栃木県を代表するご当地ドリンク「レモン牛乳」。優しい甘さを生かした風味だけでなく、レトロなパッケージも愛されており、アイスや菓子などの食品から文具や雑貨、伝統工芸品に至るまで、他メーカーとのコラボ商品は約50種に上る。予約開始から申し込みが殺到するヒット商品も出ており、現在も新たな企画が進行中だ。まさに〝引っ張りだこ〟の「レモン牛乳」を製造販売する栃木乳業(栃木市大平町)に、魅力の秘密を聞いた。
西洋へのあこがれ
レモン牛乳は栃木県産の生乳や無脂肪牛乳に砂糖やレモン香料などを加えた、レモン色でやさしい甘さが特長。レモン果汁は加えると牛乳が固まるため入っていない。色は天然着色料の紅花と紅麹、香りにはマダガスカル産のバニラビーンズを使用するなど、レシピを守り続けている。
商品の正式名は「関東・栃木レモン」。宇都宮市の製乳メーカー「関東牛乳」が戦後まもなく、「関東レモン牛乳」の名称で開発、販売を始めた。
同社は平成16年に廃業したが、惜しむ声が多く寄せられたほか、社長同士が懇意だったこともあり、栃木乳業が原材料から製造法までを譲り受け、パッケージデザインもそのまま生かし、翌年、「関東・栃木レモン」として復活させた。
開発の由来について、当時の正確な資料はないが、横塚一宏常務は「戦後間もない頃、フルーツ牛乳がはやっていたので、独自にレモンを採用したと伝え聞いている。当時はまだレモンは珍しく、西洋への憧れが込められていたのでは」と話す。
ソウルドリンク
学校行事での販売を通して、以前から地元民にとっては馴染み深い飲料だったレモン牛乳。人気が〝全国区〟となったのは、平成の半ばあたりからだ。
14年ごろから県内のコンビニエンスストアで取り扱いが始まり、栃木乳業による復活後はテレビ番組で取り上げられ「栃木のソウルドリンク」として全国に一気に知られるようになった。このころからアイスや飴、ドーナツなどのメーカーが次々とコラボ企画を持ちかけてくるケースが増えた。
企画を持ちかけてきたメーカーが着目したのは、レモン牛乳の独特な風味という。この風味を取り入れてヒット商品を生み出そうとの狙いがあり、コラボした商品群はレトルトカレーやポップコーン、ぬれせんべいといったユニークなものが多い。
レモン牛乳べこも
レモン牛乳がもてはやされているのは風味だけではない。開発当初からのレトロなパッケージデザインにも「ぜひ商品に使わせてほしい」との引き合いが続く。
これまでデザインコラボが実現したのは、ストラップやバッグ、長財布といった雑貨のほかTシャツやハンドタオルなどの衣料品、便せんやマスキングテープなど文具類にいたるまで豊富な商品群を誇る。クマのぬいぐるみやご当地インクにも採用された。
コラボによる〝化学反応〟がいかんなく発揮されたのが、今年6月に福島県会津地方の伝統工芸品「赤べこ」とのコラボで誕生した「レモン牛乳べこ」。全国的知名度を誇る伝統工芸品が、ポップなレモン牛乳カラーをまとうデザインは斬新そのもので、予約開始から申し込みが殺到した。
各方面からのコラボ要請について、横塚常務は「互いの長所を生かしていければ」と話す。相手先のジャンルにはこだわらないが、七十数年も変わらないローカル飲料として愛されてきたレモン牛乳の風味や製品のイメージは守り抜いていく姿勢だ。
「(関東牛乳と栃木乳業の)2社分の思いと歴史のあるレモン牛乳を100年後も変わらずに製造していく」という横塚常務。「当初から何も変えずにやってきたこと。これが受け入れられているのではないでしょうか」と話している。(松沢真美)