治験ちけんとは

治験ちけんは、日本にっぽんで未み承認しょうにんの薬くすりや医療いりょう機器ききの安全あんぜん性せい・有効ゆうこう性せいを確たしかめるため、人ひとを対象たいしょうにして行おこなわれる試験しけんのことです。国くにの承認しょうにんを目的もくてきとする試験しけんなので、厳密げんみつに行おこなわれる必要ひつようがあります。そのため参加さんかを希望きぼうする人ひとは、これまでは試験しけんを実施じっししている医療いりょう機関きかんに行いって、さまざまな検査けんさを受うけたり診察しんさつしてもらったりすることが必要ひつようでした。

従来じゅうらいの治験ちけんでは、製薬せいやく企業きぎょうや医師いしが治験ちけんの計画けいかくを立案りつあんし、参加さんかを希望きぼうする患者かんじゃさんに薬くすりの種類しゅるいや期待きたいされる効果こうか、想定そうていされる副作用ふくさよう、途中とちゅうでやめてもいいこと、など治験ちけんの内容ないようについて治験ちけん実施じっし医療いりょう機関きかんが説明せつめいします。必要ひつような検査けんさを行おこない、患者かんじゃさん本人ほんにんの承諾しょうだくが得えられたら患者かんじゃさんに薬くすりが渡わたされます。
治験ちけん期間きかん中ちゅう、患者かんじゃさんは、医師いしの診察しんさつや検査けんさを受うけ、薬くすりの効果こうかや副作用ふくさようなどの経過けいかをみてもらう必要ひつようがあります。全すべての患者かんじゃさんのデータは集約しゅうやくされ、製薬せいやく企業きぎょうがデータをもとに国くにに承認しょうにん申請しんせいし、審査しんさで承認しょうにんされれば新あたらしい薬くすりや治療ちりょうが誕生たんじょうします。

リモート治験ちけんとは

リモート治験ちけんは、治験ちけんが実施じっしされる医療いりょう機関きかんから離はなれて住すんでいる患者かんじゃさんでも参加さんかできることが特徴とくちょうです。参加さんかしたい患者かんじゃさんはかかりつけの医療いりょう機関きかん（パートナー医療いりょう機関きかん）から転院てんいんすることなく、従来じゅうらいの主治医しゅじいにみてもらいながら、ほかの医療いりょう機関きかんで行おこなわれる治験ちけんに参加さんかすることができます。患者かんじゃさんはかかりつけの医療いりょう機関きかん（パートナー医療いりょう機関きかん）で主治医しゅじいに同席どうせきしてもらって、オンラインで治験ちけんを実施じっしする医療いりょう機関きかんの治療ちりょう担当たんとう医いから治験ちけんの説明せつめいをききます。
治験ちけんには厳きびしいルールがあり、たとえば、治験ちけんに参加さんか可能かのうな体力たいりょくがある、肝臓かんぞうや腎臓じんぞうなどの働はたらきが十分じゅうぶんである、などの条件じょうけんを満みたしている必要ひつようがあります。こうした条件じょうけんを満みたしていて、患者かんじゃさんが同意どういした場合ばあい、登録とうろくされて治験ちけん開始かいしとなります。
治験ちけん薬やくは患者かんじゃさんの自宅じたくに直接ちょくせつ配送はいそうされます。治験ちけんのための血液けつえき検査けんさや画像がぞう検査けんさはパートナー医療いりょう機関きかんで行おこなわれ、そのデータは治験ちけん実施じっし医療いりょう機関きかんにも共有きょうゆうされます。こうした仕組しくみによって、患者かんじゃさんは治験ちけん実施じっし医療いりょう機関きかんに一いち度ども行いくことなく、また主治医しゅじいを変かえることなく、治験ちけんに参加さんかすることができるのです。

がん遺伝子いでんしパネル検査けんさ

リモート治験ちけんが行おこなわれるようになった背景はいけいには、がん遺伝子いでんしパネル検査けんさを活用かつようしたゲノム医療いりょうが広ひろがってきたことも挙あげられます。がん遺伝子いでんしパネル検査けんさは、患者かんじゃさん一いち人にん一人ひとりのがんに関かかわる数すう十じゅうから数すう百ひゃくもの遺伝子いでんしを一いち度どに調しらべ、その患者かんじゃさんのがんの遺伝子いでんしにあった治療ちりょうの選択肢せんたくしを探さがすものです。患者かんじゃさんのがんの組織そしきを、高速こうそくで大量たいりょうの遺伝子いでんし情報じょうほうを読よみ取とる次世代じせだいシークエンサーとよばれる解析かいせき装置そうちにかけて、多数たすうの遺伝子いでんしを同時どうじに調しらべます。得えられたデータを複数ふくすうの専門せんもん家かが検討けんとうし、検出けんしゅつされた遺伝子いでんし異常いじょうに対たいして効果こうかが期待きたいできる薬くすりの候補こうほを出だします。がん遺伝子いでんしパネル検査けんさは、健康けんこう保険ほけんを使つかって受うけることができます。一方いっぽう、検査けんさによって見みつかる薬くすりの候補こうほは、保険ほけんで使つかえる薬くすりであることもありますが、適応てきおう外がいの薬くすりや未み承認しょうにんの薬くすりということもあります。

現在げんざいのがん医療いりょうでは、がん遺伝子いでんしパネル検査けんさを受うけて、それが新あたらしい治療ちりょうに結むすびつくケースが多おおいとはいえません。最新さいしんデータでは、新あたらしい治療ちりょうが見みつかった割合わりあいは9.4％です。がんの遺伝いでん情報じょうほうがわかっても、適応てきおう外がいの薬くすりも含ふくめて使つかえる薬くすりがまだまだ少すくないのです。その可能かのう性せいを広ひろげるためにも、治験ちけんがもっと広ひろがって、患者かんじゃさんが使つかえる薬くすりを増ふやしていくことが必要ひつようです。全国ぜんこくどこからでも患者かんじゃさんが治験ちけんに参加さんかできるリモート治験ちけんは、治験ちけんデータの収集しゅうしゅう速度そくどを加速かそくさせ、新あたらしい薬くすりが誕生たんじょうする可能かのう性せいを広ひろげることにつながるものと期待きたいされています。

今回こんかい行おこなわれたリモート治験ちけん

今回こんかい、愛知あいち県けんがんセンターで行おこなわれたがんのリモート治験ちけんでは、2022年ねんに肺はいがんの治療ちりょう薬やくとして承認しょうにんされた「ブリグチニブ」というのみ薬くすりを用もちいます。この薬くすりは、ALK（アルク）という遺伝子いでんしに異常いじょうのあるがんに有効ゆうこうであると考かんがえられており、肺はいがんでは承認しょうにんされていますが、大腸だいちょうがんやすい臓ぞうがんなど、ほかの固形こけいがんでは承認しょうにんされていません。そこで、肺はいがん以外いがいの固定こていがんでALK遺伝子いでんしに異常いじょうのある患者かんじゃさんが「ブリグチニブ」を使用しようする治験ちけんが行おこなわれることになりました。参加さんかする患者かんじゃさんは、このブリグチニブを１日にち１錠じょう、有効ゆうこうな限かぎり続つづけることができます。2022年ねん５月がつから患者かんじゃ登録とうろくがはじまり、現在げんざいも継続けいぞく中ちゅうです。

リモート治験ちけんのメリットとは

今回こんかいのリモート治験ちけんに富山とやま県けんから参加さんかしている池いけ永一えいいち（はじめ）さんに取材しゅざいさせていただきました。池永いけながさんは、がんが見みつかり抗こうがん剤ざい治療ちりょうを受うけたところ効果こうかがみられず、その時点じてんでは効果こうかの期待きたいできる治療ちりょうがありませんでした。がん遺伝子いでんしパネル検査けんさを受うけたところ、ALK遺伝子いでんしに変異へんいがあるタイプのがんだとわかり、リモート治験ちけんを受うけることにしました。池永いけながさんはリモート治験ちけんを受うけて、こう感かんじたと言いいます。

「治験ちけんが実施じっしされる愛知あいち県けんがんセンターまでは、住すんでいる富山とやまから５時じ間あいだくらいかかります。（リモート治験ちけんは）時間じかんと費用ひようの面めんで助たすかりました。また、主治医しゅじいと治験ちけん担当たんとう医い、複数ふくすうの医師いしの意見いけんを同時どうじに聞きけるのがメリットだと感かんじました。たとえ異ことなる意見いけんであっても判断はんだん材料ざいりょうが増ふえて、聞ききたいことも聞きけたので安心あんしんできました」

リモート治験ちけんのメリットを考かんがえるとき、患者かんじゃさん側がわの最大さいだいのメリットはどこに住すんでいても治験ちけんに参加さんかできることです。通院つういんによる体力たいりょくの消耗しょうもうなどの負担ふたんを少すくなくすることができます。また、診療しんりょうに携たずさわっていた主治医しゅじいを変かえないで治験ちけんに参加さんかできることも大おおきなメリットです。治験ちけんに参加さんかするために転院てんいんしなければならないとなると、がんの治療ちりょうをずっとみてもらっていた主治医しゅじいとの関係かんけいが途切とぎれてしまうおそれがあり、患者かんじゃさんの不安ふあんにつながるからです。
治験ちけん実施じっし医療いりょう機関きかんにもリモート治験ちけんはメリットがあります。治験ちけんでは一いち定数ていすうの患者かんじゃさんに参加さんかしてもらってデータを集あつめる必要ひつようがありますが、患者かんじゃさんの少すくないがんの場合ばあいなどは参加さんかする患者かんじゃさんがなかなか集あつまらない、ということがあります。リモート治験ちけんでは移動いどう距離きょりを考かんがえずに全国ぜんこくから患者かんじゃさんを募集ぼしゅうすることができるので、患者かんじゃ登録とうろくも加速かそくできます。
またリモート治験ちけんに参加さんかしたパートナー医療いりょう機関きかんの主治医しゅじいからは「自分じぶんの診みてきた患者かんじゃさんに治験ちけんのチャンスを提供ていきょうできてよかった」「自分じぶんの医療いりょう機関きかんで治験ちけんを実施じっしするのは難むずかしいが、リモート治験ちけんに関かかわるという選択肢せんたくしがあることで、最新さいしんの医療いりょうに関かかわることができる」という声こえが寄よせられています。

リモート治験ちけんの課題かだい

リモート治験ちけんの課題かだいとしては、安全あんぜん性せいの確保かくほが挙あげられます。がんの薬くすりには副作用ふくさようが多おおい上うえ、オンライン診療しんりょうでは治験ちけん実施じっし医療いりょう機関きかん側がわは直接ちょくせつ患者かんじゃさんに触ふれて診察しんさつすることができません。また、治験ちけんの評価ひょうかも難むずかしくなります。患者かんじゃさんと同席どうせきするパートナー医療いりょう機関きかんの主治医しゅじいと治験ちけん実施じっし医療いりょう機関きかんの医師いしのコミュニケーションが重要じゅうようとなります。個人こじん情報じょうほうの取とり扱あつかいにも注意ちゅういが必要ひつようです。たとえば治験ちけんの薬くすりは患者かんじゃさんに配送はいそうされますが、患者かんじゃさんに直接ちょくせつ手渡てわたされるわけではないので、プライバシーが守まもられるように十分じゅうぶんな配慮はいりょが必要ひつようとなります。また、リモート治験ちけんで使つかえる薬くすりの候補こうほはいまのところ、経口けいこう薬やく（のみ薬やく）のみとなっています。

リモート治験ちけんの展望てんぼう

国立こくりつがん研究けんきゅうセンター中央ちゅうおう病院びょういんでも「希少きしょうがん」を対象たいしょうとしたリモート治験ちけんが始はじまりました。今後こんご、がん以外いがいの病気びょうきにもリモート治験ちけんの取とり組くみが広ひろがると期待きたいされています。現状げんじょうではまだがんのリモート治験ちけんは限かぎられていますが、治験ちけんへの参加さんかは治療ちりょうの選択肢せんたくしのひとつになります。治験ちけんについて知しりたい場合ばあいはかかりつけ医療いりょう機関きかんの主治医しゅじいやがん相談そうだん支援しえんセンターに相談そうだんするようにしましょう。