南海トラフ巨大地震に備え、大阪市が今年度から、PFI(民間資金活用による社会資本整備)事業としての基幹水道管の耐震化に乗り出した。1970年代までにほぼ整備された市内の水道管の老朽化が進んでいるため、市は事業者に計画や運営などの業務を一括して発注し、民間の技術力を生かしてコスト抑制と更新の迅速化を図る。1月の能登半島地震で広範囲の断水が発生したことを踏まえ、国も全国での耐震化を急いでいる。
市によると、基幹水道管更新へのPFI方式導入は全国で初めて。
130年ほど前の明治期に給水が始まった大阪市では、市域の拡大とともに水道管の敷設域も広がり、現在の総延長は約5200キロ。法定耐用年数の40年を超える管の割合は、令和3年度で51.8%と政令指定都市でワーストだ。
老朽化が影響し平成30年度~令和4年度には、水道管の破裂や漏水などの事故が年間で100件前後、最大で約160件発生した。
市は水道管更新にPFI方式を導入しようと、2年に事業者を公募した。4~19年度までの16年間で約1800キロを更新する計画だったが、公募に応じた事業者が不採算を理由に辞退し、見直しを余儀なくされた。
市は規模を縮小し、送水管や配水管などの基幹水道管約750キロのうち約38キロに絞り、6~13年度の8年間で更新する方針に変更。再びPFI事業として公募した結果、昨年12月に大林組やクボタなどで構成される事業者が落札し、525億円で事業契約を締結。今年度から事業を開始した。
計画から運営、施工、施工監理まで事業者が包括的に担うPFI方式では、市が段階別に発注する従来の手法に比べて工期を5年程度短縮し、事業費を7%削減する効果が期待できるという。
課題は業務の質の確保だ。市は、書類確認や工事現場の抜き打ち検査などを通じて、事業者が更新の水準を達成しているかどうかチェックする。市水道局の担当者は「南海トラフ巨大地震などが発生した際、広範囲での断水を防ぐため、コストを抑制しつつ更新のペースを加速させたい」と話す。
耐震化は全国の自治体にとって急務だが、耐震性が認められた水道管の割合(耐震適合率)は都道府県別で7~2割台と差がある。4年度の全国平均は42.3%で、政府が掲げる「10年度に60%以上」という目標の7割にとどまっている。
能登半島地震では浄水場や配水池、処理場に直結する水道管といった基幹的な施設でも未対策の施設が破損し、最大約14万戸の断水につながった。国土交通省は、こうした基幹的な施設に加え、災害対応拠点となる避難所や病院などにある水道設備を重点対象とし、自治体への支援策を検討。国や自治体が、基幹施設の耐震化や代替手段の確保を計画的に行うことが求められている。
PFI 自治体が担う公共事業を民間事業者に発注して実施する手法の一つで、Private Finance Initiativeの頭文字を取った略語。計画から施工、維持管理、運営に至る業務を一括して任せることで民間のノウハウを活用し、効率的に質の高い公共サービスを提供するのが目的。平成11年制定のPFI法は道路や港湾、水道といったインフラのほか、医療施設や福祉施設などの整備を対象としている。(吉田智香)
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