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コラム

大相撲おおずもう裏話うらばなし

取組とりくみを見みるだけじゃ分わからない、日刊にっかんスポーツの大相撲おおずもう担当たんとう記者きしゃが土俵どひょう周辺しゅうへんから集あつめてきた「とっておきネタ」をお届とどけします。

2021年ねん9月がつ11日にち10時じ1分ふん

花田はなた虎とら上じょう氏し「相撲すもうの神様かみさまに恩返おんがえし」評論ひょうろん家か就任しゅうにん、横綱よこづな昇進しょうしん時じのエピ告白こくはくに衝撃しょうげき

: 大相撲おおずもう秋場所あきばしょから本紙ほんし評論ひょうろん家かに就任しゅうにんする元もと横綱よこづな若乃花わかのはなの花田はなた虎とら上じょう氏し。現役げんえき時代じだいの得意とくい技わざ「押おし」を披露ひろうしてくれた（2021年ねん9月がつ1日にち）

12日にちに初日しょにちを迎むかえる大相撲おおずもう秋場所あきばしょ（両国りょうこく国技こくぎ館かん）から、日刊にっかんスポーツの相撲すもう評論ひょうろん家かとして第だい66代だい横綱よこづな若乃花わかのはなの花田はなた虎とら上じょう氏し（50）がデビューする。日本にっぽん相撲すもう協会きょうかいを退職たいしょくした、前任ぜんにんの先代せんだい錦にしき島とう親方おやかた（元もと大関おおぜき朝あさ潮しお）からのバトンタッチだ。

くしくも伯父おじの初代しょだい横綱よこづな若乃花わかのはなの花田はなた勝治かつじさん（故人こじん）も、日刊にっかんスポーツの評論ひょうろん家かを30年ねんほど前まえまで務つとめていた。そんなこともあり「これも何なにかの縁えんと思おもい引ひき受うけさせていただきます」の快諾かいだくしてもらった。ただ「土俵どひょうの鬼おに」と恐おそれられた初代しょだいとは、小兵こひょうという体形たいけいは似にていても、相撲すもう解説かいせつとなると趣おもむきを異ことにすると思おもわれる。「決けっして“横綱よこづな目線めせん”でなく、評論ひょうろんする力士りきしの地位ちいに応おうじて、自分じぶんがその番付ばんづけにいた時ときの目線めせんで解説かいせつしたいと思おもいます」と花田はなた氏しは言いう。上うえから目線めせんは避さけ、かしこまることなく“お兄にいちゃん”らしいソフトタッチの解説かいせつになるのでは、と予想よそうしている。

紙面しめんで掲載けいさいされるコラムのカットには、相撲すもう担当たんとう記者きしゃ内ないでも頭あたまを悩なやませた。個人こじん的てきには、あの代名詞だいめいしを入いれるのが、一番いちばんふさわしいのでは…と思おもった。そう、やっぱり「お兄にいちゃん」－。あの柔和にゅうわな笑顔えがおでテレビやSNSでもおなじみだ。弟おとうと貴乃花たかのはなと二人三脚ににんさんきゃくで頂点ちょうてんまで上のぼり詰つめた姿すがたに、その後ごの紆余うよ（うよ）曲折きょくせつはあっても、往年おうねんの相撲すもうファンには、いつまでも「お兄にいちゃん」のイメージが残のこっているのではないか。だから、たとえば「お兄にいちゃんの技わざあり解説かいせつ」とか「お兄にいちゃんの熱ねつ視線しせん」とか。ただ、そんな軽々けいけいな発想はっそうから抱だいていた候補こうほの代名詞だいめいしは、花田はなた氏し本人ほんにんの「もう『お兄にいちゃん』って、そんな年としでもないし」と、笑わらいながらの言葉ことばで、やんわりご破算はさんになった。

今年ことし1月がつに50歳さいになった花田はなた氏し。そりゃあそうだろうな、いまさら「お兄にいちゃん」も気き恥はずかしいだろう…と思おもいつつ、私わたしの中なかでは「お兄にいちゃん」のままで記憶きおくが止とまっている。あの若貴わかたかフィーバーの渦中かちゅうを取材しゅざいしていた中なか、当時とうじ若ノ花わかのはなで三さん役やく最後さいごの場所ばしょとなった93年ねん名古屋なごや場所ばしょが、私わたしの最後さいごの相撲すもう担当たんとうだった。その場所ばしょ、13勝しょう2敗はいの優勝ゆうしょう同点どうてんで大関おおぜき昇進しょうしんを決きめたため、大関おおぜき以降いこうの花田はなた氏しは見みていない。だから、いつまでも「お兄にいちゃん」のままだ。

とはいえ評論ひょうろん家か就任しゅうにんにあたり、この約やく30年ねんをいつまでも空白くうはくのままであってはいけない。そう思おもい、何なん度どか花田はなた氏しと電話でんわで話はなし込こみ、あの自分じぶんも若わかかった頃ころには、つゆほども感かんじられなかった苦悩くのうぶりなどを聞きいた。そんな中なかでも「そこまで追おい詰つめられていたのか」とショッキングに耳みみに入はいったのが、横綱よこづな昇進しょうしん時じのエピソードだった。ちょうど秋場所あきばしょ展望てんぼうで新しん横綱よこづな照あきらノ富士ふじの心境しんきょうを、花田はなた氏し自身じしんの経験けいけんと照てらし合あわそうと話はなしを振ふった時ときに返かえってきた答こたえだった。

「横綱よこづなになったら引退いんたいしていいよって、師匠ししょうも言いってくれていたから」。横綱よこづな昇進しょうしんが正式せいしき決定けっていすると、日本にっぽん相撲すもう協会きょうかいから伝達でんたつの使者ししゃが部屋へやにやってくる。「謹つつしんでお受うけいたします」で始はじまる、あの晴はれの、一世一代いっせいちだいの口上こうじょう。まさか、と思おもい記事きじ検索けんさくしたところ、花田はなた氏しは使者ししゃが来くる前日ぜんじつ、父ちちであり師匠ししょうの二子山親方ふたごやまおやかた（元もと大関おおぜき貴たかノ花はな）に「謹つつしんでお断ことわりします」と言いってもいいか、と問とい掛かけたという記事きじがあった。昭和しょうわの大だい横綱よこづな・大鵬たいほうが横綱よこづなに上あがった瞬間しゅんかん、いつ引退いんたいしてもいい覚悟かくごを持もったという話はなしは生前せいぜんに直接ちょくせつ、ご本人ほんにんから聞きいたことがある。ただ、花田はなた氏しのこの告白こくはくは、それ以上いじょうの衝撃しょうげきだった。

横綱よこづなに上あがる前まえから体からだはボロボロで、小柄こがらな体からだで巨漢きょかん力士りきし全盛ぜんせいの時代じだいに戦たたかった代償だいしょうは、今いまも変形へんけいし続つづけ生涯しょうがい、治なおらないという背骨せぼねにもあるという。「若わかい衆しゅのころは、さすがに畳たたみ一いち畳じょう分ぶんぐらいしか自分じぶんのスペースがないから出来できなかったけど、関取せきとりになってからは毎日まいにちだった」という本場所ほんばしょで対戦たいせんする相手あいて力士りきしのビデオは連日れんじつ連夜れんや、擦すり切きれるほどテープを回まわし研究けんきゅうしたともいう。

自分じぶんの長所ちょうしょを伸のばしようにも、体からだの伸のびしろは満身まんしん創痍そうい（そうい）では限度げんどがある。だから、それを補おぎなうべく相手あいての研究けんきゅうは「徹底的てっていてきにやった」とビデオの映像えいぞうを頭あたまにたたきこんだ。「天性てんせいの相撲すもう勘かん」ともよく称しょうされたが、持もって生うまれたものに、たゆまぬ頭脳ずのう戦せんを重かさねたことで、横綱よこづなの座ざをつかんだと思おもう。テレビでよく見みる技術ぎじゅつ解説かいせつに定評ていひょうがあるのも、積つみ重かさねのたまものだろう。評論ひょうろん家か就任しゅうにんにあたり、その理由りゆうをこう語かたった。