福岡市・天神の新天町商店街を歩くと、「芸術は爆発だ!」で知られる故岡本太郎さん(1911~96)の作品や、1998年の長野五輪の聖火台をデザインした福岡市の情報彫刻家、菊竹清文さん(77)のオブジェなど、著名な作家が手がけたアートをあちこちで楽しめる。巨大な壁面装飾も施され、さながら「街の美術館」だ。新天町でギャラリー風を営む武田義明さん(72)に案内してもらった。
岡本さんの作品は、一般客の利用もできる従業員食堂「新天町倶楽部」に飾られている。壁一面を覆う縦1・9メートル、横3・8メートルの額の中には赤、青、黄、緑の線が炎のように描かれ、真ん中に「挑む」の黒っぽい文字が踊る。
「これは太郎さんから贈られたものなんです」。武田さんが教えてくれた。1981年10月、新天町のシンボルである時計塔の落成記念で、岡本さんを招いてイベントを開催。岡本さんは自ら名付けた「芸術書道」で「挑む」と揮毫(きごう)してみせた。さらに後日、会場で描いた作品の倍はあろうかという大作が岡本さんから届いたという。「『挑む』は太郎さんから新天町へのエールだったんだと思います」と武田さん。
その新天町倶楽部が入る建物の横、アーケードの天井にあるのが菊竹さんの「スペースプレーン」だ。1985年に設置。ステンレス製で、未来の飛行機のようにも見える。なぜ天井に設置したのか。菊竹さんに狙いを聞くと「みんなつい下を向いて歩きがちなので、見上げてほしかった」と明かした。
今は稼働していないが「羽根」部分の2枚の板はモーターで回転し、音も鳴っていたらしい。「商店街のにぎわいに調和させたいと考えていた」と菊竹さん。再びぐるぐる回る羽根を見てみたい。
新天町のアーケードには「博多どんたく港まつり」や「博多祇園山笠」といった福博の四季を感じさせる5点の壁面装飾も施されている。大きいものは縦2メートル、横4メートルほど。商店街の開業70周年を記念して2015年にお目見えした。
制作したのは福岡市のイラストレーター、初瀬義統(よしつぐ)さん(80)。どんたくで三味線を弾く笑顔の人たちを描いた作品を眺めていると、こちらもつられて笑みがこぼれる。
新天町はなぜ、至る所で芸術が顔をのぞかせているのか。「何もないゼロから出発する意気込みや、新し物好きな博多町人らしいにぎやかさが引き継がれているのでしょう」。武田さんはそう語り、誇らしげな表情になった。
(塩入雄一郎)