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『野火の夜』 望月諒子 | 新潮社
ホーム > 書籍しょせき詳細しょうさい野火のびよる

野火のびよる

望月もちづき諒子りょうこちょ

2,090えん税込ぜいこみ

発売はつばい:2023/02/20

  • 書籍しょせき
  • 電子でんし書籍しょせきあり

野火のびがやってきたら、だれにもなんにも出来できん。

次々つぎつぎつかる血塗ちまみれのせんえんさつと、一人ひとりのジャーナリストの。フリーの記者きしゃ木部きべ美智子みちこは、複雑ふくざつからった事件じけんううちに、由良ゆら半島はんとうむらこった戦中せんちゅう戦後せんご悲劇ひげきることとなる――。とお昭和しょうわからかわいた現代げんだいへ、ときえてまわなにあぶすのか。『あり』につづく「木部きべ美智子みちこシリーズ」最新さいしんかん

書誌しょし情報じょうほう

仮名がな ノビノヨル
装幀そうてい Per Grunditz/Photo、EyeEm/Photo、Getty Images/Photo、新潮社しんちょうしゃ装幀そうていしつ装幀そうてい
発行はっこう形態けいたい 書籍しょせき電子でんし書籍しょせき
はんがた 四六判しろくばん変型へんけい
ぺーじすう 336ページ
ISBN 978-4-10-352192-1
C-CODE 0093
ジャンル 文芸ぶんげい作品さくひん
定価ていか 2,090えん
電子でんし書籍しょせき 価格かかく 2,090えん
電子でんし書籍しょせき 配信はいしん開始かいし 2023/02/20

書評しょひょう

しん鷲掴わしづかみにする圧倒的あっとうてき迫力はくりょく

大森おおもりのぞむ

 ときは2021ねんなつ両替りょうがえから回収かいしゅうされた紙幣しへいなかに、血液けつえきくろずんだ大量たいりょうせんえんさつつかったことから、物語ものがたりうごきはじめる。北関東きたかんとうのあちこちで発見はっけんされたこのせんえんさつのこみは、じゅうねん以上いじょう経過けいかしたひとだと判明はんめいする。やがて、千葉ちばけん木更津きさらづ道路どうろわきかれたアダルト雑誌ざっし自動じどう販売はんばい起点きてんに、あいだけた事件じけん発生はっせいした。自販機じはんきまえしろ高級こうきゅうしゃめてりてきたおとこ警察官けいさつかんちかづいたところ、おとこくるまって脱兎だっとのごとく逃走とうそう。カーチェイスのくるまさんだいがからむ多重たじゅう事故じこき、しろ高級こうきゅうしゃはまんまとげおおせてしまったのである。
 血染ちぞめのせんえんさつ回収かいしゅうされたぶんだけですでに総額そうがくひゃくまんえんにのぼる。両替りょうがえしているのはだれか? んだ大量たいりょう事件じけんせいはあるのか?
 数日すうじつ池袋いけぶくろのビルとビルの隙間すきま中年ちゅうねんおとこ死体したいつかる。おとこ身元みもと森本もりもと賢次けんじじゅうさい判明はんめい。その息子むすこ森本もりもと恒夫つねおこそ、血染ちぞめのせんえんさつ自販機じはんき使つかおうとしてしたおとこだった。紙幣しへいは、んだ父親ちちおやがかつて連絡れんらくせんなかぬすみ、自宅じたくかくしていたすうせんまんえん一部いちぶだという。
 週刊しゅうかんフロンティアの看板かんばん記者きしゃでフリーライターの木部きべ美智子みちこは、せんえんさつ出所しゅっしょううち、愛媛えひめけん南西なんせい由良ゆら半島はんとうじゅうねんまえきたある事件じけんへとたどりつく。
 ……というわけで、望月もちづき諒子りょうころし長編ちょうへん野火のびよる』は、《木部きべ美智子みちこ》シリーズのだいろくだん。2004ねんに『かみ』で開幕かいまくして以来いらい、もうじゅうねんちかつづく、著者ちょしゃ看板かんばんシリーズだ。とりわけ、前作ぜんさくにあたる『あり』は、“ミステリー史上しじょう燦然さんぜんかがやくラストのだいどんでんがえし!”を大々的だいだいてきにフィーチャーした新潮しんちょう文庫ぶんこばんじゅうさんまんのスマッシュヒットとなり、昨年さくねん12がつには2022ねん啓文ひろふみどう書店しょてん文庫ぶんこ大賞たいしょう受賞じゅしょうした。シリーズがあつ注目ちゅうもくびるなか、執筆しっぴつさんねん歳月さいげつついやしたという本書ほんしょまんもたして刊行かんこうされた恰好かっこうになる。複数ふくすう事件じけん複雑ふくざつにからみあい、そのもつれたいと木部きべ美智子みちこきほぐしていく構成こうせいは、本書ほんしょも『あり』とわらない。
 じゅうねんまえ事件じけんは、世間せけんてきには火災かさいとしか報道ほうどうされていないが、じついちけんいえにん死者ししゃ殺人さつじん事件じけんだったことを美智子みちこはつきとめる。その現場げんばまったれいせんえんさつは、地元じもとにばらまくために用意よういされた原発げんぱつマネーだったのではないか。事件じけん封印ふういんされたのはなんらかの政治せいじちからはたらいたためかもしれない……。
 じゅうねんまえ事件じけん真相しんそうさぐ木部きべ美智子みちこたびは、やがてときながれをさかのぼり、1945ねん満州まんしゅうへとかう。
 タイトルの“野火のび”は、じゅうねんまえ事件じけん犯人はんにんとされ自殺じさつした神崎かんざき元春もとはる父親ちちおや安治あわじ満州まんしゅう野火のび由来ゆらいする。もとはるつまだった女性じょせいは、安治あわじがいかにもたのしげにこんなおもばなしかせてくれたことをおぼえている。
とおくに漁火ぎょかみたいなんがえるのよ。地平線ちへいせんこうにな、けむりがっとってな、ひるよるこうのほうで、ふうまかせてゆらゆらと移動いどうしとるのよ。それが突然とつぜんやってくるんや。ゴーッとおとがしてな。あるきょひとや。それで手当てあてたり次第しだいくしていく。保管ほかんしていた干草ほしくさがついてふうがったら最後さいご、もうすことなんか出来できないんやで。しにって、なんじゅうにんんだ開拓かいたくだんもあるそうや〉
 奉天ほうてん瀋陽しんよう)で終戦しゅうせんむかえ、愛媛えひめむら開拓かいたくだん合流ごうりゅうするため、ひたすらきたかってあるきつづけたおとこ安治あわじかれがノートにきした作中さくちゅう日記にっきは、〈過去かこからのびてきて、美智子みちこ顔面がんめんをがっちりとつかんでいるようだった〉と形容けいようされるが、その生々なまなましい描写びょうしゃは、満蒙まもう開拓かいたくだん悲惨ひさんきわまりない運命うんめいとともに、圧倒的あっとうてき迫力はくりょく読者どくしゃしん鷲掴わしづかみにする。せんだって直木賞なおきしょう受賞じゅしょうした小川おがわあきら地図ちずこぶし』がえがくのとはまるでちが満州まんしゅうが、どこまでも荒々あらあらしくきびしくうつくしくひろがる。その途方とほうもないひろさと、終戦しゅうせん意外いがいちかさ(大阪おおさか万博ばんぱくのわずかじゅうねんまえでしかない)とが、この架空かくう手記しゅきからつくづく実感じっかんされる。
 極限きょくげん状況じょうきょうなかひとはいかにしてきるのか。修羅しゅらみちえらばざるをなかった人間にんげんかぎりないかなしみといたみと勇気ゆうき望月もちづき諒子りょうこ赤裸々せきららえがしてゆく。それはかならずしも戦時せんじちゅうだけのことではない。
ひと自分じぶん理解りかいするのに都合つごうのいい事実じじつりして物語ものがたりつくるけれど、てられた事実じじつにもおなじだけの価値かち背景はいけいがある。それはえないところめてもえてなくなりはしない。そして時々ときどきもの化身けしんする。/こして供養くようするのだ〉
 著者ちょしゃ分身ぶんしんでもある木部きべ美智子みちこはそう述懐じゅっかいするが、だとすればこれは、昭和しょうわ平成へいせいれいみっつの時代じだいにまたがる、満蒙まもう開拓かいたく移民いみんはじまりからひゃくねんちか歳月さいげつ供養くようするほんでもある。満州まんしゅう再会さいかいしたさんにん同郷どうきょうじん運命うんめいと、おとこさんにんえがいちまいちいさな水彩すいさいが、最後さいごにしみじみとむねみる。

(おおもり・のぞみ 書評しょひょう
なみ 2023ねん3がつごうより
単行たんこうほん刊行かんこう掲載けいさい

著者ちょしゃプロフィール

望月もちづき諒子りょうこ

モチヅキ・リョウコ

愛媛えひめけんうまれ。2001(平成へいせい13)ねん、『かみ』(電子でんし書籍しょせき)でデビュー。2011ねんだい絵画かいがてん』で日本にっぽんミステリー文学ぶんがく大賞たいしょう新人しんじんしょう受賞じゅしょうおも著書ちょしょに『のろ人形にんぎょう』『腐葉土ふようど』『あり』『野火のびよる』『フェルメールの憂鬱ゆううつ』『哄う北斎ほくさい』『最後さいご記憶きおく』『つぼまち』『ソマリアの海賊かいぞく』『田崎たさき教授きょうじゅめぐさくらじゅん教授きょうじゅ考察こうさつ』『たら講師こうしこいのろいころせ。 さくらじゅん教授きょうじゅ考察こうさつ』などがある。

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