「徳いさおさんならどんな評価ひょうかを下くだすだろうか？」かつて徳大寺とくだいじ有恒ありつね氏しが絶賛ぜっさんしたフォルクスワーゲン・ゴルフ「8.5世代せだいモデル」の実力じつりょく検証けんしょう　コスパだけでは語かたれない魅力みりょく

　ドイツ語ごで「国民こくみん車しゃ」を意味いみする社名しゃめいを与あたえられ、1934年ねんに設立せつりつされたドイツの自動車じどうしゃメーカーが「フォルクス（国民こくみん・大衆たいしゅう）ワーゲン（自動車じどうしゃ）」。1938年ねんから小規模しょうきぼな生産せいさんが始はじまった「タイプ1」はその後ご、かぶと虫むしのようなフォルムから「ビートル」と通称つうしょうされ、半はん世紀せいき以上いじょうにわたって世界中せかいじゅうで愛あいされた。そのビートルの後継こうけい車しゃとして1974年ねんに発売はつばいされたのが初代しょだい「ゴルフ」。「大人おとな4人にんがゆったりと乗のれ、リアシートをたためばさらに広ひろい荷に室しつが出現しゅつげんする」という実用じつよう性せいを実現じつげんし、「ファミリーカーの基本きほん」とも評価ひょうかされて、こちらも世界中せかいじゅうで大だいヒットした。

　まさに優すぐれた「大衆たいしゅう車しゃ」の誕生たんじょうだったわけだが、そのゴルフも2019年ねんには8世代せだい目めへと進化しんか。そのスタート直後ちょくごからパンデミックというイレギュラーな悪影響あくえいきょうを受うけ、日本にっぽんへの上陸じょうりくも2021年ねんに遅おくれるなどアクシデントに見舞みまわれた。それでもゴルフの世界せかい的てきな高たかい評価ひょうかは健在けんざい。そして昨年さくねん、8世代せだい目めとなって初はじめてのビッグマイナーチェンジが施ほどこされて登場とうじょうしたのが「8.5世代せだいモデル」とも言いわれる最新さいしんモデルだ。

　シリーズ「快適かいてきクルマ生活せいかつ　乗のってみた、使つかってみた」、今回こんかいは「フォルクスワーゲンの良心りょうしん」とも言いわれるゴルフの実力じつりょくを自動車じどうしゃライターの佐藤さとう篤司あつし氏しが試乗しじょうして探さぐった。

クラスの基準きじゅんとして半はん世紀せいき在あり続つづけたゴルフ

　日本にっぽんの自動車じどうしゃジャーナリズムを長年ながねんリードしてきた徳大寺とくだいじ有恒ありつね氏し（2014年ねん死去しきょ）をご存ぞんじだろうか？　私わたしたち自動車じどうしゃ業界ぎょうかいの関係かんけい者しゃは親したしみを込こめて「徳いさおさん（以下いか、同どう）」とか「巨匠きょしょう」と呼よんでいましたが、その代表だいひょう作さくといえば1976年ねんに刊行かんこうされ、大だいベストセラーとなった自動車じどうしゃ批評ひひょう本ほんの『間違まちがいだらけのクルマ選えらび』（草くさ思おもえ社しゃ）です。実じつは、その評価ひょうかの基本きほんにあったのが、ジョルジェット・ジウジアーロがデザインとパッケージを手掛てがけ、1975年ねんに日本にっぽんでも発売はつばいが始はじまった「ゴルフ」だったのです。

　徳いさおさんはコンパクトハッチバックのパイオニア的てき存在そんざいであるゴルフが「走はしり、デザイン、パッケージングのすべてで、当時とうじの日本にっぽん車しゃのレベルを凌駕りょうがしている」ことに衝撃しょうげきを受うけました。それが『間違まちがいだらけ～』の執筆しっぴつを決意けついさせた最大さいだいの要因よういんともいい、同時どうじにそれが「日本にっぽん車しゃの進化しんかにも大おおきく寄与きよする」とも考かんがえていました。ゴルフはそれほどの高たかい評価ひょうかでしたが、実際じっさいに世界中せかいじゅうでヒット。徳いさおさんの先見せんけん性せいどおり、国産こくさん各かくメーカーを含ふくめ、ゴルフを追おい求もとめるように「大衆たいしゅう車しゃ」を開発かいはつするようになったのです。おまけにゴルフが属ぞくする乗用車じょうようしゃのカテゴリー「Cセグメント」は「ゴルフクラス」といわれるほど存在そんざい感かんが増ますことになるのです。

　そして大衆たいしゅう車しゃだったゴルフは、衝突しょうとつ安全あんぜんなどの向上こうじょうのために世代せだいを経へるごとにサイズアップ。同時どうじに装備そうびの充実じゅうじつなどもあって価格かかくも上あがってきました。昨年さくねんデビューした最新さいしんの8.5世代せだいモデルはベーシックな「ハッチバック」の価格かかく帯たいが349万まん9000円えんから、ステーションワゴンの「ヴァリアント」は363万まん9000円えんからとなっています。さらにスポーツハッチとしても人気にんきの「GTI」は549万まん8000円えんから、スポーツモデルの頂点ちょうてんにある「R」は704万まん9000円えんからとなっています。

　スポーツモデルはまさに別格べっかくといっていい存在そんざいですが、ベーシックなハッチバック仕様しようやステーションワゴン仕様しようを見みても、すでにリーズナブルといった感かんじの価格かかくではなくなっています。もちろんこれはゴルフだけに限かぎったことではなく、同どうクラスのプジョー308やアウディA3などといった欧州おうしゅうライバルもほぼ同おなじ価格かかく帯たいにあります。

　対たいして同おなじCセグメントに属ぞくしている国産こくさん車しゃ勢ぜい、例たとえばトヨタ・カローラのハッチバックモデル「カローラ・スポーツ」やマツダの「3」などは全体ぜんたいとして100万まん円えんほど安やすい価格かかく帯たいで構成こうせいされ、そこから選択せんたくできるようになっています。欧州おうしゅう車しゃとの単純たんじゅん比較ひかくはすでに難むずかしいのですが、欧州おうしゅう勢ぜいはより高額こうがく化かしています。

　それでも「ゴルフ」がこうして注目ちゅうもくされるのはどんな理由りゆうがあるのでしょうか？　コスパだけでは語かたれない魅力みりょくがあるのかもしれません。