「次の総選挙こそが政権交代を目指す戦いだ。国民に大きな選択肢を示したい」。元外相の前原誠司が26日に記者会見し、民進党代表選(9月2日告示―15日投開票)への立候補を正式表明した。代表代行、蓮舫が知名度などで先行するなか、前原は憲法9条改正の持論を半ば封印しながら代表選にのぞむ。勝機はあるのか。
「決断に至るまでに悩みに悩み抜いた。本当に私でいいのか。その思いは今でもある」。前原はそう説明した。代表選には蓮舫が出馬表明済み。「民進党として初めての代表選。刷新感、世代交代感があっていいという意見もいただいた」
「民主党政権の戦犯だからこそ」
それでも出馬を決断した。大きな理由は民主党政権の失敗に対する猛省だ。「国民の期待とその落差への怒りはまだまだ残っている。私も戦犯の一人だ。深い反省と後悔。それをわかっている者が主導して政権を目指すべきだ」と力説した。
現代表、岡田克也の敷いた共産党との共闘路線とは一線を画す。「参院選と衆院選とは違う。基本的な政策の一致がなければ連立を組めない。はじめから政党の数合わせでいくと大局を見失う」。前原はこう指摘し、天皇制や自衛隊、日米安全保障条約、消費税への考え方の一致が協力の前提になるとの認識を示した。
他党との協力を排除しているわけではない。たとえば、生活の党代表の小沢一郎とは会合を重ね、関係修復を進めてきた。前原は2005年に民主党代表に就いた際、小沢幹事長案を拒否。「反小沢の急先鋒(せんぽう)」となった。それが民主党の政権奪取後も続く「小沢対反小沢」という身内の対立の端緒になった。
安倍政権とは「国民を破滅に導く」と対決姿勢を鮮明にした。「アベノミクスは完全に間違っている。好循環が生まれているかといえば生まれていない。将来的な金融緩和のカードを失っている。やりすぎだ」
「生活保障へ財源論から逃げぬ」
代わりに前原が掲げたのは「尊厳ある生活保障改革」だ。すべての人たちが負担し、すべての人たちが受益者になるという「all for all」の政策をパッケージで示す考え方で、とりわけ「財源論から逃げない」と強調。行政改革はもちろん、所得税や相続税などあらゆる税制を見直して財源を生み出す、とした。
前原は改憲派として知られるが、最優先ではないと位置づけた。記者会見でも「9条そのものが立憲主義の観点に立てばもっとも不安定な条文だ」との持論を展開しつつ、「9条こそが平和を守っているという方々もいる。その考え方を尊重したい」とリベラル系議員への配慮をみせ、安保関連法を「極めてお粗末」と批判した。ただ、持論の「封印」は外交・安保通としての持ち味を殺しかねない、もろ刃の剣ともいえる。
2005年衆院選で惨敗した民主党を立て直す旗手として前原は43歳の若さで党代表に就いた。しかし、翌年、偽メールを根拠に自民党を追及した問題(いわゆる偽メール事件)で失脚。現実路線に向かう党改革は道半ばに終わった。11年代表選に出馬したことはあるが、幅広い支持は得られなかった。
鹿野氏が助言「命懸けでのぞめ」
民進党と名称は変わったものの、前原にとっては党代表への再挑戦となる。代表の座を射止めた11年前と違うのは、前原グループを実質的に支えた仙谷由人のような後見役もおらず、かつて協調した野田佳彦のグループは蓮舫が所属していることもあり協力を得られないことだ。今回頼れるのは党代表、国土交通相、外相とキャリアを積んできた前原自身の成長ぐらいだ。
「今の政治の政界でただ一人、命懸けでやっている政治家がいる。首相の安倍晋三だ。代表選に出るなら、おまえも命懸けでのぞめ」。引退した元農相、鹿野道彦が前原に送った助言だという。「国会議員としての23年間、失敗を含め、経験を積んできた。23年間のすべてを賭けて代表選にのぞむ」。前原の意気込みは野党の停滞を変えるのか、代表選の行方はまだ見通せない。=敬称略
(犬童文良)