すみれの花はな、また咲さく頃ころ―タカラジェンヌのセカンドキャリア―

　詩人しじんと宝塚たからづかファンをここ数すう年ねん兼務けんむしている私わたしは、新あたらしい公演こうえんの稽古けいこが始はじまる「集合しゅうごう日び」が近ちかづいてくると、いつもひたすらケーキを食たべる。つらいからだ。集合しゅうごう日びにはその公演こうえんの退団たいだん者しゃの名前なまえが発表はっぴょうされてしまうから。やめてほしくないから。集合しゅうごう日びの記憶きおくはいつもほとんど残のこっていない。
「でもこれはこの方ほうが自分じぶんで決きめたのだ。ここで終おわりにすると決きめたその人ひとの人生じんせいの大切たいせつな一いち歩ほを、悲かなしいとか残念ざんねんだとかいう言葉ことばで邪魔じゃましたくない」と私わたしはいつも思おもう。一人ひとりの人ひとが人生じんせいをかけて、青春せいしゅんを燃もやすようにして舞台ぶたいに立たちタカラジェンヌになってくれた、本当ほんとうはその事実じじつだけでありがたいんだ。けれど、「その人ひとの人生じんせいはその人ひとのものだ」ということを改あらためて胸むねの中なかで唱となえるたび私わたしは本当ほんとうはひどく寂さびしくなってしまう。舞台ぶたいの上うえで彼女かのじょたちはたくさん研とぎ澄すませた一瞬いっしゅんを見みせてくれて、心しんからその一瞬いっしゅんを、それだけで「好すきだ」と思おもえた。でも自分じぶんの「好すき」は本当ほんとうにまっとうなものだろうか、寂さびしいってなんだろうといつも思おもっていた。
　そんなことを早はや花はなさんによる9人にんの元もとタカラジェンヌのインタビューを読よんで思おもい出だしていました。あのころ寂さびしく感かんじていた「その人ひとの人生じんせいはその人ひとのもの」という事実じじつが、突然とつぜんとても喜よろこばしくて、美うつくしい事実じじつとして私わたしの中なかで花開はなひらいていくのを感かんじたのです。どれほどの時間じかんが費ついやされた結果けっか、この人ひとの今いまがあるのか、私わたしは舞台ぶたいを見みているとふと考かんがえてしまうことがあるし、人生じんせいの一瞬いっしゅんを見みせてもらっているだけだけど、でも少すこしも軽かるんじることのできない「一瞬いっしゅん」だとも思おもっていた。私わたしはそこに注そそがれたもののほとんどを知しらず、でもそれが「ある」ということだけは知しっている。その人ひとがどんな人ひとでどんな人生じんせいを生いきてきたか、それを知しろうとしなくても、その人ひとの人生じんせいの重おもさを感かんじ取とることができただけで「好すき」と思おもっていい気きがしたし、確信かくしんするその力ちからを私わたしはきっと舞台ぶたいからもらっていた。
　けれど退団たいだん発表はっぴょうがあったとき、私わたしはそういう自分じぶんの中なかで生うまれていた「好すき」とは全まったく違ちがう場所ばしょにある、本当ほんとうのその人ひとの人生じんせいを感かんじて、自分じぶんが自分じぶんだけの心しんで「好すき」と思おもうことは、勝手かってなんじゃないかと思おもったのだ。その人ひとが好すきだから、その人ひとの領域りょういきを踏ふみ躙にじるようなことはしたくない。舞台ぶたいを見みてそれだけで好すきと思おもえた、その事実じじつは決けっして覆くつがえらないし、確信かくしんをくれた光ひかりの強つよさは少すこしも変かわらないけれど、でも、私わたしはその人ひとのことを尊重そんちょうしたい。「好すき」という気持きもちをそのまま垂たれ流ながしにしていたらその人ひとに向むき合あえない、そう思おもったのです。でもこの本ほんを読よむと、それはむしろ逆ぎゃくな気きがした。読よめば読よむほど知しらない一いち面めんが見みえてくる、そして自分じぶんの「好すき」がそのたびに確実かくじつに生いき生いきときらめきだしていたんだ。

『すみれの花はな、また咲さく頃ころ―タカラジェンヌのセカンドキャリア―』。一人ひとり一いち人にんが確たしかにそこにいて、それぞれの人生じんせいを生いきていて、でも具体ぐたい的てきな話はなしを知しれば知しるほど、私わたしは「知しらなかった」けど、でもそのたびに何なにも知しらずに舞台ぶたいの人ひとを「好すき」と思おもう自分じぶんが伸のびやかに肯定こうていされていくような錯覚さっかくがあった。私わたしはタカラジェンヌにこういう人生じんせいを生いきてほしいとかそんな勝手かってな願ねがいや期待きたいを抱だいてはいないんだなと気きづかされたのだ。ただ、面白おもしろかった、街まちにいろんな人ひとがいるように、宝塚たからづかにもいろんな人ひとがいる。そのエネルギーがつまって、爆発ばくはつしてここまで届とどいている。何なににも知しらないけど好すきだ！　と思おもうのは、そもそも舞台ぶたいだからとか関係かんけいなく、他人たにんにはみんなそうじゃないか。人ひとを好すきになる時とき、その人ひとのことを全部ぜんぶ知しってから好すきになるわけじゃない。知しらない面めんがたくさんあっても、それでも好すきと思おもった時とき、その人ひとの話はなしをもっと聞ききたいと思おもうし、たとえそれが自分じぶんの想定そうていと違ちがっても、でもそれでもたくさん聞きいて、理解りかいしようとしたいって思おもう。「好すき」ってそもそもそういうものじゃん！　と私わたしは急きゅうに気きづいた。知しらない人生じんせいはそりゃあるよ、知しらないことが大半たいはんだよ、でも、話はなしてくれることが嬉うれしかった、どんな人生じんせいかというのももちろん知しれて嬉うれしいけど、でも何なによりも「話はなしてくれる」こと、そして言葉ことばの正直しょうじきさが嬉うれしかった。それはきっと早はや花はなさんが問といかけているから。答こたえる人ひとが早さ花はなさんを真まっ直すぐに見みつめているから。だから、読よんでいる私わたしまで、真まっ直すぐに目めを見みて、話はなしてもらえている気きがする。真まっ直すぐで正直しょうじきな言葉ことばを読よむ間あいだ、私わたしの心しんはずっと前まえからその準備じゅんびが完了かんりょうしていたんだと知しった。遠とおくて全まったく知しらない人ひとでも、その人ひとが話はなしてくれるならいつだってちゃんと聞きこうと私わたしはずっと思おもっていたみたいだ。その人ひとのことが好すきだから。そういう気持きもちが「好すき」で、それだけで「好すき」と言いっていいんだと、ここにきて私わたしは心底しんそこ信しんじられた。私わたしは、本当ほんとうに舞台ぶたいの人ひとが好すきだった、客席きゃくせきからだって、何なにも知しらなくたって、ちゃんと現実げんじつに生いきているその人ひとたちを見みて、「好すき」と思おもっていたんだって。
　タカラジェンヌは目めの力ちからがすごくて、「見みる」というだけでその人ひとの心しんがさらけ出だされているように思おもうことがある。そしてその目めを、この本ほんの言葉ことばにさえ感かんじるのです。退団たいだんはさみしい、勝手かってだけどやっぱりさみしい。でもそこにある「好すき」は、ちゃんと本物ほんものだって今いまは思おもう。宝塚たからづかのどの人ひとにも、その人ひとだけの人生じんせいがあるんだってことに今いまはとても幸しあわせを感かんじる。

（さいはて・たひ　詩人しじん）
波なみ　2023年ねん3月がつ号ごうより
単行たんこう本ほん刊行かんこう時じ掲載けいさい

偶然ぐうぜんにも同どう時期じきに「タカラジェンヌのセカンドキャリア」がテーマの新刊しんかんを出だしたお二に人にん。爆笑ばくしょうトークを特別とくべつ掲載けいさい！

（この対談たいだんは早はや花はなまこ著ちょ『すみれの花はな、また咲さく頃ころ―タカラジェンヌのセカンドキャリア―』、天真てんしんみちる著ちょ『こう見みえて元もとタカラジェンヌです　遅おくれてきた社会しゃかい人じん篇へん』の刊行かんこうを記念きねんし、2023年ねん3月がつ8日にちに八重洲やえすブックセンター本店ほんてんで開催かいさいされました）

天真てんしん　今日きょうは、早はや花はな大だい先生せんせいとこのようなイベントを開あけて感無量かんむりょうです。

早さ花はな　いきなりどうしたんですか!?

天真てんしん　奇跡きせき的てきにお互たがいの本ほんの刊行かんこう時期じきが一緒いっしょで……。宝塚たからづか在ざい団だん中ちゅうはほとんどお話はなしをしたことはなかったですよね。

早さ花はな　連絡れんらく先さきも知しらなかったのが、退団たいだん後ごに偶然ぐうぜんお会あいする機会きかいがあって。

天真てんしん　アホなふりして、「一緒いっしょにイベントやりませんか？」と連絡れんらくさせて頂いただきました。

早さ花はな　アホなふりではなかったです、ちゃんとしたメールでした（笑）。私わたしの方ほうこそ、今日きょうはこのような機会きかいを頂いただけて大変たいへん光栄こうえいです。花はな組ぐみのタソさん（編集へんしゅう部ぶ注ちゅう・天真てんしんさんの愛称あいしょう）といえば、知しらない方ほうはいないスターさんで、お芝居しばいでもショーでも、トップスターさんの邪魔じゃまをせず、なぜあれほど個性こせいを出だしきれるんだろうといつも楽たのしみに舞台ぶたいを拝見はいけんしていました。

天真てんしん　いやー、私わたし、ギリギリ邪魔じゃましてました……よね？　以前いぜんトップさんのファンの方ほうから「〇〇さんのことを観かんに行いったのに、気付きづいたら天真てんしんさんのことを観みていました。どうしてくれるんですか」と、割わりと冷静れいせいなお手紙てがみを頂いただいたことがありました……。

早さ花はな　そこからキャッチフレーズの「見みたくなくてもあなたの瞳ひとみにダイビング☆」が生うまれたんですね（笑）。

天真てんしん　先さきほど「大だい先生せんせい」と言いったのは、私わたしはそれこそ在ざい団だん中ちゅうから、機関きかん誌し「歌劇かげき」で連載れんさいされていた早さ花はなさんの「組くみレポ。」を毎月まいつき楽たのしみに読よんでいた、ヘビー読者どくしゃでございます。

早さ花はな　ありがとうございます。

天真てんしん　何なん年ねんくらい担当たんとうされました？

早さ花はな　8年ねんほどです。

天真てんしん　長ながい！　お稽古けいこや公演こうえんをしながら毎月まいつき連載れんさいを続つづけるって相当そうとう大変たいへんだったと思おもいます。しかも内容ないようが、毎回まいかいこちらの期待きたいを超こえるクオリティと、ファニーじゃなくて……ユーモアあふれる文章ぶんしょうで雪ゆき組ぐみさんの愉快ゆかいな様子ようすを届とどけて下くださって。ほんと、「ありがてえ……！」と思おもっていました。

早さ花はな　楽たのしみにして下くださった読者どくしゃの方ほうと、ネタを提供ていきょうしてくれた雪ゆき組ぐみのみなさんのおかげです。私わたしも、タソさんが「歌劇かげき」に寄稿きこうした「えと文ぶん」がすごく面白おもしろくて印象いんしょうに残のこっています。花はな組ぐみさんに詳くわしくない方ほうでも楽たのしめる工夫くふうがされていて、さすがだなと。なので、2年ねん前まえに1冊さつ目めの御ご本ほん『こう見みえて元もとタカラジェンヌです』を刊行かんこうされたときも、驚おどろきよりも「やっぱりね！」と納得なっとくの気持きもちがまずありました。書かくことは昔むかしから好すきだったの？

天真てんしん　自覚じかくはあまりなかったのですが、好すきだったんだと思おもいます。例たとえば「えと文ぶん」の時ときには、気きがついたら文字数もじすうが多おおすぎて、編集へんしゅうの方ほうが漢字かんじにできるすべての単語たんごを変換へんかんしても収おさまらず、頑張がんばって削けずって……。結果けっか、「絵えと文章ぶんしょう」の両方りょうほうを掲載けいさいするコーナーなのに、文章ぶんしょうしか掲載けいさいされませんでした。

早さ花はな　覚おぼえてる！　確たしかに、ページがびっしり文字もじで埋うめ尽つくされて真まっ黒くろだった！

天真てんしん　その「えと文ぶん」を読よんだ左右さゆう社しゃの方ほうが「何なにか書かきませんか？」と卒業そつぎょう後ごに声こえを掛かけて下くださって本ほんの刊行かんこうに到いたりました。あの時とき、頑張がんばって書かいて良よかったです……。

早さ花はな　素晴すばらしい！　タソさんの文章ぶんしょう力りょくのなせる業ぎょうですね。

自分じぶんを書かくこと、他人たにんを書かくこと

早さ花はな　今日きょうぜひお聞ききしたかったのは、「自分じぶん自身じしんを書かくこと」についてです。私わたしにとってはとても難むずかしく苦手にがてなことなのですが、タソさんはそれが本当ほんとうにお上手じょうずで。「組くみレポ。」で人ひとのおっちょこちょいな失敗しっぱいなどはスラスラ書かけちゃうのに、自分じぶんのこととなると途端とたんに分わからなくなってしまう。腹黒はらぐろい性格せいかくなんです、私わたし。（会場かいじょう笑わらい）

天真てんしん　それこそ1冊さつ目めを書かき始はじめた当初とうしょは、「起おきた出来事できごと」を箇条書かじょうがきしているだけでした。「この日ひ、宝塚たからづか受験じゅけんに失敗しっぱいした。」「初はじめての受験じゅけんで何なにもできなかった。」「帰かえり際ぎわ、隣となりの受験じゅけん番号ばんごうの人ひとに、『あなたの地元じもとに私わたしの祖先そせんが眠ねむっています』と訳わけの分わからないことを言いわれた。」みたいに、つらつらとネタを羅列られつするだけで。そんな時とき、宮藤くどう官かん九郎くろうさんのエッセイを読よんだら、「俺おれはダメだ。自信じしんがない。こんな俺おれが書かいてる脚本きゃくほんは絶対ぜったいにダメだ」とあって。

早さ花はな　あんなに素晴すばらしいドラマを書かかれる方ほうなのに？

天真てんしん　そうなんです。自己じこ評価ひょうかと世間せけんの評価ひょうかのギャップがすごく面白おもしろいと感かんじて。同時どうじに、出来事できごとではなくて、その時ときに自分じぶんがどう感かんじ、何なにを考かんがえたのかを書かかなきゃって気きがつきました。冷静れいせいになれば、当あたり前まえのことなんですが……。でも、そうなると今度こんどは、「私わたしの心しんの動うごきを知しりたい人ひとっているのか？」という疑問ぎもんに直面ちょくめんして……。

早さ花はな　ここにいますよ!!

天真てんしん　力強ちからづよい肯定こうてい、ありがとうございます（笑）。とりあえず依頼いらいされたし、キャッチフレーズと同おなじく、「聞ききたくなくてもダイビング」で半なかば開ひらき直なおり、好すき勝手かってに書かいてしまえ、と。でもいまだにこの疑問ぎもんは拭ぬぐえないままで、自分じぶんを書かくことの難むずかしさはずっとあります。編集へんしゅう者しゃさんに提出ていしゅつする時ときも、赤面せきめんして顔かおを伏ふせながらこっそり送おくっている感かんじで、「どうだね、君きみ、この原稿げんこうは」みたいには、できない。（実演じつえん）

早さ花はな　ドヤ顔がおの文豪ぶんごうがいま目めの前まえに現あらわれた……！（会場かいじょう笑わらい）

天真てんしん　逆ぎゃくに、私わたしは早はや花はなさんのように、誰だれかにインタビューして、その人ひとの思おもいを感かんじ取とりながら、自分じぶんの思おもいも綴つづることはできないので、御ご本ほんを拝読はいどくして、本当ほんとうにすごいなと思おもいました。

早さ花はな　ありがとうございます、嬉うれしい。

天真てんしん　それに、ご自身じしんのことを書かかれるのが苦手にがてとおっしゃいましたが、御ご本ほんの「はじめに」で書かかれていた早さ花はなさん自身じしんのお話はなしも素敵すてきでした。連載れんさいが始はじまった時ときから読よませて頂いただいていて、次つぎは誰だれが登場とうじょうするんだろうって毎回まいかい楽たのしみにしていたんですが……あのー……。

早さ花はな　どうしました？

天真てんしん　今日きょう絶対ぜったいにお聞ききしたかったことがあって。（早さ花はなさんの方ほうをじーっと見みつめながら）御ご本ほんには9名めいの元もとタカラジェンヌの方ほうのお話はなしが収録しゅうろくされていますが、その中なかに私わたしは候補こうほとして挙あがらなかったのですか……？

早さ花はな　あ、それはもちろん挙あがったんです！　でも、天真てんしんさんはご自分じぶんでご自身じしんのことをかなり深ふかく掘ほり下さげた上うえ、あれだけ表現ひょうげん力りょく豊ゆたかに、面白おもしろい文章ぶんしょうにまとめていらっしゃる。

天真てんしん　確たしかに……。

早さ花はな　確たしかにって（笑）。でも本当ほんとうにそうで、そんな方ほうを私わたしがどう書かけるのかなって……。正直しょうじきに言いいましょう、自信じしんがなかったんです。タソさん以上いじょうにタソさんのことを書かく文章ぶんしょう力りょくが今いまの私わたしにはない、タソさんの本ほんを読よんで爆笑ばくしょうしている限かぎりは無理むりだな、と。

天真てんしん　これからはもっと寡黙かもくになりますか（笑）。

早さ花はな　その必要ひつようはないですが（笑）、でも、そんなふうに思おもって頂いただけていたなんて、勇気ゆうきを出だしてオファーすればよかったと今いま思おもいました。

天真てんしん　いつか機会きかいがあったらぜひお願ねがいします！

セカンドキャリアに役立やくだつ「余興よきょう」？

天真てんしん　今回こんかい、タカラジェンヌのセカンドキャリアを書かいている、という大おおきな共通きょうつう点てんがあって、その上うえで私わたしが「同おなじだ！」と思おもって嬉うれしかったのが……ねぇ、早はや花はなさ……あ、きゃびぃさん（注ちゅう・早さ花はなさんの愛称あいしょう）……。（急きゅうに俯うつむく）

早さ花はな　その名なで呼よんで下くださってありがとうございます（笑）。そして私わたしが言いうのですね、はい。ちょっと生意気なまいきな言葉ことばなのですが、私わたしは宝塚たからづかを卒業そつぎょうしたばかりの頃ころ、この先さきの人生じんせいを「余生よせい」としか思おもえなかったんですね。10代の頃ころからの夢ゆめを18年間ねんかんも満喫まんきつして、もうやるべきことは何なにも残のこっていないんじゃないかと。そうしたら、タソさんも同おなじように御ご本ほんに書かいてらっしゃって。

天真てんしん　タカラジェンヌ“あるある”と言いいますか、卒業そつぎょうを決きめる大おおきな理由りゆうの一ひとつが、命いのちを懸かけて、全すべてを懸かけて、自みずからが追求ついきゅうする理想りそうの「男役おとこやく」「娘むすめ役やく」にたどり着つけた、やり切きったと思おもえたかどうか、だと思おもうんですね。

早さ花はな　ええ。

天真てんしん　そんな青春せいしゅんがギュッと詰つまった場所ばしょから離はなれた時とき、その時点じてんで人生じんせいのすべてが終了しゅうりょうしたような気持きもちになってしまったんです。

早さ花はな　卒業そつぎょうして3年ねん経たった今いま思おもうのは、本当ほんとうに世間せけん知しらずだった、ということに尽つきますが……（笑）。

天真てんしん　同おなじく……！　本ほんにも書かきましたが、脚本きゃくほんを書かいたり、舞台ぶたいをプロデュースしたりと色々いろいろなことを実際じっさいにやってみて、大変たいへんなことがたくさんありながらも、今いま、とても充実じゅうじつしていて。それで今日きょう、早はや花はなさんにお聞ききしたかったことがもう一ひとつありまして……。

早さ花はな　なんだろう？

天真てんしん　在ざい団だん中ちゅうの話はなしになりますが、「余興よきょう」を考かんがえる人ひとでしたか？

早さ花はな　……はい、考かんがえてました。

天真てんしん　くぅーー!!　ちなみに、台本だいほんって書かかれてました？

早さ花はな　……はい、書かいてました。

天真てんしん　やった、同おなじだ!!　もうちょっと深ふかくお聞ききすると、雪ゆき組ぐみさんは有志ゆうしでやる感かんじですか!?

早さ花はな　その前まえに「余興よきょう」の説明せつめいをしますと、コロナ以前いぜんのことになりますが、宝塚たからづかでは公演こうえん期間きかん中ちゅうに一いち度ど、組くみ単位たんいで宴会えんかいが開ひらかれるんです。「お疲つかれ様さま！」という意味合いみあいの楽たのしい会かいで、そこで必かならず「余興よきょう」というものが披露ひろうされます。それを誰だれがどう担当たんとうするかは組くみによって違ちがっていて、雪ゆき組ぐみは主おもに下級生かきゅうせいの担当たんとうで、そこに自みずから希望きぼうして参加さんかする上級生じょうきゅうせいもいました。

天真てんしん　花はな組ぐみもだいたい同おなじです。

早さ花はな　その、「自みずから希望きぼうする上級生じょうきゅうせい」だった私わたしたち……（笑）。

天真てんしん　なんなら、自分じぶんの退団たいだん公演こうえんの余興よきょうも担当たんとうしました。

早さ花はな　え、すごい！　退団たいだん公演こうえんって、やることだらけで忙いそがしいのに……。

天真てんしん　公演こうえんと同おなじくらい、心血しんけつ注そそいでいましたから……！（笑）

早さ花はな　そういえば、これは結果けっか的てきにそうなったことなのですが、私わたしが取材しゅざいした9名めいの方ほうの多おおくが、余興よきょうを担当たんとうしていました。インタビュー中ちゅうに余興よきょうの話はなしになると、みなさん、情熱じょうねつがほとばしり……。元もと雪ゆき組ぐみの香こう綾あやしずるさんに到いたっては、「余興よきょうで何なにを見みせたいか、そのポイントを押おさえることが全すべてに繋つながる」という謎なぞの名言めいげんも残のこしてくれて。それこそタソさんは、余興よきょうでの「経験けいけん」が現在げんざいのセカンドキャリアに生いかされていますよね？

天真てんしん　ゼロから何なにかを生うみ出だす“プロデュース力りょく”を鍛きたえられた気きがしています。そう、確実かくじつに余興よきょうが役やくに立たっている……！　今日きょうこうしてお話はなしをしていて、いつかきゃびぃさんと私わたしが2幕まくずつ台本だいほんを書かいた、4幕まく構成こうせいの「余興よきょう」を披露ひろうする舞台ぶたいをプロデュースしてみたい……そんな新あらたな夢ゆめができたのですが、いかがでしょう!?（会場かいじょう大おおきな拍手はくしゅ）

早さ花はな　それは面白おもしろそう！　私わたしも「書かく仕事しごと」をこれからも続つづけていければと願ねがっていまして、ぜひご一緒いっしょさせてください。

天真てんしん　わー嬉うれしい！　絶対ぜったい実現じつげんさせましょう。今日きょうは本当ほんとうにありがとうございました。勇気ゆうきを出だしてお誘さそいして良よかったです（笑）。

早さ花はな　こちらこそありがとうございました。

（てんま・みちる　元もと宝塚たからづか花はな組ぐみ男役おとこやく）
（さはな・まこ　元もと宝塚たからづか雪ゆき組ぐみ娘むすめ役やく）
波なみ　2023年ねん4月がつ号ごうより
単行たんこう本ほん刊行かんこう時じ掲載けいさい

2020年ねんに宝塚たからづかを卒業そつぎょうした早さ花はなさんが、自身じしんより先さきに卒業そつぎょうした9名めいの元もとタカラジェンヌにインタビューした『すみれの花はな、また咲さく頃ころ―タカラジェンヌのセカンドキャリア―』は、連載れんさい時じから大おおきな反響はんきょうを呼よびました。そんな早はや花はなさんと、タカラヅカ沼ぬまに深ふかくハマりつつある山里やまざとさんとが、宝塚たからづかへの溢あふれる愛あいと憧あこがれを語かたりつくしました。

「死し」に感かんじた運命うんめい

早さ花はな　あまりの緊張きんちょうに、今日きょうは40分ふんも前まえに到着とうちゃくしてしまいました……。ご活躍かつやくをずっとテレビで拝見はいけんしておりました。

山里やまざと　いやいや、僕ぼくの方ほうが緊張きんちょうしますよ。人生じんせいに新あらたな楽たのしみを作つくってくれた「宝塚たからづか」の世界せかいで活躍かつやくされていた方ほうとの対談たいだんですから。

早さ花はな　劇場げきじょうにも観かんに行いかれているんですよね？

山里やまざと　ええ。観劇かんげきするたびに、自分じぶんにこんな感情かんじょうがあったんだ……！　というか、自分じぶんでも驚おどろくのですが、僕ぼくの中なかの“乙女おとめ”が現あらわれて、男役おとこやくさんにキャー♡となるんです。何なにて言いうんでしょう、心しんの深ふかい部分ぶぶんをダイレクトにくすぐられ、気持きもちよく撫なで回まわされる感覚かんかくって、今いままでの人生じんせいでなかったもので、完全かんぜんに娘むすめ役やくさんの目線めせんでときめいていて。そんな今いまのところの結論けつろんとしては、「生うまれ変かわったら、娘むすめ役やくになりたい」です。

早さ花はな　そうすると、転生てんせいした山里やまざとさんをまず待まち受うけるのは、宝塚たからづか音楽おんがく学校がっこうの受験じゅけんですね（笑）。

山里やまざと　でも僕ぼくは、現時点げんじてんでは今こん世よでの徳とくの積つみ方かたが甘あまいので、合格ごうかくするとしても3回かい目めの受験じゅけんでになりそうな気きがしています。2回かい目めに落おちた後のちには、きっと周まわりから「もう諦あきらめて大学だいがく進学しんがくのための準備じゅんびをしたら」なんて言いわれるんですが、「あともう1回かいだけ」と最後さいごのチャンスに賭かけたら受うかるという……。多分たぶんですけど、宝塚たからづかのトップスターになられる方ほうは、前まえ々世よで二に度どは戦争せんそうを止とめているはずです。

早さ花はな　歴代れきだいのトップスターさん……100人にん近ちかくの方ほうが戦争せんそうを止とめたことになりますね。

山里やまざと　飛躍ひやくし過すぎかもしれませんが、そんなことを考かんがえずにはいられないほど、舞台ぶたい上じょうでのトップスターさんの輝かがやきにはとんでもない神々こうごうしさを感かんじます。でもそうすると、僕ぼくが3回かい目めで合格ごうかくするというのはちょっと図々ずうずうしかったかも。4回かい目めにしておきます（笑）。

早さ花はな　徳とくの積つみ方かたで言いうならば、これだけ多おおくの方ほうを笑顔えがおにされているのですから、私わたしは1回かい目めで合格ごうかくされると思おもいますよ。

山里やまざと　ありがとうございます（笑）。合格ごうかくした時ときのために、芸名げいめいも決きめています。

早さ花はな　お聞ききしてもいいですか？

山里やまざと　相月あいづきサラサです。

早さ花はな　影響えいきょうされている「誰だれか」の存在そんざいをそこはかとなく感かんじますが（笑）、とても素敵すてきなお名前なまえです。

山里やまざと　完全かんぜんに元もと星ほし組ぐみの愛あい月がつひかるさんの影響えいきょうです。僕ぼくが宝塚たからづかにハマったきっかけは、2021年ねんの星ほし組ぐみ公演こうえん「ロミオとジュリエット」でした。愛あい月げっさんが演えんじた二に役やく、ティボルトと「死し」（編集へんしゅう部ぶ注ちゅう・「死し」という概念がいねんを、セリフを発はっさずに全身ぜんしんで表現ひょうげんする役やく）に心しんを鷲掴わしづかみにされてしまって、「なんて格好かっこういいんだ！」と。でもその公演こうえんの後のちに愛あい月げっさんの卒業そつぎょうが発表はっぴょうされて、本当ほんとうの死神しにがみは僕ぼくだったんじゃないか……。

早さ花はな　ご卒業そつぎょうの前まえにギリギリで出会であえたんですから、逆ぎゃくに運命うんめいでしたね（笑）。

山里やまざと　退団たいだんされる公演こうえんでは、それまで以上いじょうにまばゆい光ひかりを放はなたれていて、気きがつけば手てを顔かおの前まえで組くんで祈いのるような、拝おがむような気持きもちで観みていました。

早さ花はな　退団たいだんを決きめた方ほう独特どくとくの美うつくしさと輝かがやきの理由りゆう……私わたしもいまだにうまく説明せつめいできません。

山里やまざと　愛あい月げっさんについては「宝塚たからづかの舞台ぶたいで男役おとこやくの姿すがたを観みられるのは、今日きょうでもう最後さいごだ」という、僕ぼく自身じしんの気持きもちも大おおきく作用さようしていると思おもうのですが、「あれ、あの方ほうからもとんでもない光こうが……」と、観劇かんげき後ごに調しらべるとその方ほうもその公演こうえんでの退団たいだんが決きまっていて。

早さ花はな　いずれ誰だれもが卒業そつぎょうしていく――「限かぎりある時間じかん」を常つねに演者えんじゃとお客様きゃくさまが共有きょうゆうしているからこそ生うまれる空気くうきと不思議ふしぎな感覚かんかくは、私わたしも現役げんえき時代じだいに何なん度ども抱だいた瞬間しゅんかんがありました。

山里やまざと　本当ほんとうに独特どくとくで唯一ゆいいつ無二むにの世界せかいですよね。だからこそ、これほど魅了みりょうされるんだろうなぁ。

「好すき」だけで駆かけ抜ぬける才能さいのう

山里やまざと　僕ぼくのファントークより、早はや花はなさんの新刊しんかんの話はなしをしましょう！　御ご本ほん、とても面白おもしろく読よませて頂いただきました。

早さ花はな　嬉うれしすぎます、ありがとうございます！

山里やまざと　登場とうじょうされる9名めい（編集へんしゅう部ぶ注ちゅう・早さ霧きりせいな、仙せん名めい彩いろどり世よ、香こう綾あやしずる、鳳おおとり真由まゆ、風ふう馬うま翔しょう、美よし城じょうれん、煌月爽矢、夢ゆめ乃聖夏なつ、咲さき妃ひみゆ）の方々かたがたが、とても正直しょうじきに、現役げんえき時代じだいの葛藤かっとうや苦くるしみを語かたっていらっしゃったのは、やはり同おなじ環境かんきょうで切磋琢磨せっさたくました早さ花はなさんだからき出きだせたのだと思おもいました。

早さ花はな　みなさん、驚おどろくほど素直すなおに全すべてを語かたって下くださり、本当ほんとうにありがたかったです。9名めいの中なかには普段ふだんから仲良なかよくさせて頂いただいている方ほうもいますが、初はじめて伺うかがう話はなしもたくさんあって、毎回まいかい3時じ間近まぢかいインタビューになりました。

山里やまざと　俳優はいゆうさん、ベトナムの日本語にほんご学校がっこうの講師こうし、大学だいがくへ進学しんがく、振付ふりつけ師し、結婚けっこんと出産しゅっさん……などと、9名めいの皆みなさんの「セカンドキャリア」は様々さまざまですが、全員ぜんいんに共通きょうつうしているのは、「宝塚たからづかが好すきで、それゆえに全力ぜんりょくで駆かけ抜ぬけた」ところ。それが僕ぼくには特とくに興味深きょうみぶかくて、尊敬そんけいの念ねんが生うまれましたし、羨うらやましい！　とさえ思おもいました。

早さ花はな　でも山里やまざとさんも、アイドルがお好すきでいらっしゃるなど、色々いろいろなことにご興味きょうみをお持もちですよね。

山里やまざと　僕ぼくの「アイドル好すき」は、心しんから好すきで応援おうえんしている気持きもちが根底こんていにありつつ、「仕事しごとにつながるかも」という“ビジネス”的てきなところも否定ひていできないのです（苦笑くしょう）。この9名めいの方ほうもそうですが、タカラジェンヌのみなさんは、本当ほんとうにめちゃくちゃ宝塚たからづかが好すきですよね。その「好すき」という気持きもちを原動力げんどうりょくに、あらゆる限界げんかい値ちを超こえていかれるわけで……。だって、連日れんじつお稽古けいこと公演こうえんとで、一いち年ねんを通とおして、お休やすみがほとんどないわけでしょう？

早さ花はな　そうですね、確たしかに毎日まいにち本当ほんとうに忙いそがしかったです。

山里やまざと　しかも、歌うた・芝居しばい・ダンスと、自分じぶんを磨みがくために常つねに努力どりょくをし続つづけながら、壁かべにぶち当あたれば当あたるほど、「ここが成長せいちょうするチャンス」ととらえてさらに努力どりょくする――なりふり構かまわず、辛からくても楽たのしみながら努力どりょくし続つづけられるってまさに「才能さいのう」で、僕ぼくが心底しんそこ憧あこがれるものです。野球やきゅうのイチロー選手せんしゅがそうであるように、「好すきなこと」のためなら、努力どりょくを努力どりょくだと思おもわずにできる「天才てんさい」の集あつまりが、宝塚たからづかですよね。

早さ花はな　私わたしは自分じぶんを「天才てんさい」だとは決けっして思おもえませんが、どんなに忙いそがしくても結局けっきょく、自分じぶんが好すきで自分じぶんで選択せんたくして入団にゅうだんし、自分じぶんの意思いしでここにいる。嫌いやならやめればいいだけ、なんですよね。

山里やまざと　でも、やめなかったわけですもんね。

早さ花はな　18年間ねんかんおりました……。

山里やまざと　この御ご本ほんの9名めいの方々かたがたには、それぞれ退団たいだんを決きめる理由りゆうがありましたが、自分じぶんの理想りそうとする「男役おとこやく」「娘むすめ役やく」にたどり着つけた実感じっかんが、多おおかれ少すくなかれ皆みなさんあって卒業そつぎょうされた。つまり、自分じぶんが好すきになった世界せかいで、自分じぶんが目標もくひょうとしたものを叶かなえたわけで、それはなんて幸しあわせなことで、なんて格好かっこう良よいことなんだろうと、感動かんどう以上いじょうに畏怖いふの念ねんを抱いだきました。僕ぼくも芸人げいにんを始はじめて20年ねん以上いじょうで、僕ぼくの場合ばあいお笑わらいが本業ほんぎょうではありますが、総合そうごう商社しょうしゃというか、テレビやラジオ、舞台ぶたいなど様々さまざまな仕事しごとがあって。一方いっぽう、タカラジェンヌの方ほうは、「宝塚たからづかを極きわめる」という一いち点てんを突つき詰つめる……。僕ぼくばっかり喋しゃべってしまって恐縮きょうしゅくですが、続つづけてもいいですか？

早さ花はな　もちろんです！

山里やまざと　しかもですね、夢ゆめは叶かなった日ひがゴールと言いえるわけですが、タカラジェンヌって舞台ぶたい上じょうで、「私わたし、いま夢ゆめを叶かなえ続つづけているんです!!」と全身ぜんしんで表現ひょうげんされる。それも、トップスターだけでなく舞台ぶたいに出でている約やく70名めい全員ぜんいんが！　セリフがない方ほうも、舞台ぶたいの裏うらでコーラスしている方ほうも、みんな隙すきがなく100％幸しあわせそうって、「素敵すてき」しか存在そんざいしない世界せかいですし、好すきで愛あいしてたまらない対象たいしょうに殉じゅんじているがゆえ、これ以上いじょうないほど煌いている姿すがたは、僕ぼくとしては感動かんどうであり憧あこがれでしかない。だからこそ、観みている側がわも常軌じょうきを逸いっした感動かんどうや興奮こうふんが湧わき上あがる……!!!

早さ花はな　山里やまざとさんのこの想おもい、全ぜんタカラジェンヌに伝つたえたいです！

山里やまざと　よろしくお願ねがいします！（笑）

トップスターの「普通ふつう」に共感きょうかん

山里やまざと　この御ご本ほんには、タカラジェンヌの方ほうが、一いち点てん集中しゅうちゅうの夢ゆめを叶かなえた後のちの「セカンドキャリア」についてもたっぷり綴つづられているわけですが、特とくにそこの部分ぶぶんは、ビジネス書しょとしても読よめると思おもいました。

早さ花はな　なんと！　宝塚たからづかファン以外いがいの方ほうにもお読よみ頂いただきたいと願ねがっているので、これ以上いじょうないお褒ほめの言葉ことばです。

山里やまざと　それで思おもい出だしたのが、大学だいがく時代じだいの寮りょうの先輩せんぱいのことです。その人ひとはバンドマンで、「音楽おんがくでメシを食くっていきたい」という夢ゆめを抱だいていました。でも、大学だいがく3回生かいせいの時とき、「バンドで生活せいかつはできない」と夢ゆめを諦あきらめて、葬儀そうぎ会社かいしゃに就職しゅうしょくしたんです。上手うまくて格好かっこう良よくてファンもついていたのに。ですが、その先輩せんぱいはそこからも格好かっこう良よくて、配属はいぞくされた先さきで、「音楽おんがく葬そう」という部署ぶしょを立たち上あげた。「好すきなものがあるっていう自分じぶんにまず自信じしんを持もって、その好すきなものを今いまいる場所ばしょでどう生いかせるかを考かんがえられれば、どこにいてもそこが自分じぶんの好すきな場所ばしょになるよ」と教おしえてくれました。

早さ花はな　まさに名言めいげんですね……！

山里やまざと　だからこの9名めいの方々かたがたが、もちろん悩なやみや迷まよいはありながらも、次つぎのキャリアを力強ちからづよく前向まえむきに進すすむことができているのは、宝塚たからづかという自分じぶんが好すきな場所ばしょを全力ぜんりょくで駆かけ抜ぬけたことで身みに付ついた考かんがえ方かたや視点してんや体力たいりょくなど、すべてのものが「武器ぶき」になっているからだと感かんじました。それに、「好すき」を突つき詰つめる天才てんさいたちであると同時どうじに、彼女かのじょたちが抱かかえた葛藤かっとうやプレッシャー、壁かべを乗のり越こえたときに感かんじた喜よろこびは、僕ぼくが仕事しごとで感かんじるものと通つうずるところもあって、その「普通ふつうさ」には共感きょうかんもできたんです。

早さ花はな　確たしかに、言葉ことばにするのは難むずかしいですが、スターであると同時どうじに「普通ふつうの方ほう」でもある、というのは改あらためて思おもいました。特とくに印象いんしょうに残のこった方ほうはいますか？

山里やまざと　香こう綾あやしずるさんと鳳おおとり真由まゆさんでしょうか。香こう綾あやさんは卒業そつぎょうされてすぐ、ベトナムの日本語にほんご学校がっこうで講師こうしとして働はたらかれ、鳳おおとりさんは医療いりょう系けいの大学だいがくへ進学しんがくされたわけですが、まったく違ちがう分野ぶんやでも、「なんとかなる！」と前向まえむきかつ能動のうどう的てきにチャレンジされていて、素晴すばらしいなと思おもいました。

早さ花はな　今回こんかい9名めいの方ほうに取材しゅざいして書かいてみたいと考かんがえたのは、私わたし自身じしんの「セカンドキャリア」を模索もさくするためでもありました。実際じっさい取材しゅざいさせて頂いただいたら、とにかくみなさんのお話はなしが面白おもしろくて、もっともっとお聞ききしたかったですし、書かく仕事しごとをこれからもしていきたい、そのためになら、あらゆる努力どりょくをしていきたいと思おもっています。

山里やまざと　素晴すばらしいじゃないですか。次つぎはぜひ、愛あい月げっさんにもお話はなしを聞きいて頂いただきたいなぁ（笑）。

（やまさと・りょうた　お笑わらい芸人げいにん）
（さはな・まこ　ライター）
波なみ　2023年ねん3月がつ号ごうより
単行たんこう本ほん刊行かんこう時じ掲載けいさい