フィギュアスケートで日本男子初の世界選手権2連覇を達成した宇野昌磨(26=トヨタ自動車)が14日、プロスケーターへの転向を表明した。都内で現役引退会見に臨み、自然体で思いを語った。18年平昌オリンピック(五輪)で銀メダルを獲得し、22年北京五輪では2つの銅メダル(団体は銀に繰り上げ発表)。硬軟織り交ぜた世界王者の節目となった日の言葉を、5つのキーワードでまとめた。【取材・構成=松本航】
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■決断 「未練は正直、全くない」
出場すれば3度目の五輪となった26年ミラノ・コルティナダンペッツォ大会まで、残り2年。それでも「未練は正直、全くないです」とほほえんだ。引退を考えたのは2年前。22年北京五輪を終えて金メダルのネーサン・チェン(米国)が学業優先で競技会から離れ、五輪2連覇の羽生結弦さんがプロへ転向した。昨年12月の全日本選手権で6度目の頂点に立ち、ステファン・ランビエル・コーチに「次の大会(今年3月の世界選手権)で引退しようと思う」と伝えた。
「ずっとともに戦ってきた仲間たちの引退というのを聞いて、何かすごく寂しい気持ちと『取り残されてしまった』という気持ちもありました。そういったところから自分も考えるようになったかなと思います」
■後進 「みんなマジいい子」
羽生さん、チェンと世界の頂を争う時代を経て、国内では21歳の鍵山優真、海外でも19歳のイリア・マリニン(米国)ら後輩が台頭した。最後の競技会だった3月の世界選手権は4位となったが「練習してきた全てが(演技後の)笑顔につながっている。(毎日の積み重ねを経て)笑顔で終えられる選手になれた。小さいころに『こうなりたいな』と思っていたスケーターに1歩、近づけたんじゃないかなと思う」と胸中には充実感があった。
「どんどんハイレベルになっていくフィギュアスケートが今後も楽しみです。日本の後輩の子たち、みんなマジでいい子しかいない。本人が一番楽しく、目指しているスケートを体現できる選手が1人でも多く現れるといいなと思います」
■今後 「僕の最善を求めて」
アイスショーで活躍するプロスケーターへの転向を表明。トヨタ自動車の社員契約は満了だが、以降もサポートを受ける。22、23年世界選手権2連覇後、今季は憧れの高橋大輔さんのように表現面に注力してきた。競技会ルールの枠から外れ「すごく前向きな気持ち。僕の最善だと思うフィギュアスケートの形を追い求めていきたい」と磨きをかける。今後の決意は「探」の文字に込めた。
「1つのものに全力を注ぐ熱量が人一倍あるからこそ、トップアスリートになれている。僕も含め、次にその熱量を持っていく場所を探すんじゃないかなと思う。毎日同じ生活習慣で過ごしてきたので、いろいろな経験をしたいな、しなきゃな、と思っております」
■回想 小柄「不利に思ったことない」
5歳で競技者の道を歩み出し、21年がたった。浅田真央さんの誘いがきっかけで「その立場(憧れ)に僕がなれるのは感慨深い」と喜んだ。身長157センチと小柄だが「低いことで不利に思ったことはない。本当にフィギュアスケートで良かった」。人前が苦手だった少年は「自分1人しかいないからこそ、自分が作る世界、表現をちゃんと見てくれる。自分の色を出しやすい場所。すごく性に合った競技というか、環境でした」と自己分析した。
「最後の1年も、どの試合も全力で取り組んだ末の演技でした。成功、失敗もたくさんあったかもしれませんが、両方等しく、僕にとっては失敗も成功も、宝物のような時間になったんじゃないかなと思います」
■感謝 「豊田社長の名前を(笑)」
節目の日も、飾らない姿は変わらなかった。壇上から周囲を見渡して「この場もですが、今までも本当に自分の言葉で好きなようにしゃべって…。『本当に皆さん温かいな』って思っています」と頬を緩めた。黒のスーツに紺のネクタイ、白のハンカチーフでそろえた正装と対照的に「スケートが競技から離れた分、ゲームにも費やす時間が増えるかなと思います」。所属するトヨタ自動車の豊田章男会長(前社長)とのエピソードも披露した。
「初めて豊田社長のご自宅にお邪魔する機会があり、社長の名前を書く時にカタカナで書いてしまって…。それでも許してくださるんですよ。笑って『こういう名前だから、覚えて帰ってね』っていう人なので、もう、マジで優しいです」
◆宇野の今後予定 今夏のアイスショー出演が多数決まっている。7月にプリンスアイスワールドとTHE ICEで3週連続の出演。8月には一時拠点としていたスイス・シャンペリーで行われるショーと、新横浜でのフレンズ・オン・アイスに出演する。9月は人気アニメが題材のワンピース・オン・アイスでルフィ役として主演。うち2会場は4月に完成したばかりの千葉・ららアリーナ東京ベイで舞うことになっている。