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『小林秀雄の謎を解く―『考へるヒント』の精神史―』 苅部直 | 新潮社
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小林こばやし秀雄ひでおなぞく―『かんがへるヒント』の精神せいしん

苅部かりべただしちょ

1,980えん税込ぜいこみ

発売はつばい:2023/10/25

  • 書籍しょせき
  • 電子でんし書籍しょせきあり

代表だいひょうさくほんきょ宣長のりなが』へといたる、おおいなる「思考しこう冒険ぼうけん」とは?

気楽きらく随筆ずいひつえた雑誌ざっし連載れんさいかんがへるヒント』は、じつ徳川とくがわ思想しそう探究たんきゅう跳躍ちょうやくばんだった。モーツァルトやベルクソンをろんじていた批評ひひょうが、伊藤いとう仁斎じんさい荻生おぎゅう徂徠そらいらに傾倒けいとうしたのはなぜか。その過程かていたった「歴史れきしあな」とは。ベストセラーをなおし、人間にんげん根源こんげんをもさぐこころみであったことをあきらかにする、ちょう刺激しげきてき論考ろんこう

目次もくじ
はじめに
序章じょしょう 『かんがへるヒント』についてかんがえる
いち 教科書きょうかしょ小林こばやし秀雄ひでお
 戦後せんごデモクラシーと「近代きんだい批評ひひょう
さん 「近代きんだい悪徳あくとく
よん センター試験しけんと「歴史れきし
だいいちしょう 書物しょもつ運命うんめい
いち 『かんがへるヒント』への視線しせん
 徳川とくがわ思想しそうこころ
さん 低迷ていめい復活ふっかつ
だいしょう 科学かがくから歴史れきし
いち 伊藤いとう仁斎じんさいとエドガー・アラン・ポー
 原子力げんしりょくかげ
さん 大衆たいしゅう社会しゃかいと「伝統でんとう
だいさんしょう 徳川とくがわ思想しそうほう
いち モオツァルトはお
 丸山まるやま眞男まさおとの対決たいけつ
さん もののあはれを「る」こと
だいよんしょう 歴史れきしよみがえ
いち 文藝ぶんげい小林こばやし教授きょうじゅ
 いちきゅうよんねんほんきょ宣長のりなが
さん 「おも」としての歴史れきし
だいしょう 伝統でんとう近代きんだい
いち 歴史れきしあな
 戦国せんごくと「読書どくしょ達人たつじん
さん 「近代きんだい」をめぐって
よん 政治せいじ言葉ことば伝統でんとう
 たのしい学問がくもん
補記ほき
参考さんこう文献ぶんけん
さいろく歴史れきし 小林こばやし秀雄ひでお
さいろくほんきょ宣長のりながよんじゅうろく) 小林こばやし秀雄ひでお
本書ほんしょ関連かんれん作品さくひん年表ねんぴょう
あとがき

書誌しょし情報じょうほう

仮名がな コバヤシヒデオノナゾヲトクカンガヘルヒントノセイシンシ
シリーズめい 新潮しんちょう選書せんしょ
装幀そうてい 駒井こまい哲郎てつろう/シンボルマーク、新潮社しんちょうしゃ装幀そうていしつ装幀そうてい
発行はっこう形態けいたい 書籍しょせき電子でんし書籍しょせき
はんがた 四六判しろくばん変型へんけい
ぺーじすう 304ページ
ISBN 978-4-10-603902-7
C-CODE 0395
ジャンル ノンフィクション
定価ていか 1,980えん
電子でんし書籍しょせき 価格かかく 1,980えん
電子でんし書籍しょせき 配信はいしん開始かいし 2023/10/25

書評しょひょう

なぜほんきょせんちょうたのんだか

片山かたやまもりしゅう

 証拠しょうこのひとつひとつはとても些細ささいで、ヴァン・ダインの探偵たんてい小説しょうせつのように衒学げんがくてきえなくもない。ところがついには無駄むだがない。対象たいしょうをややとおくから、しかし確実かくじつかこみ、からしゅさえきって、ついに本丸ほんまるへ。そうやって小林こばやし秀雄ひでおなぞかれるのだ。とりわけ『かんがへるヒント』をヒントに。
 そもそもなぞとは? ランボー志賀しが直哉なおや相手あいてにしていた小林こばやしがなぜほんきょ宣長のりなが着地ちゃくちしたのか。でも小林こばやし日本にっぽんむかしにだってはやくかられていただろう。戦後せんごすぐの「モオツァルト」ではモーツァルトの音楽おんがくを『万葉集まんようしゅう』とかさねていたっけ。天下てんか御免ごめん時空じくう超越ちょうえつ旗本はたもと退屈たいくつおとこもびっくりだ。その自信じしんはどこからるか。本書ほんしょはたとえば1941ねんの「歴史れきし文学ぶんがく」をく。「『平家ひらか物語ものがたり』は、末法まっぽう思想しそうとか往生おうじょう思想しそうとかいふ後世こうせい史家しか手頃てごろのものと見立みたててかゝつた額縁がくぶちなかになぞ、けっしておとなしくをさまつてはゐない。おどしてぼくとう眼前がんぜんにある。そしてぼくとう胸底きょうていにある永遠えいえん歴史れきし感情かんじょうびかけてゐるのだ」。小林こばやしは「永遠えいえん歴史れきし感情かんじょう」の保有ほゆうしゃ。それさえあればどんな時代じだいだれしもが「ぼくとう眼前がんぜん」で「おど」す。千里眼せんりがんだ。ランボーの「しゃ」だ。だから小林こばやし対象たいしょう古代こだいでも近代きんだいでもせんちょうでも不思議ふしぎはない。
 むろんそんななぞきなら著者ちょしゃ出張でば必要ひつようはない。小林こばやし自信じしん途中とちゅうおおったのだ。うちなる「歴史れきし感情かんじょう」や千里眼せんりがんとおせなくなる。そこで批評ひひょうから思想しそう史家しかひるがえし、徳川とくがわ思想しそうかう。著者ちょしゃ見立みたてだ。転回てんかいてんはどこか。有名ゆうめいぎてかえって盲点もうてん。『かんがへるヒント』だという。なるほど。かためい探偵たんてい。「文藝春秋ぶんげいしゅんじゅう」への1959ねんから足掛あしかろくねん連載れんさい伊藤いとう仁斎じんさいはじまり荻生おぎゅう徂徠そらいわる。全体ぜんたいのおよそ半分はんぶん徳川とくがわ思想しそうけい文章ぶんしょうせんちょうへの小林こばやし興味きょうみもそのころふかまる。
 すると転回てんかいはなぜきたか。著者ちょしゃ説明せつめいはまことに周到しゅうとうなかでもびぬけた匕首ひしゅは、物理ぶつりがく由来ゆらいする小林こばやし時代じだいへの不安ふあんろんずるくだりだ。ハイゼンベルクは1958ねんに「自然しぜんかいのすべての物理ぶつり法則ほうそく説明せつめいできる方程式ほうていしき構想こうそうしているとあきらかにした」。そうした動向どうこうが1960ねん前後ぜんこう小林こばやしめていっためんがあると著者ちょしゃう。たしかに小林こばやし近代きんだい合理ごうり主義しゅぎ基礎きそ自然しぜん科学かがく動向どうこうわかからまめにっていた。近代きんだい科学かがくでは説明せつめいしきれぬ余剰よじょうがふんだんにあればこそ「歴史れきし感情かんじょう」の余地よち確保かくほされる。「しゃ」のきる。そこがらぐ。でも「物理ぶつり法則ほうそく」が素粒子そりゅうしうごきにまで偶然ぐうぜんはい因果いんが必然ひつぜん解明かいめいしきったとしても、社会しゃかい科学かがく人文じんぶん科学かがく同様どうようになりうるか。そんなはずはない。しかし小林こばやしはあまりにふかマルクス主義まるくすしゅぎっている。万能ばんのう理論りろんしんじられるものを人間にんげん平気へいきぜん領域りょういき応用おうようするものだ。「統一とういつじょう理論りろん」がもしも完成かんせいすれば、コンピュータのりっする大衆たいしゅう社会しゃかい世界せかい隅々すみずみまでを合理ごうりろうとするかもしれぬ。なにもかもが予測よそくされ制御せいぎょされ管理かんりされ、分節ぶんせつされあきらきよしする。それは小林こばやしにとって世界せかいいろあせ無意味むいみとなりすることだ。まるでねつ力学りきがくうエントロピーの増大ぞうだいだ。小林こばやしはその理屈りくつ戦前せんぜんから大好だいすきだった。かくて小林こばやしねつ力学りきがくと「統一とういつじょう理論りろん」をないまぜにして滅亡めつぼう幻視げんしする。本書ほんしょは『かんがへるヒント』のいちへんす「歴史れきし」からつぎ決定的けっていてきいちせつく。「自然しぜん構成こうせいする究極きゅうきょく単元たんげん説明せつめいにかゝづらふ今日きょうかく物理ぶつりがくは、あらゆる素粒子そりゅうしはエネルギイからつくられるし、また、エネルギイとなつて消滅しょうめつもすることあきらかにしてゐる。この自然しぜん一元いちげんせいかんするくところまでくだりつた理論りろんは、歴史れきしについて、わたしたちに、なにかすのだらうか。これは、もし歴史れきしといふものを、出来できかぎ基本きほんてきに、客観きゃっかんてき規定きていしようとすれば、粒子りゅうし無秩序むちつじょ状態じょうたいすなわちエントロピイ増大ぞうだいといふ決定的けっていてき時間じかんになることかたりつてゐる」
 となれば、滅亡めつぼうをもたらす「時間じかん」の進行しんこうをたとえすこしでもおくらせねばならない。小林こばやし旗本はたもと退屈たいくつおとこよりも現代げんだい孔子こうし仁斎じんさい徂徠そらいになろうとする。勝手かってままな批評ひひょうよりも、警告けいこくし、人々ひとびとかんがえるヒントをあたえ、あらたな常識じょうしき提示ていじして科学かがく文明ぶんめい対抗たいこうしようとする。そこで小林こばやしは「決定的けっていてき時間じかん」をもどあらたな常識じょうしきのための原理げんりとして宣長のりながの「もののあはれ」、つまり「こともの共感きょうかんするといふはたらき」を発見はっけんする。合理ごうり主義しゅぎという近代きんだい悪魔あくまこうするには共感きょうかんという戦略せんりゃく本書ほんしょ小林こばやしなぞをそのようにく。著者ちょしゃこそしんの「しゃ」であろう。

(かたやま・もりひで 慶應義塾大学けいおうぎじゅくだいがく教授きょうじゅ政治せいじ思想しそう
なみ 2023ねん11がつごうより

著者ちょしゃプロフィール

苅部かりべただし

カルベ・タダシ

1965(昭和しょうわ40)ねん東京とうきょうまれ。東京大学とうきょうだいがく法学部ほうがくぶ教授きょうじゅ東京大学とうきょうだいがく大学院だいがくいん法学ほうがく政治せいじがく研究けんきゅう博士はかせ課程かてい修了しゅうりょうせんもん日本にっぽん政治せいじ思想しそう著書ちょしょに『ひかり領国りょうごく かずつじ哲郎てつろう』、『丸山まるやま眞男まさお――リベラリストの肖像しょうぞう』(サントリー学芸がくげいしょう)、『かがみのなかの薄明はくめい』(毎日まいにち書評しょひょうしょう)、『歴史れきしという皮膚ひふ』、『安部あべ公房こうぼう都市とし』、『「維新いしん革命かくめい」へのみち――「文明ぶんめい」をもとめたじゅうきゅう世紀せいき日本にっぽん』、『日本にっぽん思想しそうへの道案内みちあんない』、『基点きてんとしての戦後せんご――政治せいじ思想しそう現代げんだい』など。

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