コロナ禍で苦境にさらされながらも、さまざまなサービスの進化や満足度の向上などが求められる旅行業界。理不尽な要求をするクレーマー客も少なくないようだが、どのように対応しているのだろうか。50代のビジネスホテル経営者(女性)が、出くわしたクレーマー客とその対処法についての実体験を明かす。
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私が夫と経営する小さなビジネスホテルにも、無理難題をおっしゃるお客さまはいらっしゃいます。緊急事態宣言が出される前のこと。3泊4日の予約をした40代女性が、若い男性スタッフに、たばこを吸える部屋を希望。ところがうちはあいにく、喫煙所はあるものの、全室禁煙。
「申し訳ございません。当ホテルは全室禁煙というカタチになっておりまして」
と答えたところ、
「変な日本語使わないで。どういう教育を受けているの」
と、急に大声で怒鳴られたのです。言葉遣いが間違っていたのは確かなので、私がすぐに交代して非礼を詫びたのですが、
「不快にしたお詫びにホテル代をタダにしなさいよ。あんたパートでしょ。支配人を出してよ。絶対タダにしてくれるはずだから!」
と大声で騒ぎ始めました。そこで名刺をお渡しし、
「私が支配人でございます。お部屋のご要望にお応えできずに申し訳ありません。無料にすることも難しいのですが、代わりに広めのお部屋をご用意させていただきますが、いかがでしょうか」
と、提案。私が支配人だったことが驚きだったのか、そのときはおとなしく部屋に入ってくれました。ところがその後も、目を離すと、若い男性スタッフをつかまえては「下着を買ってこい」「生理用品を買ってこい」などとセクハラまがいの要求をしてくる。そこで、私が24時間体制で彼女を見張ることに。レストランにいるときも、喫煙所にいるときも、彼女の目の届くところにいました。恫喝がきかない相手が側にいるのは居心地が悪いのでしょうね。そのうち部屋から出てこなくなりました。