プロローグ
金髪、身長一五〇センチ。その少女の殺害事件は、四五年たっても解決していない。被害はただ広がっていく。死体が遺棄された暗渠にひざまずき、私はある約束をした。
1 旅路の果て
元妻のローリーはよくこう言った。「仕事があなたの愛人であり、あなたはほかの誰よりも愛人を優先した」と。明日、私は拳銃を返却し、法執行機関を退職する。
2 「黄金州の殺人鬼」はまだ生きている
私は未解決事件の解決に執念を燃やした。その筆頭が「黄金州の殺人鬼」だ。いまも犯人は、中流階級地区でひっそり暮らしているはずだ。容疑者が浮かび、私は車を走らせた。
3 はじまり
人に心を開くことができない人間だった。学校に溶け込む術を身に着けたころ、パニック発作に襲われるようになる。そんなときに出会った科学捜査官が、私の人生を決めた。
4 薬物研究所の研究員
私はカリフォルニア州の薬物研究所に職を得た。しかし、すぐ近くの棟で働く科学捜査班の仕事に興味を抱き、そこに隠された「犯罪資料図書室」という金脈を見つける。
5 人生の階段
ローリーとの娘、レネーが誕生。私は犯罪現場捜査官(CSI)の職に応募し、民間人の生活から軍隊式の警察学校へ移った。亀裂がはいった結婚生活は、さらに緊張感をはらむ。
6 EAR――イースト・エリア強姦魔
目出し帽、左手に懐中電灯、右手に拳銃。「すべて言うとおりにしないとぶっ殺す」。仕舞い込まれていたEARのファイルを、私は衝撃とともにめくりつづけた。
7 犯罪現場捜査官――CSI
一九九〇年代なかば、管轄内でコカインが蔓延し、ギャング関連の殺人が急増する。「起きるはずのない」街でも残虐な事件が起き、人々は震撼。私は犯罪現場に出向きつづけた。
8 アバナシー殺害事件
切断された死体、飛び散った脳みそ、うじ虫――。恐ろしく、多種多様な現場を経験してきた私にも、この事件は別物だった。子どもを利用して親子を殺したのは、誰なのか?
9 点と点を結ぶ
EARは、男性が室内にいる場合に襲撃したことがない。新聞がそう報じて一カ月もたたないうち、EARはカップルが眠る家に押し入って言った。「男を起こせ」
10 結婚生活の終焉
証拠の解析は得意でも、自分の感情を解析できない。カウンセリングを受けつづけても意味がなかった。ローリーは泣いた。無関心だと非難した。そして「最後の言葉」を言った。
11 アンティオック殺人事件
それは復讐殺人だった。妻に別れを切り出されて取り乱した父親は、小さな娘たちを人質に家に籠城した。子どもたちがどう生まれ、守られるかは運次第だ。
12 ピッツバーグ連続殺人事件
一五歳の少女が帰宅途中にレイプされ、殺された。現場近くでさらに三人の女性が殺される。私は容疑者のDNA鑑定で冤罪を回避し、殺人課刑事とともに真犯人を追う。
13 ボッドフィッシュ殺害事件
有名な銀行一家出身の五六歳が撲殺された。ブーン――近づくにつれ大きくなる、妙な音。決して公開されず、ドラマでも明かされない証拠の採取作業の始まりだ。
14 連続殺人鬼たち
私の管轄エリアでは六人の連続殺人犯が活動していた。そのうちのひとり、歪んだ性的嗜好を持つ《怪物のなかの怪物》に、私は近づこうとする。最先端のDNA技術を駆使して。
15 オリジナル・ナイト・ストーカー
私たちが追うEARと、オレンジ郡が追う「オリジナル・ナイト・ストーカー」には類似点があった。しかし相違点もある。DNA検査で、驚愕の結果が示される。
16 検視
大胆不敵な有名刑事コンビと私はタッグを組んだ。捜査技術の特別講座を受けているような日々だった。ある日、上司から電話が入る。「警察官が撃たれた」――
17 変化
離婚して六年、同僚シェリーとの交際を始めた。何の心配もせず事件の話ができる彼女はソウルメイトのようだ。ところが思ってもみない方面から、反発と妬みを買う。
18 パメラ・ヴィタール殺人事件
この現場は私に何を伝えているのか。直感がそう告げるなら、余分な作業もけっして省いてはいけない。狂気的なほど野蛮な暴行犯の手がかりは、「見えない場所」に残っていた。
19 ジェイシー・リー・デュガード誘拐監禁事件
一一歳で誘拐され、行方不明になっていた少女。一八年間におよぶ監禁生活を送るうちに、二人の子どもを生まされ、犯人の妻と五人での共同生活を強いられていた。
20 社会病質者――ソシオパス
私は引きこもり、EAR事件ファイルを精読する。酸鼻をきわめる手口の詳細から浮かび上がるのは、平均的な白人男性の姿。男は部屋から部屋へ音もなく徘徊することができる。
21 新たな容疑者
闇に紛れる。塀を飛び越え、鍵をこじ開け、眠る男女を驚かせたときに犯人が感じたアドレナリン。私も怪物に近づいている。容疑者は二四人にまで絞られた。
22 ポッツを追った二年間
容疑者ロバート・ルイス・ポッツの行方は二〇〇四年以降、つかめない。けれど私も諦めない。事件報告書から、ポッツの黒い目出し帽が証拠として回収されていたことを知る。
23 ミシェル・マクナマラ
女性ジャーナリストが捜査の相棒になる。線路脇で見つかった手書きの地図、機密情報――私たちは高揚感と虚脱感を共有した。次々に特定されていく容疑者。しかし――
24 レイプ魔から殺人者への変身
見つけた事件ファイルは「パズルのピース」だった。北から南に移動した「黄金州の殺人鬼」が恐ろしい変貌を遂げていく。が、わからない。なぜ、男は泣いたのか?
25 ジョセフ・ジェイムズ・ディアンジェロ
一連の事件解明の手がかりをもたらしたのは、家系図作成サイトだった。学者、DNA技術会社の協力による新たな科学捜査で浮上したのは、元警察官だった。
26 「黄金州の殺人鬼」を捕まえろ
ディアンジェロの監視と秘密作戦が始まった。車のハンドルからDNAを採取、そして鑑定結果が読み上げられた。犯人だ――
27 襲撃を追体験する
ディアンジェロの自宅を捜索する。夜中、妻や娘たちを残し、獲物を捜しにいく姿を想像する。その私に、電話をかけてきた女性がいた。
28 ライフワーク
取材依頼と電話が殺到、私をとりまく環境は一変した。だが未解決事件への情熱は変わらない。そして新たな被害者たちに出会う。彼らが答えを見つける手助けがしたい。
謝辞
解説 デーブ・スペクター