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『小公女たちのしあわせレシピ』 谷瑞恵 | 新潮社
ホーム > 書籍しょせき詳細しょうさいしょうおおやけおんなたちのしあわせレシピ

しょうおおやけおんなたちのしあわせレシピ

たに瑞恵みずえちょ

2,145えん税込ぜいこみ

発売はつばい:2023/10/18

  • 書籍しょせき
  • 電子でんし書籍しょせきあり

おものとき修理しゅうりします』著者ちょしゃえがく、なつかしい物語ものがたりのつなぐやさしいえん

契約けいやく社員しゃいん野花のばなつぐみは、お菓子かしレシピがかくされた『しょうおおやけおんな』の古書こしょつける。それは不思議ふしぎ老女ろうじょ・メアリさんの遺品いひんだった。「ぶどうパン」「トライフル」「アブラミのお菓子かし」……つぐみのほんさがしと菓子かしづくりはやがて、簡単かんたんにやりなおせない過去かこかかえた人々ひとびととのやさしいえんむすはじめる。じんわりなみだがこぼれる6つの連作れんさくしゅう

目次もくじ
1 奇跡きせきのぶどうパン
2 最高さいこうのつまらないもの
3 わたしをお
4 とおのプディング
5 ほしのスパイス
6 からすむぎはな

書誌しょし情報じょうほう

仮名がな ショウコウジョタチノシアワセレシピ
装幀そうてい 土居どいかおりさくらさと装画そうが新潮社しんちょうしゃ装幀そうていしつ装幀そうてい
雑誌ざっしからまれたほん yom yomからまれたほん
発行はっこう形態けいたい 書籍しょせき電子でんし書籍しょせき
はんがた よんろくばん
ぺーじすう 304ページ
ISBN 978-4-10-351572-2
C-CODE 0093
ジャンル 文芸ぶんげい作品さくひん
定価ていか 2,145えん
電子でんし書籍しょせき 価格かかく 2,145えん
電子でんし書籍しょせき 配信はいしん開始かいし 2023/10/18

書評しょひょう

変化へんかいない救済きゅうさい物語ものがたり

白川しらかわこん

 ホテルをところとし、本名ほんみょう故郷こきょう過去かこもすべてなぞのままくなったろう婦人ふじん、メアリさん。彼女かのじょのこしたえいべい児童じどう文学ぶんがくほんには、物語ものがたりてくるお菓子かしのレシピがはさまれていた。本書ほんしょは、そのレシピを再現さいげんしてゆくなかですくわれる人々ひとびとえがいた連作れんさくしゅうだ。
 外国がいこく児童じどう文学ぶんがくと、そこに登場とうじょうするお菓子かし。これだけでもうしんときめくものがある。外国がいこく児童じどう文学ぶんがく登場とうじょうするものがいずれもおいしそうだというのは、子供こどものころそれらをんだひとにはおぼえのあることではないだろうか。片田舎かたいなか子供こどもだったわたしには、「プディング」ひとつとっても明確めいかくにはおもえがけず、しかし文章ぶんしょうからはとてつもなくとくべつなお菓子かしおもえて、つばんだものだった。
 本書ほんしょには『しょうおおやけおんな』『トムは真夜中まよなかにわで』『不思議ふしぎくにのアリス』などの児童じどう文学ぶんがくてくる。レシピはぶどうパンに、トライフル、トリークルタルト等々とうとう……味覚みかく記憶きおくまし、大事だいじなものをおもさせてくれて、自分じぶんれることができるようになる。本書ほんしょんでいると、そのあじらないのに、不思議ふしぎ登場とうじょう人物じんぶつたちとおなじように、味覚みかく鮮烈せんれつ記憶きおくむすびつくさまを疑似ぎじ体験たいけんしているようなになる。
 物語ものがたりろくあり、登場とうじょうする児童じどう文学ぶんがくろくさくある。結婚けっこんひかえた友人ゆうじんさびしさをおぼえるつぐみ、おもやクラスメイトとうまくいかないさい家族かぞく仕打しうちにきずつき家出いえでした主婦しゅふ詠子えいこ母親ははおやへのわだかまりをかかえた獣医じゅういあお子供こどもとのせっしかたがわからない小児しょうに医療いりょう事務じむいん和佳子わかこしんのよりどころだった祖父母そふぼ園芸えんげいてんがなくなるかもしれないことに動揺どうようする千枝ちえだ登場とうじょう人物じんぶつたちの心情しんじょうが、しずかで柔和にゅうわ筆致ひっち丁寧ていねいつづられる。かれらのおおくは劇的げきてき不幸ふこうなわけでも、劇的げきてき変化へんかおとずれるわけでもない。ゆるやかで、つつまれるような雰囲気ふんいきにこの物語ものがたりちている。おのれ他者たしゃ否定ひていしない、ありのままを受容じゅようする、うみのようなまなざしがつねにあるからだ。これはメアリさんのかたそのものでもある。
 過去かこ記憶きおくうしない、どこのだれであるか、自分じぶん自身じしんでさえわからなかったメアリさん。途方とほうもない絶望ぜつぼうのなかにいた彼女かのじょすくった、つぐみの祖母そぼである潔子きよこさんとのエピソードにはむねたれるものがある。メアリさんと潔子きよこさん、このふたりの関係かんけいせいじつにいい。
 メアリさんはメアリさんとしてあたらしい人生じんせいき、人々ひとびとにしあわせなおくもののこした。この物語ものがたりがあたたかいのは、「メアリさんはいったいどこのだれだったのか」を下世話げせわあば物語ものがたりではないからだ。記憶きおくをなくすまえ過去かこ彼女かのじょが「本物ほんもの」で、メアリさんとなった彼女かのじょが「にせ」なのではない。潔子きよこさんはかつてった――「本当ほんとうのメアリさんがどんなじんか、だれかにみとめてもらう必要ひつようがあるの?」と。
 メアリさんは故人こじんだが、この物語ものがたりみちびいてゆくのはメアリさんにほかならない。メアリさんのかたかた反映はんえいされている。物語ものがたりは、なやみ、きずついた人々ひとびと拙速せっそく変化へんか成長せいちょうもとめない。いまかれ彼女かのじょたちを肯定こうていしている。物語ものがたりかれらに、わることも成長せいちょうすることもいないことで、すくわれる読者どくしゃかならずいる。
 それにしても、作中さくちゅう直接ちょくせつ登場とうじょうすることはないのに、人々ひとびとくちからかたられる、あるいはおものなかにあらわれるメアリさんの、なんと魅力みりょくてきなことか。
 ピンクのリボンがついた古風こふうむぎわら帽子ぼうしに、全身ぜんしんピンクのふく名前なまえとは裏腹うらはらじゅん和風わふう顔立かおだち。ピンクのミニブタをつれて散歩さんぽし、ほんをいっぱいめたキャリーバッグをいている。温和おんわで、しかし確固かっこたるしんのあるろう婦人ふじん素敵すてきである。一読いちどくしておもったのは、「メアリさんにってみたかった」だった。こんなひとが公園こうえんいこい、海辺うみべあるき、きずついたひとにってくれる。なんて素敵すてきまちだろう。うみちか地方ちほう都市とし一角いっかく散歩さんぽするメアリさんは、非常ひじょうになる。メアリさんののこしたほんはまだまだありそうなのと、「もしかして?」とおもわせるいくつかの要素ようそがひそかにかれているので、続編ぞくへん期待きたいしてもいいのだろうか? ぜひおねがいしたい。
 もういちてん特筆とくひつすべきなのが、ミニブタのムシャムシャ。この物語ものがたりにおけるマスコットてきキャラクターだが、著者ちょしゃはこうしたキャラクターを、ものではなくきと存在そんざいさせるのが抜群ばつぐんにうまい。著者ちょしゃ少女しょうじょ小説しょうせつ伯爵はくしゃく妖精ようせい」シリーズでも、主人公しゅじんこう相棒あいぼう妖精ようせいのニコが登場とうじょうする。このニコもたいへん魅力みりょくてきで、読者どくしゃあいされるキャラクターである。「伯爵はくしゃく妖精ようせい」で、主人公しゅじんこうつぎきなキャラクターは、とかれたら、わたしはニコだとこたえる。ムシャムシャもまた、名前なまえからして魅力みりょくてきなのだが、物語ものがたりのなかでぬくもりあるひかりはなつ、あいすべき存在そんざいである。
 メアリさんは登場とうじょう人物じんぶつたちに印象いんしょうてき言葉ことばをいくつものこしている。わたしがとりわけしんのこったのは、あおけた言葉ことば――「あなたも、おくものよ。だれかがってる」。物語ものがたりのなか、んだひとのしんひびくメアリさんの言葉ことばが、きっとあるだろう。

(しらかわ・こうこ 作家さっか
なみ 2023ねん11がつごうより
単行たんこうほん刊行かんこう掲載けいさい

著者ちょしゃプロフィール

たに瑞恵みずえ

タニ・ミズエ

三重みえけんうまれ。三重大学みえだいがく卒業そつぎょう。1997ねん、『パラダイス ルネッサンス―楽園らくえん再生さいせい―』で集英社しゅうえいしゃロマン大賞たいしょう佳作かさく入選にゅうせんしデビュー。著書ちょしょに「伯爵はくしゃく妖精ようせい」シリーズ、「おものとき修理しゅうりします」シリーズ、「異人いじんかん画廊がろう」シリーズ、『もれう』『がくそういのり 奥野おくの夏樹なつきのデザインノート』『まよなかの青空あおぞら』『めぐりいサンドイッチ』『かみさまのいうとおり』『あかずのとびらかぎします』などがある。

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