かずの1000万まんトンとも言いわれるぐらいの廃棄はいき物ぶつがあります。僕ぼくは地球ちきゅう環境かんきょうなんて大おおげさなことは考かんがえてないけども、それでもやっぱりカーボンニュートラルとかは国境こっきょうを越こえた大だい問題もんだいです。このままで行いくと人類じんるいそのものの生存せいぞんが危あやぶまれるんじゃないか、というくらいのところまで来きてるらしいんです。」

大竹おおたけ「本ほんの中なかには、マッチ箱ばこの収集しゅうしゅうをされているご友人ゆうじんの話はなしが出でてきます。「このマッチの店みせを仕切しきってたのはロシアの人ひとでね…」という風ふうに、マッチ一ひとつから一ひとつの思おもい出でが蘇よみがえってくそうです。」

五木いつき「戦前せんぜんの喫茶店きっさてんっていうのはね、一いち軒けん一いち軒けんがオリジナルのマッチを作つくってたんです。集あつめると何なん百ひゃく何なん千せんっていうコレクションができるんだけど、それを引ひき上あげの時ときに持もって来これなかったって古ふるい友人ゆうじんが言いっていました。僕ぼくもバーとか喫茶店きっさてんのコースターを、何なん百ひゃく枚まいか持もってます。（笑）あんまり役やくにたないものを持もってた方ほうがいいんですよ。」

大竹おおたけ「役やくにたないものを持もっていたほうがいい？」

五木いつき「歴史れきしっていうのは社会しゃかいの記憶きおくなんですね。古ふるい記憶きおくを組くみ立たてて、その上うえに今いまがある。今いまを見みて明日あしたを見みるためにはやっぱり後うしろを振ふり返かえらなきゃいけないんです。でも「思おもい出で」はなかなか漠然ばくぜんとしか思おもい出だせないんですけども、「依よ代だい（よりしろ）」という巫女ふじょさんとかそういう人ひとたちが使つかう、物ものに霊れいが降おりてくるみたいな言葉ことばがあって、なにかのきっかけあるとが鮮あざやかに記憶きおくが蘇よみがえってくるんですね。僕ぼくはそういう「依よ代だい」のつもりで物ものを見みてますから、おろそかに捨すてられない。そのためにゴミ屋敷やしきの住人じゅうにんになったのです。」

大竹おおたけ「私わたしも昔むかし、新宿しんじゅくに聞きき慣なれないジャズを聞ききに行いって、その店みせに薄うすっぺらい紙しのマッチがあったんですけども、今いまになってみると取とっとけば良よかったなぁ…」

五木いつき「きざな話はなしだけどプルーストの小説しょうせつかなにかに、紅茶こうちゃを飲のみながらマドレーヌというお菓子かしを浸ひたすと、記憶きおくがぱあっと水中花すいちゅうかのように蘇よみがえってくる、なんていう描写びょうしゃがあるそうなんですがそういう感かんじですよね。壊こわれたものとか、もう役やくにたなくなった万年筆まんねんひつとか、そういうものでも「あのころはこれで書かいてたんだ」とか「原稿げんこう料りょうは随分ずいぶん安やすかったな」とか、いろんなことを思おもいだします。」

大竹おおたけ「断だん捨離で物ものを捨すてるのは一ひとつの生いき方かたになってますけど、五木いつきさんは捨すてるのを否定ひていするわけではないんですよね。」

五木いつき「断だん捨離は僕ぼくも賛成さんせいなんですよ。だけどなかなかできないでしょ？できないっていうことがコンプレックスになったり、「俺おれはなんてダメなんだ」とかプレッシャーになる人ひともずいぶんいるんですが、そうなる必要ひつようはないんです。」

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