【
目的】
慢性疼痛は,3
カ月間以上の
持続または
再発,
急性組織損傷の
回復後1
カ月以上の
持続,あるいは,
治癒しない
病変の
随伴がみられる
疼痛である。
急性疼痛から
慢性疼痛に
移行する
上で、
局所的要因から
生じたものが
長期間経過することにより
全体的要因に
変化し、
痛みを
複雑化させてしまう。
慢性的な
痛みは、
身体機能を
低下、また、
抑うつや
不安を
引き
起こし、
睡眠を
妨げ、
日常活動の
多くを
阻害しうるといわれている。
慢性疼痛を
抱える
人の
約18%がうつ
病を
合併しているとの
報告もある。うつ
病になることで
治療に
対する
意欲低下などの
問題が
生じ、
理学療法などの
治療に
影響を
与えることがある。
痛みが
長期化することで
抑うつ
傾向となり、
更なる
痛みの
増悪につながってしまうといった
痛みの
悪循環を
引き
起こしてしまう。
慢性疼痛による
腰痛関連機能障害は
心理・
社会的因子が
深く
関与しており、
治療とリハビリに
対する
患者の
反応に
早期に
影響を
及ぼすといわれている。また、
腰痛の
発症原因に
関する
研究では、
仕事の
満足度や
精神的ストレスなどの
要因も
腰痛の
発症に
影響しているとの
報告がある。
腰部疾患として
臨床上、
数多くの
疾患がある。その
中でも
腰椎椎間板ヘルニアは
現代病と
言われており、10代から60
代に
多く、
勤労者が
占める
割合が
高いとの
報告がある。
今回、
腰椎椎間板ヘルニアにおける
罹病期間とうつ
症状、NRSとうつ
症状の
関係を
検討する。
【
方法】
当院を
受診し
理学療法を
施行した65
歳未満の
腰椎椎間板ヘルニア
患者154
名(
男性81
名 女性73
名)
年齢(
男性43.25±11.88
歳、
女性44.74±11.85
歳)を
対象に、
自己評価抑うつ
性尺度(SDS:self rating-depression-scale)、
罹患期間、
数値的評価尺度(NRS:numerical rating scale)、
仕事の
有無・
合併症の
有無・
睡眠の
質を
測定した。
罹患期間を
短期群(≦12
ヶ月)
中間群(13-36
ヶ月)
長期群(37
ヶ月≦)の3つに
分類した。また、NRSも
同様に
低値群(0-5)
中間群(6-7)
高値群(8-10)に
分類し、
罹患期間・NRSをそれぞれ
独立変数、SDSを
従属変数とした
共分散分析を
行った。
共変量は
性別、
年齢、
合併症の
有無、
仕事の
有無、
睡眠の
質とした。
【
説明と
同意】
本研究をするあたり、
対象者に
検査者が
説明し
理解を
得られ
同意を
得た。
【
結果】
罹患期間を3
群に
分けたときのSDSは
短期群で76
名(
調整後平均値37.46[95%CI:35.64-39.28])であり、
中間群で40
名(40.47[95%CI:38.14-42.81])、
長期群で38
名(43.92[95%CI:41.24-46.60]) (
傾向性p
値=0.000)となり、
罹患期間が
長くなればSDSが
上昇した。また、NRSを3
部位に
分けたときのSDSの
低値群は52
名(36.67[95%CI:34.50-38.84])であり、
中間群は54
名(40.98[95%CI:39.10-42.86])、
高値群は48
名(41.98[95%CI:39.31-44.65]) (
傾向性p
値<0.01)となり、NRSが
高値になると、SDSが
上昇するとことがわかった。
【
考察】
本研究結果より
罹患期間の
長期化とうつ
症状に
有意差がみられ、また、
痛みの
強さとうつ
症状にも
同様に
有意差がみられた。
罹患期間の
長期化と
痛みの
強さがそれぞれ、うつ
傾向を
高める
要因であることが
明らかになった。
このことから
局所的要因から
生じたものが
長期間経過することにより
全体的要因に
変化し、
痛みとうつ
症状を
高めるといった
慢性疼痛サイクルのような
痛みの
悪循環が
生じていることがわかった。
理学療法を
施行する
上で
慢性疼痛患者自身の
心理的側面を
考慮する
事が
大切であると
思われる。
痛みが
長期化・
痛みの
強さが
増悪することで
心理面の
問題が
強まり、
理学療法の
介入が
困難になる。
機能訓練を
中心とする
病院が
多い
傾向であるが、
理学療法介入時には
心理的側面などに
対する
他覚的所見へのアプローチも
必要であると
考える。
慢性疼痛患者はうつ
傾向にあり、
痛みに
対する
訴えが
強い。そのため、
理学療法施行する
際には、
慢性疼痛患者が
抱えている
心理的な
問題を
考慮する
必要がある。
【
理学療法学研究としての
意義】
慢性疼痛では、
理学療法施行するにあたり、
心理的側面の
考慮が
必要である。
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